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1ページ目 魔法の世界

 ──時が少し経ち、シラヌイ・ホムラは9回目の誕生日を迎えて9歳となっていた。そして3歳離れた妹も生まれた。

 この歳になれば初級魔法くらいは身に付けており、簡単な魔法は扱える。

 この世界のルールとして、あと数年もしたら中級学校に通う事になるのでこの歳で魔法を扱えるのは別におかしい事ではない。

 そもそも“貴族”というものはこの世界に置いて上位の力を有しており、一般人よりも魔力が高く多種多様の魔法を使える。貴族で9歳ともなれば既にある程度の知識と力は与えられているのだ。


「じゃあ、行ってきます」

「ええ。気を付けるのよ」

「気を付けてー! お兄ちゃーん!」


 赤毛の美人な母親と妹に挨拶をし、ホムラは家から飛び出した。最近は外に出て探検するのが日課となっており、ここが平和な街というのもあって子供が歩き出ていても問題がない。

 今日は何をしようか。街を見よう。人と話そう。楽しい事をしよう。そんな事を考えながらホムラは街を進む。


「ホムラー!」

「遅えぞー!」

「一緒に遊ぼー!」


「あ、みんな!」


 少し進むと、ホムラの一番親しい友人達がその視界に映った。

 その名を呼んだ順に、右から青緑色の短めの髪にその色と同じ目を持つカゼカミ・フウ。

 茶髪と茶色の目を持つツチガミ・リク。

 青い三つ編みと青い目に眼鏡を掛けたミズカミ・スイ。

 いずれも貴族なので真名ではないが、男の子一人、女の子二人にホムラを加えた四人での行動を共にする事が多かった。


「今日はどこに行くー?」

「魔法具店!」

「訓練所!」

「図書館!」


 仲良しではあるが、趣味はバラバラ。

 魔法道具について知りたいフウに、身体を鍛えたいリク。そして勉強をしたいスイ。

 三人へ訊ねたようにホムラはどちらでも構わないと思っているが、結構難しいものである。


「えー、わたし達って魔法使いなんだから魔法道具を見ようよ!」


「いや、おれ達は魔法使いだからこそ肉体的に鍛えなきゃ!」


「あたし達は魔法使いだからこそ勉強しなくちゃ。将来的に家を支える必要があるもん!」


 魔法道具の使い方。肉体的な鍛練。勉強。いずれも貴族として、魔法使いとして必要な事柄。三人の意見はバラバラだ。


「──ハッハッハ! それなら全部をこなせば良いだけじゃないか!」


「あ、アニキ!」

「お兄さん」

「兄様!」

「兄ちゃん!」


 そんな三人の元に、オレンジ色の髪と目を持つ一人の男性が話し掛けて来た。

 言葉を返した順にホムラ、フウ、スイ、リク。彼らは“兄”関連の言葉を使っているが、別に兄弟や兄妹という訳ではない。信頼と親しみからそう呼んでいるだけである。


「よし! みんなで行こう!」

「「おー!」」

「「おー!」」


 その名をヒノカミ・ゴウ。

 年齢は12歳。ホムラ達より3歳年上の人物であり、その目と髪が示すよう、ホムラと同じく火の系統を司る者である。

 彼の号令でホムラ達は笑顔を浮かべながら握り拳を作って挙げ、その後を追う。


「へえ……こんな魔法もあるんだ……アニキは使える?」


「やろうと思えば出来るぞ! 確かホムラは火の系統だったな。なら、成長したらそのうち魔法を教えてやろう!」


「本当!? やったー!」


「えー!? ホムラだけズルい~!」

「汚ぇぞホムラー!」

「確かに私達は系統が違うけど……複雑ぅ……」


 最初に寄ったのは魔法図書館。

 そこには様々な文献が揃えられており、初級、中級、上級など、高ランクの魔法についても書かれていた。

 ゴウは既に中級魔法を会得しており、もう上級に足を踏み入れ始めている。

 年齢的に中級魔法を、“覚える”頃合いなのだが、この年代で上級に差し掛かっている存在は稀有であり、将来をかなり期待されている天才だった。

 しかしそれに甘んじず、皆に平等かつ世話好きで各種方面から信頼されている少年だ。


「へえ。こんな魔法道具あるんだ……風を使って……私なら出来るかも!」


「フウは風の系統だからね。けど、魔法道具は組み合わせ次第で様々な可能性を秘めているんだ」


「え! お兄さんは火の系統なのに……!」


 そう言い、ゴウは簡単な炎魔法で気流を生み出した。それを利用し、風の系統にしか扱えない魔法道具を操った。

 その光景にフウは驚きの表情を見せ、ホムラは目を輝かせる。


「ぼくにも出来るかな!」


「かもしれないね。ホムラも火の系統。応用次第では色々出来る。もちろん、風の系統のフウ。土の系統のリク。水の系統のスイにもそれは可能だ!」


「「「「おおーっ!」」」」


 ゴウの言葉に全員がキラキラと目を輝かせた。

 理想的なアニキ像。四人は沸き立ち、自分達が凄い力を使えるのではないかと大いにはしゃぐ。


「コラコラ。アナタ達。お店で騒がないのっ!」

「あ、すみません」


 そして、店の店主に叱られた。

 少しはしゃぎ過ぎた。ホムラ達はともかく、ゴウにも割と子供っぽい部分が残っているのだ。


「ねぇねぇ。魔法使いってさ、身体を鍛える必要あるの?」


「ん?」


 そして次に寄ったリクの希望する訓練所にて、ホムラは小首を傾げながらゴウに訊ねた。

 そう、魔法使いは物理的な戦い方ではなく、それぞれの属性を操る事で戦う。

 その相手は魔物や魔獣、そして人間など様々だが、基本的に大きな移動や剣などは必要としていない。

 初級魔法くらいは扱えるホムラは、戦争などは知らなくともその程度の知識は持っているので疑問に浮かんだのだろう。

 しかし訓練所には魔法使いや貴族が大勢居る。ますます謎は深まっていた。

 その質問に対し、ゴウは返答した。


「そうだね。まだ早いかもしれないけど、基礎を教えるだけなら良いかな。魔法は便利。料理や洗濯、その他にも色々な事に使える。だけど魔法使いは、時として敵と戦う必要もあるんだ」


「てきー?」


「そう、敵。その敵と戦う場合、長期戦……要するに戦いが長くなる事がある。魔力の量だけじゃなく、詠唱する為に声を出したり、自分自身が移動したりなどの体力的な消耗もあるんだ。ホムラも走ったら疲れるだろう? だからこそ、それに備えて鍛えている魔法使いは多いのさ」


「そうなんだ! じゃあぼくも強くなってアニキを倒す!」


「ハッハッハ! 俺を倒しちゃうのか! けど、良いね。それくらいの気概じゃなければ魔法使いは大変だぞ!」


 大分すれ違っている部分もあるが、ホムラは身体を鍛える必要がある事も理解した。

 なので身体を動かし、ホムラ、フウ、スイ、リクの四人は程好い疲労と共に鍛練を終えた。


「そろそろお昼だね。今日はみんなにご馳走しよう!」


「わーい!」

「お昼だー!」

「なになにー?」

「お腹すいたー!」


 昼食と聞き、四人は実年齢よりも若干下の反応をする。

 と言うのも、ゴウの前だからこそ完全に緩んでいるのだろう。比較的大人っぽいスイですらこの有り様である。


「その前に、レストランに入るなら訓練所で掻いた汗を流さなくちゃならないね。そこで! 君達にも出来るやり方を教えてあげよう!」


「本当!」

「うん! やる!」

「おれに任せとけ!」

「あたしも力になれるなら……!」


 訓練所を経て、ホムラ達は大分汗を掻いた。なので品のある貴族として、汗を流した後で食事をする必要がある。

 なのでゴウは一つの提案をし、人通りなどが無く、拓けた場所に五人はやって来た。


「何をするのー? アニキー?」


「ああ。今からするのはズバリ、──魔法同士の組み合わせだ!」


「魔法同士の組み合わせ?」


 ホムラが訊ね、ゴウの言葉を反復するようにフウが話す。

 ゴウは頷いて言葉を続けた。


「そう。魔法同士の組み合わせ。魔法というものは基本的に四つの系統からなるモノ。それは皆も知っているよね?」


「うん。火、水、風、土の、世界を構成する四つの元素。それがあるからこの世界には地面があって、空があって、海があって、ぼく達が居るんだよね?」


「その通り。よく勉強しているね!」


「えへへ」

「そんなの私も知ってるもん!」


 ホムラが答え、褒めるゴウへ口を尖らせたスイが割り込む。

 その知識は貴族なら3歳の時には既に教えられており、そこから更に知識と力を付けるのだ。


「そして、君達はなぜ存在出来るのか。それは君達の身体を、一つの属性だけじゃなく様々な属性……物質が構成しているからだ」


「ぶっしつこうせい?」


「物質っていうのは、まあ簡単に言えば地面に転がっている石ころとか、ここにある全部。構成と言うのは……少し違うけど、今からやる事だよ」


「へえー」


 説明をしつつ、その辺から拾った木の枝にてゴウは円を描いた。

 四人はその光景を興味深そうに眺めており、描き終えてホムラ達の方を向く。


「初級魔法で良い。まずはリク。君がこの円の中に皿みたいな物を造ってくれ」


「皿? そんなの出来ないよ……」


「大丈夫。複雑じゃなくて良いんだ。土の系統は魔法の中でも特質。唯一物理的な物の創造に長けているからね。簡単な丸い土を作れば良いんだ」


「よく分からないけど、丸い土だけなら……」


 ゴウに言われ、リクは杖を構える。

 本格的な杖でなくとも、ある程度の力を扱えるのが魔法使い。リクは円に向け、魔力を込めて力を解放した。


「土の精霊の元に生まれ、その姿を形成せよ──“ランド”!」


 詠唱は、それぞれの属性に適した精霊に力を借りる為の方法。何かカッコいいからという理由で詠じる訳ではない。

 言葉を介して脳内で起こしたい事を考え、何をして欲しいのか精霊に命じるのだ。

 そんなリクによって丸い土が造り出され、まだ幼いリクは初級魔法でも多少の疲労が生じる。しかしそれによって動けなくなったり寿命を削ったりする訳ではないので無問題だろう。


「よし。上出来だ! ホムラ。次は君がこの土を焼いて固めてくれ!」


「う、うん。──火の精霊よ、その力を天より降ろし、灯火を与えよ……“ファイア”!」


 次いでホムラが炎魔法を使い、リクが生み出した土を焼いて固めた。

 通常、普通に焼いたとしてもきっちり固める事は出来ないが、その辺はゴウが然り気無く補修する。


「よし! 次はスイが水を容れるんだ!」

「は、はい! 水の精霊よ。その涙を器へ……“ウォーター”!」


 スイが土の容器に水を入れ、ゴウはホムラとフウの二人に視線を向けた。


「ホムラにはもう一回やって貰う。この木の枝に火を着けてくれ。そしてフウ。君がホムラを手伝うんだ!」


「よ、よぉし!」

「が、がんばる!」


 二度目のホムラは気合いを入れ直し、フウも杖をグッと強く握った。


「ホムラは火の粉で良い。メインはフウだからね!」


「うん! 火の精霊よ、木に吐息を吹き掛けよ。“スパーク”!」


「風の精霊よ、宿った灯火へその息吹を……“ウィンド”!」


 薪代わりとなる木の枝に火の粉が灯り、小さく着火。その火を風が吹き付けられ、徐々に勢いを増して燃え広がった。

 そう、それは正に──


「「「「お風呂!」」」」


 簡易的な風呂である。

 目的は元々汗を流す事。ゴウは四人の魔法を使う事で風呂を作らせたのだ。


「ハッハッハ! よく出来たね! これは君達四人、全員の力を合わせて作り出した物だ!」


「ぼく達が?」


「そう。君達がだ! 今の君達が使ったのは簡単な初級魔法。しかし組み合わせる事で疲れを癒せるお風呂になった。一つ一つの力が小さくても、その力を合わせれば魔法はより一層大きくなる。君達四人は将来、貴族と魔法。それらを背負う者になる。その時は協力し、困難を打ち破るんだ!」


 四人の力を四人に理解させる、ゴウからの簡単な試練。

 それを受けて四人はより結束が固まり、互いに顔を見合わせて笑う。


「じゃあぼく達はもっと凄くなるんだね!」

「わたしにもやれるかな!」

「おれ達ならきっとやれる!」

「うん。あたし達は将来、貴族を代表する魔法使いになる!」


 実践に移し、完成品を見せ、自信に繋げる。そしてそれは子供の成長に繋がる。

 それを全て踏まえた上でのゴウの行動。自身の実力のみならず、物を教えることも得意なようだ。


「じゃあ早速入ろー!」

「うん!」

「ああ!」

「少し恥ずかしいかも……」


 そしてホムラ達は衣服を脱ぎ捨て、そのお風呂に入る。

 その光景を見たゴウは苦笑を浮かべていた。


「ハハハ……衣服を散らかして男女関係無く入浴か。男性らしさと女性らしさをちゃんと理解する必要があるかもね。それとマナー……まあ、いいか」


 肩を落としてため息を吐き、後ろを向いて空を見上げる。

 年齢的にはもう9歳。男女の変化も生じる頃合いで羞恥心なども既に身に付いている年齢の筈だが、四人は昔から共に行動しているのもあってあまり関係無いらしい。

 元々ここには誰も居ない。それに加えて信頼出来るゴウも居るのでフリーダムな行動も問題無いと判断したのだろう。

 ホムラ、フウ、スイ、リク。そしてゴウ。

 四人ははしゃぎながら風呂で汗を流し、風呂を背に座って寄り掛かるゴウは空を見続けていた。

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