105ページ目 神の器・魔王の器
「世界と宇宙が大変って言うのは聞いたよね。何で大変なのかを教えるよ」
「話が早いな。さっきまで機嫌が悪かったんだ。この進み具合はストレスが無くて良い」
大天使は天使から少しは話を聞いたであろうと推察し、今ホムラ達が一番知りたい事に対して話した。
「この世界には数千年に一度、闇魔法使いと光魔法使いが現れる。それは知ってるね。現れるのはランダムだけど、闇魔法使いは基本的に人々。もしくは神様か光魔法使いによって倒されてしまい、光魔法使いは別の神としてその存在を天界に宿すの」
「天界に? 世界的な悪となる闇魔法が最終的にその存在に倒されるのは分かるとして、光魔法使いは比喩とか名声じゃなく、本当の意味で神になるのか」
まず話したのは、最終的な着地点。
闇魔法使いは倒され、光魔法使いは神となる。その言い方からして本当にそうなるのだろう。
大天使は頷いて返した。
「うん。光魔法使いは代々神様になった。少なくとも、真の主神よりはみんな頑張っていたよ。人々の為に、本当に頑張っていたの……」
「真の主神……アンタの言う“神”と光魔法使いからなる“神”は別物か。主神とやらは駄目な存在……まあ、俺が神を見限った理由になる駄神がその主神って訳だ」
「それについてはノーコメント。全能なのはそうだから悪口言ったら私が始末されちゃうからね」
主神と、光魔法使いである人間から選ばれた神。その二つは別物であり、主神の方はホムラがイメージする駄神のようだ。
実際、神というモノは全ての次元から考えて基本的にどうしようもない存在。その一角という事だろう。
「話を戻すね。それで、人間からの神様は次の光魔法使いが現れるまで必要無いんだけど……最近死んじゃってね。だからヒノカワ・セイカ様に新しい光魔法が宿ったの。光魔法の条件は純潔を保ったまま、人や生き物を殺めたり傷付けた事が無い存在。そして何より優しさがある。それを満たす事で初めて光魔法使いになれるの」
「成る程な。確かにその条件を満たしているのは全人類の中でセイカだけだ。光魔法が使えるようになった理由に納得はいく」
普通なら到底満たせない条件。この世界でなら特にそう。
だが今までのセイカを見ていれば達成するのもおかしくない。ホムラは納得したが、当のセイカは挙手して恐る恐る言葉を発した。
「しかし、ホムラ様。その全ての条件に該当しているのかは少し怪しいと思います……確かにまだ純潔は保っており、他者や生き物を殺めた事はありませんけど……人や魔物に向けて炎魔法を打ち出した事もありますし……傷付けた事が無いとは言い切れません」
クエストや食料調達にて他の生き物を傷付けた事はあるとの事。
それについて大天使が補足を加える。
「ううん。セイカ様。それによって生き物に何かしらの悪影響が及んだのなら傷付けた事になるけど、その後に何もないなら光魔法には覚醒しない。貴女は選ばれたの。多分、ダメージまでは与えないで牽制とかその程度の攻撃をしたんでしょ?」
「言われてみれば……」
傷付けたの定義は様々だが、セイカの場合はそのどれにも該当しないらしい。
確かに主な攻撃は牽制や拘束。直接的なものではない。
大天使は更に続ける。
「それで、またまた話を戻すよ。光魔法使いの神様が居ない今の世界は、謂わばパズルのピースが一つ抜けた状態って訳。そのままでは世界の形が保てなくなって崩壊。最終的に世界が滅亡するの」
「だから地上から一人を拉致ってそのピースを埋める……か。光魔法使いも数千年の周期で生まれて、それが最近亡くなった。つまりセイカを天界に数千年拘束する訳だ」
「そうなっちゃうね。一応色々あるし、地上の様子を見て暇潰しも出来る。ある程度の自由は確保出来るけど……まあ、不自由だね。最近亡くなった光魔法の神様も最終的にはずっと一つの狭くて小さい部屋でずっと過ごしていたし……辛いよね」
「それを俺が許可する訳にいかないな。セイカは俺の婚約者で、俺自身は無能な神やゴミみたいな世界にうんざりしている。俺は俺自身すらどうでもいいからな。自分勝手の極地みたいな立場にあるよ」
「私も……ホムラ様とは別れたくありません……」
「ま、そうなるよね」
総意で天界には行かせたくない。行きたくない。
大天使は肩を落とし、分かっていたように苦笑を浮かべる。
普通に考えてそう。数千年という悠久の時。その間ずっと天界に居なくてはならない。率直に言えば生き地獄である。
その返答を聞いた大天使は一言。
「ごめんね。やっぱりこうするしかないかな」
「「……!」」
──次の刹那、大きな翼がホムラとセイカを包み込み、光の輪がその身体を拘束した。
闇魔法は反応しなかった。つまり敵意無くそれを展開したという事。
「セイカ!」
「ホムラ様!」
気付いた時にセイカと大天使は空におり、互いの名を呼ぶ。
同時に自分の拘束を闇魔法で砕き、大天使と天使を闇が追う。
「まさか、“天使の輪”を物理的に破壊するなんて。闇魔法。相変わらず恐ろしい力」
「大天使様。早くこの場を離れましょう。私的に彼は苦手です」
「それはアナタが悪いんだから。反省しなさい」
「…………」
「……まったく。……本当にごめんね。シラヌイ・ホムラ君……話し合いは全て無駄になっちゃったけど……世界の為には仕方の無い事なの……ごめんなさい……」
「ホムラ様! 助──」
闇魔法が届く直前に光に包まれ、大天使と天使は消え去った。
消え去る前の言葉。天使の方は分からないが、大天使は本当に申し訳無さそうな面持ち。しかし返答も闇魔法も追い付かず、地上から姿は無くなった。
「……っ。セイカ……!」
絞り出すように口に出す。
正面から戦り合えば、おそらく勝利する事も出来ただろう。だが敵意の無い拉致。それに対処する事が出来なかった。
ホムラは自分への怒りと無力さに身体を震わせ、大天使達の消えて行った空を見上げる。
「天界……そこにセイカは居る……!」
だが、居場所が分からない訳ではない。普通に飛んで消えなかったのを考えるに“星の裏側”や“エルフの国”と同じように行く為の手順があるのだろう。
「……。魔族なら何か知っているか。“星の裏側”にはメランも居る」
そこに向かう為、ホムラは天界について知っているであろう魔族に話を聞く事にした。
今回は自分の失態であり、油断が原因。なのでフウ達には黙っておく。
時間帯もまだ昼。今日中に行く方法があれば夕飯までには天界を滅ぼして帰る事も出来るかもしれない。
「セイカ。待ってろ。すぐ迎えに行く」
そう言い、“星の裏側”への鍵を開ける。同時に空間が開き、ホムラはそこに飲み込まれた。
冒険者達は一先ず放置。闇魔法で衣服類をテキトーに運んだので起きれば着るだろう。そして一応男女は分けたので間違いが起こる事も無いかもしれない可能性がある。
何にせよ、その作業は数秒で終わらせた事。セイカの救出の為、ホムラは行動を開始するのだった。
*****
──“星の裏側”。
「メラン! 居るか!?」
空間に包まれ、星の裏側へとやって来たホムラは若干の焦りを見せつつ魔族達の城へ入った。
そんなホムラを迎えるよう、呼ばれたメランが立つ。
「ホムラ様。よくぞいらっしゃいました。私は此処に居ます」
「そうか。話がある。すぐに来てくれ」
「その様子、私の肉体を求めているなどのような事ではなさそうですね。それは残念ですが、今回はかなり重大みたいです。おふざけは無しで進めましょう」
「相変わらず話が早くて助かる」
メランは話をサクサク進める。
普段のホムラらしからぬ慌て様から内情を理解して返し、一先ず話し合いが出来そうな貴賓室に入った。
「それで、一体何がありましたか? わざわざ一人で此処に来たという事は、セイカ様方の姿が見えないのと関係しているのでしょうか」
「ああ、まさしくその通りだ。とあるクエストを受けていたらセイカが光魔法に目覚めてな。天使を名乗る不届き者が現れてセイカを連れ去った。それはさっき──」
光魔法の事。そして天使の事。
その他にも向こうの目的などを話、一通りの概要は全て教えた。
メランは「フム」と言葉を続ける。
「──光魔法ですか……。成る程。攫われたのはセイカ様だけのようですね。お二人でクエストを受けていたという事ですか」
「ああ。単刀直入に聞く。天界への行き方を教えてくれ。一定の条件は必要な筈だからな」
互いに早く話が進む。
それ程までにホムラは焦っており、メランはそのペースに合わせていた。
もう本当に大切な者は両手の指で足りる程しか存在しないホムラ。そのうちの一つ、最も大事なセイカの身に何かあった。それだけでパニック寸前なのかもしれない。
だがそれでもなお冷静さは欠いておらず、そんなパニック状態に陥らないで行動出来るのは強みだろう。
メランはそれについて言葉を返す。
「かしこまりました。しかし、ホムラ様の仰るように手順は必要。そして、手順を踏んだとしても普通のやり方では行けません」
「じゃあどうすれば良い? やれる事ならやってみるつもりだ。次元が違くとも、天界が“この世界”にあるのは間違いないからな」
「そうですね。エルフの国と同等、その国出身の存在が大きく関わっております。天界の出。サチ様辺りに協力を促した上で天界に行くのが最善手でしょう」
「サチか。俺の失態で仲間達は巻き込みたくないけど、やむを得ないか」
「YES。しかしながら、慌てる必要は御座いません。ホムラ様の話を聞く限り、セイカ様は丁重に扱われる筈。ならばいつでも問題は無いかと」
「いつでもって訳にはいかないな。セイカは今日、俺に助けを求めたんだ。大きく譲歩したとしても、この2~3日で絶対に助け出したい。例えそれで世界が滅んでもな」
ホムラの覚悟は本物。悠久の退屈と苦労を愛するセイカに与えるくらいならば世界の滅亡を優先する。世界には何の未練も無いからだ。
フウ達やメグミ達。今お世話になっている街の人々など思い入れのある存在は多いが、何よりも優先しているのはセイカである。
「何とも心強いお言葉。元より魔王様となった暁には世界を滅ぼす事もある筈。私達は何処までもお供致します。ホムラ様。今回こそ、魔族総出で天界へ戦争を仕掛けるというのは如何でしょうか」
「……そうだな。そろそろそれも考えた方が良いかもしれない。魔王の件もずっと保留だったし、妻となる存在を助け出す為に軍を率いる。魔王になる理由としては十分過ぎる」
「理由、ですか?」
「ああ。俺の気持ちの問題だ。俺は世界を恨んでいるけど、イマイチ甘さが残っていた。ここで踏ん切りを付ける事によってようやく生きる意味を見つけられるかもしれない」
セイカ達がホムラを求めた時も、魔王になってくれと言われた時も、ホムラは何かと理由を付けて逃げていた。今までの事は他の貴族や王族と同じ“保身”という事も自己分析で理解している。
そもそも、恩人の形をしただけの魔法人形如きに激昂し、冷静さを欠いた事でセイカが光魔法に目覚める切っ掛けとなってしまった。それ以前に、初めからセイカを受け入れていれば光魔法の条件の一つを満たせずにいれたのだ。
だからこそ、この様な機会に明確な区切りを付ける必要があるかもしれない。
おそらく虚無の境地がまともに相手をしてくれるのはその様な、己の芯を曲げず最後まで矛盾しない存在なのだろう。
ホムラは、真の意味で覚悟を決めた。
「全てを終わらせる。冷徹や残忍になったつもりで居たけど……自惚れだった。俺は単なる甘えん坊のままだった。何をしても付いて来てくれるセイカ達にいつも甘えていた。天界の行き方を聞く為、進行形でメランにも甘えている。もう言い訳はしない……!」
闇が更に黒くなる。それは悪い意味ではない。世間一般や常識的な事で考えれば最悪の事態だが、シラヌイ・ホムラとしての在り方ならばこれが正しい。
覚悟によってより洗練された闇。黒い魔力を見、メランは恍惚な表情でホムラを見つめた。
「……! 嗚呼、これぞ魔王様の貫禄。全てを飲み込み、我が物とする存在。やはりアナタ様こそ、如何なる存在よりも魔王に相応しい……!」
頬を紅く染め、ホムラに見惚れるメラン。
視線の先には目、耳、唇、指。これは魔王としてではなく、異性としての、使用人という立場を越えての感情。
ホムラはメランに視線を向けた。
「魔王の婚約者を攫った天界に攻め込む。メラン」
「はい! ホムラ様!」
ホムラの言葉に、今までよりも感情を前に出して答えるメラン。
まずはサチと共に天界へ。そうするとなれば最終的にあまり巻き込みたくないフウ達も来てしまうだろうが、天界の戦力が不明なので多いに越した事は無い。何なら此処に居る厄災の王にも協力を要請するのも良いだろう。
エルフ達はどちらかと言えば世界の安寧を願っているので協力してくれないと考え、今回の戦力は整った。
こんな無価値な世界な為に、セイカを連れ去った大天使率いる天界の者達への全面戦争を吹っ掛ける。
理由は完全なる私怨。しかしそれこそ魔王。
元々言えば、自分勝手な存在しかいない世界の環境によってホムラは今の境遇に陥れられた。この世界など、最初から在る意味が無い。
負のエネルギーを闇に変え、ホムラは改めて世界。及び運命その物へ復讐を誓った。




