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16ページ目 就任式

 ──“一週間後”。


「「「おはようございます。ホムラ様方。その節は大変失礼致しました」」」


「やれやれ……この変わり身の早さと手の平の回転率……貴族って感じだな」


「ホムラ様ってだけじゃなくて、“方”って事は私達も含まれているみたいだね」


「はぁ……精神的な苦痛は終わったけど、また別の苦労がありそう……」


「チッ、散々色々言っといて調子の良い奴等だ。実害は出てねぇが、気に食わねェな」


 ホムラが上級魔法をもちいて黙らせた生徒達は、ホムラ達が傷を負う前の態度に戻っていた。

 実力を以てして黙らせる。それは成功したが、逆に苛立つ事柄でもある。

 清々しさも感じるが陰口や暴言の数々。この対応には怒りも覚える。しかしその事を一々指摘する程にホムラ達の器は小さくない。また何かあれば即座にホムラ達と敵対するだろうが、その尻の軽さは貴族だからと割り切るしかない。


「それでは……授業を始めます」


 そしてまた授業が始まった。

 当然教師もホムラ達への対応は変わった。しかし今までの事もあり、内心では蹴落とそうという気概があるのが見え透いている。

 ホムラ達はホムラ達で、まだまだ苦労は続きそうだった。


「──あーあ……ある意味で苦痛だな。これも。精神的に疲れる」


「切り替えが早過ぎるもんね……」


 ──授業が終わり、いつもの切り株へとつどったホムラ達は迫害とはまた別方面で厄介な現状にため息を吐いた。

 結局のところ、問題を解決してもため息を吐き、幸福が遠退く事は変わらなさそうである。

 もっとも腹が立つのは、ホムラ達の噂が届いたのか街の貴族達が謝罪もなく普通に接してきた事。自分達なら良いが、御者や使用人に謝罪の一つも無い事に怒りが湧く。

 それは他の貴族達が、“御者”や“使用人”という職業は自分達より下と決め付けており、謝罪するまでもないと考えているからだろう。

 馬車の操縦や屋敷の手入れ。それが仕事だが、自分ではやれない事をおこなってくれている者を見下している貴族らが一番の問題だった。


「ある程度の力がある存在には媚びての売名。それで自分が失敗しても将来的にある程度の安定が約束される。保身に次ぐ保身、他の貴族にとって、その為の予備なんだろうな。俺達の存在は」


「んな奴等、将来的にも協力する気は起きねぇが……残念ながら何人かとは将来的にも付き合う必要があるんだろうな」


「魔法は使えても、一人でやれる事には限りがあるものね。お父様達の苦労が窺えるわ」


「そうだよねぇ」


 いつからか、愚痴を言う場になった切り株。

 そろそろ成人する年齢という事と、野盗に付けられた負傷による迫害なども相まり、ホムラ達も苦労を知るようになったらしい。

 あまり良い成長ではないが、他人の好き嫌いだけで事業に差し支えるのも問題なので、その様に生活するしか無いのだろうと考えていた。


「まあ、あと2年もすれば晴れて学校は卒業。そのまま親の事業からやるべき事を学んで行くんだな」


「また戦争も起こりそうだし、傷物みたいな扱いの私達は戦場に駆り出されるかもね」


「俺に至ってはそんな事すら無いだろうな。足が思うように動かない俺……俺でも俺を切り捨てる。もしくは囮に使って有用な兵士を逃がすかな」


「そんな悲しいこと言わないでよリク……もしそうなった場合、私達はリクを守るよ……!」


「そうね。私達は皆で助け合う……考えてみればゴウお兄様から教わっていました」


 ホムラ達もそろそろ卒業。家業を継ぐ事になる頃合い。しかし容姿や肉体的な負傷を考えて、兵士として戦場に散る未来もあり得た。

 全員がそれなりの覚悟を決めており、そんな話にホムラは笑いながら続けた。


「──ハハ。大丈夫だ。皆は俺が“護る”。だから皆も俺を“守って”くれ」


「……アハハ、私達を“護る”代わりにホムラを私達が“守る”。うん、良いかも♪」

「ハッハッハ! んじゃ、約束だ。どんな事があっても……俺達だけは絶対に裏切らねェ。永遠のダチだ!」

「ちょっと重くないかしら? フフ、けど、それもまた一興ね」


 互いに顔を見合わせ、無邪気な笑顔でニッコリと笑う。この仲はこの先、永遠に続く事だろう。


 ──そして、それらの話や願いが将来的に訪れる事は無かった。



*****



 ──“2年後”──


「ホムラ! 早く行こ!」

「あ、待ってくれ!」


「お兄様行ってらっしゃいませ!」

「ふふ、私達も後から行くのよ♪」


「リク。大丈夫かしら?」

「ハッ、もう走れっからな。ちょっと違和感はあって激しくは動けねぇが、まあ大丈夫だ。つか、スイも大丈夫なのかよ?」

「ええ。今日ばかりは馬車で行くのが礼儀だもの」


 2年の月日が経ち、ホムラ達は15歳になっていた。

 この世界では成人する年齢であり、そろそろ婚姻を結ぶ頃合いだが、婚約破棄されたフウ、スイ、リクの三人と未だにセイカから連絡の無いホムラにはあまり関係ない。

 普段なら成人の儀式のようなものもあるが、今回はその事では急いでなかった。


「今日は“四宝者”の就任式……ゴウのアニキがいよいよ“四宝者”の仲間入りだ!」


「アハハ! そうだね! だからホムラもテンション高いんだ!」


「ハハ、フウだって。いつもそんなに大きく笑わないだろ?」


「淑女として高笑いは下品だからね。けど、今日は別。15になって大人になった私じゃなくて、ゴウお兄ちゃんにはなるべく昔の私に近い姿を見せたいの!」


「俺もだ!」


 成人式は、もうとっくに終わっている。その年の月始めに終わらせているのだ。

 今回の目的はホムラ達が世話になったヒノカミ・ゴウ。そして2年前に助けてくれたアキツチ・メグミ。フユミ・カイ。ハルノ・ソラ達四人の“四宝者”就任式。それによる祭典。

 候補は何人か居るが、その中からより優秀なゴウ達が選ばれ、いよいよ本当の“四宝者”になろうとしてるのである。

 弟分妹分であるホムラ達が浮き足立つのも頷ける。それ程までのビッグイベントだ。


「っし! 御者さん! 今日もひとっ走り任せましたよ!」


「へっへーい! 任せてください! ホムラ坊っちゃん! 今日はゴウさん達の就任式! 年甲斐も無く飛ばしますよ!」


「一応成人したんだから坊っちゃんはやめてくれ……」


「ハッハッハ! 私にとって、ホムラ坊っちゃんはいつまでもホムラ坊っちゃんですよ!」


「ハハ、そうですか」


 馬車に乗り込み、就任式の会場へと向かう。

 “四宝者”就任式の会場は街の上部にあり、貴族ではなく王族の街、そこで一番大きな城が会場となっている。

 このイベントはこの世界にとって重要なもの。なので魔力を電波として世界中に発信されており、下手な事は出来ない。

 なのでいつもよりテンションの高いホムラ達も、会場ではより貴族らしい、良い意味での貴族らしい上品な態度を取るつもりだ。

 屋敷を出て数十分後、ホムラ達は会場へと到着した。



*****



 ──“四宝者就任式・本会場”。


「ふぅ……よし。ここからは凛とした面持ちで、恥にならないように行くとしよう」


「うん」

「ああ……やってやるぜ……!」

「リクだけテンションが戦場か何かね……」


 四人は馬車から降りた瞬間には顔を作っており、真っ直ぐな眼差しと凛とした表情で会場へと入った。


「おお、“悲劇の四人”だ!」

「2年前に野盗による被害を大きく受け、今年成人し、家業を継ぐ事になる貴族達か!」

「ホムラ様は何故不自然に髪を伸ばしているのだろうか……フウ様はこの季節に、やけに暑い服装をしておられる」

「野盗に受けた傷は治らないらしくてな。それであの様な格好になっているらしい……それも、貴族として恥を晒さぬ為に必要な事だ」

「成る程……心の傷も完全に癒えた訳では無い筈なのに……何と言う気高い精神力……!」


「……気高いの敷居低くないか……?」

「しっ。聞こえちゃダメだよホムラ。多分あの人達、新聞の記者」

「“悲劇の四人”……俺達そう言われてたのかよ……」

「まあ、新聞は貴族や王族以外の方々がそれらの情報を得る為に作られているもの……ある事ない事、私達が知らない記事も多く書かれていそうね」


 世界的なイベントである就任式。それによる人の集まりは凄まじく、貴族として生きている以上、普段は御目に掛かれない職業の者達も多く居た。

 ホムラ達の事がどう伝わっているのかは分からないが、比較的好印象な様子なので気にする必要は無さそうである。


「ハッハ! 来たか! ホムラ! フウ! スイ! リク! とう!」


「あ、ゴウのアニ……じゃなくて。ゴウ様」


「ハッハッハ! 別に呼び方など構わないが、記者達の前か。仕方無いな!」


「おお! ゴウ様だ!」

「今年からの四宝者様だな!」

「何と凛々しい顔付きか……!」

「見惚れている場合か! 早く写生するんだ!」

「ハッ、そうだ。こんなに近くで御目に掛かるなんて滅多に出来ないぞ……!」

「クソッ……! 見ただけで絵が出る物は無いのか!」

「そんなのあったら魔法だ! もしあったとしても、貴族様でない我らには少しの魔力しか宿っていない!」


 主役の一人であるヒノカミ・ゴウの登場により、記者達は慌ただしくその顔を紙に描く。

 貴族でない者達からしたら貴重な素顔。スケッチするには絶好の機会なのである。


「悲劇の四人と新四宝者のゴウ様は知り合いだったのか……!」


「これは良いネタになるぞ……!」


「うむ、君達と久し振りに話したかったが、どうやら難しそうだな」


 記者に囲まれ、久し振りのホムラ達とはどうやら深く話せなさそうな雰囲気が漂っていた。

 野盗の襲撃から2年。その2年間でホムラ達がゴウ達と会う機会は無く過ぎていった。なので話したい気持ちがあったようだが、もう四宝者の候補ではなく本当の“四宝者”となってしまう。なのでプライベートの時間は無いのだろう。

 そんなゴウを見やり、ホムラ達はホムラ、フウ、リク、スイの順で言葉を発した。


「いえ、気にしないでください。ゴウ様」

「私達も構いませんから。ゴウ様」

いずれ自分達もゴウ様の近くへ行きますので」

「ゴウ様は記者様方のお相手を致してくださいませ」

「むむ……君達のその話し方も何だか牴牾もどかしいな……! と言うか、わざとやっていないか?」


「「「「いえいえそんな滅相もない」」」」

「やっているようだな」


 悪戯っぽく言い、ゴウへ気を使わせない。

 それは遠回しに自分達が変わっていないという事を告げたものであり、ゴウに安心して貰えるような事だった。


「ふっ、まあしょうがないか。今日以降は会う事も無くなる筈。就任式が終わったら改めて話そうか」


「ハハ、そうですね。ゴウ様」

「ああ、約束だ!」


「……あ、お待ち下さい四宝者様!」


 それだけ言い、ゴウはこの場から離れる。そんなゴウに記者達も着いて行き、ホムラ達から引き離す事も成功した。

 ゴウは本当に気遣いの出来る存在であり、頼れる兄貴分。そして性格なども昔のままで、それを見たホムラ達は嬉しくなった。


「ゴウの兄貴、変わらなかったな」

「そうだね。私達もあまり変わってないし、ちょっと嬉しい」

「いつか俺も足を完治させて四宝者になってやるぜ……となるとライバルは現四宝者のメグミさんか」

「私もなりたいものね。ライバルはカイさん……手強いわね」


 四宝者は、入れ替わり式。だが現四宝者からその座を奪わなければならない。

 何らかの理由で殉職したり、みずから四宝者の座を降りる者も居るが、基本的には奪取制。故に四宝者になろうと考えるのならば、四宝者に選ばれてから奪う必要があるのだ。

 しかしながら、ゴウ達現四宝者は奪った訳ではない。30年間変わらなかった四宝者が年齢を理由に自ら座を降りた事で急遽招集され、現在に至っている。

 そう、基本的に四宝者はその実力が高過ぎるが故に、過去で奪い取れたのは一度しかない。それも何百年も遡る程なので実質的に奪い取るのは不可能に近かった。


「そろそろ始まるな。就任式」

「そうだね。席に着こうか」


 色々と話しているうちに就任式開催の時刻がやって来た。

 四宝者の証は専用の杖とエンブレム。それを授けられるのが式の大部分である。

 他の貴族や今回ばかりは平民など。下級の者達も参加が許されている。ホムラ達も席に着き、凛々しい顔をしたゴウ、メグミ、カイ、ソラの四人が入ってきた。


「それでは、これより四宝者となるべき者達へ、その証を継承致します」


 司会進行の声が届き、静かな拍手が贈られる。

 四宝者の就任式は、“静なる事が美しさ”。聖なる式だからこそ静に着目し、静かに執り行われるのだ。

 既に演説や前四宝者の話は終わっており、就任式も終盤へと差し掛かっていた。


(おかしいな……母さん達来ていないや。もう式も終わるのに……)


 ホムラは横目で客席の方を見やり、母親と妹、父親が来ていない事を気に掛ける。迎えに行った御者さんも同上。

それのみならず、四宝者の就任式にしては人が少な過ぎるのも気掛かりだった。

 その違和感には他の貴族達も気付いており、聖なる祭典故に声には出さないが、少し会場には落ち着きが見えなかった。


「火の継承者。フレイム家当主。ヒノカミ・ゴウ様」

「……」


 そんなことを考えるのも束の間、名を呼ばれ、赤い宝石の付いた杖と火のマークが施されたエンブレムがゴウに手渡される。

 因みに、この世界では真名は隠す事が流儀だが家柄となる姓は既に明かされている。なので姓は知り合いならば全員が知っているだろう。


「土の継承者。アース家。アキツチ・メグミ様」

「水の継承者。マリン家。フユミ・カイ様」

「風の継承者。スカイ家。ハルノ・ソラ様」

「「「…………」」」


 そしてメグミ達も順に各々(おのおの)の属性に因んだ色合いの宝石を付けた杖とマークの付いたエンブレムを他の三人も貰い受ける。

 就任式自体はすぐに終わる。もう既に終盤なので後は現四宝者の言葉だけだろう。何事もなく終わる筈だ。



 ──不測の事態さえ起こらなければ。



「「「…………!?」」」


 ドゴォン! という轟音と共に会場の扉が破壊された。

 他の貴族達は思わず後ろを振り向き、そこに一人の男性の姿を映す。

 その男性は見張りの兵士の死体を片手に持っており、身体を赤く濡らし、武器も何も持たずに言葉を発した。


「──よォ。貴族王族のお偉方。今日はお日柄も良く足下も悪い中、よくぞお越し下さいました。……駄目だ。貴族感出ねェや。……単刀直入に言うぜ。今からテメェら……皆殺しな?」


「「「…………!?」」」

「何を!?」

「誰だ貴様!?」


 その突然の乱入に声を上げ、会場にはざわめきが走る。

 見れば男性の後ろの方でも兵士達が倒れており、何なら会場以外の城が半壊していた。

 その様な音は聞こえなかった。聞こえた音は会場の扉が破壊された時のものだけ。……つまり、何らかの手を使い、この男性はたった一撃でこの強固な城を半壊させたという事だろう。

 記念すべき四宝者の就任式。その記念の日にそぐわぬ返り血にまみれた男性が乱入してきた。


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