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9ページ目 陰謀

 ──“貴賓室”。


 少し時間を経て、ホムラとセイカの二人が貴賓室に戻った。

 出る時は静かに出たので一応静かに入り、相変わらず賑やかな貴賓室にて過ごす。


「お、戻ってきたか。ホムラにセイカさん」

「戻ってきたようじゃの。主ら」


「「……!」」


 そして当然、ホムラとセイカの動向は両親及び使用人と兵士達に見抜かれていた。

 二人はピタッと止まるように反応を示し、ゆっくりとそちらを向いて小さく笑った。


「やはりバレていましたか」

「お父様方には敵いませんね」


「当たり前よ。今回の主役は主らだからな!」

「その主役が居なければ誰でも気付くさ」


 小さく笑うホムラとセイカに気さくに笑う父親二人。

 一頻り笑った後、イタズラっぽい目で王が訊ねた。


「……して、二人の仲は深まったのかの?」


「ええ、かなり」

「ホムラ様の妻となれるのは光栄で御座います」


 ホムラとセイカは偽りの無い顔で言い、互いに見合って微笑む。

 それを聞き、最初に反応を示したのはホムラの両親。


「当然だな。俺達の息子だ!」

「ふふ、そうね♪」


「いやいや、ワシの娘の寛大さも要因だろう! なんなら主軸じゃな!」

「ホホホ、そうで御座いますわ!」


「「ハッハッハ!」」

「「ホッホッホ!」」


「ハハハ……」

「お父様……お母様……」


 そして、早くも見慣れた光景となった高笑い。

 ホムラは肩を落として苦笑を浮かべ、セイカは頭を抱えて首を振る。

 何にせよ、フラム家とフレア家の縁談は成功を収めるのだった。



*****



「──……フラム家とフレア家……両家の縁談は上手くいってしまったようだな」

「アッ……ハッ……」


「その様ですね」


 とある場所にて、赤い髪。フラム家やフレア家とはまた別家系である太った火の系統者がボロボロの衣服を纏った女性に奉仕をさせながら話していた。

 その口振りからして両家縁談の成功は望んでいない様子。その男性は使用人か部下か、目の手の者に向けて言葉を続ける。


「“四宝者”候補を出す程の“フレイム家”。そして我らの目の上のたん瘤でしかないフラム家とフレア家……この三つの家系は本当に邪魔だな」


「ええ、とても。同じ火の系統として恥ずかしい限りですよ。貴族や王族らしくない。ご主人様は様々なやり方でここまで成り上がったと言うのに」


「ああ、全くもってその通り。流石だ」


 ホムラとセイカの家系。そして“フレイム家”という家系を敵視している様子。

 部下の言うように、様々なやり方。真っ黒な方法で成り上がったタイプのこの者からすれば、確かにその三家は警戒対象だろう。

 部下は言葉を続けた。


「しかし、貴方様ならばその縁談を破談に持ち込む事も出来た筈……如何様の狙いがあって?」


「フッ……簡単な事よ……」

「……!」


 男性は部下の言葉に返しながら立ち上がり、ボロボロの衣服を纏った女性……奴隷の前に金塊を落とした。

 女性の奴隷は今日の仕事が終わったと思い、その金塊に手を伸ばす。男性は笑って言葉を続ける。


「希望から絶望へと落ちた方が、よりダメージは与えられるだろう?」

「ア゛ァ゛ア゛……ッ!?」


 奴隷の手を勢いよく踏みつけ、その手首に杖を当てて炎を放ち、直接焼いた。

 奴隷は絶叫のような悲鳴を上げながら藻掻き苦しみ、何とかして杖を退かそうとする。


「……つまり……」

「クックッ……そうだ……アイツらを使う。アイツらも貴族には不平不満を抱いているからな」

「承知致しました」


 頭を下げ、部下はその部屋から立ち去る。男性は藻掻く奴隷へ視線を向けた。


「フン」

「ガッ……!?」


 同時に奴隷の下腹部を蹴り、無理矢理杖から引き離す。

 同時に露出した状態でその背にのし掛かるよう座り、奴隷の胸の感触を楽しみながら笑う。


「フレア家。フラム家。そしてフレイム家……奴等は邪魔だ……火の系統で上に立つのは余だけだ」


 どこまでも気持ちの悪い笑みを浮かべ、近くの肉を食いちぎる。そしてその残飯が今日の奴隷の食事だ。

 一通り楽しんだ後に全体重を乗せて横になり、奴隷は過呼吸のように藻掻く。


「ァ……ガ……」

「コイツもそろそろ潮時か。飽きてきたし……捨てて下民にでもやるか」


 残飯を頭にぶちまけ、天井を眺める。

 どんな手段をもちいても成り上がる貴族の、新たな陰謀が渦巻いた。



*****



 後日、縁談から数日後。ホムラは家庭教師による受講を終え、いつものようにホムラ、フウ、スイ、リクの四人で集まっていた。


「それで、ホムラ。どうだったの? お相手の方は?」


「とても良い人だったよ。あの人が妻になるのは喜ばしい事だな。血筋とか関係無く、純粋に親しくなりたいと思える人柄だった」


「へえ。王族ってあまり良い噂聞かないから不安だったけど、良かったね。ホムラ」


 婚約者について、フウがホムラへと訊ねた。それにホムラは本音で返す。

 王族だからこそ地位を得る為。他の貴族が全員そうであるように、家族と友人以外の全てがその様な思考を持つ。故の懸念。

 周りがそんな環境で育ったホムラも元々はどんな相手でも婚姻を結ぶつもりだったが、セイカの人柄に惹かれて心から好意をいだくようになった。

 会う機会はかなり少ないが、それでも心から愛する事の出来る女性なのだ。

 その流れでホムラは他の三人に話す。


「そう言うフウもそろそろだろ? スイも後数週間後の筈だ。……リクは俺よりも早く縁談が終わったんだっけ?」


「ああ。俺の相手も良い人だった。俺の身体能力を特に見てくれてな。俺もそれが自信だったから嬉しかったよ」


 この四人の中で、家を継ぐ長男であるホムラとリクは既に縁談を終えており、フウとスイは両者共に後数週間、一ヶ月も無いくらいに控えていた。

 どの家系でも、優先されるのは主に長男。どうしても長女は二の次になってしまうである。

 だからこそ先に長男であるホムラとリクの縁談が終わり、フウとスイはその日を待機している状態だ。


 ちなみにだが、もしもホムラとリクが次男や三男だった場合、その縁談は長女の後になる。それがこの世界の在り方。

 先に生まれた者は多少の差はあれど性別問わず優先される。一番不憫なのは次男や三男。次女に三女など次に生まれてしまった者。名を受け継ぐ事も踏まえ、先に成人する者が恩恵を受けるのは何も不思議な事ではなかった。少なくともこの世界では。


「今のところ二人は大丈夫みたいだね。私は少し不安かなぁ。確かに名のある名家の予定なんだけど……相手が名家だからこそちょっとした事で破談もあるし……」


「私も同じような感じね……男の子は気楽で良いわね。女性である私達は如何に優れた世継ぎを産めるかに掛かっているもの……」


「本番はまだだけど……やっぱりちょっと怖いかな。その日が来るのは……」


 既に円満で縁談を終えたホムラとリクはともかく、フウとスイは陰鬱そうにため息を吐いた。

 女性は男性と違い、子を孕み産むという役目がある。それさえ終えれば後は使用人に任せるので比較的楽だが、出産やその為の期間などに訪れる様々苦痛については学んでいる。だからこそ不安なのだろう。


「まあ、確かに基本的に上流階級の貴族や王族は汚い手も巧みに使って成り上がった人達らしいからな。そこで仕事をしている父さんにそれを聞いたし、あまり期待はしない方が良いかもな」


「俺とホムラの相手も、俺達がかなりの幸運だったからこそ良い人って明確に言えるんだが……お前らはそんな貴族、王族の当主になるような相手だから少し同情しちまうな……」


「同情してくれる友達が居るだけで嬉しいよ。大抵の人達は寄り添ってくれる人が居ないと思うからね。私はどんな人が来ても受け入れるつもり……」


「そうするように教え込まれているものね。どんな人の子供だってお腹を痛めて産む子だもの。産まれた子供に教えるのは周り。歪まないよう、私も愛情込めて育てるわ。気に掛けてくれてありがとう、ホムラ、リク」


 貴族や王族の女性は、セイカがそうであったように相応の“覚悟”を決めなくてはならない。

 何度も話の中に出てきたように、この世界の上層部は基本的に、平均的にクズなロクでなしである。

 しかし“家筋”が確かだからこそ、世継ぎを残して後世へと伝えなくてはならない。それはこの世界では“仕方の無い”事。

 フウとスイも感じているように、他の貴族や親ですら子の心配をしない。自分が成り上がる事しか考えていないからだ。

 その様な境遇を励ましてくれる友人という存在は、フウとスイにとってかけがえのないものだった。


「けど、お父さんやお母さんの伝で紹介される相手……まだ見ていないし、ホムラやリクみたいに“良い人”が来る可能性もあるもんね」


「少しでも前向きに考えるその姿勢、私も見習うわ。フウ」


 今はまだ勝手に決めつけているだけ。なのでもしもの可能性も考えている。

 最悪の場合を想定して現実を少しはまともにしたいという、小さな抵抗。

 しかしそれだけではその日まで精神的に厳しい。なので少しでも幸せを引き寄せるつもりで前向きな意見も残していた。



 ──しかしフウとスイ。二人が縁談を行う機会は今後、訪れる事が無かった。





*****



「……ん? 何だあれ?」


 ──そこから二週間後、街の出入口付近を歩く一人の貴族が遠方に土煙を見た。

 地響きがその場所まで届き、他の貴族達も遠方に視線を向ける。周囲はざわめき、少し慌ただしくなっていた。


「何だ?」

「魔法か?」

「いや……馬か何かが走ってくるような振動だ……」

「一体……何が?」


 何かはよく分からないが、ただ事でないのは確か。

 故に貴族達は各々(おのおの)で杖を構え、まだ遠くにあるそれらへの警戒を高めた。


「……! あれは……!」


「ヒャッハー!」

「皆殺しだァ!」

「ウヒョーッ!」


「や、野盗だァーッ!」


 野盗。山賊や海賊の一種であり、人々から金品や食料、女子供を奪う集まり。

 そんな者達が警備の整った貴族の住むこの街に来る事などあり得ないのだが、しかしそれでも今現在、目の前に現れた。


「全部奪え!」

「女は犯した後に売り付けろ!」

「男と子供も奴隷市場に売れ!」

「抵抗するなら殺しちまえー!」


「迎え撃つぞ!」

「下衆な下民共を高貴なこの街に踏み入れさせるな!」

「生きる価値のないゴミの集まり! 殺処分だ!」


 貴族達の状況判断能力は高い。この世界では貴族も兵士となりうるので当然だ。

 それに加え、入り口付近の貴族達は下級貴族。主に王族や上級貴族に兵として使われる存在。その貴族達の中にも、雇った兵士が居る。層は厚かった。


「火の精霊よ……」

「水の精霊よ……」

「風の精霊よ……」

「土の精霊よ……」


「乗り込めェ!」

「犯して殺せ!」

「アッヒャー!」


 まだ距離はある。詠唱の時間も稼げる。野盗は馬や素足で駆け抜け、貴族達は杖を構えた。


「「「「その力を我に与え、野盗を屠れ!」」」」


「“ファイアボール”!」

「“ウォーターレーザー”!」

「“ウィンドショット”!」

「“ランドクエイク”!」


「「「…………!?」」」


 火球がその身体を焼き尽くし、貫通力の高い水が貫く。風に天高く打ち上げられて落下し、大地によって押し潰された。

 それによる土煙が立ち込めり、地響きはまだ止まない。


「白兵戦だ!」

「「「オオオォォォォ!」」」


「ぶっ殺せェ!」

「「「オオオォォォォ!」」」


 土煙を裂き、先程の攻撃から逃れた野盗が攻め入る。貴族達も武器を取り、迎撃態勢に入った。

 同時に衝突。野盗の槍が貴族の首を貫き、貴族の魔法が直撃する。一瞬にして赤黒い鮮血が飛び散り、出入口付近は血の海と化した。

 何者かの手によって侵入したであろう野盗。その者達と貴族の争いが始まった。

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