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19ページ目 惨状

「フウ! スイ! リク! 俺は火の区画に行く!」


「私は風の区画に!」

「私は水の区画よ!」

「俺は土に向かう!」


 四宝者と虚無の境地が戦う一方で街の方へと降り行き、ホムラ達は杖を足場に浮かせ、飛行した。

 これは最近覚えた浮遊魔法。馬より遅いので日上的にはあまり使わないが、いざという時の為に覚えておいたのだ。

 それが功を奏し、パニック状態にある街を何の遮蔽物も無く進む事が出来た。


「……っ。本当に野盗が大勢……!」


 飛行し、下方を見やる。

 多くの争いが起きており、多くの人々が血を流している。

 殺し、殺され、死以外の尊厳を破壊するような行為も蔓延っていた。


「ヒャッハハハ! お高く止まる貴族の女ァ!」

「嫌ァ!」

「死ねェ!」


 野盗に女性が凌辱され、その野盗を女性ごと貫いて殺す兵士。

 それは争いのほんの一部に過ぎない。敵味方関係無く、生きている者は全て殺めるという蛮行が起こっていた。


「全員助けたい……けど……そんな力は俺にはない……!」


「飛んでいる奴が居るぞ!」

「殺せェ!」


「アイツは貴族か! ならば味方だ! 他の野盗があの者を狙っている隙に野盗共を殺せ!」


 飛行するホムラに向け、矢が放たれる。それを囮に使い、矢を持つ野盗が魔法に焼かれて死する。

 周囲は常に警戒しなければならない状況。目立つ移動方法だとしても比較的安全に進めていた。


「……っ。杖が無ければ魔法は使えない……杖に立って飛行するこの魔法は、移動には丁度良いけど戦力にはならないな。杖をもう一つ拝借するべきだったか」


 たまに飛んでくる矢を避け、思案する。

 杖の二本持ち。魔力の消費が激しくなる割にはあまりメリットも無いが、飛行しながらの行動をする時は持っていても良いかもしれないと考えていた。

 しかしながら、浮かせる方に集中しながらもう片方の杖に別の魔法を集中させる行為はかなり大変そうである。


「……! あれは……!」


 そしてホムラは、遠方に燃えている屋敷を見つけた。

 あそこは火の系統が集まる区画。燃えていてもおかしくないが、屋敷が燃えている事には違和感があった。


「急がなきゃ……!」


 何かあったのは明白。そしてその何かは、ほぼ100%良い事ではない。

 ホムラはなるべく急ぎ、火の区画へと入った。



*****



「何だよ……コレ……」


 ホムラが降り立った場所は、凄惨だった。

 いや、まだマシな方なのかもしれない。ただ単に、至るところに貴族野盗関係無く死体が転がっており、建物が破壊され、女子供も関係無く死んでおり、壊滅しているだけなのだから。

 そんな光景を見、ホムラは思わず駆け出した。辺りの様子など見ている暇はない。自分の家へ、父親と母親に妹。使用人達が待つ家へ──


「ハッ、死ね」

「アナタ!」

「お父様!」

「……悪い」


「父……さん……」


 ──その瞬間、ホムラの目の前にて、既にズダボロだった父親の首がねられた。

 父親の頭は転がり、母親と妹は衣服が剥がされている。


「テメェらも、まだまだ楽しませてくれよ!」

「アレだけじゃ満たされねェからな!」


「もう嫌ァ! お母様ァ!」

「耐えて……耐えるのよ……!」


 そして、悲鳴と共にホムラの目の前で野盗の快楽の為だけに凌辱される。

 ホムラは既に杖を構えており、複数人の野盗を睨み付けていた。


「──火の精霊よ……」

「あ?」

「まだ生き残りが居たか」


「お兄様!」

「ホムラ……!」


 野盗と母親に妹がホムラに気付く。当のホムラは何も考えず、ただ単に力を解放した。


「──その大火の片鱗を完球体と化し、空間ソラに留めよ。巨躯なる器に宿り、神霊へと昇格し、天地を凌駕する天帝の火球を碧落へと撃ち出せ……地に灰塵を築く……“アナザーノヴァ”!」


「ひっ……!?」


 詠唱が完了し、何の躊躇いもなく野盗の群れを焼き抜く。

 同時に魔力をもちいて踏み込み、火を宿した杖を振るった。


「俺の家族から離れろ! ゲス共がァ!」

「ウゲァ!?」


 焼き殴り、殺す。

 もう一人も居たが、構わずに殺した。即座に自分の衣服を脱ぎ、母親と妹に着せる。


「わーん! お兄ちゃん!」

「大丈夫だ……大丈夫……カエデ……」

「ホムラ……ありがとう……」

「母さん……一体何が……」


 泣きじゃくる妹を宥め、ホムラは怪訝そうな表情で母親に訊ねた。

 母親は陰鬱そうな表情で言葉を発する。


「野盗が攻めて来たのよ……その前にホムラのお父さんが瀕死で帰って来て……必死に抵抗したんだけど……使用人のみんなも、父さんも……殺されたわ」


「……っ。俺がもう少し早く来ていれば……」


 簡易的な概要を聞いた。

 どうやら虚無の境地と戦った父親は、その時点では生きていたらしい。だがそのダメージの影響もあり、野盗に敗れ、今さっき首をねられ絶命したとの事。

 ホムラは後悔する。父親達が就任式の会場に来なかった時点で様子を見に戻るべきだったと、心の底から後悔した。

 しかし、母親はそんなホムラを優しく撫でる。


「大丈夫よ。ホムラ。ホムラが来てくれたお陰で私達は助かったもの……使用人の皆さんも全滅した訳じゃないわ……また、生きていれば立て直せるのよ」


「母さん……」


 次第に涙が流れ、母親の言葉を噛み締める。

 そう、生きてさえいれば、またいつものような平穏な日々が──


「ありがとう……ホム……」

「……え……?」


 次の瞬間、ホムラの背後から一迅の鋭い風が飛んで来、母親の首元を貫いた。

 それによって生じた鮮血がホムラの赤い髪を更に赤く染め、母親の目からは光が消えていた。


「逃げるぞ……逃げ……!」

「……」


 そしてその場から離れる事を決め、妹の手を引く。その身体は、予想以上に軽かった。


「ぇ……」

「…………」


 そこに居たのは、手だけの妹。肉体は何処だろうか。先程まで自分の居た場所を確認し、理解した。


「……」

「嘘……だろ……」


 そこに居たのは、頭と身体が別々になり、四肢も分かれた妹の姿。

 ホムラが持っていたものは、バラバラ死体となった妹の手なのだろう。


「まだ生き残りが居たか……ケヘヘ……あの女子供とはそれなりに楽しんだし、もう十分だったなぁ~」


「……テメェ……」


 そこに立っていた者は、杖を構えた青緑色の髪をした男性。

 まず間違いなく堕ちた貴族。そして、妹と母親の死因から考えて風の系統だろう。

 見れば周りにも野盗が集まり出していた。


「やれ」

「「「…………!」」」

「……ッ!」


 瞬間、無数の矢が放たれ、ホムラの身体を貫いた。

 まだ掠っただけ。足は動く。しかし、この場から離れたくなかった。


「ふざけんな……テメェらァ!」


「ハッヒャッヒャッ! そんなへなちょこな火じゃやれねェよ!」


 炎魔法。火球を放ち、風に掻き消される。

 冷静さを欠いている状態、かつ無詠唱。威力には期待出来なかった。


「ホムラ様! 此方へ!」

「……!」


 そして、そんなホムラをかかえるよう、生きていた使用人が駆け抜けた。

 いくつか矢を受けたが致命傷は避け、燃え盛る屋敷の中に入って抜け、裏門部分の山がある比較的安全な場所に向かう。


「君達は……生きていたんだな……」

「はい。フラム家に仕える侍女として、ホムラ様を失う訳にはいきません……!」

「お父様とお母様に妹君……見過ごしてしまい……まことに申し訳御座いませんでした……!」


 女性の使用人達が何人か残っており、全員がホムラに頭を下げる。ホムラは首を振り、言葉を続けた。


「いや、大丈夫だ……大丈夫……頭を上げてくれ……」


 頭を下げるメイド達に対し、ホムラは何だか申し訳無くなった。

 自分が、せめて自分だけでもいれば弱っていた父親の助けに入る事が出来、最悪に近い現状にならなかったかもしれない。

 だからこそ、大勢の仲間達が死にながらも屋敷を守ってくれていたメイド達に感謝の気持ちはあれど、怒りなど微塵も無かった。


「他の使用人や御者さん先生は……」

「皆……殺されました。率先して私達を守って下さり……そのまま……」

「……っ。そうか……」


 フラム家の生き残りは、今居る使用人達だけ。

 メイド長。そしてメイド長とよくいがみ合っていた何人か。傷や凌辱された痕は無く、他の使用人達はちゃんと守ったのであろう事が窺えられた。

 そんなメイド達の悲痛の声に耳を傾け、流れる涙をホムラは堪える。


「ヒャハハ! 死ねェ!」

「……! ホムラ様!」

「ぇ……」


 気持ちの悪い声と共に上から風魔法が叩き付けられ、メイド達はホムラを押し退け、その風に潰される。

 潰されたメイドは風に圧され、吐血。目が飛び散り、肉体はぐちゃぐちゃになった。


「そんな……うっ……オェ……」


 その光景を目の当たりにし、先程()ねられた父親の頭。凌辱された挙げ句に貫かれた母親、バラバラになった妹の姿を思い出して嘔吐する。

 山の方からはそれとは別の声が聞こえた。


「ちょっとちょっと。折角の上玉だったんですから。殺さないで下さいよ」


「ハッ、数人だけだろ。この屋敷の女共は一通り犯したんだ。どんだけ性欲強いんだよ」


「だってしょうがねえですって。あの苦しみ、泣き喚く表情。思い出しただけでたっちまう」


 その声は、全てがノイズのように聞こえた。

 ゲスな、最低最悪な事を言っているのは理解出来る。しかしそれを聞こうとする聴覚を意図的に遮断してしまう。

 今ホムラにあるのは、ただ一つ、何処までも底知れぬ、明確な殺意だけ。


「何で……こんな事に……」


 膝を着き、自分の吐いた吐瀉物を見やる。フラッシュバックする嫌な記憶。その全ての中で炎が燃えており、その中に灯る目映い炎は、今この瞬間、蝋燭のように消え去った。


「…………………………………………殺す……」

「ああ? 何か言ったか!? 声小せぇな! もっとはっきり言──」


 次の刹那、黒い一筋の光が走り、風魔法使いの腕が取れた。遅れ、噴水のように出血する。


「な、なんだこりゃあ!? あああ!? オイ、テメェ……ら……」


「「「…………」」」


 何が起きたか理解出来ず、部下達へ話をする風魔法使い。だが、その部下達は全員、既に殺されていた。


「な……何が……」

「……お前もだよ……!」

「ガハッ!?」


 困惑する者にホムラが飛び掛かり、膝蹴りを腹部に叩き込む。火の系統の魔法使いにしてはとてつもなく重い蹴りを受け、風魔法使いは吐いてうずくまる。ホムラはその頭を踏みつけた。


「なに人の敷地に汚いもん吐いてんだよ……全部テメェで拭き取れ……!」


「ブッ……ゲ……ヴェ……」


 そのまま吐瀉物に風魔法使いの頭を押さえつけ、足の裏で顔を雑巾のように扱って拭かせる。

 風魔法使いはその悪臭に更なる嘔吐し、ホムラは苛立ちを見せた。


「汚ェっったよなァ!?」

「ガッ……!?」


 普段のホムラからは想像も付かない程の荒い口調。側頭部を蹴り抜き、崖から下へと叩き落とす。


「このクソ野郎!」

「ウゲェ……!」


 落ちた瞬間にホムラも降り、勢いよく無事な方の腕を踏みつける。それによって腕の骨が折れ、風魔法使いは苦痛の叫びを上げた。

 のたうち回り、喉が切れそうなガラガラ声が響き渡る。


「テメェが主犯か? 裏に手引きしてる奴が居るのか? うるせェからさっさと黙って話せゴミが!」


「ゆ、許し……」

「許す訳無いだろ!」


 許しを請い、それを文字通り一蹴して脇腹を蹴り抜く。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も蹴り抜き、あばら骨を物理的に破壊した。


「早く言えよ!」

「ガァ!?」


 次いで目を蹴り、蹴られた箇所から鮮血が飛び散る。ホムラは不快そうな表情で蹴り飛ばした。


「汚い血掛けるな。穢れる」

「アガガ……」


 蹴り飛ばした後に杖を傷口に突き立て、更に広げる。ここまで魔法は使っていない。そんな事をしたら勿体無いと判断したからだ。


「ほら、さっさと言えよ。主犯を……虚無の境地か? それともまた別か!? オイ、クソゴミが!」


「コヒュー……コヒュー……」

「息する暇があったらさっさと言え!」

「ァアア……!?」


 肺にダメージが及び、過呼吸が起こる。それが更に苛立ちを加速させ、ホムラはもう片方の目を潰した。

 骨の折れた手で目を抑え、させない。折れた方の手は勢いよく踏みつけて抑え、背部に蹴りを打ち込んだ。


「言えよ……話せないのか? 言えよ。誰が主犯だ!? 聞こえてないのか!?」


「……ッ!」


 耳元で特大の声量をぶつけ、また側頭部を蹴って鼓膜を破る。

 風魔法使いの視覚に聴覚はもう機能していない。今感じているのは骨折と出血による激痛だけだろう。ホムラはそんな魔法使いの股間も踏み潰した。


「……ッ!?」


 声にならない声が響き、ピクピクと痙攣を起こす。もう話す事はない。諦め、その者をボールのように蹴りながら移動させて燃え盛る屋敷へと押し込んだ。


「チッ……屑が……あんなゴミ殺した所で気が晴れない……」


 最終的には死んだだろうが、コイツらが放ったであろう火に焼かれての死。それなら暴行だけで殺人は犯していない事になる。

 ホムラは既に殺した者達の方へ視線を向けた。


「……これで俺も野盗と同類か……」


 しかし、それは冷静になってからの判断。もう既に殺人は犯している。

 それが意味する事はつまり、もう後戻りは出来なくなってしまったという事。


「……父さん……母さん……カエデ……使用人達……御者さん……」


 先程までの勢いが消え去り、虚しさが胸に残る。

 怒りに身を任せて暴力の限りを尽くし、火の回る屋敷へと放置してトドメも刺した。だが、一向に気が晴れる事はなかった。


「ハッ、全部終わらせちまったのか。ガキ! 大丈夫かよ?」


「……!」


 その時ホムラの耳に届いた、人類の敵の声。

 ホムラはゆっくりと顔を上げ……ゴウを片手に座る虚無の境地を視界に映した。


「ゴウのアニキ……!」

「よっ。元気そうだな」


 ゴウについては言及せず、ホムラの無事を確かめた虚無の境地は不敵な笑みを浮かべる。

 他の四宝者達は行方不明。しかし、目の前に居るのは間違いなく虚無の境地。


「テメェか……今回の件の主犯は……!」


「……。…………。あー……。んじゃ、そう言う事にしとくか」


 少し考え、曖昧な様子でホムラの言葉に返し、立ち上がって目の前へ降り立つ。

 ホムラと虚無の境地。その二人が向き合った。

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