序章
──周囲は“凄惨”。その一言に尽きる状況だった。
燃え盛る炎を前に血を流し、多くの人々が倒れている。男は惨殺され、女は穢された後に殺される。
ここは貴族の街、“エレメンタリー・アトリビュート”。そこにある貴族の屋敷。その場所では齢14~15歳程である少年が嘆き悲しみ、目の前の光景に心情を吐露する。
「何でなんだよ……何でいつもそうなんだよ……俺達“火”の系統が何をしたってんだよ……何で俺達だけこんな目に……!」
彼は四つの系統のうち“火”を司る魔法使いであり──火の系統で唯一となった生き残りだ。
たった今、家族を惨殺された。偉大な父は頭を刎ねられ、優しく、美しい母と妹は目の前で凌辱され、涙を流しながら殺された。
屋敷には皮肉にも自身が司る系統の火を放たれ、使用人。先生。その他の関係者全員が死亡。親戚や火の系統の友人。その全ては磔ののちに殺害。当然、女性は漏れなく欲求を満たす為の道具として扱われている。
「ふざけるな……何が貴族だ……何が魔法使いだ……殺されたら意味が無いじゃないか……! 一層の事俺も殺してくれれば良かったのに……! 神という存在が本当に居るなら……俺はその神を滅ぼす……!」
その深い悲しみは徐々に燃え上がる怒りとなり、黒く深い、底の無い闇となる。少年の周りの火は姿を変え、黒炎となって周囲に広がる紅蓮の炎を飲み込んだ。
「……殺してやる……苦しめて……苦しめて殺す……! 俺をこんな目に合わせた全ての存在を……“悪”を……! 神を……! 徹底的に……徹底的に排除する……! 俺は全てを許さない……!」
悲しみ、怒り、怨み。負の感情を背負い、家族の唯一の形見である杖とローブを身に付け、闇の炎によって凄惨な周囲を優しく包み込む。
黒髪の少年は復讐を心に誓った。
*****
──とある貴族の家に一人の子供が産まれた。
性別は男。この貴族の長男となる存在であり、今後この家を継ぎ、背負う立場になる者だ。
「ふふ……産まれてきてくれてありがとう……私達の天使……」
「ああ……! お前も頑張った……! 辛かったよな……!」
「そうでもないわ……この子との出会いがあったんだもの……それに比べたら過ぎた痛みなんて軽いものよ……」
たった今出産を終えた母親は疲弊しており、火照った身体を冷ましながら眠る赤子を優しく撫でる。
その小さな手を父親と母親は握り、互いに顔を見合わせてにっこりと笑った。
「この子は何れ、フラム家を背負って立つ存在になる。……けど、そんな一族のしがらみより、この子が素直に幸せと言える人生になって欲しいな」
「ええ、そうね。人生で辛い事や悲しい事。嫌な事も多く経験するでしょうけど、今の私達みたいに、嬉しい事も沢山経験して欲しいわ……」
「いつどんな時も……この子が産まれた瞬間から、俺達はこの子の幸せを願う」
炎魔法を扱う火の系統、“フラム家”。
この世界では系統ごとに魔法使いの貴族がおり、フラム家はその中の“火属性”に分類される一族。
系統は大きく分けて四つあり、それぞれ“火”・“水”・“風”・“土”の世界を創製したエレメントが基盤である。
それぞれに特徴もあり、火の系統を扱う貴族は全員が赤やオレンジの髪に同色の目を持ち、水の系統は青や水色。風の系統は緑や黄緑の髪と目で土の系統は黄色や茶色の髪と目を持つ。
たった今産まれた赤子とその両親も火の系統らしく赤髪赤目であり、何れも美男美女と言った夫婦だった。
そんな、新しい命。家族の誕生の喜びを噛み締める二人は赤子の寝顔を見、その名を付ける。
「この子の名前は……──ショーラルク・ヌル・イースクラ・ホム・ライト・フラム────シラヌイ・ホムラ。……よろしくね。私達の宝物」
名をショーラルク・ヌル・イースクラ・ホム・ライト・フラム。
フラム家の姓を背負い、貴族としての長男である将来の当主。
この世界では“名”が重要であり、貴族は基本的にその名を悪用されぬ為、今の“シラヌイ・ホムラ”などのように別名を持っている。
「お前はきっと、偉大な存在になるぞ。ホムラ! なんてったって俺達の子供だからな! 偉大にならない筈がない!」
「ふふ、プレッシャーになるわよ。その言い方。負荷は程々で良いのよ、ホムラ。貴方が幸せなら、それで良いの」
ホムラの両親はその成長。未来に思いを馳せ、今一度互いに見合って笑う。
ここにまた一つ、新たな命が生まれ、少年の物語が始まった。




