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106ページ目 天界

 ──“屋敷”。


「──そう言う訳で、私怨でセイカをさらった天界を滅ぼす事にした」


「「…………」」

「へえ! 今度は天界なんだ!」

「そうみたい。故郷だけど、お父さんもお母さんも居ないから良いかな……」


 “星の裏側”から戻ったホムラはフウ達を集め、概要を説明した。

 既に魔族達は戦争の準備をしている。後でメランに天界への行き方を聞くとして、今はフウ達への報告が優先。

 なるべく巻き込まぬよう出来る事なら夕飯前に終わらせて何事もなく過ごして欲しかったが、サチの力添えが必要不可欠と知り、仕方無くフウ達にも話したのである。

 それを聞いたフウとトキは何も言えなくなり、ゼッちゃんとサチは案外乗り気だった。


「メラン達も行動を開始している。そして今回も意見は任せる。俺は行くつもりだけど、相手が相手だからな。危険は多い。何なら神と相対する事になるかもしれない。参加するもしないも自由。なるべく参加はさせたくないって言いたいけど、多分来るよな?」


「それはそうだけど、毎回毎回突然の事態を持ってくるね……」


「セイカが光魔法にねぇ。あ、私も勿論行くよ! セイカとはライバルだけど、居なきゃ張り合いが無いからね! ぶっちゃけ世界とかどうでもいいし!」


 世界の命運を賭けた戦い。敵は強者揃いなのも承知してフウとトキも賛成した。

 今回のホムラは世界を滅ぼす側に立っているが、それでも協力してくれるのは頼もしい限りである。


「じゃあ“星の裏側”に向かう。サチが来てくれるだけで道は拓けるみたいだからな」


「そうなんだ……。私が……」


 “星の裏側”への鍵を使い、ホムラ達は表側から姿を消した。

 元々、フウ以外はこの世界に未練の無い集まり。フウもフウでホムラに全てを捧げると覚悟しており、断る理由もない。

 別れが辛いのは誰よりも理解しているホムラだからこそ参加して欲しくない気持ちもあるが、甘さは捨てたつもり。覚悟も無下にはしない。


「お待ちしておりました。ホムラ様。そしてお仲間の皆様。準備は既に完了しております」


「分かった」


 星の裏側に来たホムラ達は魔力の集合体に視線を向ける。

 それはさながら別空間が覗いているような入り口。一番身近な物で言えばドアというより窓。家の窓の外にある景色がそのまま天界のようになっていた。

 このまま真っ直ぐ行けると錯覚するが、そうではないのだろう。

 メランがサチに向けて話す。


「後はサチ様がこの魔力からなる入り口に触れて下さい。天界の者しか入れない結界が張られております故に」


「うん……」


 見えない結界があり、サチが触れる事でそれが解除される。

 闇魔法ならば物理的な破壊も可能かもしれないが、今回は戦争を吹っ掛ける。それも奇襲を。なので隠密行動で攻めようと考えていた。

 元よりセイカを連れ出すのが目的。それを遂行するなら卑怯も何もない。ホムラの中にあるのはセイカの身の案じとフウ達が無茶をしない願いだけである。

 サチは結界に触れ、魔力か何かの性質を認証。同時に結界は破られた。



 ──天界。


「本当に雲の上みたいな場所にあるんだな。天界は」


 周りの様子は、既に入り口から見えていたが星の裏側に居たのもあってかなり眩しく感じられた。


 足場は雲のような見た目をした、綿のような性質の物。水蒸気の塊である雲に乗る事は出来ないので雲の要素は見た目だけだろう。

 ふわふわと柔らかく、少し弾むように体重を乗せられる。

 植物も育つ事が出来る環境なのか、雲のような土地には緑の草木も生えており、より太陽に近いのもあってホムラ達の見る木々より遥かに大きかった。まさしく天を突く樹木と言ったところだろう。


 更に遠方には湖のような場所や街のような建物群を見る事も出来、確かな文明の存在も窺えられる。

 燦々と照り付ける太陽は眩しく、今は真上にある。ホムラが星の裏側に行った時には既に正午を過ぎていたので、此処では少し時間にずれがあるらしい。

 入ったのはまだホムラ達とメランだけ。他の魔族達は後ろにて待機している。


「取り敢えずローブは着ておくか。天界は滅ぼすけど、無闇な殺戮はあまり好きじゃない。滅ぼすと言っても精々王宮とか、大天使周りの物だけだ。無実の人々の生活までは奪わないさ」


「此処でもローブかぁ。私達の立場的に仕方無いんだけどねぇ」


「アハハ……そう言うもんだよね。侵略者? 的な立ち位置って」


 天界は滅ぼすが、皆殺しにして全てを消し去る訳ではない。それは甘さ関係無くホムラの主義に反する事だからだ。

 あくまで目的はセイカを連れ戻し、さらった天使共に相応の報いを与える事。天界にはサチのような、特に何かをした訳ではない者達も居るのでその全てを壊す事はしなかった。


 そしてやはり、何処に行こうと犯罪者という立場上ローブは手放せなくなっている。見つかったらその時だが、一先ず王宮までは慎重に進むべきだろう。

 大天使はあの様に穏やかな性格だったが四宝者以上の実力は確実に秘めている。油断大敵だ。


「まずは敵情視察。と言うか王宮とかがあるならそこに向かう。入った瞬間に殲滅する」


「き、緊張してきた……」

「私もドキドキする……」


 フウとトキがホムラの言葉に返し、歩み出す。

 正直言って、地の利などはどうでもいい事。敵情視察というのはホムラがその言葉を使いたかっただけであり、王宮っぽい建物があれば少し確認して滅ぼすだけの単純かつ簡単な作業である。

 一つの国を滅ぼすと言うのは、実はそんなに難しい事ではない。圧倒的な武力で制圧すれば反感は買えど支配には成功する。

 勧善懲悪を掲げた侵略者ホムラ達は天界の街へと入って行く。



*****



 ──“天都”。


「すんなり入れたな。入国審査とかは無いのか。無用心な国だ」


「地上みたいな戦争とかも無いみたいだね。スパイとか、その辺りを考えなくても良いって事かな」


 何事もなく見えていた街の中に入る事は成功した。

 フウが言うように滅多に争いは起きず、平和な場所としてもエルフとダークエルフみたいな小競り合いも無いので侵入が容易いのだろう。


「んで、此処が街。地上での平均的な街とは結構違うな」


「レンガとかも使われていないね。全部大理石かな?」


 天界の街の景観は白を基調とした大理石からなる建物が連なっており、土のような地面は見当たらない。まるで国全体が神殿のような、そんな雰囲気だった。

 星の裏側の色が“黒”とするなら天界は“白”。対になっているような印象を受ける場所である。


「まあ、街を見学するのは……今後訪れるかは分からないけど後で良いか。今は王宮が目的だ」


「そうだね。天使達は地上に多い、悪人みたいな存在とは違うみたいだから、セイカ様が何かされているとかは無いと思うけど……それでも早くしなきゃ」


 悠長な観光をしている暇ではない。

 もしもセイカが神になってしまった場合、帰れるかも分からないからだ。

 なので何があるかは分からずとも、なるべく急いだ方が良いという考えが内にはあった。


「さて、何処にあるか」

「意外とその辺とか?」

「無くはないな」


 改めて街を見渡す。

 白亜の建物群。全体的な街の構造は同じであり、目立った建物は見えない。王宮のような物があるなら高台が普通だが、権力などを誇示する必要の無さそうな天界。もしかしたらしれっとその辺にある可能性もあった。


「けどまあ、自己顕示欲が高そうな神の性格を考えたらやっぱり大きな建物に住んでいるかもな。俺のイメージする駄神や駄仏と同じようなモノらしいし。自己愛だけが激しくして他人はどうでもいいタイプだ。従順な筈の大天使ですらそれについて呆れていたし」


「アハハ……確かにそうかもね。けど、伝承とか神話内の神様も考えてみたらそうだもんね。寧ろそれくらいの気概が無ければ神様になんてなれないのかな?」


「本当、全能が聞いて呆れるよ。私、神様とか大ッッッッッ嫌いだもん! 願いとか叶えてくれるならって私は何度祈ったか分からないけど、その願いは何一つ叶わなかったからね! と言うか、この世界にはそんな人の方が多いし。願いが叶っているっぽいのは上流のバカ貴族やアホ王族だけだし! もし本当に居るならただ単に一部を贔屓しているだけの汚物だよ! 愚者だよ! 本当に嫌い! 嫌悪感しかない!」


 ホムラも神は信用も信頼もしていないが、トキの神に対する怒りは凄まじかった。

 自分の身に起こった悲劇。弟妹きょうだい達の末路。その全てが思い付く最悪の事態に向かったので神の評価は最下層にあるのだろう。

 実際、この世界では上位に立つ、他者を蹴落としても何とも思わない存在が良い思いをして、本当に努力などをしている者が報われる事は絶対に、100%ない。善人だったホムラやセイカへの仕打ちがまさに在り方を物語っていた。


「えーと……確かに私もホムラ達の身に起こった事は許せないけど……その神様が居る天界で言わない方が良いんじゃないかな……。近くに人が居ないからいいケド、聞かれたら大変」


「それもそうだな。神が居るんだ。全ての恨みは神と会ってから晴らすか」


「賛成!」


 此処はホムラ達が恨みを抱く神様が居る天界。なのであまり過激な発言はNGだろう。

 一先ず目的は決まっておりその対象も居るので拠点を探して行動を開始した。



*****



 ──“神の社”。


「此処が……」


「うん、天界。そして私達の……居宅。とでも言っておこうかな?」


 ホムラ達が天界に来る少し前、セイカは大天使に連れられて王宮へと来ていた。

 既に他の天使はおらず、この場に居るのはセイカと大天使のみ。

 此処は大理石の柱が複数本立っており、同じく大理石からなる純白の歩廊が連なっている。そこを進んで貴賓室のような部屋に辿り着いた。


「此処が貴女の部屋。自由にして良いよ。部屋の物も何でも使って良い。足りなければ持ってくるよ」


「綺麗な部屋……」


 部屋に派手な装飾品や宝石類などは無く、よくある王宮とは違う構造。しかしそれでも綺麗と思える内装だった。

 あるのはいくつかの石像や噴水。椅子とテーブル、木々に草花などがあり、室内ながらも野外に居るような感覚を味わえる場所。


 人や生き物を象った石像が見つめるのは天界よりも更に高く続く広い空。噴水周りの草木や花には蝶々やミツバチがヒラヒラと舞っている。

 大理石のテーブルには果実類が置かれ、外から暖かな風が吹き抜けた。

 特に拘束などもされておらず、本当に自由な状態で行動する事が出来ている。敵意が無いのは分かっていたが、ここまで厚待遇とは思っていなかった。


「貴女は優しいんですね。まさか本当に自由があるとは思っていませんでした。それに、この部屋と果実類。健康にも良さそうです」


「優しくなんかないよ。嘆き悲しむ人々は救えないし、君を婚約者から奪ったんだからね。多分奪い返しに来るかな。それで私が死んじゃったらそれまで。もっと沢山の人に幸福を授けたかった。神様が神様だから叶わない願いだけどね」


 部屋と大天使を賛するセイカ。しかし大天使は自虐的に笑っていた。その笑顔もまた美しい。

 大天使は多くの人々を救いたいと思っている。しかしそれは叶わないのがこの世界。自分の無力さを嘆いているのだろう。

 セイカは大天使の手を握り、その目を見つめて話した。


「そんな事はありませんよ。大天使様。貴女は立派な人です。私をさらったのも世界を想っての事ですもんね」


「貴女……変わっているってよく言われない? 攫った本人にそれを言うなんて変だよ」


「アハハ……実は仲間にもそう言われてます……けど、私は私ですので。変わっていても、それを変える気はありませんよ!」


「何それ。天使の私より天使みたい……。貴女、何で天界に選ばれなかったの? 貴女みたいな人格者なら産まれた瞬間に天啓を受けてもおかしくないのに」


 セイカの優しさは、本当に優しい大天使から見てもかなりのものらしい。

 だからこその疑問。地上から選ばれた優秀な人間は天界に行く事もある。サチがその例で、セイカ程の存在なら選ばれない方が変との事。

 それについてセイカは上品に笑いながら返す。


「それは分かりません。けど、ホムラ様が居てくださるので私は地上出身で嬉しいですよ!」


「そう。……なんだか、貴女と一緒に居ると荒んだ心が浄化されそう。光魔法使いに選ばれるのも納得の人選だね」


「そんな大袈裟ですよ」


 セイカの笑顔によって自虐的だった大天使も自然とほころぶ。

 迎えに行った天使がそうだったように、天使自体も性格が良い訳ではない。というより地上の人間と接するのはペットに接するのと同じような感覚なのである。

 だからこそ内心では自分より下と考えている者は多い。そして地上は争いに溢れ、汚れているのも事実。それもまた仕方の無い事。だが、セイカが天界に居ればそんな苦労にさいなまれる大天使が“使命”と“私情”。両方で救われそうだ。

 セイカは白い椅子に座り、空を眺めて一言。


「ホムラ様……信じております」

「…………」


 そんなセイカが待ち、最も信頼を寄せているのは闇魔法の少年、シラヌイ・ホムラ。

 大天使は少し寂しそうな複雑な表情をし、目を閉じてその場を離れる。

 ホムラ達とセイカ。各々(おのおの)は天界で行動するのだった。

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