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17ページ目 侵入者

「──ハッハッハ! 今頃“四宝者”の会場はパニックだろうの!」


「ええ、そうで御座いますね。主」


 会場に乱入があった頃合い、“四宝者”の就任式にも関わらず一人の貴族が自分の屋敷で高笑いをし、奴隷に奉仕をさせながら一番信頼の置ける部下と話していた。

 その部下の言葉に笑って返す。


「無論よ。今回の一件にて、余がいよいよ火の系統にて一番となる日も近いというもの!」


「……!?」


 奉仕する奴隷の下腹部をまた蹴り抜き、仰向けにさせてその身体に太った肉体を乗せて座る。奴隷は藻掻き苦しみ、今一度この貴族が力強く座り、血と液体を吐いて絶命した。


「おっと、死んでしまったか。まあ、この肉体のみを欲する者達も多い。後で売っておけ」


「はい。かしこまりました」


 死んだ奴隷は必要無い。何も出来ないのでその身体だけを売りに払うのが定石。

 部下は頭を下げ、奴隷の死体を丁寧に運ぶ。


「次は主がやれ」

「は、はい……」


 部下が奴隷を運ぶ途中、周りに居る別の奴隷へ命令して奉仕をさせる。同時に使用人にも目を付けた。


「折角だ。お前らもやれ」

「……。かしこまりました……」


 そして、使用人と奴隷を使って欲求を満たす。

 その貴族は窓の外を見、クッと笑った。


「早く終わらせろよ……“虚無”よ……!」



*****



 ──“四宝者就任式・本会場”。


「何者だ? 貴様」

「一体どこから?」

「いや、見ての通り入り口からみたいじゃな」

「就任式は大きな行事であり、人が集まる機会……たまにあるのぅ。不届きな侵入者が来る事は」


「お? すげェな。爺さん、婆さん。いつの間に俺を囲んだんだ? ハッハ! 四宝者の座降りなくても良かっただろその強さ!」


 男が乱入した瞬間、ゴウ達ではない前四宝者の四人がその男を囲んでいた。既に杖は向けられており、魔法の準備も完了している。

 前四宝者程の実力者に囲まれてもなお余裕の態度を取る男へ、前四宝者の四人は言葉を発した。


「一つだけ質問する。主の名前はなんだ? それを知らなければ明日の死亡記事に侵入者が誰だったのか、身元不明の男としか書けんからな」


「ハッ、マジかよ。俺様の死刑は決定事項ってか?」


「無論。だが、時間は与えん。後3秒以内に答えよ。3…2…」


「わーったよ。俺様は──“虚無の境地”。アンタらもよく知る、人間でありながら人類の敵の一人だ! 以後よろし……」


「ならば死ね」


 虚無の境地が応えた瞬間、杖先から火球が放たれた。

 前四宝者、火の系統の者の魔法のようである。

 火球は一瞬にして加速し、会場の入り口を突き抜け遠方の山を焼き払う。無詠唱かつ小手調べで山を焼く魔法。凄まじいものだろう。


「オイオイ。挨拶くらいしてくれよ。それと、自然は大切にしろよ。少なくとも俺達人間よりは偉大な存在なんだからな。山が無くなりゃ俺達も息するのが難しくなる」


「ほう? 避けたか」


「避けなきゃ“熱っ!”……って反射的に手が離れるあの現象が起こるからな」


 避けた虚無の境地へ杖を振るい、物理的に仕掛ける。それを虚無は跳躍して飛び退き、背後から土の前四宝者が仕掛けた。


「はあ!」

「ハハッ、すげぇ力。風圧で壁が消し飛んだわ」


 物理にけている土の前任者は杖を振るい、虚無はそれを避けながら消し飛んだ壁を見て笑う。

 その場所へ向け、暴風が吹き荒れた。


「ここは聖なる会場。あまり暴れるでない」

「最初の一撃以外全部アンタらの攻撃だろ。これだから貴族や王族は……そら、テメェらも入って来い!」

「「「ケヒヒヒヒィ!」」」


 風によって吹き飛ばされるように会場を追い出され、虚無は笑いながら話す。

 その間に部下らしき野盗達も会場内へ侵入させた。当然、出入口付近ではない別の場所から入っているようだ。


「フム、我らを引き離すのが目的じゃったか」

「しかし、会場は大丈夫だろう。ワシらの後続が居るからな」


 会場へ野盗の侵入を許すが、その辺に関しては大きく考えていなかった。他の実力者達も居るので、一番安全とも言える場所だろう。

 そしてその間に避難も進められていた。


『緊急警報! 緊急警報! 人類の敵“虚無の境地”が出現!』

『王族、貴族、平民問わず、避難せよ!』

『奴隷を連れている者は一度捨て、生きていれば後で拾うと良い!』

『ペットや使い魔を連れている場合は我らが保護します!』

『速やかに避難を……!』


 拡張魔法で声を会場全体に届かせ、人々の避難を行う。ホムラも避難するしかないが、少し嫌な気分だった。


「奴隷はペット以下の扱いか……」

「……仕方無いよ……他の人達からしたらそう言う存在なんだもん……」


 人間ではあるが、ペット以下の扱いを受ける奴隷。ホムラ達には助けに戻りたい気持ちがあっても、今回は足手纏いにしかならないと考え、何も出来なかった。


「けど……前四宝者が虚無の境地を止めてくれているなら助けられるかも……!」


「ホムラ……」


 しかし、やはり見捨てる事は出来ない。奴隷のままくらいならば死んだ方がマシと考えている者も居るようだが、せめて生きる気力の残っている者達だけは助ける為に振り向いて迂回した。


 奴隷という立場上、死のうとしている者を止めるのは道理じゃない。死が救いになる者がほとんどなのだから当然だ。

 しかし未来に希望を抱き、生きようとする者も居る。ホムラ達ではないが、同じ貴族によってこの様な目に遭っているのなら最低限助けたいというのが人情である。


「もう……しょうがないな。ホムラ!」

「あ、おいお前ら……! しゃーねぇ!」

「……ったく。仕方無いわね……!」


 ホムラに続き、フウ、スイ、リクの三人も救出へ向かう。

 その一方でゴウ達も行動を開始していた。


「入ってきた野盗達は俺達、新たな四宝者が相手をするぞ!」

「そうだな。私達で終わらせるか」

「就任後の初任務がこれか」

「やれやれ。面倒だな」


 “虚無の境地”はまだ日の浅いゴウ達ではなく、全盛期より力が劣るとは言えかなりの実力を誇る前任者が。ゴウ達は野盗から他の者達を護る為に動いていた。


「ヒャハハ! 巨乳で褐色のねーちゃん! 俺の夜の相手をしてくれ!」


「悪いが、貴様のような男は趣味じゃない。そして貴様にはもう、次の夜は来ない」


「ゲヒャッ!?」


 小刀を片手に飛び掛かってきた野盗の横から岩を生やし、そのまま側頭部から脳天を貫いて絶命させた。

 脳漿のうしょうと鮮血が飛び散り、メグミは返り血に衣服と肌を濡らす。


「……。……やれやれ。服が汚れてしまった。仕方無い。脱ぐか……ヴェブ!?」


「止めときな。血は流したよ」

「そ、そうか。すまないな」


 返り血に汚れた服を見、脱ごうとするメグミへカイが水を掛けて血を流す。

 血はまだ付着し立てだったのでどうやら洗い流せたようだ。


「しかし、少し生臭いな。鉄っぽい匂いは残る」


「血だからね。というか、また衣服の下に何も身に付けていないのか。濡れた服から素肌が透けているよ。下着くらい着ける事だ。それが風邪とかの病に繋がるんだから。肝に命じてくれ」


「フッ、あんな苦しい物誰が付けるか。耐久力も低いしな」


「それと、君のような荒々しいやり方じゃなく、僕みたいにおこなった方が綺麗に終わる」


「アガッ!?」


 水の槍が背後から襲って来た野盗の心臓を貫き、殺処分。水飛沫と同時に血飛沫を撒き散らした。


「結局汚しているんじゃないか?」

「……。……ハハ、水で貫いたからね。乾く前に拭き取れば掃除は楽だよ」


 カイ曰く、血飛沫が散ったとしても直接的な血ではないのでそのまま拭き取る事が可能との事。

 そして今しがた起こった殺害。メグミ達も貴族の中ではまともな部類だが、人を殺す事に躊躇はない。そう教え込まれているのだから当然だ。

 勿論、他の貴族のように無実の人々を殺めたりはしない。向こうに殺意と悪意があり、相応の覚悟で来ている者のみ殺める。

 善人側寄りのメグミ達はそれでも心が少し痛むが、人や他の生き物ではないと思い込む事でその痛みを和らげている。しかし、目の前に残る死体。そこには中々目を向けられない。


「ならば、汚す前に終わらせれば良いだろう」


 その瞬間、周囲の野盗が発火し、蒸発して炭となった。

 ゴウが無詠唱で放った炎魔法。それによって遺体と共に複数の野盗が消え去り、メグミ達は肩を落とす。


「すまない。ゴウ」

「ありがとう」


「大丈夫だ。君達の痛みは分かっている。100%向こうが悪かったとしても、命を奪うという行為には思うところもあるからね。こんな世界だ。仕方無いと割り切るしかない。何とかしてそれを無くす為に俺達は“四宝者”になったんだからな!」


「ああ、そうだな!」

「うん。その通りだ」


 ゴウのお陰で遺体は残らない。それでも殺めた事実は変わらないが、幾分気は楽になる。


「取り敢えず、避難は完了したかな」

「ああ、ソラ。君もありがとう!」


 話している時、ソラが風魔法を使って降り立った。そんなソラへゴウは礼を言う。

 というのも、ソラは逃げ遅れた人々を風魔法で救っていたのだ。

 風にも十分な殺傷力を秘められるが、ゴウ達三人が居れば数十人の野盗など問題無いと判断し、何より重要な“助けるべき人”を優先したようである。


「ハハ……俺達が助けるよりも前に終わっちゃったか」

「流石の四宝者だね。ゴウお兄ちゃん達」

「ま、俺らも俺らで何人かは助けられた。ソラさんの助けくらいに放ったんじゃねぇの?」

「そうあって欲しいわね……ケホッ」


 その一方で、ホムラ達もある程度の人を助け終えて集まっていた。

 既に入り込んできた野盗達は壊滅寸前。やはりゴウ達の力は一線を画すものなのだろうと改めて実感した。


「お、スゲェじゃん! あの数をこの数分で片付けたのか!」


「……!?」


 その瞬間、ホムラ達の前にあの虚無の境地が立っていた。

 ふと見れば力無く項垂れる前任者達を持っており、ポイ捨てするかのように後ろへと放り投げた。


「四宝者様!」


「今は違ェんだろ? それと、ジジイとババアにしちゃ結構面白かったぜ?」


 声を上げるホムラに返しつつ、臨戦態勢に入ったそのホムラ達に視線を向ける。


「ハッ、流石の貴族。既に戦う準備はしていたか。貴族でも落ちぶれ貴族なら捨て駒になるしかねェらしいしな。……だが、良いなお前ら!」


「よくも前任者様方を……!」

「許せない……!」

「クソ野郎……!」

「許さない……!」


「ハッハ! 血の気もモリモリ! 元気一杯だ! ……ん? つかテメェらの顔立ち……何かどこかで……」


「……?」


 警戒を高めて構えるホムラ達などどうでも良いように思っていた虚無の境地は、その顔を見て何かを考えていた。

 それについてホムラ達には思い当たる節も一つある。

 2年前の野盗襲撃。そして今回の襲撃。偶然かもしれないが、それらには共通点が見受けられた。ならばもしや、その時の主犯だろうか。その思考に辿り着くのはホムラ達の知能なら容易。



 ──そして次に思い出したかのように言い放った言葉は、そんな生易しい事ではなかった。



「──あ、そうだ。此処に(・・・)来る途中に(・・・・・)殺した(・・・)貴族に(・・・)似てんだ(・・・・)


「「「「…………。…………え……?」」」」


 一瞬、思考が止まった。

 今この者が言い放った言葉を四人は信じられない。耳鳴りのような物が聴覚を刺激し、虚空を見つめるように虚無の境地を見やる。


「ハッハッハ! スゲェ偶然。もしかしてテメェらがその貴族のガキか? 目元の辺りとか似てんな! あ、けど赤髪のテメェは顔半分が焼けてて判別が難しいな。大丈夫かよ。重傷じゃねェか」


 軽い口調。まるで近所の気の良いあんちゃんみたいなそんな態度。そしてホムラ達の理解は追い付いた。

 確かに今日、ホムラの両親は来ていない。フウ達の両親も見ていない。この会場に来た時点である程度の血の汚れはあった。それは兵士達のものかと思ったが、考えてみれば鎧を着た(・・・・)兵士達(・・・)の返り血がこんなにハッキリと付着している訳が無かった。


「ウソ……お父様……お母様……」

「そん……な……」

「……親父……お袋……!」

「……そんな……事が……!」


「オイオイ。そんな怒んなよ。悪かった。悪かったって。あ、だがそいつらも結構楽しかったぜ? だから勘弁しろよ。あー、けど、トドメまでは刺してねェな……。もしかしたら生きて──」


 その者達は楽しかった。だから殺した事は棚に上げてくれ。

 遠回しにそう告げる虚無の境地へ、ホムラ達の怒りは爆発した。


「ふざけるな!」

「ッザケンナ!」

「絶対許さない!」

「許しません……貴方は!」


「お、珍しいな。火、風、水、土魔法の合わせ技。他の貴族共がして来なかったやり方だ」


 怒りに身を任せ、無詠唱で火。風。水と土を放った。

 ホムラの火にフウの風が上乗せされて威力を増し、リクの土とスイの水が合わさり虚無の足元が泥濘ぬかるみとなる。

 避ける場を無くし、直撃させる威力の上がった火球は──


「ま、効かねェんだけどな。テメェらはあんま面白くねェや」


 虚無の身体に当たり、弾け飛んで消滅した。

 同時に泥濘から足を上げ、その一動で全ての泥を消滅させる。


「……っ」

「取り敢えず、皆殺しだからテメェらも死ぬぜ?」


 そのまま距離を詰め、虚無の境地はホムラ達の眼前へ──


「“ファイアランス”!」

「……! 熱っ!」


 瞬間的に炎の槍が片手を貫き、虚無は驚いたかのような動きで反射的に手を引いた。

 軽く片手を払い、フーッと息を吹き掛けながらその方向へ視線を向ける。


「悪いが彼らはやらせない。虚無の境地。前任者様の仇も討つ。俺達が相手だ!」


 そこに立っていたのはゴウ達現四宝者。

 その光景を見、虚無の境地はクッと笑った。


「ッハハ、面白そうな奴ら見ーっけ。ま、元々目を付けてたんだけどな。良いぜ。やろうぜ?」


「…………」


 新たな獲物を見つけ、楽しそうに話す。

 ゴウ達現“四宝者”と人類の敵、“虚無の境地”。

 今、人類に希望を与える者達と人類に絶望を与える者達の戦いが始まろうとしていた。

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