112ページ目 世界の期限
「さて、今の騒ぎで増援が駆け付けるかな」
「それはないよ。仮に天使達がそのつもりになっても神様がわざわざ戦力を割く訳が無いからね」
崩壊した空間。屋根も部屋も吹き飛んで野晒しとなったホムラ達。大きな音や今の状況から増援が来るかもと懸念したが、大天使エハヴエル曰く神様がその様な行動に出る事は無いと言う。
正直者であるエハヴエル。信憑性は高い。それとは別にホムラは四人の方に視線を向けた。
「……で、何で俺側とセイカ側に分かれてフウ達が居るんだ?」
「私も幼馴染としてホムラを説得したいから……!」
「私は成り行き。と言うか、“フウ達”って。私はホムラ側なんだから私を主体にしてよ~」
「ボクはホムラと一緒に居たいから!」
「私は余ったから……」
ホムラとセイカはちょっとした痴話喧嘩……夫婦喧嘩をしていた。
それにつき、フウ達とトキ達が各々で別れている事を気にする。
別に肩入れや横槍などはどうでもいい事なのだが、大切な仲間なので何となく気になったのだろう。
彼女達の返答を聞き、ホムラは改めて見やる。
「……そうだな。フウやサチとは戦った事がない。良い機会だ。俺が皆を護るけど、その上でどれくらいの感覚で護れば良いのか。此処で確かめるとするよ」
「私も……闇魔法の力と光魔法の力……世界を救うとされる二つを目の当たりにしたい……」
トキとはちょっとした小競り合い。ゼッちゃんとは本格的な戦闘。形はどうあれ、戦った事がある二人。
なのでこれを機にフウとサチ。そして何よりセイカの今の実力を改めてみる事にした。
「傷は付けたくない。けど、俺が俺の力を理解し、皆を護れるか。俺の存在価値があるか。俺の覚悟が本当に決まっているのか……判断する……!」
闇を展開。狭い空間ではなくなったので広く使う。さながら夜のような暗さとなった。
標的は小さいので魔力の無駄使用だが、魔力を多く使う事でより洗練される。今後の為にも必要な事である。
「闇を止める」
「……!」
そして、夜と思しき範囲の闇が無効化された。
数十キロに広がった闇を一瞬にして消し去るサチの力。流石の能力である。
「消されたか。まあ、関係無いけど」
「やっぱり大きい……」
あくまで表側に出てきた闇を無効化しただけ。故に体内の魔力から新たな闇魔法を生み出せば問題無い。
今のホムラは高揚感に包まれている。それが闇魔法と共鳴し、魔力の総量も増えた。それもあって後から生み出す事が可能だった。
「悪いな。サチ」
「大丈夫。打ち消せる……!」
膨大な魔力からなる闇が迫り、サチが先程無効化した闇で相殺した。が、その闇同士は打ち消さず、ホムラの闇がサチの闇を飲み込んだ。
「駄目だった」
「闇魔法の場合、より魔力と精度が高い方が勝つみたいだな。勉強になったよ」
闇が闇を飲み込み、ホムラの魔力器官に戻る。
他の魔法と違い、サチの力でも一時的に消せるだけで完全に無効化は出来ないようだ。
「ホムラ様……すみません!」
「じゃあボクも!」
「ゼッちゃん!?」
次いでセイカが覚えたての光魔法を使い、ホムラ達にビームのような物を撃ち出す。まだ使い方が分からないので単純な魔力の放出くらいしか出来ないのだろう。
それを見たゼッちゃんが零れた光の欠片に触れて模倣。
どうやら何かしらの方法で相手の力に干渉するのが模倣の条件のようである。
光魔法同士はぶつかり合い、弾けるように目映く消え去った。
「此方は相殺されてしまいましたね……」
「俺の闇魔法をコピーした時も普通に互角だったからな。やっぱり味方だとかなり頼もしいよ」
サチの無効化とは別に、我が物とするゼッちゃんの模倣。それは出力なども殆ど同じ。そもそもゼッちゃんの魔力が素でホムラやセイカより高いので可能としているのだろう。
無敵にも近い力だが、闇魔法がそうだったように、おそらく制限時間付き。加えてデメリットがあるかもしれない。
「ホムラ。やっぱり戦いは良くないよ。セイカも。ボクは今まで酷い事をしていたね。この力を、今度からは困っている人達を助ける為に使いたい!」
「「ぜ、ゼッちゃん……?」」
ホムラとセイカの言葉がハモった。
闇魔法を使用した時は高揚感に溢れて暴走し、光魔法は争う気持ちを完全に無くさせるようである。
本来なら良い事だが、ゼッちゃんにとっての光魔法は実戦向きではないらしい。
「まあ、時間が来れば戻るか。それと、ゼッちゃんは俺の味方なんだよな。嘘なんか吐かないだろ?」
「……っ。う、うん。約束は絶対に守らなきゃダメだもんね。分かったよホムラ。ボクも……嫌だけど……戦う……」
「いや、そうじゃない。そして無理はするな。俺が護るって何度も言っている。ゼッちゃんは別に戦う必要も無い」
「ホムラ……」
元々独りで全てを終わらせるつもりだったホムラ。なので互いの戦力は……いや、互いに集ったフウ達とトキ達がそもそも不測の事態である。
それもあってホムラへの荷担はあまり関係が無く、ゼッちゃんは少し悲しそうな顔をする。優しいのもあるが、本人の意思は変わらないので心から寂しいと想っているのだろう。
「次は私達の番だね! 私だって混血なんだから、色々出来るよ!」
「これって誰が仕掛けるとかの順番ってあったっけ……?」
「さあね!」
「相変わらず神出鬼没……」
トキが駆け出し、フウが質問。次の瞬間には背後に回り込まれており、フウは全方位に風を放出してトキの身体を吹き飛ばした。
「範囲が広い風魔法は厄介だね……!」
「逆に風で良かったんじゃないかな? 火とかだと触れるだけで火傷しちゃうし」
「一理あるね」
トキは時間を止めている間、他者に干渉する事が出来ない。なのでそれを知っているのなら色々と対処法もある。
全方位に魔法で壁を作るのがその一つ。繊細な魔力操作なども要らないので初級魔法使いにも出来る簡単な事だ。
「今のところ、互いに拮抗しているな」
「その様ですね……」
一連のやり取りを経、互いにほぼ無傷。ゼッちゃんはある意味で行動不能だが、今のところ進展しそうにはなかった。
一旦光を収め、セイカは改めてホムラの方を見て話す。
「ホムラ様。正直言って、今戦っている意味が分かりません。私はあくまで話し合いの指揮を執る為に名乗り出ましたので」
「セイカも既に仕掛けているだろ。その時点でその理論は破錠している」
「ついカッとなってしまいました。ホムラ様が分からず屋なので」
「それはこっちのセリフだ。俺はセイカを助ける為に大天使、エハヴエルを殺すつもりだからな。甘さがあると失うモノが多くなる。俺はもう何も失いたくない」
「それは私も同じです……! ホムラ様も皆様も、誰も失いたくありません!」
「だったら邪魔をするな……!」
「いえ、失わない為に邪魔をするのです!」
互いに互いを失わぬよう、互いに互いを止める。
矛盾しているようで本筋通り、何もおかしなところはない。本人達がそうであったように、この世界では力がなければ全てを失う。だからこそ相応の覚悟が必要。
それを踏まえた上でセイカは戦う理由が分からなくなっていた。
「ホムラ様。ホムラ様が戦う理由は私の為ですよね。それならば私の口から言わせてください。私は天界で何もされていません。大丈夫です。安心してください。戦いを止めるのなら……──私は地上に戻ります……!」
「「……!」」
少し間を置き、地上に戻ると告げた。
それが意味する事は、世界の命運を全て投げ出すというもの。ホムラとエハヴエルは反応を示し、何かしらの質問をされるよりも前にセイカは視線を向けて口を開いた。
「エハヴエル様。私はホムラ様ととある約束をしております。ですので、おそらく後数十……いえ、数年もすれば私は天界に留まる事が出来ます」
「……?」
ホムラとの約束。皆までは言わない。それを知らない者達も居るからだ。余計な心配を掛けてしまう事だろう。
しかしその約束があるからこそ、ホムラの方がセイカよりも先に死ぬのは確定している。故にセイカだけが天界に残る事も何年後かは可能である。
それについて改めて訊ねた。
「エハヴエル様。後何年世界は保てますか? その時間次第なら私が神様になっても構いません」
「セイカ様……」
問題は後何年世界が無事か。
詳細は何も分からない。何故世界か危ういのかすらも不明である。
だが、だからこそチャンスもあると考えたのだ。
その真剣な眼差しを見やり、エハヴエルは話した。
「……十年から無限年。ピンキリだよ。セイカ様。具体的には決まっていない」
「無限……? いえ、という事は最低でも九年は世界が滅びないのですね」
「そうだね。それは確か。間違いない。……これは機密事項なんだけど、天界にはこれから先何が起こるか記された書記があるの。今から九年目の最後まで何があるか書かれているんだけど、その先は白紙。単純に考えて世界が滅びるって結論に至るでしょ?」
「な、成る程……?」
世界が滅びるまで凡そ九年以上。
天界の書記が何なのかはともかく、明確に滅びると書かれていないのに推測で考えるのはどうかと思うが、不安になるのも分かる問題だった。
「けどそれって、私が神様になる事と関係あるんですか?」
「あると思うよ。前任神様が弱り始めた時に白紙になっちゃったからね。私は立場的に神様の仕事を詳しくは分からないけど、多分神様がこの先何が起こるか書き記していたんだと思う。それは神様の妄想とかじゃなくて、光魔法からなる未来視で見た未来とかかな」
「神様になると未来が見えるようになるんですか……」
「多分ね。前の神様も、下らない事とかを予言して遊んでいたもん。楽しかったよ」
「アハハ……」
前の、主神とは違う神はお茶目な性格だったらしい。
それを思い出してエハヴエルは寂しそうに小さく笑い、未来視を下らない事に使っていた事実にセイカも苦笑を浮かべる。
そしてホムラの方を見やった。
「……という事です。ホムラ様。私はちゃんと帰ります。ですので……どうか天界を滅ぼす方針は変えてください……」
「…………」
頭を下げ、ホムラに頼むセイカ。
連れ帰るというホムラの目的は達成された。魔力も結果的に上がっている。
個人的に思うところはあるが、闇魔法を収めた。
「……そうか、分かった。セイカが戻って来るならそれ以上は望まない。まだ足りないけど、憂さも少しは晴らせたからな」
「あれでまだ足りないのホムラ君……。痛みは感じるから辛いんだよ……」
確実に強くはなった。セイカも戻って来た。セイカを連れ去った分の報いも、再生はしたが与えた。
故にもうやる事は無い。ホムラ達は地上に帰る事にした。
「帰るぞ。仲間同士の……模擬戦もこれくらいで良い。一撃ずつ攻防したからな」
「は、はい! ホムラ様!」
「うん。ふふ、前のホムラに少し戻ったかも」
「結局私風で吹き飛ばされただけ?」
「もう戦わないんだね! 良かったぁ!」
「ゼッちゃんはそのまま……」
歩み、メランとサタトロスの近くへ行く。帰るには“星の裏側”を経由する必要があるからだ。
「今回もまだ魔王様誕生の瞬間は見れませんでしたか……」
「わざわざやって来た意味は……フム、あったな。片鱗を見れただけで上々だ」
一番の問題は魔王を望むこの二人だが、長い事魔王を待ち続けたのもあって忍耐力は高い。すんなりと受け入れてくれたようだ。
帰る為に動き出した瞬間、ホムラは天を見上げて一つ質問をした。
「──……それで、大天使エハヴエル様。これは一体どういう事だ?」
「さ、さあ……何もしないように指示していたんだけど……」
「「「…………」」」
「「「…………」」」
「「「…………」」」
──崩壊した建物の周りを囲む、無数の天使達。
見て聞く限り、エハヴエルにも分からない様子。嘘ならこの場で斬首していたが、そうじゃないなら目の前の対処だけを考える。
「思い当たる節は?」
「……多分、神様。前任じゃなくて主神の方……」
「成る程な」
確証はない様子だが、思い当たる節。心当たりはある。
そう、それは──真の神様。
目的が不明だとしても、そうであるのは間違いないだろう。
「コイツら全員、“敵”だな」
「現主の私にも敵意向けてるからね……。敵だった私が頼むのも自分勝手だけど……なるべく命は奪わないで……」
「……。検討してみる」
一つだけ分かるのは、この者達が敵であるという事だけ。大天使にして今の天使達を率いるエハヴエルですら敵対されているのでそれだけは確実。
ホムラ達の戦闘は終わったが、また別の戦いが始まろうとしてた。




