18ページ目 四宝者vs人類の敵
「まだまだ若い現役の四宝者さん。さっきの爺さん婆さんよりも楽しま」
「“ファイアボール”!」
「“ウィンドボール”!」
虚無の境地が戦う前の台詞を言った瞬間、火球と風球が放たれ、混ざり合って巨大化。そのまま直進した。
「言霊による魔力の上乗せ。詠唱は無しで威力はそこそこ。無詠唱よりは強いくらいか。話くらい楽しめよ?」
それに対して言葉を告げ、拳を打ち付けて粉砕。火の粉とそよ風が周囲に散った。
粉砕した瞬間にはメグミとカイが左右から挟み込んでおり、既に杖へ魔力も込めていた。
「“ウォーターボール”!」
「“ランドスピア”!」
「ハッ、相変わらず四宝者の面々は行動が迅速だな」
同時に撃ち出された水の球体と土の槍。虚無の身体は水に包まれ、槍が当たった。
そう、当たっただけだが。
「がぼぼぼば。むずののこじょボブゥバブブバビイ。ぼぼばべヴェエレベばんぼうばばばば。……上手くやるじゃねェか」
話しながら水を払い、土の槍を粉砕した。
水飛沫と泥が散り、更にゴウ達は嗾ける。
「「……!」」
「「……!」」
「間髪入れず、次は無詠唱。威力は下がったが、それでもそこそこじゃねェか!」
火の粉やそよ風。水飛沫に泥で視界が狭まった瞬間、速度を優先し、迅速な魔法を放出した。
力を溜める時間を短縮したので威力は下がっているが、それでも十分な程である。
「流石四宝者! 楽しませてくれるぜ!」
「本当に楽しんでいるだけだな……」
「付いて行けないよ……」
「私達の出る幕じゃないのは火を見るより明らかね……」
「だからこうして離れてんだ。何が起こってっか全く分からねえけど」
何の魔法も使わず、生身のみで四宝者達の魔法を払い除ける虚無の境地。
ホムラ達は見ている事しか出来ず、見るのも危険と分かっているので既に避難していた。が、この戦いの間では10m程しか進めていない。
要するに今の一連の流れ。魔法の応酬は数秒程度しか経っておらず、それ程までに五人の織り成す攻防の展開が凄まじいという事である。
「これが四宝者と人類の敵の戦い……」
「こんなのが他に三人も居るなんて……」
「数自体は四宝者と同じだけれど、一人一殺はまず不可能ね……」
「衰えていたとはいえ、前任者はやられ、現役の四宝者ですら遊び感覚で互角……」
ゴウ達ですら勝てる未来が見えない。
ホムラ達四人はその言葉をそっと飲み込んだ。
現状、貴族及び王族。全人類で四宝者以上の戦力は無い。王都以外に居る、堕ちた者達の中には逸材が居るかもしれないが協力は望めない。ホムラ達にとっての最後にして最大の希望はゴウ達現四宝者だけだった。
「そろそろ仕掛けてみっか?」
「……! ゴウ! カイ! ソラ! 避けろ!」
「メグミ!?」
次の瞬間、虚無の境地が攻撃に転じた。
それにいち早く気付いたメグミが土の防御壁を形成して三人の前に立ち、虚無の境地がその防御壁に向けて指を弾いた。
「デコピン……じゃなくて全身ピンか」
「……ッ!」
弾いた瞬間に強固な防御壁は粉砕され、メグミの身体が弾き飛ばされる。
貧相な防御力しかない衣服は弾け、骨肉は粉砕される。吐血して数十メートル吹き飛び、ホムラ達の前に落ちた。
「メグミさん!?」
「……っ。君達……早く逃げろ……いや、急いで逃げているみたいだな……フフ、情けない所を見せた」
「喋らないで下さい! “ヒール”! 簡易的な治療なら私にも出来ますから!」
「“ミニファイア”! 止血はしました!」
「“セラピー”! 風で痛みも押さえました!」
「“ランドプレス”! 傷口も抑えたぜ!」
「アハハ……凄い迅速な対応だな。君達。ありがとう。助かったよ」
水で傷口を洗い、炎で焼き固め、風で和らげ、土で抑えた。
その対応にメグミは苦笑を浮かべ、折れた片腕を確認した後で立ち上がった。
「骨は折れたけど、まあ何とかなるか。我ながら胸が大きくて助かった。心臓と肺は無事だ」
「凄い根性ですね……」
「フフ、土の系統は肉体の頑丈さが取り柄なんだ。流れる魔力の質? というのかな。……そこの君も、足が潰れ、二度と走れないと宣告されたにも関わらずたった2年で走れるようになっただろう? 他の魔法使いの系統に比べてその部分が強いのさ」
「へえ」
メグミの腕は折れ、土で抑えた隙間から肉も見えているが問題無さそうに動く。
曰く、それも土の系統の特色らしい。虚無の境地はその会話を聞きながら何もせずに立っていた。
「成る程な。通りで俺の身体も頑丈な訳だ。俺、土の系統ともう一つの混血なんだ」
「誰も聞いていないんだけどな。弾き飛ばして追撃とかはしないのか?」
「ハッ、すぐ殺すのはつまらねェだろ。つか、テメェらも今の間に何もしてねェな?」
「メグミが心配だったのと、君を警戒していたからかな」
「成る程。合理的だ」
どうやら虚無の境地は元々土の系統だったらしい。
しかし土魔法など使っておらず、全て肉体的に仕掛けている。強靭な肉体で生まれたからこそそれを中心的に鍛えているのだろう。
それを聞き、戦線に復帰するメグミを待つのとホムラ達を逃がす為の時間稼ぎを兼ね、ゴウは訊ねた。
「君の望み通り会話をしてやろう。人類の敵を謳われる者は全てが混血。君の場合、土と何の混血なんだ? 二つか三つか、全てか。気になるな」
「ハッ、んなもん俺の性格から読み取れんだろ? 俺は自分の口調が荒々しいのは自負している。そして割と熱血漢だ。ここまで言やもう分かんだろ?」
「土と火か」
「つまり、私とゴウが結婚して子作りすれば虚無の境地が生まれる訳か」
「戻ってきたな。メグミ」
メグミの言葉には返さず、その姿のみを確認して虚無の境地へ向き直る。
衣服は破れているが本人は羞恥など覚えておらず、大ダメージも負った筈だが恐怖なども感じていなかった。
「俺達も早く逃げよう。アニキ達の邪魔になる」
「そうだね……!」
既にホムラ達も逃亡している。そうしなくては邪魔になるからだ。
既に戦闘も再開しているが、メグミがゴウ達の元に戻る際、防御壁として土魔法の壁を張ってくれた。この数秒で逃げるのが最善手である。
「彼らはちゃんと逃げたか?」
「私の防御壁、さっきは簡単に破られたが、そう簡単にはやらせないさ」
「そうか。流石メグミだ」
「フッ、ならばゴウ。私と婚姻を結び、虚無の境地に勝てる虚無の境地を私が産むとしよう」
「君の結婚願望は底無しだな。今にも俺達が死にそうだと言うのに」
「役職柄仕方無いが、この年齢でまで男性経験の一つも無し……他の者達は既に子をこさえていると言うのに……学生時代の友人が子供を見せてくれる事もあるが、純粋無垢で可愛い。可愛すぎる……! なのに私には居ない! この悲しさが分かるか!?」
「ああ。そのうち良い人が見つかるさ」
ゴウは面倒になり、メグミの言葉は軽く流す。
それを聞いていた虚無の境地はホムラ達へ視線を向けていた。
「ほら、出てったぜ? アイツら。そろそろ続きして良いんじゃね?」
「待っていてくれたのか。君は中々親切だな。虚無の境地」
ホムラ達の確認をし、先を促す虚無の境地へゴウが皮肉を込めて話した。
虚無の境地はクッと喉を鳴らす。
「まあな。ガキは面白い。いや、あの齢でも貴族の中じゃ大人か。何にせよ、まだまだ伸び代はあるからな。“強敵”の存在は互いに高め合うのにも必要不可欠。今後どんな進化をするかは分からねェが、面白そうだろ?」
「フッ、虚無の境地。虚無ってのは何の事かと思いきや、三大欲求の全てが戦闘欲に変換されている者の事か。睡眠欲と食欲はともかく、性欲が無いとは正に虚無だ」
「ともかくってなんだよ。寧ろ睡眠欲と食欲が生きるに当たって最優先なんじゃねェの? 別にガキ作らなくても俺は生きられるしよ土の四宝者」
初めからホムラ達には微塵も興味のない虚無の境地。その持論を聞き、メグミは嘲笑した。
それに対する虚無の境地へメグミは笑って返す。
「無言で食べ物を摘まむだけの食事。そして目を閉じて瞼の裏を見るだけの睡眠……それには快楽や悦楽が存在しない。」
「だがテメェ……経験0らしいじゃねェか。なのに性欲が高いのか?」
「馬鹿だな。貴様を倒し、正式に四宝者として就任した後、落ち着いたら私の旦那となる者には頑張って貰う。最低、極限まで切り詰めた上での最低五人は産むぞ」
「そうか。テメェの旦那になる奴は不憫だな」
「安心しろ。貴様など傍から旦那候補ではない。人類の敵とか、そう言った肩書きには左右されんが、目の前で多くの者を殺めた貴様は論外だ」
「テメェも俺の可愛い……くは全くないが、部下を大量に殺したろ?」
「正当防衛だ。何も目の前を横切っただけで殺しはしない」
メグミにとって重要なのは子孫を残す事。
メグミ程の者は珍しいが、この世界の女性は基本的にそれが重要だと理解している。なので貴族や王族は快楽の為だけに不純行為へは及ばない。それをするのは平民などのみだ。
要するにメグミはさっさと虚無の境地を打ち倒し、今よりは自由に生きようと考えているようだ。
「さて、取り敢えず少年達は逃げ切ったようだな」
「だから元々狙ってねェって。つか、成人した奴に少年はねェだろ少年は」
「フッ、私よりも年下ならば全て少年少女だ。一つだけ言っておく。私の守備範囲は年齢一桁でもOKだ」
「ある意味俺よりも化け物だな」
ホムラ達は逃げ仰せた。なのでこれからが本番。おそらく始まった瞬間にこの城は崩落するだろうが、居合わせた全貴族が死ぬよりはマシ。天秤には掛けられない。
戦闘が再開された。
*****
「ホムラ! どうする!?」
「一先ず父さん達の様子を……! 奴は俺達に似ている貴族を“殺した”とは言ったけど、“トドメ”については曖昧だった。生きている可能性はある……!」
「私もそう思う! 避難場所については多分もう、どこにもない……から。様子だけでも……!」
ホムラとフウが話し、会場となる城のある高台から下方を見下ろす。
そこには集まっている野盗の集団。例え両親が生きていたとしても弱っているのはほぼ確実なので先を急ぐ気持ちが勝っていた。
「「……!?」」
「「……!?」」
──次の瞬間、そんな城が吹き飛んだ。
その欠片や中にあった死体が無数に落下し、辺りに地響きを鳴らす。
ゴウ達と虚無の境地の戦闘がより激化してその余波で吹き飛んだのだろう。そこからゴウ達と虚無の境地が姿を現した。
「ハッ、まだまだ人が逃げ切ってねェんだな」
「はぁ……これは予想以上の強敵だな……」
「分かっていた事なんだけどね……!」
「やれやれ。大変な相手だ」
「私達も生きているだけマシか」
瓦礫の中から四宝者の四人と虚無の境地が現れ、他の人々は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ行く。
戦えない事もないが、まず勝てないのは明白。この場合の最適解は“逃走”なので間違った行動ではない。
「アニキ……!」
「ホムラ! フウ! スイ! リク! 君達は街の様子を見てくるんだ! コイツは俺達が足止めする! 君達は街の野盗くらいにならまず間違いなく勝てる!」
「う、うん!」
ゴウ達の心配をするホムラだが、街の方も重要である事には変わらない。なのでゴウは指示を出し、ホムラ達は街の方へと向かう。
「街の野盗……? ……んな奴等知らねェぞ……。……チッ、あのクソデブ豚野郎……!」
「何を言っている。虚無の境地!」
「何でもねェよ。だが、用事が出来そうだ。テメェら片付けてそこに行く!」
「そうか。それが俺達にとって良い事なのか悪い事なのかは分からないが、今は倒す!」
「当たり前だ! 戦いは止めねェ! あくまでテメェらを倒した後だ!」
少し様子の変な虚無の境地だが、当の本人は調弄す。
虚無の境地と四宝者の戦闘は、より激化する。




