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108ページ目 神の社

 ──“次の日”。


 昨晩もいつものように過ごしたホムラ達は天界を更に進んでいた。

 既に行動を開始してから2~3時間は経過しており、新たな街に着く。

 全体的に白い天界。黒くて目立つ闇魔法が使えないので時間は掛かる。


「此処も無し……やっぱり民家に紛れているのか?」


「どうだろうね」


 そこで寄った街にもそれっぽい建造物が無かった。

 道行く人々に聞くのも良いが、王宮があるのが天界の常識だった場合は不審な目で見られる可能性がある。なので一目で無いと確認したらすぐに立ち去るのが今のやり方だ。


「おや? 何かお探しですか?」

「……っ」


 そして、天界の人々は基本的に親切。民度も良く地上とは比べ物にならない。

 完全なる善意から訊ねてくる者だけであり、そのたびに断っていた。

 今回もやんわりと断るつもりだが、


「困っているならこの先の街に居らっしゃる神様に聞いてみると良いですよ。全知全能。本当に何でも知っていますからね」


「……!」


 思わぬ情報が入った。

 それは目的地を指し示す証言。この街から近い所にあるらしい。

 それはかなり有益なモノ。セイカを連れ戻すのは決定事項なので“今の”悩みは全て解決出来るだろう。


「ええ、ありがとうございます」


「いいえ。人として困っている方を助けるのは当然ですから。主様……いえ、大天使様の教えです」


「そうですね」


 “そうですね”と返したが、そんな教えは知らない。しかし天界では常識らしいのでそれに合わせたのだ。

 そして“主様”という言葉。どうやら“大天使”はそう呼ばれていたらしい。


「それにしても、見ない顔ですね。アナタは何処の街から来ましたか?」


「あちらの方です。少し遠出してみようと考えましてね」


「成る程。湖のある方面ですね。私もたまにピクニックに行きますよ。その近くの街なら美味しい果実が有名ですよね。大天使様もたまに買いに行く程のお店で、良い水辺があるから良い果実が育つのでしょう」


「ええ、よくご存知で。それでは先を急いでおりますので」


「お気をつけて」


 事情は何も知らない。なので嬉々として話すこの人には悪いが、話すとボロが出てしまう為軽く会釈して切り上げ、ホムラ達はこの先にある街へと向かった。

 しかし割と雑に切り捨てても嫌な顔一つせずに笑顔で返してくれる。やはり天界で滅ぼすのは一部だけにしようと言う気概が少し強まった。



*****



 ──“天界の街”。


「成る程。確かに神とか居そうだな」

「アハハ……神とか居そうって……確かにそうかもだけど」


 ホムラ達が辿り着いた街に言える事はただ一つ。神が居そうな街だった。

 大理石からなる柱が連なっており、道は白亜の煉瓦レンガからなる歩廊。そこには背丈の低い草花が綺麗に並んでいる。

 人が住んで居そうな建物は少なく、人通りも殆ど無い。この場から少し遠くに見える、完全に切り離れた空間の神殿が神や大天使の居る場所だろう。

 ホムラ達はその歩廊を行き、堂々と正門から入った。


「何か御用でしょうか?」

「ええ、大天使様にお会いしたくて」

「そうですか。何かお困り事でも?」


 見張りと思しき天使が訊ね、正直に話す。

 数言交わしたが、少なくともこの天使はホムラ達の事を知らない様子。それならばと更に続ける。


「はい。かなり困っていて、大天使か神様にしか解決出来ないのです」

「ふむ、それはとても大変な事ですね。連絡してみますか?」

「いえ、直接会えば分かると思います。俺……いや、私と大天使様は顔見知りですので」

「成る程。では、御呼びしますね」


 普通に信じてくれた。

 これで御呼びされるのが兵士の可能性もあるが、誰が来ても話は進む。

 なのでホムラ達は待機し、ボーッとする。


「どう思う? ホムラ」

「意外にも全く怪しくないな。本当に、基本的に天使は親切みたいだ」

「そうだよね。普通に優しい……やっぱりセイカ様をさらった時は向こうも焦っていたからなのかな?」

「かもな」


 基本的に他人を信用してはいけない世界だが、天界では怪しい素振りが何もない。

 地上に来た天使のように人間を見下している者も居るだろうが、人間と接する機会が多い見張りの天使はこの様な感じなのかもしれない。


 ──ホムラ達が待つ中、見張りの天使は優雅にハープを弾く大天使の前に来た。


「…………」


 ポロン。ポロロン……と静かな旋律が奏でられる。美しいリズムと噴水の音が合わさり、それも含めた一つの曲のよう。

 目を閉じて弾き、日の光と水飛沫に照らされる綺麗な白い髪の毛が透き通り、微風が抜けた。

 大天使はそちらに視線を向け、天使は用件を申した。


「大天使様。貴女の顔見知りと仰る方々が御見えになっております」

「私と顔見知り? ……その顔付きは?」


「ローブで身を包んでおり、よくは分かりませんでしたが、顔半分に火傷のような痕が。かなり辛い思いをし、ローブで隠しているのかもしれません」


「…………。……成る程ね」

「……?」

「なんでもないよ。ありがとう。私が対応するからお連れして」

「かしこまりました」


 その特徴を聞き、納得した様子の大天使はホムラ達を連れて来るように言う。

 見張りの天使は頭を下げ、ホムラ達の元に向かった。


「お許しが出ました。どうぞ着いてきて下さい」

「分かりました」


 天使が報告をし、ホムラ達も素直に着いて行く。

 向かう途中目に映る景色は美しく、まさに楽園のよう。

 基本的な材質は純白の大理石。渡り廊下を行く途中には花畑や湖。自然の物も多く顕在する。しかしながらこの廊下自体が湖の上に浮かんでおり、それにも関わらず踏み込んでも揺れない。何とも不思議な感覚だ。

 ゼッちゃんも楽しそうにキョロキョロしており、何処かに行かぬようフウは抑えていた。

 門が開いて貴賓室のような部屋に着き、天使は会釈して退散。ポロロンとスラッと伸びた白く細い指でまた旋律を奏でている大天使がそこに居た。


「この曲、知ってる? 戦争の悲惨さとその歴史を紡ぐ旋律。悲しいメロディーだよね。だけど綺麗。かつて人々は嘆き、私達天使や神様に救いを求めたの。なのに、今では救いを求めるんじゃなくてみずから争いを繰り広げる。昔……数百年前より人々は好戦的になっちゃったんだ。それを見て多くの天使達は愚かと嘆いているよ」


 愁いの目でハープを弾き、曲の意味を話す。

 その心情には悲しみが溢れており、無力な自分自身に対して嘲笑する。

 ホムラはその場から動かず、大天使に話した。


「今でも救いを求めて天使や神にすがる人々は多く居るさ。嘆く前に助けてやれよ」


「ふふ、神様の許しがないと動けないんだ。逆らったらこの物語から消されるから存在出来なくなるの。人間的に言えば中間管理職……かな。上からも下からも色んな指示が出てきて大変」


「本当に大変そうだな。俺の父さんも忙しそうだったし、ウエが無能だと他が割を食うみたいだ。俺はそう言った仕事じゃなく、クエストを完遂させて日銭を稼いでいるから比較的楽だけどな」


「良いね。比較的自由で。皮肉じゃないよ。本心。だから数分の暇が出来れば趣味の音楽を奏でるんだ。音楽って良いよね。心が洗われる。生まれ変わったら音楽家になろうかな」


 愛らしくハープを見、また音を奏でる。

 趣味と言うだけあって確かに上手い。脳内に譜面があるので余計な事を考えずに弾く事が出来、楽器を鳴らしている間だけは気持ちも楽なのだろう。


「そうか。来世を見据えているんだな。じゃあ、死ぬ覚悟は出来ているって訳だ。セイカを返してくれないか? それで世界が滅びても関係無い。愚かな人間()は自分勝手だからな」


「自分勝手じゃないよ。寧ろそうなのは私かな。君から大切な人を奪ったんだもん。やられる覚悟はあるよ。けど、私が死んじゃったら頼ってくれる人達が苦労する。私の代わりなんて次から次に生えてくるかもしれないけど、個人的な意見で死にたくないかな」


 闇魔法を展開し、鋭利な先端を大天使に向ける。

 しかし大天使はあろうことかホムラのフォローをし、また自虐的になった。

 どうやら積み重なる疲労で精神的に参っているらしい。この状態の大天使を始末するのは後味が悪い。闇魔法は展開したまま、ホムラは大天使の元に歩み寄った。


「死にたくないって割には微動だにしないか。見ての通りとんでもない凶器がアンタに突き立てられているんだけどな」


「大丈夫だよ。婚約者を連れ去った時みたいな殺意を今の君からは感じない。心変わりがあった訳でも無さそうだけど、一体どうしたのかな?」


「簡単な話だ。此処でアンタを殺すとセイカの居場所が分からなくなるからな。闇魔法で探るのも良いけど、魔力を消費する。アンタを殺せば天使達と戦闘になるし、温存はしておきたい。このままでも見られたら戦闘に以降する可能性は高いけど」


「利用出来る物はトコトン利用しようって訳。嫌いじゃないよ。その性格」


 死にたくないが動揺はしない大天使と、殺す事も厭わないが殺意はないホムラ。

 そんな二人には妙な間が広がり、辺りを静寂が包んだ。数秒後、大天使は口を開く。


「オッケー。案内するよ。セイカ様も君に会いたがっている。ホムラ君。世界の為、返す訳にはいかないけど会わせるだけなら大丈夫」


「返す訳にいかなくても帰して貰う。けど、会わせてくれるなら一先ずはそれに従うよ」


「そう。私にも君みたいなナイトが居てくれたら良かったんだけどね」


 小さく笑い、大天使は立ち上がる。ホムラは闇魔法を静め、その後を着いて行く。


「綺麗な場所でしょ。地上世界も星の裏側も、こんな風に綺麗になったら良いよね」


「いえ、星の裏側には星の裏側の良さがあります。こんなに明るくては夜も眠れないでしょう」


「貴女……やっぱり魔族だね。闇魔法の使い手は魔王になる。それで同行しているのかな?」


「ええ。しかし今は個人的な好意から御供させて貰っています。一線は引いておりますけどね」


「個人的な好意か。私もセイカ様に個人的な好意を抱ければホムラ君と同じ考えになったのかな。セイカ様の人間性はかなり好き。前の神様も数千年を受け入れてくれたからとても良い人なんだけど、それとは別のベクトルで好き。善性の塊みたいな人だから嫌いになる理由が無いよね」


 たった一日。いや、総合的に見れば十数時間程度。それで何があったのか、大天使はセイカをかなり高く評価していた。

 その性格を考えれば天使に好かれるタイプなのは分かるが、それにしても惹かれ過ぎだろう。


「それでもセイカは取り戻すからな。アンタには使命があって世界の命運をセイカが担っているとしても、俺は自分を優先する」


「構わないよ。世界がどうとか、滅亡の危機とか、実を言うと詳しくは分からないんだよね。神様が不在だった頃はないから。もし私達でやれるなら解決してみせるけど、今は不確かだからこそ返せない」


 人の考えはそれぞれ。世界がどうなっても良いホムラと、定めとして世界を守るべき大天使。

 仮に世界中の人々にアンケートを取ったら圧倒的にホムラが責められるだろう。しかしその者達を皆殺しにしてでもセイカを取り戻す覚悟は既に宿していた。セイカがさらわれてからより強まった。

 ホムラ達と大天使は白い渡り廊下を進み、セイカの居ると言う部屋に辿り着く。扉を開き、白い椅子に座るセイカがそこに居た。


「……! ホムラ様!」

「セイカ。無事だったか」

「はい!」


 入るや否や、ホムラの姿を確認して一目散に駆け寄って抱き付く。

 ホムラもセイカを受け止め、抱き締めた。


「ねぇねぇ、本当にセイカなの~?」

「セイカ様……白くなりましたね」

「イメチェンしたぁ?」


「アハハ……心身共にイメチェンしましたよ」

「そのドレスは着てなかったな。天界製か」


 そんなセイカの姿。

 白く美しい髪に白い目。肌の白さも少し増しており、純白のドレスに身を包んでいた。

 抱き付くホムラの鼻腔には心地好い香りも通り抜け、割と満喫していたんだなと分かる。


「かなり厚待遇だったみたいだ。それについては嘘じゃなかったんだな」


「当たり前だよ。セイカ様にも会わせた。そして身も心も無事。大天使は嘘吐かない」


「そうか」


 丁重に扱うのは嘘ではなかった。地上では敵地に女性がさらわれた場合、凌辱されるのは目に見えている。やはり天界は治安が良いのだろう。

 次の瞬間、背後の扉が静かに閉まる。


「……?」

「扉が……」

「風~?」

「このくらいの微風じゃ扉は閉まらないよ。ゼッちゃん」


 不自然な閉まり方。ホムラ達はこの場で心当たりがあるであろう者の方を見、大天使は綺麗な翼を広げた。


「さて、此処からは正当な話し合いをしましょう。この場に居るのは私とアナタ様方だけ。私には世界を守る責務がありますので」


「フランクな話し方から大分変えたな」

「大天使モードとでも言っておきましょうか」


 互いの思惑と相違点。そして目的。それによる話し合い。

 結果的にどうなるのかは分からないが、穏便には済まされなさそうな雰囲気が漂っていた。

 ホムラ達と大天使。今、評議が始まる。

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