107ページ目
「ローブを新調して良かったね。ホムラ。この街でも違和感無く紛れ込めてる」
「そうだな。天界は綺麗らしいからわざわざ新品を買ってみたけど、どうやらそれで正解だったみたいだ」
──セイカが王宮にてホムラを待つ一方、ホムラ達もセイカを見つけ出す為にその王宮を探していた。
今着ているローブは新しい物。金銭にも余裕が出てきたので此処に来る準備中に購入し、それを身に付けている。
天界の人々にも明確な特徴は無く、地上から選ばれた人間も居るので髪の色はそんなに問題じゃないが、ホムラの黒髪だけは別。
此処に居る者達を観察してみたが黒い髪の人はおらず、主に基本的な系統や金髪に白髪などが殆ど。なのでホムラだけはローブを着ていた。
「はあ~! 久々にローブ無しで歩ける。天界にまで顔が広まってなくて良かったぁ~」
「トキ程の存在なら天界に広まっていてもおかしくないけど、それはないんだな。まあ、良かったんじゃないか?」
「うん! あーあ、地上でもこんな風に歩けるようにならないかなぁ」
「それは難しいな。存在が存在だし」
「だよねぇ~」
そして地上では顔を見せるのが色々と問題のトキだが、天界までには悪名も届いておらず堂々と歩く事が出来ていた。
久し振りどころか、泥棒を始めてからローブを外して外を歩いた事が無い可能性すらあるトキ。今の状態が開放的で嬉しいようである。
「けど、髪に風を切って歩く感覚って変な感じ。屋敷の中じゃ違和感無いけど、外と中の空気って違うもんね」
「俺は割と散歩したりもしてるし、拠点の街じゃローブは羽織っていないからな。トキの場合は本当に何年振りとかそんなもんか」
「そうでもないよ。だってバカ貴族から盗む時は顔を晒しているからね! けど、今の私は色々と調子良いよ! あ、調子に乗ってるとかとは違う意味でね!」
嬉々として王宮を探す。ローブ無しで外を歩けるだけでかなりテンションが上がっていた。
「見つからないねぇ。それっぽい建物。本当に此処にあるのかな?」
「そんなに見つからないとなると、少なくとも此処には無いかもな。同じような建物は多いけど、チラッと見える内装からしてそうでもない」
しかしテンションが高くとも中々見つからないのが世の常。
そもそも、やはり目立つ場所にあると考えた場合、此処とは別の街にあるのかもしれない。何故なら此処にはセイカを追って来たのではなく、“星の裏側”から行ける場所がたまたま此処だっただけ。
目的地と大きく離れている可能性の方が高かった。
「全体的に白いからクラクラするね。少し目眩が……」
「大丈夫か? フウ。ほら、支えてやるから」
「ありがとう……ホムラ。ごめんね。苦労掛けて」
「この程度で苦労って思われるのは心外だな。肩を貸すくらい問題無いさ」
見渡す限りの白い街。日の光が反射して少しクラッと来たフウを支える。
眩しさや暑さ。比較的太陽に近く、雲のような遮蔽物も無いので辛いものがあるのだろう。
そんなホムラとフウに約三名が反応を示す。
「いいなー。何でこういう時の私は元気なんだろ」
「ボクもホムラとくっ付きたい~」
「私も……」
日射病に近い症状になった本人は辛いが、傍から見たら思うところもあるのだろうか。
だが、それはこの三人がフウよりも頑丈という事の証明。やはり“人類の敵”と“混血”は普通の貴族や王族。魔法使いより優れている部分が多いらしい。
なのに迫害される。その理由は単純に絶対数の差。どの世界でも多数決が一般常識や普通となるので、他人よりどんなに優れていたとしても成す術が無くなってしまうのだろう。
それはともかく、この街はハズレっぽいのでホムラ達は別の場所を探してみる事にした。
「天界も広いな。見つかる気配が全く無い。かれこれ数時間。もう夕方だ」
「雲の上? だから夕日が綺麗に見えるね」
「ロマンチック……だけど疲れた……」
街から街を転々として数時間後。日も暮れる時間帯になったが一向に王宮らしき建物が見つからなかった。
そう、転々としたにも関わらず、全ての街に城のような物が存在しなかったのである。
寄った街は少ないが、大天使の言葉からしても明確な支配者と呼べるのは主神のみ。数千年は光魔法使いが神になるらしいが、それはただの神でしかない。全てを牛耳っているのはその存在なのだろう。
だからこそ他の城すら許されないのかもしれない。
「日が暮れるなら野宿だけど、天界は大天使や主神が全域を見ている可能性もあるからな。闇討ちされる可能性は……あの大天使的には無いだろうけど一応“星の裏側”か地上に戻るか? 交代制で見張りをすれば普通に過ごせるとは思うけど」
「うーん……私的には交代制で良いかな。全域を見渡せるとしても、接触して来ないならまだ安全だろうし……個人的に夜の天界を見たい気持ちがあったり」
「あ、それなら私も! 空に近いから綺麗なんだよね! 見張りの時の特別な感覚も嫌いじゃないし、フウちゃんに賛成!」
念の為に戻るか、戻らず野営するか。
フウはともかく、意外にもトキは見張りが嫌じゃないらしくかえって楽しそうにしている。
泥棒なので見張りに対する慣れや、星空を見たりなどで時間を潰す事も出来る。それが一種の楽しみなのかもしれない。
「ゼッちゃんとサチとメランは?」
「ボクはホムラやみんなと一緒に居れるなら良い!」
「私も……」
「私もホムラ様にお供したいだけです」
全員、相応の実力を有しているのもあって大した警戒をしていない。何ならホムラ達と一緒に居られる事に喜びを感じているので敵などは基本的に二の次なのだろう。
実際、起きてすぐ行動出来るメリットもある。本気で戦っていない大天使や存在を見てすらいない主神が相手だと分からないが、普通の天使達くらいなら簡単に討伐出来るだろう。
「また此処に来るのも手間だしな。食料も水も三日分くらいある。……じゃあ今日は野営するか」
「そうだね! ホムラ!」
「賛成!」
「さんせー!」
「うん……」
「かしこまりました」
また来るまでの手順を踏まなければならない事も考え、このまま天界で過ごした方が良いと言う結論に至った。
ゼッちゃんの執事には何も聞いておらず意見もしていないが、元々ゼッちゃんの意見に賛成する。此処まで何も話しておらずとも、コクリと頷いてくれていた。
「けどテントが無いな。持ち運びはしていないし」
「じゃあボクが持ってくる! 確かこうやって……こう!」
野営するに当たって、テントの類いを持ってきてはいない。しかしゼッちゃんが空間を歪め、そのまま屋敷からテントを引っ張り出した。
「……! 凄いな。一体どういう原理だ?」
「げんりー?」
「どうやって持ってきたのか、で御座いますよ。ゼッちゃん」
「あ、そう言うこと!」
虚空からテントを取り出したゼッちゃん。
ホムラはその原理について気に掛け、ゼッちゃんは説明する。
「ほら! ボクって瞬間移動出来るでしょ! そのやり方を少し変えて、まりょく? を繋げたの!」
「……。成る程。魔力で空間を繋げたのか。一種のトンネルみたいな物。転移魔法の原理自体俺にはよく分からないけど、空間側を魔力で引っ張って寄せれば簡単だな」
時空間魔法の応用。
ゼッちゃんが元々どれ程の魔法を物真似していたのかは分からないが、自然とコピーした魔法の使い方が脳に入ってくるシステム。なのでほんの少しだけ柔軟に考えれば色々と可能になるのだろう。
別空間に繋げるやり方は“星の裏側”や“エルフの国”。そして現在地の“天界”に行く時に使っている。ゼッちゃんならば何も不思議な事ではなかった。
何にせよ、テントを張った。焚き火は一応控えめ。
準備自体はテキパキ終わったが、日が暮れ始めてからの時間は早い。既に星と月が夜の挨拶をする頃合いになっていた。
早速夕食を作る。
「わあ! やっぱり星が沢山見えるね!」
「星なんて常日頃から見てるだろ」
「もう。ホムラってロマンチストな部分は確かにあるけど、現実も見てるからつまらない時もあるよね」
「バッサリ言ってくれるな。フウ。確かに綺麗とは思うけど……」
「え? 私が綺麗?」
「今言ったのは星の事だけど、それもそうだろ。フウは昔から綺麗だよ」
「……ぇ……?」
「どうした?」
「う、ううん! 何でもない!」
星を見ながらの、夕飯の準備中の会話。冗談に対して返って来た何気無い一言でフウは赤面し、用意はしていたローブで顔を覆う。
ホムラ的には本当の事を言っただけなので何故慌てているのかは分からないが、何かしらのダメージ? が入ったらしい。おそらくクリティカルヒット。
そんなやり取りを見兼ね、野菜を容器に入れながらトキが割り込んだ。
「ホムラってズルいよねぇ。と言うか、無自覚なのが一周回ってムカつく」
「いきなりなんだよ……」
「フウちゃんは好きなホムラに綺麗って言われたから照れてるんでしょ! その辺もちゃんと分かってあげなきゃセイカに愛想尽かされるよ!」
「そう言うもんか? 確かにフウも好きだけど」
「はあ……やっぱり何処まで行ってもバカ貴族だった事実は変わらないのかぁ……そうだよね。恋愛的な物とかよく分からないよね……私もメグミに言われて調べてみるまで分からなかったし……」
「「れんあい?」」
「ありゃりゃ。それについてはフウちゃんもか。褒めてるのも照れてるのも無自覚……」
唐突に出てきた、ホムラ達は一度も口に発した事の無い“恋愛”というワード。
貴族なので恋愛を知らないのは当然だが、同じくそれを知らなかったトキは自分なりに色々調べていたらしい。
それについて話す。
「そ、恋愛。私も最近他の街の図書館で調べてみたんだけど、貴族や王族以外はその恋愛を辿って結婚する人が多いんだって」
「辿る……恋愛って言うのは道筋みたいな物なのか」
「そうみたい。恋路とも言うらしいよ。その人……仮に“恋愛対象”ってするね。……と一緒に居ると安心するとか、一緒に居ると落ち着かないとか、不思議な気持ちになるんだって」
「矛盾してないか? 『安心する』筈なのに『落ち着かない』。それってつまり結局は安心出来ていないって事だよな?」
安心すると言ったら落ち着かないと言う。確かにそれは矛盾したもの。辻褄が合わない。
トキは頷いて返す。
「うん。私もそう思ったんだけど、どうやらそれは同一の物からなる感情なんだって。本当に好きな人を前にすると安心する気持ちと落ち着かない気持ちが胸の内に同居するとか」
「胸の内……?」
「……肺や心臓に不調を来すのか」
「けど女の子とかは下腹部の辺りがキュンとしたりするんだって。男の子でもキュンってする事があるとか」
「キュン? 何かしらの反応を起こすって事か。その位置を考えて……本能的に精巣か子宮が反応する生理現象じゃないのか?」
「そうだよね……。私もホムラとそうなりたいって思う時もあるし……。婚約者はセイカ様だから何もしないけど」
「フウもそう思うか。……つまり恋愛ってものは、性欲が一気に上昇してより多くの子供を作る為の現象って事か?」
トキの擬音による表現。その場合は感覚で生み出さなければならない。なので合理的かつ生物的に考え、恋愛というのは発情期をより激化させたものと言う考えになった。
トキも二人の言葉に頷く。
「私もその結論に至ったんだけど、どうもその辺はフワフワしてたり濁していたりするんだよね。辞典とかじゃなくて小説とかの書物も調べてみたけど、全部よく分からなかったよ。だけど、今さっきのフウちゃんの反応はその恋愛感情からなる物かもって思ったんだ。図書館でもそんな感じのやり取りしてる男女も居たし、やっぱりフウちゃんもホムラに恋してるって分かったんだ! もちろんセイカもね!」
「トキちゃんは?」
「え……どうなんだろう。ホムラは好きだし結婚したいけど……セイカから奪う気持ちが先行してよく分からないかな……」
恋愛の形は様々。ただ結婚して子孫を残す貴族や王族には分からない感情。それはトキもまだまだ勉強中のようである。
そして準備を終えたゼッちゃん達もホムラ達の側にやって来た。
「ホムラ! ご飯出来たよ!」
「私も手伝った」
「お疲れ様。ゼッちゃん。サチ。俺達も出来たぞ」
話に夢中だったが、ちゃんと夕飯も作っていた。完成したそれを食す。
王宮。セイカを探し始めて早一日。今日はヒントも収穫も得られなかった。




