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10ページ目 野盗

「……。何か街の方が騒がしいな……」

「うん……何だろう……」


 貴族と野盗の争いが街で繰り広げられる中、森の奥地にていつものように切り株に集まっていたホムラ達もその異変を感じ取った。

 此処は森の奥地。だからこそ街の喧騒など本来は聞こえないのだが、それが此処まで届いている。不自然なのは火を見るよりも明らかだろう。


「ただ事じゃねえのは確かみたいだな……」

「見に行ってみる?」

「危険じゃないかな……」

「普段じゃあり得ない騒がしさだからな……」


 今回の騒がしさは少し異常。貴族間の喧嘩も無い訳ではないが、あまりメリットも無いので喧嘩する貴族は少ない。

 気にはなるが危険なのは百も承知。ホムラ達は少し考える。


「それなら、物影から窺うように行動するか。何かあったらすぐに此処に戻ってくる。此処は郊外だから何かしらの問題があっても時間は稼げるしな」


「それが良さそうね。尋常じゃない喧騒……本当にその現場を見て、それから今起こっているかもしれない事態に対応しましょう」


 ホムラとスイの言葉にその二人を含めた四人が頷く。

 今起きているであろう問題は、その喧騒だけで大事なのが理解出来る。なのでホムラ達は必要以上は踏み込まず、状況確認を終えた後で行動する事にした。

 そうと決まれば行動は迅速。森の中を駆け、気配を消し、静かに街へと入った。


「……っ。何だよ……これ……」

「酷い……」

「戦争か……?」

「いいえ……戦争にしては逆に被害が少ない。考えられる線は山賊か野盗か、ならず者達が攻め込んで来た……ってところかしら」


 ホムラ達の視界に映った光景は、倒壊した建物。流れる血。貴族や小汚ない人間の死体。

 一瞬は戦争と疑うが、被害状況からしてそれ程に大きな争いではないのが分かる。スイが言うようにならず者達が攻め入って来たようだ。


「……っ。母さん達は無事か……?」


「争いが始まった時間を逆算すれば野盗の行動も分かる……まだこの近辺だけの争いみたいね……」


 家族の安否を気に掛けるホムラに、スイが野盗の行動を読んでまだ無事な筈と告げた。

 森の奥地から街の出入口付近までは十五分程。確かにまだ中心街より向こうには攻められていない事だろう。


「なんだ? 貴族のガキか」

「殺すか?」

「「……! 危ない(ねえ)!」」

「「……!」」


 街の様子を見ていた時、背後から声が掛かってホムラとリクがフウとスイを押し倒し、突き付けられた槍をかわした。

 目の前に立っているのは二人。押し倒したホムラとフウ。リクとスイに分断される。


「お、ただのガキかと思ったら……二人は美少女じゃねェか!」


「ハッ、良いな。二人の男は彼氏か何かか? まだ物も知らねェ年齢みてェだし、彼氏二人の目の前でメスガキ共をヤっちまって性教育してやるか!」


「良いなそれ! アヒャヒャヒャヒャ!」


「「…………」」

「「…………」」


 この者達がどんな人物か、言動だけで分かった。知能面が極端に低く、どうしようもない存在という事が。

 しかし幸い、子供だと油断している様子。それならば意表を突いて逃れる事も出来るだろう。


「「…………」」

「「…………」」


 ホムラ達はこの男二人に気付かれない範囲で目配せをし、コクリと頷く。

 同時に杖を握り締め、無詠唱で構えた。


「お? 魔法も使えんのか?」

「ハッヒャッヒャッ! 良いぜ。やってみなよ」


 油断しかしていない、隙だらけの二人。これはホムラ達が思った以上に楽に逃げられそうである。


「“ファイアボール”!」

「“ランドボール”!」


「「……!? グワァァァ!?」」


 火球と土塊が二人の顔に直撃し、仰け反るように倒れて藻掻く。

 まだまだ威力は低いが、怯ませるには十分な威力だった。


「行くぞ、フウ!」

「うん! ホムラ!」


「来い、スイ!」

「ええ、分かったわ。リク!」


 二人は二人の手を引き、別々の方向へと逃げる。

 怯ませたのは一瞬だけ。なのでまたすぐに追ってくると考え、一番近い方向に逃げて後で鉢合う魂胆である。


「リク! スイ! あの場所で鉢合うぞ!」

「ああ! ホムラ! フウ! 気を付けろ!」


 あの男二人には分からない範囲で告げ、ホムラとフウ。リクとスイは逃亡する。これ程攻められていたが森の奥地には誰も来ていない。それならあの場所はまだ安全という事だ。

 ホムラ達四人。一時的にその四人はバラバラに行動を開始した。



*****



「はぁ……はぁ……撒いたかな……?」


「はぁ……多分な。後は他の野盗に見つからないようにあの場所に向かえば良いだけだな」


 怯ませてから逃げたホムラとフウは他の野盗の居ない物影に隠れ、周りの様子を窺っていた。

 至るところで戦闘が巻き起こっているが、幸いまだホムラとフウ、リクとスイは完全には巻き込まれていない。屋敷の方は飛び火する可能性もあるが、中心街の貴族達なら並大抵の軍隊ですら容易く撃退出来るだろう。

 なので当初の目的通り、いつもの森へ行く為に周囲に注意して進む。


「しかし、何で野盗が攻め入って来たんだ? この街の警備は王宮にも匹敵する程。それ以前に部外者が街に本来は入って来れない筈なのに……」


「さあ……。入って来た以上、何かの理由はあるんだろうけど……」


 走りながら話、野盗がどうやって街に攻め込んだのかを推測するが、結論には辿り着かなかった。

 しかし今の問題は入って来た理由よりも入って来た者達をどうやって対処するか。話し合い程度で解決法が思い付くとは思えないが、既に死者も出ている。何もせずに待つよりはマシだろう。


「……っ。ここから先は野盗がたむろしているな……」


「隠れながら進んだとしても見つかっちゃうかもね……歴戦の戦士とかなら突破出来ると思うけど……」


「魔法を使えても範囲魔法は使えない……精々数メートルから数十メートルの火球が関の山だ……」


「私もそのくらいの風が精一杯かな……」


 ホムラとフウ。二人は中級魔法は使えるようになっているが、目の前に集う野盗はそれだけじゃ全員は倒せないだろう。

 貴族の街に攻め込んで来た割には魔法対策の防具なども付けていない生身の人間。なので全員、一人ずつなら一撃で倒せるが、詠唱ありでも無詠唱でも、魔法を放つまでの時間を考えて全員をまとめて一発で倒す必要がある。

 そのクラスとなると上級魔法。と言っても上級魔法の中の最低限で良いが、それくらいは使えなくてはならない。


「「……あ」」


 そして、二人は思い付いたように互いの顔を見合った。

 威力の低い魔法。その威力を高める方法は、幼少期の時既に教えて貰っている。


「やるぞ、フウ……!」

「うん、ホムラ……!」


 事は急ぐべき。なので二人は魔力を込め、杖を構えた。

 まだ見つかっていない。野盗達は自分の話に夢中。今なら詠唱を交えた、より威力の高い魔法も使えるだろう。


「火の精霊よ……」

「風の精霊よ……」


「「汝我に力を与え」」


「「二つを融合せよ……!」」


 魔法の融合。幼少期よりホムラ達は兄貴分にその方法を教えて貰っており、その練習も実はこっそりとおこなっていた。

 だからこそ、中級魔法を上級魔法に匹敵するまで高める事も可能である。


「“ファイアキャノン”!」

「“スワールウィンド”!」


「あ? なんだ?」

「太陽……?」


 中級魔法による火球が渦巻く風に覆われ、より強く燃え広がる。

 野盗達はそちらを見て呆気に取られ、次の瞬間に火球が直撃し、その肉体が蒸発した。


「……っ。ありがとう。フウ……」

「……っ。うん、ホムラ……」


 その光景を見、二人は嘔吐えずく。

 この世界では、貴族同士の殺し合いは戦争以外で禁止されている。だが、貴族以下の地位に居る者を貴族が殺めても罪に問われない。そんなに牢もキリも無いからだ。

 貴族にとっては異端だとしても、平民にとって常識的な貴族なら通る道をさえぎっただけで殺したりなどしないが、人の殺し方は学校や家庭教師に教わっている。


 だからこそ二人は野盗を殺めたが、基本的には平和に暮らしていた二人が人を殺した事はない。

 巨大な火球によって野盗が蒸発する寸前、何も知らない野盗は仰け反るように燃え上がり、肉体が消えた。その場に残ったのは焼け焦げた痕のみ。

 火の系統ならいずれ多くのそんな死に様を見る事になるが、まだ13のホムラとフウにとってその様な死に方をする光景は見慣れていなかった。


「何か激しい光があったぞ……!?」

「こっちか!?」


「……っ。行くか……」

「うん……」


 あれ程の火球。遠方の野盗にも届く。

 なので感傷に浸る事も、自責の念に囚われる暇も無く、先を行く。

 二人も気付かないうちに、二人は互いの手を握っていた。


「おやぁ? どこに行こうとしているんだい? お坊ちゃんとお嬢ちゃん」


「……っ」

「そんな……!」


 そして再び駆け出した森の中、片手に松明を持った野盗の一人がホムラとフウの前に立ちはだかった。

 此処はホムラ達以外に誰も知らない秘密の場所。野盗が来れる筈もなかった。

 しかし、考えてみれば森に逃げた者も居るかもしれないと、知性に欠けた低脳な野盗でも気付くだろう。


「ウェレヒヒヒ……」

「美人じゃねぇかよぉ」

「まだガキだぜ?」

「ガキのうちから教育するのがいいんだよ」

「ガキは大人よりも泣くからな……良い声なんだまたアレが」

「分かるぜ。ヤった後もギャンギャン泣いてウザイから売る前に殺しちまうけどな」

「ガキは腐る程居るんだ。俺達が何人か殺した所で商売に影響はねぇよ」

「ま、俺達が生かしても結局売るから数は減るんだけどな!」

「違ぇねえ! しかも売る前に俺達が使うから中古品確定だ! 金持ちのようなゴミ共に新品は行き渡らねェ! ギャハハハハハ!」

「「「ギャハハハハハハハハハ!!」」」


「「……っ!」」


 そして、この様な輩は群れなきゃ行動出来ない。

 一人見たら周りに仲間が何十人も居るのが普通だろう。


「マズイな……」

「うん……」


 一人、二人なら何とかなるが、この数が相手では手強いどころの話ではない。四面楚歌。ホムラとフウにもはや手立ては無かった。



*****



「チッ……こんなに潜んでやがったのか……」

「これじゃ、奥に行けないわね……」


「ケヒヒヒヒヒヒ……」

「ウシャシャシャシャ……」

「オヒョヒョヒョヒョ……」


 ホムラとフウの一方で、リクとスイの二人も野盗に囲まれていた。

 ホムラ達と同等、街を掻い潜って森の方まで来たは良いが、待ち伏せに合う。これでは是非も無し。


「青髪の嬢ちゃん良いな……」

「ククク……世間知らずのお嬢様って感じだぁ……」

「まだ処女だろうぜ……」

「俺が穢してやるよ」


「気持ち悪い……」

「イカれてんな……コイツら、中毒性植物やってるかもな……」

「平民間では娯楽の一種らしいものね……脳の釘が外れているみたい……」


 野盗の群れが下衆な笑いを浮かべ、二人は冷や汗を掻きながら構える。

 まだ生身でもそれなりに戦えるリクが居るので詠唱などの時間は短縮出来るが、純粋に数が多いのでその分の苦労は計り知れない。


「どうする? リク……」

「狙いはスイ。お前みたいだ。お前が逃げる時間くらいは稼ぐ……」

「リク……」


 不安そうな面持ちでリクを見やり、リクは一先ずスイを逃がす方面で考えていた。

 捕まれば凌辱されるのが目に見えている。だったら捕まる訳にはいかない。

 ホムラとフウ。リクとスイ。四人はとんでもない事態に巻き込まれてしまった。

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