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103ページ目 覚醒

「さっさと消えろよ、その姿形全て!」

「…………」


 形を見るだけで怒りが湧き上がる魔法人形へ放たれる闇。モデルがモデルなのでかなり優秀らしく、その全てを避け切った。


「チッ、クソッ! 徹底的に破壊したかった……!」


 なので細かい破壊を止め、闇魔法の大波を引き起こして魔法人形に叩き付けた。

 その闇に込められた黒い想いは“殺意”。魔法人形に痛覚や感情があるのかは分からないが、目の前の偽物を完膚無きまで破壊する事しか考えていない。

 それならば一度動けなくした後でも良いと判断したようだ。


「壊れろ贋作が!」

「…………」


 闇が辺りを飲み込む。

 ゴウを模した魔法人形は下に炎魔法を放出して浮き上がり、巨大な火球を生み出して下方へと打ち落とした。

 その巨大火球をホムラは闇で破壊して周囲に火の粉が散り、下方から闇が伸びる。


「……」


 それを確認し、空中に炎を放って飛び交い、全ての闇を見切る。

 埒が明かないので全ての闇魔法を突き上げるように打ち出し、その全身を飲み込んだ。


「…………」

「……っ。遅いな闇魔法……! 使えねェ!」


 現在展開している闇魔法の魔力総量から動きも多少遅くなる。

 その隙を突かれたホムラの近くに闇をいなした魔法人形が降り立ち、ホムラは闇魔法にも八つ当たりして大きく薙ぎ払う。

 それを跳躍でかわされ、苛立ちが更に募る。同時に躱した方向へ闇を打ち出し、全てを避けた魔法人形がホムラの眼前に迫った。


「“ファイアショット”」

「喋んのかよ……! その声で喋るな木偶の坊風情が!」


 近距離にて撃ち出された炎魔法。理不尽な八つ当たりをするホムラを闇が自動的に防ぎ、その闇は防いだ瞬間に針のように逆立ち、そのまま模した肉体を貫いた。


「…………」


「悲鳴の一つも上げねえか。声が一緒だから上げなくて良かったよクソゴミクズの偽物が……!」


 貫いた闇魔法を巨大化。魔法人形の身体を内部から破壊するが、すぐに抜け出されてしまって不発。更に炎魔法が放たれた。


「“ファイアガトリング”」


「……っ。五月蝿えな……! 俺が喋るなって言ってんだから喋るな! ゴミはゴミらしく黙ってろ!」


 ガガガガガッ! と火炎弾が連続して射出される。

 近距離かつ多少の強度を誇る火。憧れた者の声と闇魔法に当たる音すらをも煩わしく思い、闇を円蓋えんがい状に展開。自分から半径数十メートルを弾き飛ばした。

 全方位への闇。魔法人形はガードしたがまたダメージを受け、小回りの利かない状態で浮き上がり、ホムラは更に追撃する。


「まだだ……! 偽物なんか……贋作なんか……嘘なんか……写しなんか……! 徹底的に……徹底的に徹底的に徹底的に徹底的に……! 破壊して破壊して破壊し尽くして粉々の木っ端微塵にしてやる……!!」


 無数の闇が全方位から刺し込まれ、魔法人形が貫かれる。

 やはり隙があるなら槍のような闇魔法にてジワジワと粉砕し、ストレス発散をしたいようだ。

 その光景を前に、闇魔法によって片腕を負傷したセイカは呆然としていた。


「……ホムラ様……戻って……来て下さい……ホムラ……様……!」


 自分を傷付けた。そんな事はどうでもいい。自分なんか二の次なのが普通だろう。

 セイカはただ──今のホムラが嫌いだった。

 あの時、虚無の境地と全ての元凶に会った時ですらセイカが来た時点のホムラは比較的冷静だった。

 しかし今はどうだろうか。我を忘れ、偽物の人形を破壊する事だけを考えている。

 今現在、修羅の道を歩み続けている時ですら人助けをなるべくしようとしていたホムラがだ。


「今のままでは……ホムラ様が何処かへ行ってしまう……」


 その懸念がセイカの内にあった。

 既に優勢。あくまでヒノカミ・ゴウを模した人形なので本物には程遠く及ばず、このままやれば魔力が尽きるよりも前にホムラが圧倒的な力の差で勝利するだろう。

 しかし、それだけでしかない。それ以降進展する物が何もないのだ。


 主犯を先に殺してしまったばかりに尊敬する存在が利用された事への怒りはもう晴らせず、常に情緒がぐちゃぐちゃのまま。そして何より、見た目と声以外全て偽りだとしても、憧れた人物の肉体を破壊している事実。

 このまま続けばまたホムラが更なる深層に、独りで行ってしまう。

 婚約者であるセイカにそれを見過ごす事は出来なかった。


「ゃめ……さい……」


「壊れろ……壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ……ぶっ壊れろ……! 存在価値皆無の最低最悪のゴミ人形……!」


 闇魔法による更なる連射。魔法人形の肉体を次々と貫いて穴を空け、体内に残っていた血液が飛び散る。

 死して時間が経っている遺体からなる魔法人形。血液は人形の物と実験用の液体が混ざり合ったおぞましい色合いになっており、闇を伝ってホムラの身体を黒く赤く染めていく。

 その姿は悪魔。鬼。何者にも言い表せられないその姿は──ただの抜け殻のようだった。


「お止め下さい……」


「ハッハッハ! アッハッハッハッハッ! 良いな! 偽物がどんどん形壊れてく! 壊してく! 砕けてく! 崩壊している! もっとだ! もっと壊れろ……偽物のゴミなんかもっともっともっともっと壊れて壊れて砕けて散れ!!」


「…………」


 ゴウを模した身体を貫き、ゴウを模した顔を貫き、ゴウを模した全身を貫く。

 もう既に数え切れない程の穴が空いており、近くにドス黒い血液の水溜まりが形成されている。

 しかしそれでもまだ風穴を空けただけ。まだまだ足りない。まだまだやりたい。


「ハッハッハッハッハッ!」


 ──この後はどうしようか。頭をねようか。四肢を刻み落とそうか。内臓を抉り取ろうか。目玉をほじくろうか。脳を弄ろうか。嗚呼、やる事が沢山ある。嬉しい悲鳴。歓喜の声。やりたい事が次々思い付く、なんて幸せな気分だろうか。此処は天国……否、地獄。

 高揚感がより溢れ出し、湯水のように沸き上がる。しかし既に枯れた水。

 ホムラの感情はより一層高まり、ゴウを模した人形の肉体へ闇の刃が刺し込まれる。次から次から次から次へと。破壊の快感が全身に胸糞悪い感覚を与えていた。


「──もう! お止め下さい!」


 自棄ヤケのように暴れ回るホムラの前で、一筋の炎が更に強く明るく燃え上がった。


「ホムラ様!!」

「……!」


 ──その刹那、全身を焼かれるような感覚を覚えた。

 しかしその炎に熱さや痛みは感じず、包み込んでくれるかのような温もり。ホムラの消え掛かった意識は呼び戻され、照らされた事によって影がより濃さを増す。

 ホムラはそんな光の方向に視線を向けた。


「……。セイカ?」

「はい……と言うか、今回はずっと一緒に居ましたよ……!」


 困惑するようにセイカの方を見、セイカは涙目ながらホムラを見つめていた。

 セイカは呼吸を整え、言葉を続ける。


「ホムラ様……アレはゴウ様ではありません……。単なる形。ゴウ様をかたどった物が傀儡のように、魂の無い状態で操られているだけです……姿形が利用されているのは確かだとしても……ホムラ様の考えているような物ではありません……その肉体すらあらゆる方々の遺体が集まった物……許せないとしても、ホムラ様が何処かに行く必要はありません……」


「……セイカ……なのか……?」


 より困惑する。セイカはホムラを見つめ、睨み付けるように返した。


「だから、そう言っているじゃありませんか……!」

「いや、違う……」

「何が……私は私です!」

「そうじゃない!」

「……っ」


 ホムラから見た今のセイカはまるで後光が差しているかのような存在。

 それは比喩や物の例えではなく、本当にそうなっている。互いに互いの理解が追い付かず混乱し、冷静になったのかホムラは口を開いた。


「セイカって……そんなだったか? その体……」

「私の……体?」


 セイカの体に及んだ違和感。それは髪と目の色が白く、肌にも若干の白みが増していた。

 白いオーラがその美しい体を包み込んでおり、ホムラの黒い闇が飲み込まれるような感覚になる。

 そう、その姿はまるで──


「光魔法……俺が闇魔法に目覚めた時もそうだった。……セイカ。まさか……光魔法に覚醒したのか……?」


「そんな……私が光魔法に……?」


 改めて己の体を見、気付いたセイカは困惑する。

 ゴウを模した人形へのホムラの攻撃も止んでおり、場には不思議な感覚が流れた。


「…………」


「「……!」」


 ──次の瞬間、魔法人形から火球が撃ち出された。

 高速の火球。二人の反応は追い付かない。ホムラは闇魔法の自動防御があるので問題無いが、セイカの肉体は──


「……あ、あれ……?」

「……やっぱり……光魔法みたいだな」


 何ともなかった。

 白く輝く魔力がその体を優しく覆って火球を消し去る。

 ほぼ確信。ホムラは落ち着きを見せ、セイカを見つめた。


「よく分からない。けど、どうやらセイカが光魔法の条件をクリアしたんだろうな。さっきまでぐちゃぐちゃだった頭の中が妙にスッキリしたよ。悪かった」


「ホムラ様!」


 光魔法の影響か否か、ホムラの荒んだ心が少し落ち着いた。

 セイカに謝罪をし、改めて魔法人形に向き直る。


「…………」


「まだ動いている。痛覚どころか、ありとあらゆる感覚が無くなっているみたいだな。あの顔を見るだけで腹が立つけど、ゴウのアニキじゃない。セイカ。闇魔法で砕いても無駄みたいだから手伝ってくれ」


「は、はい! ホムラ様!」


 パアッと明るくなり、ホムラに笑顔で返す。

 頼ってくれる。それだけでセイカの心は満たされた。魔法人形は特大の魔力を込め、太陽かと思う程に大きな火球を生み出した。

 もっとも、本来の太陽はこの何万倍の大きさだが、宇宙を観測する方法が完全じゃないこの世界では知る由もない。


「粉々程度じゃない。全てを完全に消滅させるか、動かしている魔力を消し去れば多分止まる筈だ」


「分かりました……! ホムラ様。その……光魔法って何が出来るんでしょう?」


「……うーん、闇魔法の対になる魔法だから破壊の逆で再生とかか?」


「再生……。やるだけやってみます……!」


 消し去り方の模索。そして光魔法は何が出来るか。

 破壊を主要とする闇魔法と違って分かりにくいところだが、推測だけなら難しくない。真の救世主や神と謳われる魔法なので解釈次第でやれる事を大きく出来るだろう。


「──“フレイムスター”」


「「……」」


 次の瞬間に魔法人形からなる上級魔法が簡易詠唱から放たれた。

 ここまで完全詠唱は0。おそらく未完成なので詠唱する事が出来ないのだろう。だからこそペリエントとメアリーは完璧を求めた。

 それでも上級魔法の更に上澄み。ここから数十キロは崩壊してもおかしくない威力を有している。

 ホムラとセイカは目の前の火球に向き合い、互いに黒い魔力と白い魔力を込めた。


「基本的な部分は普通の魔力操作と同じだ。感覚が脳内に入ってきてるだろ?」


「はい! 操り方。何が出来るか……ぼんやりですのでまだあまり分かりませんけど、確かに浮かんでいます……!」


「取り敢えず、破れかぶれで良いからその魔力を放つんだ」


「了解しました!」


 近い存在なので闇魔法のホムラがレクチャーする。

 セイカは了承すると同時に白い魔力を操り、二つの魔力が火球に向けて直進した。

 特大の炎と光と闇。それらは正面からぶつかり合い、


「───」


 ──拮抗する間すら無く、火球は消滅。そのまま魔法人形に直撃。闇魔法が肉体を砕き、光魔法が魔力を吸収した。

 形が崩れて消え去る直前、魔法人形ゴウが笑ったような気がした。


「……細胞一つすら、悪用はさせないよ。ゴウのアニキ……」


 小さく呟き、光と闇によって魔法人形は完全に消滅する。

 辺りには静けさのみが広がっていた。


「ホムラ様! やりましたね!」

「……ああ、そうだな」


 ピョンッと小さく跳ね、ホムラに抱き付くセイカ。ホムラも小さく笑い、その頭を撫でて寝ている冒険者達に視線を向けた。


「後はアイツらを起こし……たら余計な誤解が生まれそうだな。衣服は集めてあるし、テキトーに並べる……のもまた面倒臭くなりそうだ」


「アハハ……確かにそうですね」


 後は全裸のまま眠っている冒険者達だが、色んな意味で大変そう。二人は小さく笑う。

 何はともあれ、崩落した屋敷の中から必要な物を持ち出そうとホムラとセイカは行動を開始した。


「──見つけました。光魔法の使い手様。さあ、私達の楽園へ向かいましょう」


「「…………!」」


 その時、一つの声が背後から掛かる。

 何の気配も無く現れたその声。見れば周りに羽のような物が散っていた。

 魔法人形は消し去った。しかしながら、それとはまた別の問題が起こったようである。

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