12ページ目 襲撃後
少し時を遡り、中心街の野盗騒動の一部始終。
「やれやれ。野盗が攻めて来たというのは本当だったのか。愛する我が子は無事なのだろうか」
「貴方。大丈夫?」
「まあ、これくらいなら余裕だ。カッコいいパパの姿、見ていてくれよ!」
「うん! パパ!」
フラム家から少し下った場所にて近辺を纏める領主でもあるホムラの父親が野盗を前に、
「無詠唱で十分だな。“ファイアボール”!」
「「「ウヒヒヒヒ……ヒ……──」」」
上級魔法からなる火球を放ち、道行く全野盗を消し炭にした。
「どうだ!」
「パパカッコいい!」
「流石貴方! 私の愛する夫!」
一撃で屠り、サムズアップで白い歯を見せる。
ホムラの母親と娘は喜んでおり、他の系統の地区でも──
──“風の系統”。
「“トルネード”」
「「「……!?」」」
──“水の系統”。
「“ウェーブ”」
「「「ガババババ!?」」」
──“土の系統”。
「“プレス”」
「「「……ッ!?」」」
風の系統の地区では竜巻によって野盗達がバラバラに引き裂かれ、水の系統の地区では発生した大波に流され、土の系統の地区では大岩が押し潰す。
こうして野盗は“四宝者”が居る中心部には行かず、全滅した。野盗騒動は一時的に終わるのだった。
*****
「──よって、野盗らは全滅致しました」
「フム、そうか。予定通りだな」
──とある火の系統である貴族の家にて、野盗が全滅した報告を嗾けた主犯が受けていた。
当然、貴族の周りにはほぼ裸体の女奴隷達が居る。今日も今日とて自身を満足させる為に奉仕をさせているようだ。
その貴族は口に唾液を溜めながら笑った。
「フッ、まずはフラム家のせがれを陥れる事に成功した。第一段階はクリアだ。どちらにせよ、あの雇われのゴミ共では下級貴族とガキを苦しめるのが関の山と分かっていたからな。幸運だ。ついでにフラム家のせがれの友人達を傷付ける事にも成功したのは悪くない。傷物になれば孤立する。周りを崩せば自ずと本人が崩れる」
今回の作戦の成功を喜ぶ主犯。当然隠蔽工作も完了しており、罪を問われるどころか気付かれる事もないだろう。
その貴族は言葉を続けた。
「後は2年後……──余以外の火の系統である貴族を全滅させれば火の系統にて余が最上位へ行ける」
その者の目的は、自分と同じ系統の殲滅。
四宝者を始めとして実力者は多く、それも難しい事だが、その者には当てもあった。
「のう? ──虚無? 主ならばそれも可能なのだろう? 多額の金も払った」
と、視線と言葉を向けるのは仮面を着けた一人の男性へ。
「──ああ、任せておきな。その分の仕事はキッチリ塾す。つまらねェ仕事ならしたくねェが、未だかつて成功した者の居ない、一つの属性の完全な殲滅……腕が鳴るじゃねェか。……つか、今更だが略すなよ。俺様には一応──“虚無の境地”って異名があるんだからよ。絵物語にも出てくる正真正銘の“悪役”だぜ?」
──その者、絵物語にも出てくる存在、悪い方面での伝説。“虚無の境地”。
この貴族は自分以外の火系統の殲滅をその者に依頼したらしい。
しかしどうやら“虚無”と略されるのはあまり嬉しくないようだ。
「ならば主の名を教えてくれれば良いものを。虚無の境地では名を区切るから語呂が悪い」
「しゃーねェな。んじゃ虚無で良いわ。それか境地。虚無の方がマシだな。……何にせよ、あくまで俺様達とテメェはビジネス関係……真名を教える訳にはいかねェ」
「ならば仮名だけでも良いだろうに」
「仮名は普段の生活で使ってっからな。仮名でも同姓同名くらいは居るが、万が一がある。仕事の時は異名で活動した方が便利なんだ。異名も気に入ってるしな」
この世界の住民である以上、当然真名も持ち合わせている。しかしそれを教えるのは不都合。なのであくまで“異名”として名乗っているらしい。
シラヌイ・ホムラのような“仮名”も使わずに行動している。徹底した存在だ。
「だがまあ、2年後までは暇。その間にテメェの暗殺依頼が入る可能性もあっからその時は頼むわ」
「なんだと!? ふざけるな!! 先に依頼したのは余だ!! 余を殺してはその依頼が完遂出来なかろう!!?」
「……はあ、冗談だよ。分かってる分かってる。そう怒りなさんな」
「生意気な奴よの……!」
本当に冗談なのか本気か、虚無の言葉に対して貴族は怒りを見せ、虚無は呆れたようにやれやれと首を振って流す。
この貴族の目的は金だけを払い、後は楽をして成り上がる事。殺される可能性があるとしたら激昂もするだろう。
「ま、こんな面白そうな案件。依頼を塾さずしてテメェを殺すのもつまらねェ。ちゃんと仕事はやる。テメェら貴族がクズの集まりだとしても金だけは裏切らねェからな。偽札を除いて」
「クズだと? 崇高と言え。立場で言えば主よりも上という事を忘れるでない」
「へいへい。俺様には地位とか関係ねェが、そう言う事にしてやるよ」
プライドも高く、他力本願な者の依頼。しかし仕事なので受ける。
虚無の境地と今回の騒動の主犯。2年後、ホムラ達には大きな試練が差し掛かる事だろう。
*****
「──なので、如何なる治癒魔法を使ったとしても治る事は無いでしょう……」
「そうですか……」
騒動から数日後、街の復興も進んでホムラ達の傷も大分マシになったが、四人には治る事の無い傷痕が出来てしまった。
ここに集った、違う系統同士にしては珍しく仲の良いホムラの両親達へ、四宝者候補であるゴウ達の紹介によって預かられたこれまたこの世界では極めて珍しい、ちゃんとしたまともな医術師は概要を説明する。
「シラヌイ・ホムラ様の負った顔の火傷痕はもう消えません。カゼカミ・フウ様は身体に刻まれた無数の切り傷の痕が残り続けます……」
「「……っ」」
もう治る事の無い火傷の痕と切り傷の痕。それを聞いたホムラとフウの両親が口を噤む。
しかし、と医術師はリクとスイの両親を見て言いにくそうに話した。
「この二人は、これでもまだ比較的マシな部類。傷痕は目立てど、日常生活は送れますからね……問題はツチガミ・リク様とミズカミ・フウ様……こちらの二人に至っては今後、日常生活すら儘ならない事でしょう……」
「そんな……!」
「……っ。一体……」
ホムラとフウは、日常生活には支障が無い程度に動ける。それも迅速な治癒魔法のお陰だろう。
そんな、迅速な治癒魔法。からの腕のある医術師による魔法治療ですら、日常生活が送れなくなる程のダメージを負ったというリクとスイ。その両親は医術師へ訊ね、医術師は話した。
「まずツチガミ・リク様。リク様は足が一度完全に潰れてしまい、リハビリ次第で歩く事は出来るようになっても……今後、走ったりなどの激しい運動は出来なくなっています……」
「リク……!」
リクは大岩によって足が完全に潰されてしまい、もう二度と走る事が出来ぬ身体になってしまったようだ。
元より身体能力での戦いや魔法を扱う土の系統。そうなった以上、貴族として活動する事も不可能に近くなってしまった。
「そしてミズカミ・スイ様。スイ様は肺に水が溜まり、それを完全に抜く事は出来ませんでした……こちらも激しい運動などを行ったり、詠唱。更には息をする度に咳き込み、呼吸自体が難しい状況になります。それによって頻繁に肺炎や喘息、その他呼吸関連の病に陥る可能性も高まっています……根本的な原因は肺ですが、今の治癒魔法では治せません……」
「あぁ……スイ……」
スイは無理矢理飲まされた水が肺に溜まったままになり、咳が酷くなったらしい。
詠唱や長い会話を行うのも難しく、これまた魔法使いとしては致命的な状態だった。
ホムラ、フウ、スイ、リク。明るい未来が待っていた実力のある四人は、今この瞬間に四宝者。それどころか上級魔法使いになる夢が絶たれた。
魔法は変わらず使えるホムラとフウには関係無いかもしれないが、それらには容姿も評価対象。故に消えない火傷と切り傷を背負った二人も例外じゃ無い。
そして皮肉にも、そうなる事で悲しむのはホムラ達の関係者や一部の者だけであり、他の貴族や王族にとっては喜ばしい事になるだろう。その分のチャンスが増えるのだから当然だ。
──そして巻き起こる悪い事はこれに留まらず、連続して発生してしまう。堕ちた貴族の優秀な存在への周りの仕打ちは散々なものとなる。
「ハッ、予想通り……せっかく持ち込めた俺の縁談もパーだ。お姫様は俺の身体能力が好きだったから、それが無くなっちゃ当然だよな」
「アハハ……私達は面会する前に破談だよ。傷物の女性になっちゃったから当たり前だよね……」
「ゴホッ……ゲホッ……私も……“いつ死ぬか分からない女は世継ぎに要らない”だって……ゴホッ」
「無理するなスイ……俺はまだ何も聞いていないけど……文字通り顔が立たなくなったからな……多分自然に終わる」
リク、フウ、スイの三人の縁談は消え去り、まだ分からぬホムラもほぼ終わりだろうと考えていた。
傷もまだまだ癒えていない。しばらくは様子見も兼ねた療養中だが、野盗の襲撃前に比べてあまり良い生活は待っていないだろう。
「治癒魔法のお陰で明日にはいつもの生活に戻れるみたいだけど……リク……スイ……」
「二人は……もう……」
「……。………………ハッハッハ! まるで俺達が死んだみたいな反応だな! 心配するなよ! 元に戻る為の努力はする! 生きてる限り、いつか必ず報われる! ホムラ達は先で待ってろよ! ま、学校とかは同じだけどな!」
「ケホッ……そうよ……大丈夫だから……」
リクとスイの後遺症は、当然ホムラ達にも聞かされている。もう治らない事は確定しているのだが、それを知った上で二人は大丈夫と告げた。
そしてその優しさがホムラとフウには辛く、何も言えなくなってしまう。
四人の関係は良好なままであるが、学校などではそうもいかない。
──婚約破棄。それはまだ、堕ちた貴族の扱いの中では序の口である。
その後にホムラ達は退院し、それからすぐに二日間だけの授業も始まろうとしていた。




