表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/230

15ページ目 反撃

「……。また、迷惑掛けちゃったね……」

「ああ、そうだな……」

「……本当に家族や使用人には迷惑を掛ける……」

「……ええ。心苦しいわ……」


 切り株の場所に着き、ホムラ達は空を見上げながら呟くように話す。

 ため息にも近い呼吸をし、更に言葉を続けた。


「やっぱりもう四人で集まるのはやめた方が良いのかもな……」

「うん……私だけならまだしも……他のみんなに迷惑を掛けちゃうのは悲しい……」

「お前だけじゃねェよ。俺も自分がやられる分にゃどうでもいい」

「私もよ……」


 ホムラ達四人は、自分達が一緒に居るからこそより一層敵視されているのは当然理解している。なのである程度の問題を解決する為、もう会わない。連まない方が良いかもしれないと考えていた。

 四人は同時にため息を吐く。


「こんなにため息ばっかりだと幸福が逃げちゃうな」

「元々幸福なんてないから……ため息が出るんだよね……。ホムラ達と一緒に居るのは確かな幸福だけど……今後はその幸福も消えちゃいそうだもん……」

「いや、ここは逆に、物事を前向きに考える必要もあるんじゃねェのか?」

「前向きに考えて行動するたびに悪い事が起こるんじゃ……すぅ……前向きに思わない方が良いかもしれないわね……ケホッ……その方が心が痛まない」


 精神的に追い詰められ、ネガティブな言葉が次から次に飛び交う。しかし、内に抑え込んだままよりかは愚痴の一つや二つを共有出来る方が良いのかもしれない。

 この様な世界である以上、信じる事の出来る友人は必要不可欠。周りに信じられる人間が少な過ぎるのもあり、ホムラ達にとっての安息は自分以外の三人や家族に使用人のような身内くらいである。

 四人は分かっているが、また一つため息を吐いた。


「辛気臭いな。君達は。まあ、学校での扱いから考えて当たり前か」


「「……!」」

「「……!」」


 そんな事を話していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 ホムラ達は声が聞こえた瞬間は警戒したが、その警戒はすぐに解いた。この人は信頼に値する、稀有で稀少な人だと理解しているからだ。


「先生……」

「今はもう先生ではない。辞めた……辞めさせられたからな。真名は無理だが、名くらいは教えておこう。改めて、私はバラサキ・アカネだ。よろしく」

「えーと……一応貴女の教え子なので名前くらいは知っていますよ? アカネ先生」

「馬鹿者。こういう時は心機一転、改めて事を考えるのが大事なのだ。それと、今はもう先生ではないと言っているだろう」

「あ、そうですか」


 ──その者、バラサキ・アカネ。ホムラ達の担当だった教師である。

 本人の言葉から告げられたように、やはり学長などに無理矢理辞めさせられたのだろう。

 しかしそれでも相変わらずな明るさと言葉遣いで対応し、ホムラ達の気持ちが少し軽くなった。


「お前達は何をしていたんだ?」

「何って……のんびりとくつろいでいますね。それと先生……いえ、アカネさんこそ……アカネさんには教えましたから此処に来るのも理解出来ますけど……一体如何様で?」

「私も少しのんびりしたくてな。君達が来ない間にも割と寄っていたんだぞ?」

「へえ」


 目的は互いにのんびりする為。

 この世はストレスも多く、周りにはロクな人間が居ない。言ってしまえば自尊心と欲望が人の皮を被っただけの置物だらけ。それでは気が滅入る。

 だからこそ一人、もしくは信頼出来る者と寛ぐ時間は必要なのだ。

 その行動に最適なのが、そんな人間達の来ない森の中という訳である。

 木を加工などの商売にする必要のある者はともかく、まず他の貴族や王族は何の意味もない森に来る事はないだろう。


「それでは、アカネさんもどうですか? 隣、空いてますよ」


「フム、折角だ。寝かせて貰おう。仕事を辞めて楽になるかと思ったが、新しい職場でもお前達とは違う、他の貴族達の相手をさせられるからな。貴族の中でも庶民に寄り添うお前達のような存在が唯一の良心だったよ。本当に」


「ハハハ……苦労されているんですね」


 ホムラに言われ、切り株に寝転がる。

 アカネは眼鏡を外し、赤い髪を掻き上げて空を見上げた。


「落ち着くな。ストレスが少しは無くなる感覚だ」


「そうですね。風が心地好い……木のざわめきも落ち着かせてくれます」


「何で他の貴族達はこの感覚が分からないんだろうねぇ……」


「フッ、自然に耳を傾ける程の余裕が無いのだろうな……奴隷だとか使用人だとか、何なら庶民とか。欲望を発散させる相手は多いが、それでも常に自分の地位を上げる為に奔走している……生き急いでいるからこそのんびりとする事も出来無いのだろう」


 他の貴族達へ対し、同情にも近い感情で話す。

 学校や現在の職場の貴族に何一つ恨み事は言わず、逆に心配する。何とも懐が深く、温厚な者だろうとホムラ達は思った。

 もっとも、他の貴族達にそれを言えば下級者が我らに同情などをするなと殺される可能性もあるが。ホムラ達だからこそ言えたのだろう。


「それで、私が居なくなってからの学校はツラそうだな」


「「……っ」」

「「……っ」」


 そして、核心を突いてきた。

 元々受け持っていたのもあって現状は把握している。此処に来た時もそれを指摘したが、ホムラ達は“学校の事”については何も話さなかった。

 だからこそ直線的に告げたのだろう。

 アカネは元教育者として、生徒の考えはある程度分かっている。世には生徒の事が分からない教師の方が圧倒的に多いが、アカネは違った。

 自分達で抱え込むような生徒には率直に告げ、救いの手を差し出すのが最適解。初めはその手を取る生徒も少ないが、信頼が生まれればそのまま問題の解決へと繋がる。それを理解し、ホムラ達なら問題を解決出来る力があると判断した上で話したのだろう。

 ホムラ達もアカネには勝てないなと苦笑を浮かべ、言葉を発した。


「まあ……色々ありましてね。なので全ての問題を少しは和らげる為に、俺達は仲良くするのを止めようかと……」


「成る程な……」


 何をされたかなどは言わない。しかし、自分達が仲良くしなければ多少はマシになると考えている。故にそれを話した。

 アカネは相槌を打ち、呆れたように言葉を発する。


「アホか貴様ら。そんな事をすれば孤立した所を狙われるだけだ」


「え……?」


 バッサリと切り捨てられた。アカネは剣士ではないが、かなりの切れ味を誇る刃を持っているようだ。

 更に続く。


「まあ、比較的傷の浅いホムラは加害者側に誘われるかもしれんがな。そうすればフウ、スイ、リクを迫害する者達へ荷担する結果になる。どう転んでも誰も幸せにならない0点の解答だぞ。珍しいな。成績優秀のお前達が赤点とは。補習をする必要もある」


「けど……」


「あのな……お前達は何の為に四人居るんだ? そりゃ一人ぼっちの孤立無援ならば私がこの街を追放される覚悟で援軍に入ってやるが、お前達は一人じゃない。私が荷担した現場以外では何をされているのか分からないが……互いに助け合う事くらい出来るだろうに」


「「……!」」

「「……!」」


 何を当たり前な事を……と頭を振る。切り株なので頭を振るだけでも木の欠片が髪に入りそうなものだが、気にしない。

 ホムラ達はハッとし、その反応を見たアカネは優しく笑って言葉を続ける。


「お前達は互いを蹴落とす側の貴族じゃないんだ。互いに助け合う事に抵抗があるか?」


「……ありません」


「ならばそれを遂行すれば良いだけ……言葉を履き違えたりはするなよ? 罪にならぬように、学校のルールに則って助け合えば良い」


 それだけ告げ、アカネは起き上がる。同時に頭に付いた木屑を払い、切り株から降りた。貴族ではないからか、自分の汚れなどあまり気にせず軽く衣服を叩いて土汚れなども落とす。


「それじゃ、私は戻る。大人は忙しいからな。君達と話せて良かった。これでまた頑張れる」


「ありがとうございました。アカネ先生!」


 今しがたの指導に対し、敬意を込めて先生と呼んだ。そしてこれが、アカネを先生と呼ぶ最後の日となる。

 ホムラ、フウ、スイ、リクの四人は戦う覚悟を決めた。と言っても血みどろな生々しい戦いではなく、少なくとも迫害の一歩手前という今の状況を終わらせる為の戦い。

 アカネと別れ、一番近い授業が行われる日、明日のプランを練る。


 ──そして翌日、二日目の授業が始まった。



*****



「それでは、スイさん。この文章を読んでください♪」


「…………」


 授業が始まり、座学。早速スイが指名される。

 スイは立ち上がり、教科書の文章を朗読し始めた。


「魔法を極める事により、神の御技にも等しき力を扱えるようになる。……すぅ……火の系統ならば火球は空に浮かぶもう一つの太陽となり……ふぅ……風の系統ならば雲を呼び嵐を巻き起こす……はぁ……水の系統ならば……大波を起こし……土の系統ならば山へ達する……ケホッ……」


 読んでいる途中、徐々に息苦しくなりつつあるスイ。そこへフウが立ち上がり、更に言葉を続けた。


「それ以外にも魔法の派生は多く存在し、一つの系統が他の系統を我が物にする力」


「……。フウさん?」


「様々な魔法を無効化する力、己の身体能力を鬼神に等しきモノとする力」


「フウさん」


「そして時空へと干渉し、時その物を操る──」

「フウさん! お黙りなさい! 貴女の事は指名しておりません事よ!?」


 続きを全部読み終えたフウに対し、教師は怒号の声を張り上げた。

 フウは読むのを止め、教師はピキピキと眉を痙攣させ、苛立ちを隠さずに言葉を続ける。


「指名していないのに応えるとはどういう事でしょうか? 評価を下げられたいのですか? このままでは授業妨害として……」


「話の途中にすみません。先生。一つよろしいでしょうか?」


「……っ?」


 言葉を紡ぐ教師に向け、フウは若干の威圧を込めた声音で話す。

 教師はその圧に押され、口を噤む。そこにフウのステージが完成し、畳み掛けるように言葉を発した。


「見ての通り、スイさんは体調が悪く、続きを読み上げるのが難しいと独自で判断し、私は授業をよりスムーズに進める為に教科書を読みました。まあ、もしも貴女の耳と目が使い物にならず、そんな事も分からない状況だったならば謝罪を申し上げましょう。もし見えて聞こえていたのならばただの愚者ですけどね。……よって、私が読んだという事柄は“授業妨害”ではなく、授業の進行を補助したに過ぎません。授業は進み、皆様の貴重な時間を確保も出来た……貴女様は如何いかが思いますか?」


「……っ。……授業を……続けます」


 フウは理論武装にて教師を看破し、お咎め無しとなった。

 指摘されたらマズイ部分もチラホラ見受けられたが、そこは勢いと圧で押し切る。おそらく言っても変わらないのでそれが最適解だろう。

 その様な事もあり、必要以上にスイは指名されず、午前の授業は終わりを迎えた。


 ──“午後”。


「では、午後の授業を開始する……クク、今日も基礎となる体力作りから。始め!」


 運動もしなさそうな小太りの男性教師が偉そうに指導し、また恒例のランニングが執り行われる。

 半身が思うように動かないリクには辛い授業だが、


「“ウィンド”……!」

「“ウォーター”……!」


「へへっ。こりゃ楽で良い……」


「……む? 何故だ? 今日は苦しんでいないな……」


 目に見えにくい風魔法と水魔法を使い、リクの身体を支えて援護する。

 無能なあの教師には見抜けない簡単な手。違和感はあれど気付かず恒例のランニングを終えた。

 そして、ここからが本番である。

 いくら補助したとしても、根本的な部分を変えなければホムラ達のカーストは下のまま。それを打開するには、相応の力を見せなくてはならない。

 だが、暴力による解決は違う。暴力によって解決しても、また次の暴力が自分に返り、それの無限ループが行われるだけ。

 貴族は庶民よりも力に執着する。その明確な力を周りに証明すれば良いだけである。


「では、開始!」


 実技は運動や剣術もあるが、やはり中心となるのは魔法。

 そんな魔法の実践練習の前には必ず的当てや簡易物の創造などの肩慣らしがある。

 それは一人一人が指名され、自分のやれる分野で実行に移す事。そしてそれは必ず、全生徒の目に留まる。


「次、シラヌイ・ホムラ。さっさとしろ!」


「はい」


 名前を読んだ瞬間に先を促し、集中力を損なわせる。

 いつもこんな感じなので慣れたホムラは既に集中力を高めており、──的の先(・・・)に何もないのも確認していた。


「……──火の精霊よ……」


 そして、最大限の集中力で詠唱を開始する。

 練習用の杖が耐えられるかは分からない。しかし構わず、力の誇示を行う。それが現状打破の道筋だ。

 考えているのは、個人で危険と判断し、一度切りしか使っていないあの魔法。


「その大火の片鱗を完球体と化し、空間ソラに留めよ」


「……?」


 いつもホムラは、的当てを簡易的な初級魔法で終わらせている。故に詠唱も短く、すぐに終わる。

 しかし今回の様子が違い、小太りの男性教師と周りの生徒達は困惑していた。


「巨躯なる器に宿り、神霊へと昇格し、天地を凌駕する天帝の火球を碧落へと撃ち出せ……」


「オイ! 何をしているホムラ!? ぐわぁ!?」


 生み出された火球はその場で誇大化し、熱量が上がり、周囲の木々を燃やす。それを止めようとした教師は熱に押され、悲鳴を上げながら転がった。

 しかしそれに留まらず、更に更に温度とその質量を増やす。ホムラは引火して燃え盛る杖を苦笑混じりの涼しい顔で持ち、力を込めて振り下ろした。



「世に灰塵を築く──“アナザーノヴァ”!」



「「「…………!?」」」

「「「…………!?」」」


 ホムラの声と同時に巨大な火球が直進し、正面の的を一瞬にして消し炭と変えた。

 その光景を見、火傷した教師は息を飲む。


「あれは……上級魔法……それも、かなり上位の……洗礼された……!?」


 的を飲み込み加速。無尽蔵のエネルギー体は正面の数キロを灰塵と化しながら真っ直ぐに進み、ホムラは最後に杖を振り上げた。


「駄目だな。世界を一周するかもしれないや。……威力が強過ぎた」


 同時に巨大な火球は空へと舞い上がり、周囲の雲を蒸発させ、数分間二つの太陽を上空に映し出して消え去った。

 その最後の動きで杖は炭となり、風に巻かれて消えた。

 火球は見えにくくなったが、まだ明るさが残っている。目を凝らせば何とか見る事も可能であり、おそらく宇宙そらへと向かい、その名が示すように新星の糧になったという事だろう。


「ありがとう。フウ、スイ、リク。他のみんなに怪我はないか?」


 そして火球を見届け、ホムラは振り返り、風と水、土の三重防壁の向こうに居るフウ達へ礼を言った。

 三人は息を切らし、少し火傷しながら言葉を返す。


「多分……守る側も結構辛いんだからね……」

「ケホッ……ホムラには聞こえていないんでしょうけど、あまり長い詠唱させないで頂戴……あんな火球……余波を止めるだけで全力だったわ……」

「ハッ……フウとスイのお陰で何とかなったぜ。まあ、俺の最終防壁が完全に熱を止めたけどな!」

「の割には火傷してるわね」

「うるへー!」


「ハハ、流石だな。三人とも」


 三重の防壁により、生徒の面々と一応教師も無事。四人は軽口を叩き合い、和やかなムードで事が運ぶ。

 二日目の、迫害に近い授業。ホムラ達はアカネの助言と仲間の協力により、それを終わらせる事が出来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ