11ページ目 傷
「逃げるぞ!」
「うん!」
「上玉を逃がすかよ!」
戦っても勝てないのは明白。なのでホムラとフウは逃げの一手を打った。
野盗も逃がすつもりは無く、武器を構えてホムラ達の後を追う。
「……っ。足じゃ勝てないか……!」
そして野山を渡り歩く野盗。大人の脚力から逃げる事は難しく、すぐに追い付かれてしまった。
なのでホムラは意を決して杖を構え、魔法を放とうとするが、
「遅ェよ!」
「……ッ!」
無詠唱で放とうとしても時間は掛かる。その間に詰め寄られ、ホムラの腹部が蹴り上げられた。
同時に吐き気を催し、次の瞬間に頭を棒のような物で殴られ、一瞬意識を失う。
「ホムラ!」
「お嬢ちゃんはこっちだ!」
「ゃ、いやぁ!」
「暴れるな! チッ、ここでヤっちまうか!」
「助けて! 誰か! ホムラァ!」
同じく捕らえられたフウの衣服がナイフによって破かれ、その肌やまだ成長していない裸体が露見する。
フウは両手で隠すが藻掻くフウの両腕は捕まれて開かれ、生まれたままの姿で涙を流しながら助けを訴える。
「ケヘヘ……誰も来ねえよ……大人しく……しろ!」
「やだぁ! ホムラ! ホムラァ!」
手足をジタバタさせるが子供の力が大人に勝てる訳もなく、その貞操が──
「“ファイアボール”!」
「……!? アヅッ!? テメェ……クソガキィ!」
──傷つけられる前に、一瞬の気絶から目覚めたホムラが火球をぶつけて引き離した。
野盗は苛立ち、松明を片手に殴り掛かった。
「お返しだ!」
「……!? がァ!?」
松明の炎が顔に突き付けられ、赤い髪が燃え、皮膚が焼ける。
その痛みで涙が流れ、暴れて解くのを試みるが押さえ付けられた事で脱する事は出来なかった。
「ホムラ……ウ、“ウィンドカッター”!」
「痛ッ!? テメェ……クソ雌がァ!」
「……!?」
その光景を見やり、風魔法の刃で野盗を斬り付けた。しかし集中力も詠唱も無かったので威力は低く、逆上させてしまい、ナイフがフウの裸体を斬り付けた。
「ぁあ……!」
「優しくしてやりゃ良い気になりやがって!」
「オイオイ、俺達の楽しみを奪うなよ。傷物にしたら売れねぇし」
「だが、まだ処女だ。さっさと犯しちまおうぜ」
殺さない程度に斬り付ける。理由はまだ楽しんでいないから。
フウの顔が、胸が、腕が、手足がナイフによって傷付き、辺りには血痕が飛び散っていた。
「ぅう……グスッ……」
「ケ、ケヘヘ……大声で泣く元気も無くなったか……」
「オイオイ。死にかけだぞ、せめて一回くらいは生きている間にやらせろよ」
「わーってるよ。どうせコイツらは売り物にならねェ。さっさとメスガキの初めてを奪って殺すか」
体内の血も少なくなり、血色が悪くなる。フウは痛みで涙が流れ、血が足りず寒いのか身体を震わせていた。
「ケケッ……どうせならこのガキの前で犯してやるか……」
「ヒャヒャヒャ! 気が利くな!」
「当たり前よ! それが無数の女を抱いてきた手腕だ! 全部無理矢理だけどな!」
「フ……フウ……」
「ホムラぁ……」
野盗の一人は心底要らない気を使い、顔半分が焼け爛れたホムラをフウの前に落とし、二人は互いの名を呼ぶ。
そして野盗達は──
「──“ファイアランス”」
「「「…………!?」」」
──突如として足場から生えた火炎の槍に貫かれ、声を上げる間もなく焼失した。
「な、なんだ!?」
「一体何が……!?」
「──“ウィンドスピア”」
「「……!?」」
そして残った数人は風の槍に貫かれ、その身体がバラバラになる。
「君達にこんな醜い死体を見せる訳にはいかないな。“ファイア”」
「ったく。お優しいな」
そのバラバラ死体は空中で焼け消え、火の系統の者と風の系統の者がホムラとフウの前に立つ。
「酷い傷だ。ホムラは命には別状が無さそうだが、痛みによるショック死の危険は高い。フウは死にかけてしまっている。治せるか?」
「完治……は無理だな。傷は残る。けど、出血と痛みを止めるくらいは可能だ」
「任せた」
「ハハ、やっぱりアンタのどこまでも素直な受け答えは気持ちが良いな。“ヒール”」
「「……!」」
火の系統の者が言い、風の系統の者が二人の傷を癒した。
そして着ていた衣服をフウに着せ、二人の頭を優しく撫でる。
「良くやった。二人とも。しばらく見ない間に随分と成長したみたいだな。あの人数を相手に、よくぞ堪えていた。よくぞ生きていた。うん、兄貴分として嬉しい限りだ!」
「……! その声……その顔……!」
「貴方は……!」
傷が少し癒えた事によって耳が聞こえるようになり、目も見えるようになったホムラは、その聞き慣れた声に反応を示した。
フウもその男性の衣服を着ながら起き上がり、その顔を見やる。
「君達の成長が嬉しいよ!」
「ゴウの兄貴!」
「ゴウお兄ちゃん!」
「おわっ!? ハハ、先程まで致命傷だったのに……凄い回復力だな!」
火の系統特有のオレンジ色。暖色系の髪と目を持ち、その笑顔は頼もしく、気分を明るくしてくれる。ホムラ達の兄貴分──ヒノカミ・ゴウ。
ホムラとフウは先程の事など忘れたかのように飛び掛かり、涙を流して抱き付く。二人の力に押されたゴウは倒れた。
その一方で、青緑色の髪を持つ男性はそんな光景を見ていた。
「……ゴウ。本当に弟分妹分なんて居たんだな」
「ああ。他にも二人居る。後で紹介するよ」
笑って返し、ホムラ達の頭を撫でながらホムラ達を誇りに思うゴウが話す。
そしてその、残りの二人は。
*****
「クッ……何で逃げねェんだよ……スイ……!」
「貴方を置いて行けないじゃない! リク!」
「ハッ、美しい愛情や友情ってか? 吐き気がするな」
「地味に面倒な奴等だぜ……」
ホムラ達と同じよう、暴行を受けていた。
殴られ、蹴られ、斬られ、貫かれ、既にリクの身体はボロボロ。倒れつつもスイだけは何とか守り続けているが、それも時間の問題と言ったところだろう。
「面倒だ。さっさと殺しちまおうぜ」
「……! 杖……?」
そして、一人の茶髪の男性がボロボロの杖を取り出した。
それを見たスイは疑問符を浮かべ、茶髪の男は気持ち悪い笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ケケケ……ああ。俺様は落ちぶれ貴族って奴よ。だが、野良の方が勝手が良い。貴族じゃ精々決められた女や汚くて臭い奴隷しか抱けねェからな。好きな時に好きな女を抱けるこの身分は最高だ……!」
「貴方は最低ね……!」
「いくらでも罵れ。そんな最低野郎に犯されるってのがどんな気分か教えてやるよ!」
「させっかよ……!」
「テメェは引っ込んでろ。“ストーン”!」
「……ッ!? あがァ……!」
落ちぶれた貴族がスイに迫り、立ち上がったリクが動くが、次の瞬間に大きな岩によって足を潰された。
足は抜けず、岩と地面の間から鮮血が流れる。リクの顔を今一度蹴り、スイに臭い息を掛けた。
「ハハァ……見れば見る程可愛いじゃねェかよ。お嬢様ァ?」
「……っ。臭い! 近寄らないで! “ウォーター”!」
「……あ?」
水の初級魔法。これが短時間で出来るせめてもの抵抗。水は男の顔を濡らしたが、それはこの男の琴線に触れた。
「生意気なクソガキだな……分からせてやるよ……大人の怖さってのをな……!」
「やめて! 離して!」
スイの美しい青い髪が薄汚い手に掴まれ、近くの湖に連れられる。そしてその男はスイの頭を水の中に押し付けた。
「ガボッ……ゴボボ……!?」
「ヒャヒャヒャ! 藻掻け! 藻掻け! このままじゃ溺死すっぞ? 身体を触られても反応出来ねぇよなぁ? って、水の中じゃ聞こえねえか」
「……!」
大量の水が口に入り、肺と胃を圧迫する。
その間に男は胸を揉み、尻を触り、まだ成長途中の身体をまさぐる。自分を侮辱した者に報復しつつ、自分自身が楽しむのもやめない。まさしく元貴族と言ったやり方だった。
「ほら、空気を吸わせてやるよ」
「……ハッ……」
「なんてな」
「……!?」
そして一瞬だけ引き上げ、息を吸うタイミングで再び沈める。それによってスイは噎せ、水の中で咳き込み更に水を飲んでしまった。
「オイオイ、俺達が楽しむ前に殺さないでくださいよ?」
「死体でも多少は満足出来るが、やっぱり生きた女の方が気持ちいいからな」
「ハッハ、分かってる分かってる。そろそろ頃合いだろ」
「……ゴホッ……ガホッ……」
再びスイを引き上げ、眼鏡も外れ、そのまま肺の水を吐く為に咳き込む。
他の事には気が回らないくらいの咳が起き、その間に男はスイの衣服を破り捨てた。
「へっへ……やっぱり貴族の身体は平民より綺麗だな……ここから男を教えてやるぜ……」
「ゴホッ……や……ゲホッ……め……」
涙が流れ、言葉を話そうとする度に咳が出て何も言えない。
その男はスイの胸を揉み、グッと迫った。
「女の子をいじめるのは……納得出来ないかな? “フォール”」
「……!?」
次の瞬間、女性の声と共に無数の岩が降り注ぎ広範囲を押し潰した。
スイの近くに居た男と数人は助かり、落ちぶれた貴族以外の者達は顔に水球が覆い被さり、窒息する。
「“ウォーターボール”。……やれやれ、土属性って言うのは、いつもいつも派手、かつ馬鹿みたいに突っ込むね」
「そう言う水属性はいつも冷静に対処しているな。熱くならないのか?」
「正直言って腹立たしいけど……怒っても意味がない。僕は僕なりに淡々と立ち回るよ」
「「「…………」」」
窒息した水死体を解放し、そのまま放置。岩によって潰れた死体もあるが、一先ず置いておく。
落ちぶれた貴族の男はその者達を睨み付けた。
「テメェらは……四宝者……!」
「バカ、まだ候補だよ。候補。しかも私は女性初だ。……しかし、その為の授業もままならないから、この年齢になってもまだ処女。まだ嫁にも行けない可愛そうな美人お姉様だ。“ランドスピア”」
「……!?」
睨み付けられたが気にせず、茶髪の女性は落ちぶれた男の頭に鋭利な岩を突き刺して仕留める。
スイを救い上げ、リクの大岩を水で浮かした青い髪の男性は今までに直面したどの問題よりも大きな問題を前に疑問符を浮かべていた。
「美人お姉様……?」
「なんだ? 違うってのか?」
「いや……そう言う訳じゃ無いんだ……多分」
「テメェ……クールに振る舞っているけど相変わらずいけすかない奴だねぇ」
大きな胸を青髪の男性に押し付け、苛立ちを見せて拳で頭をグリグリと撫でる?
二人はリクとスイの介抱をし、茶髪の女性がスイに自分の衣服を着せた。
「悪いね。今は持ち合わせが無いんだ。後で良い服をプレゼントしてやるよ」
「いや、僕が渡すから君は着ていてくれよ。ほぼ全裸じゃないか」
「ハッ、下半身には着ているだろう? 女はそれで十分だ」
「女性ならもう少し品を保ってくれ。“ヒーリング”」
女性はノーブラ。トップレスの状態でスイの頭を撫で、青髪の男性に注意される。
そんなやり取りをしつつ、青い髪の男性は手際よく傷を癒していた。
「……っ」
「……? なんだか神妙な顔付きだな……なにか問題が?」
「ああ、そうだね。命に別状は無い……けど、それ以外が問題だ……」
「……なにっ?」
リクとスイの治療を行う青髪の男性は、あまり良い表情をしていなかった。
それについて依然トップレスのままである女性も訊ね、男性が頷いて返す。そこに物音が聞こえてきた。
「……やあ、君達も来たか」
「ああ。やっぱりリクとスイも酷い状態みたいだな」
そこを振り向くと、ホムラとフウを抱えたゴウが立っていた。その後に青緑の髪を持つ風の系統である男性も続く。
ゴウを含めた四人を見やり、顔半分が焼け落ちただけで比較的軽傷なホムラは小首を傾げて訊ねた。
「アニキ……この人達は? この風のお兄さんも結局説明は無いままだけど……」
内容はこの者達について。
ゴウは優しくホムラとフウをリク、スイの近くに寝かせ、言葉を発する。
「彼らは俺と同じ“四宝者”候補生だ。……そうだな……関係で言えば君達四人に近い。幼馴染ではないけど、系統の問題も無く素直に付き合える友人達だ」
「へえ……。四宝者の……流石の強さだね」
他の三人について説明をする。
火の四宝者候補であるゴウと友人関係にあるようだ。
基本的に腐っている貴族だが、前にも述べたように四宝者は人格者。そうでなくては候補にすら選定されない。
その実力も凄まじく、まず間違いなくこの街で十本の指に入る実力者だろう。
「自己紹介が遅れたね。少年。私はアキツチ・メグミ。土の系統を司る候補だ」
「君達四人の事はゴウから聞いているよ。他の三人は傷が酷くて意識が無いままだね……いや、ホムラ君。君の生命エネルギーが高いのか。顔半分を覆う火傷を負ってそれだからね。流石──」
「オイ、カイ。長々と語る前に自己紹介しておけよ」
「やれやれ……君が言っちゃったじゃないか。申し遅れたね。僕はフユミ・カイ。水の系統を司る四宝者候補だ」
「そして風のお兄さんこと私だね。私はハルノ・ソラ。系統の部分を風の系統にだけ直して、他の二人と以下同文かな」
名を、アキツチ・メグミ。フユミ・カイ。ハルノ・ソラ。
全員真名ではないが、それが基本的な名前のようである。そしてそんな中メグミは四人の事を気に掛けていた。
「しかし、こんな子供達に酷い奴等だ。安心しな。私の養子……もしくは夫にしてやるから将来は──」
「待てメグミ。たまたま此処に彼らが居るだけで多分両親諸々は無事な筈だ。死者は出たが、基本的に外側の街だけ……中心街の野盗は全滅したと報告もあった」
メグミはトップレスのまま四人を抱き抱え、涙ながらに面倒を見ると告げたが、カイによって阻止される。
ホムラ達が中心街育ちなのはゴウにも聞いているので報告と合わせて“無事”であると判断したようだ。
「そもそも、土の少年……リク君はともかく、ホムラ君と結婚は出来ないだろうに。系統からして。……そもそもそもそも、彼らは年齢的に考えて既に婚約者が居る筈だ。そも、君も四宝者になるか落第すれば後々は旦那をだね。四宝者候補で婚約者が居ないのは特例扱いだし」
「そもそもそもそも喧しい! 愛には婚約者の有無も系統の壁も関係無い!」
「系統の壁と愛は否定しないけど、婚約者から奪うのは駄目だろう」
メグミの暴論に呆れ、カイは青い髪を掻く。
そしてメグミはホムラ達をちゃんと優しく寝かし、ゴウ、ソラ、カイ、メグミの四人が互いに顔を見やった。
「一先ずご両親達に報告。医術師にも見せよう」
「そうだな。カイとソラが応急処置は施したが、専門家の方が確実だ」
「安心してくれ。君達。この世界には悪徳医術師の方が多いけど、四宝者関係の医者に見せる。大丈夫だ」
「道中も私達が付く。君達は安心して休むんだ」
ゴウ、メグミ、カイ、ソラの四人がその順で話す。
どうやら信頼出来る医術師に見せてくれるらしく、これで安心は出来るかもしれない。
貴族の街に攻め入って来た、謎の野盗。結局ホムラ達は何の情報も掴めず、消えない傷を残して騒動が終わりを迎えるのだった。




