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「いい? アキくん? 合図したらわたしのムネをギュッとするのよ」


 強い向かい風に髪をなびかせて、振り上げた二つの腕で杖を掲げて夜舞量子(ヤマイリョーコ)さんは言う。


 ギュッて何だ?

 ハイッ! っとかわいらしい彼女の合図で事前の説明通りに彼女の両の乙πを正面から鷲掴みに、実際はその型を模した両の手のひらを恐る恐るフィットさせるように、術儀行使する。

 そこのキミ! キミが男であるか女であるかはどうでもいいのだけれど、乙女の乙πを触ったことがあるかいっ?

 本能が交感、理性が副交感? 惑う神経が指を動かすにつれ、ふんわりするものと予期していた触感が、制服の下のやや固めの下層胸帯に阻まれ、ある閾値を超えてポコッと指がめり込む。そのまま内部の核に圧を加えることがこの術儀の要件である。癌の触診か。むにゅっ。


 ガスッ!


 頭部に加減のない打撃を受けて似詩緒(ニシオ)アキは意識を失う。いや、覚醒した。


挿絵(By みてみん)


「うおっ! ごめん! ってあれ?」

「殴って謝られてちょっとおもしろいんだけど(笑)。いいとこ邪魔して悪いわね。さ、行くわよ」

「何? え? 行く? いいとこって、え? 見てたの?」

「人の夢って見られるものなの? ふふ。頭大丈夫? さあ来て」


 その大丈夫でないアキの頭を殴打した量子さんが颯爽と歩き出す。サラッと黒髪は長く、すらっと脚も長い。キュッと上向きに締まった臀部がえも言われぬカーブを描いて折れそうなほど細い腰のラインに繋がっていく。ぐぅ。


 教室を出て廊下をスタスタと歩いて行く量子さん。アキは後を追いながら午睡から覚醒していく。行き先で量子さんに講釈を受けるという展開になるんだけど、彼は誰でどこから来てここはどこなのかとかはまあおいおい。木造のギシギシいう廊下を二人は行く。窓の外は夕焼けな感じ。木造校舎の窓から結構遠くまで遮るものなく見える夕焼けの風情。


 アキの目から見た量子さんというのは、これまたかなり変わった人物である。まあ変人。よく聞く言葉で言えば中二病? とにかく言葉づかいが大げさで語彙が仰々しい。こっちにわからないから大丈夫だと思っているのか、自分で創作した単語を混ぜて使ってるフシもある。何でも自分は人生三周目とか真顔で言ってるあたり頭大丈夫なのかかなり心配。

 でもアキは彼女の言うことは正しいと思っている。何故か説得力がある。話のつじつまが合っている。ものすごく(妙な)知識がある。


「英語の“nice”ってね、もともとはいい意味じゃないの。気難しいとか繊細だとか気取ったとか。皮肉な表現が肯定に転じたのね。書き言葉では使わないほうがいいわね

「アカウンティングは過去を正確に記録する技術。ファイナンスは記録から未来を予測する技術。ファイナンスは上位互換なのよ」


 何を言ってるのかよくわからない。

 知識だけじゃなくてまだ人類が解明していない事柄ってあるじゃない。そういったものについての推測が、これがまたすごく的確というか、既知の知識を組み合わせて立てた推論がめちゃくちゃ的を射てるのである。少なくともアキにとっては。この後の講釈でそれにますます感心することになるのだけれども。


 いやまあそんなことよりも、とにかく量子さんはかわいいのである。美少女なのである。先の描写の通りのすらっとした肢体にさらさらに輝く長い黒髪。白なのかかすかなピンクなのか透明なのかわからないきめ細かい肌。微かに色づいた淡くて柔らか(そう)な唇。大き過ぎないくりくりとしたキラキラした瞳。太くなくキリッと意思の強いよく動く眉。そしてちゃんと出てはいるが無駄な大きさではない知的なサイズ(謎)のムネ。ああもうパーフェクツ。奇跡の合従に出会えて心から何かに感謝。日々をウキウキせしむる存在のありがたみ。


 一階へと階段を降りて廊下をギシギシ進んで折れて進んでアキのまだ知らない一角へ。いかにも理科室といった教室の入り口に部活の表札がある。


『宇宙物理病理学部』


「どこ大の何学部だよ!」



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