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102ページ目 魔法人形

「それで、何をしようとしたのか教えてくれ。俺を前にふざけた事は言えないって言うのはアンタらの頭脳なら分かるだろ?」


「……っ。そうだね……率直に告げようか。君達冒険者に依頼を出し、その生身の身体を生け贄に魔法人形を完全な物にしようって言う訳だ」


「話が早くて助かる。まあ、盗み聞きしてたから概要は知っているけどな」


「その様だね。君は今やって来たって感じでもなかった」


 話していたように、容器に入った死体。魔法人形を完全な物にするのが目的。

 この者達は頭の回転が早い。だからこそ話自体は簡単に進みそうである。

 そうなってくるとこの者達の処罰をどうするか。


「俺はヒーローって訳でも無いしな。アンタら、善意で参加してくれた冒険者の思いは踏みにじったけど……別にこの人達と俺は親しくない。それに、アンタらも完全な悪意で魔法人形を作ってる訳じゃない。本当に一割くらいは火の系統の事を想っているようだ」


「……ッ!」


 更なる闇魔法を使い、首と手首を絞めながらペリエントの両掌を貫く。

 そんなペリエントはゆっくりと動かした。


「……っ」

「……? なんだ? ペリエント」

「質問して……良いかな……?」

「ああ、許可する」


 今の状況。無条件で話したらそのまま殺され兼ねない。なのでペリエントは苦しみながらも挙手したのだろう。

 そのままホムラへ質問を委ねた。

 それを許可し、ペリエントは話す。


「それなら僕達をどうする? このまま絞め殺すのか、それとも別のやり方で殺すのか、生かしてくれるのか」


「そうだな……俺は正義とかどうでもいい。けど、座右の銘は勧善懲悪。アンタらに少しでも悪意があるなら殺すかな。これからの行動次第だ」


「へえ……行動……次第……」


「ああ、だから──」


 次の瞬間、容器が割れて死体が動き出し、ホムラに飛び掛かった。

 その死体をホムラは闇魔法で切り刻み、決断を下す。


「暫定死刑だ」

「暫て──」


 刹那、ペリエントの首を闇魔法でね飛ばした。

 真っ赤な鮮血が噴水のように飛び出し、辺り一帯を真っ赤に染める。その横でメアリーの表情は恐怖に歪んだ。


「ひっ……!」

「…………」

「うっ……オェ……」


 頭の無くなったペリエントの肉体が力無く項垂れ、ドクドクと緩やかに血液が流れる。

 ビクビクと肉体は筋肉によって痙攣しており、辺りに鉄臭い匂いが広がる。

 近くで見ていたメアリーはそのままベシャッと嘔吐した。吐瀉物の中に固形の物は無く、何も食べずに実験していたのだろうという事が窺えられた。


「ペリエント……」


「大丈夫だ。言っただろ? “暫定”の死刑ってな。魔法人形を仕掛けて来なければ何もしなかった。仕掛けてきたから正当防衛をしただけだ」


「……っ」


「なんだよその反抗的な目は? まだ殺していない俺の温情に感謝して欲しいくらいだ」


 ホムラの言葉にメアリーは睨み付け、ホムラは不敵に笑いながらボールのように蹴り上げてペリエントの頭を持とうとした。が、思ったより重かったのでただ蹴っただけであり結局闇魔法で拾う。


「ほら、見ての通り生きてる」

「……ッ!? な、何故僕はまだ生きている……!?」

「よく話せるな。いや、痛みが一周回って無痛になったのか? 人体は不思議だ」


 常例通り声帯は残してあるので根性次第で話せるが、それでもよく出来ると感心する。

 しかし考えてみたらあまりの激痛によって逆に痛みを感じないと考えるのが妥当だった。

 何はともあれ、ホムラはメアリーの方を見やる。


「さて、アンタはどう出る? まだアンタらは俺と無関係の他の冒険者を眠らせて衣服を脱がしただけ。それも十分に罪になり得るけど、俺の前で(・・・・)命を奪った訳じゃない。証拠が無いからな」


「……っ」


 その現場を間近で見た訳じゃないので“まだ”許しの範囲内。殺人を犯してもその者次第で許した例はある。ホムラは気儘な殺人鬼ではないので行動次第では許す。

 メアリーは口を噤み、ホムラはもう一つの質問をした。


「けどまあ、聞きたい事もある。この屋敷からあまり離れていない街からの依頼が色々あってな。その内容が“行方不明の子供を探して”ってやつなんだ」


「……!」


 それは、とある依頼の内容。

 珍しい物ではない。この世界は人間以外も危険な物が多い。なのでちょっと遠出した子供が迷い続けて行方不明や帰らぬ者になる事もある。

 それ関連の依頼は決して少なくはないのだ。

 そして今回も。


「何か知らないか? 正直に話す事をオススメする。今の状況を見たらそう判断出来るよな?」


「そうね……けど、ペリエントの有り様を見たら答えたところで無駄と分かってしまうわ」


「という事は思い当たる節がある。そして元凶でもある……って感じか」


「推理力も高いわね。ちょっとした言葉から全部分かっちゃうんだもの。けど安心して。親にはちゃんとお金も払ってる。それに、親に売られたって言っておいたから未練も無い筈よ」


 反応を見る限り、ペリエントとメアリーは元凶。そうでなければ答えた瞬間に無駄になるとは言わないからだ。

 もう薄々感付いているが、ホムラは一呼吸置いて訊ねてみた。


さらった子供達は?」

「天国で楽しそうにしているわよ」

「OK。よく分かった」


 瞬間的にメアリーの頭も斬り落とし、真っ赤な鮮血が噴き出した。

 高所から落下し、せっかくなのでペリエントとメアリーの頭を並べてその様子を観察する。


「痛みはあるか? 感覚的には麻痺していてあまり無いだろ? 返事しろよ。情報を得る為に声帯は残しているんだ」


「……ッ。どうしてさっさと殺さないのかしら?」


「子供達の遺体の場所が知りたいからな。さっき言ったクエストは全て受けたんだ。せめて遺体くらいは親元に返さなくちゃならない」


「罵詈雑言を吐き捨てられるわよ?」

「そうだね。僕からもあまりオススメはしない。君も傷付きたくはないだろう?」


「それくらいならどうでもいい。むしろ言われて当然だ」


 遺体の場所を聞く為に生かした。

 それによって遺族には色々言われるだろう。それは既に覚悟しており、罵詈雑言を吐き捨てられるのも慣れている。

 ホムラの言葉を聞き、ペリエントとメアリーは笑った。


「フフ……それは残念だ。子供達はもう、君が壊したあの魔法人形の中さ。骨一つも残らずね」


「良い材料になったわよ♪ お陰で完成に一気に近付いたもの」


「……残念だ」


 二人の頭を更に縦に切り裂いた。

 脳漿のうしょうが飛び散り、そのまま目玉も抉り取る。

 そしてこの者達は死んでも良い方の人間という事も分かった。


「……そうだ。怒りで我を忘れていた。他にも色々と聞こうって考えていたんだけど……駄目そうか」


「「……ッ!」」


 真っ二つに裂いた事で声帯の機能も停止してしまった。試しに切断面から細い闇魔法で縫うように繋ぎ合わせてみるが、効果無し。

 ペリエントとメアリーの片方ずつを繋ぎ合わせもしたが効果がある訳もない。そもそも脳が落ちて崩れてしまっているので生かしても知能は無いだろう。今の行動は単なる好奇心である。


「コイツらはまあいいか。一先ず他の冒険者達を運んでこの魔法人形は──」


「「…………」」


「……!」


 ──諸々の後始末をしようとしたその時、ペリエントとメアリーの頭が笑ったような気がした。

 そのままゴロンと転がり、ホムラは闇魔法を解除。二人は絶命する。

 近くにセイカも寄って来た。


「終わったのですね。ホムラ様……」

「ああ、多分な」


 少し悲しそうな表情をするセイカ。考えてみれば目の前でホムラが人を殺すのを見るのは久し振り。色々と思うところもあるのだろう。

 セイカは座り、ペリエントとメアリーの頭にそっと手を添えて黙祷。手が血や脳漿で汚れる事などは気にせずに目を閉じている。

 しかし、ホムラには懸念もあった。


「けど何かを仕掛けられた可能性もある」

「何かを?」

「ああ。最期に二人は不敵に笑った。だからさっさとトドメを刺したんだが、少し遅かったかもな」


 処置を考えていた時、二人は笑った。故の殺害。

 だがその様子を考えればもう既に何かは終わっている可能性もある。ホムラは今一度バラバラにした魔法人形に視線を向けた。


「「…………」」

「……」

「「……ケケ……」」

「……!」


 ──そして、笑った。


「セイカ。離れるぞ!」

「え? ホムラ様……?」


 瞬間的に闇魔法を大きく展開。他の冒険者や貴賓室の衣服を全て掻き集め、壁を大きく粉砕して大広間から飛び出した。

 この騒ぎでも起きないのを見るに、余程強い睡眠薬を盛られたらしい。それこそ身体が切り刻まれても意識が戻らない程に強力な、ペリエントとメアリーお手製の特殊睡眠薬を。

 ホムラは着地し、セイカと冒険者を降ろす。そして屋敷の正面口に人影を見た。

 それが視界に入った瞬間、頭に血が上るのを理解した。


「…………」


「……っ。チッ、あのクソゴミカスのドクズ共……! 生きる価値の無い、全ての存在に置いて最底辺に位置するゴミが……! もっと苦しめて徹底的に殺すべきだったか……!」


 ──その存在(・・・・)を見、ホムラは憤る。

 はらわたが煮え繰り返る程の怒り。これ程までに怒りが湧いたのは闇魔法に目覚めた時以来。思い付く稚拙極まりない罵詈雑言が口々に出、闇魔法が更に大きく広がった。


「なんで此処に……こんな生ゴミ置き場みたいに臭くて汚れた場所に……ゴウのアニキ(・・・・・・)が居るんだよ(・・・・・・)……!」


「……っ」


「…………………………」


 そこに居たのは死した筈の、ホムラが両親のように尊敬していた、もうこの世に存在が無くなっている──ヒノカミ・ゴウ。その肉体。

 あの魔法人形が複数の遺体から作られたのは分かっている。火の区画からかき集めたモノから作り出した魔法人形なので、混ぜた時にゴウの細胞もあったのだろうと推測も出来る。確実に偽物なのも理解している。もう戻って来ないのも承知している。

 だが自然と奥歯を強く噛み締めてしまい、その歯軋りで歯が痛んだ。目が血走り、ホムラは叫び声を上げる。


「その身体を……ゴウアニキ以外が使うなァァァ!!!」

「ホムラ様……!」


 同時に巨大な闇魔法を展開。複数本を槍のように伸ばし、その全てがゴウを象った魔法人形に向けて放たれた。

 その速度は凄まじく、一つ一つが音速を遥かに超越している。闇魔法の槍とソニックブームによって巨大な邸宅は崩壊し、そのまま前方の山も複数座切断される。

 距離の調整、周りへの考慮。近場への被害。その全てを無視して縦横無尽の闇魔法を放ち続け、辺りは一瞬にして瓦礫の山と化した。


「ハァ……ハァ……」

「ホ、ホムラ……様……」

「……」


 狙いは正面の魔法人形。背後は狙っていない。だが衝撃波によってセイカですら傷を負い、未だ眠り続けている冒険者達にも傷が作られていた。

 普段のホムラならばセイカには絶対に傷を付けない。今はそんな事よりも目の前の、まだ動いている魔法人形が問題だった。

 セイカを一瞥だけしたホムラは生きているのを確認して良しとし、再び膨大な魔力による闇魔法を展開する。


「…………」


「……偽物が……生ゴミが……! 避けてんじゃねえよ……俺が狙ったんだから当たれよ……! 舐めてんのか!? ああ!? 全部死ね……全部くたばれ……全部壊れろ……全部消え去れ……細切れにしてやる……!」


 普段のホムラとは似付かない口調。少なくともセイカは、“あの時”ですらこの様な情緒のホムラを見てはいなかった。

 闇が更に深く、広く、何処までも広がりを見せ、数十キロ四方。野山を覆う。

 ペリエントとメアリーを始末したホムラは、現れた魔法人形に大きな殺意を向けて向き合うのだった。

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