御屋敷隠れん坊
こちらは夏のホラー2021参加作品です。
残酷描写が少しあります。(そんなに強く無いかもですが…)
ホラーって難しい…。
俺は、俺はただ、華子と森林浴をしに来ただけなのにどうしてこんなことになったんだ。
俺、汰郎は華子と付き合って7年になる24歳の社会人だ。社会人になってからはもう4年ほどだが、なんとか出世することができ、今働いている会社で、支社から本社に移れることになった。そういうこともあり新しい街に引っ越してきたのだが、連日の引越し作業によって疲れてしまった。
しかし、新しい街は自然が多く、西の方に位置する森も人気のウォーキングコースになっている。その為、街の散策がてら森林浴をすることにしたのだ。
引越しの手伝いのために来てくれている華子も誘ってみたら一緒に行こうということになり、歩いて30分くらいの森までやってきた。
最初は良かったんだ。木漏れ日の中、街の喧騒から離れた森を彼女とリラックスして歩けて。
他愛もない話をしながらしばらく森を散策していた。
しかし、ふと会話がどちらともなく止まり、気がつくと、いつの間にか木漏れ日も差さない鬱蒼とした場所に来てしまっていた。
どこからともなく生暖かい空気が漂ってくる。
なんだ、ここ…さっきまでは感じなかったのにすごい暗い…
そうだね…私も全然気づかなかったけど、なんか気味悪くなってきた。
なぁ、華子。もうここら辺で帰ろうか。
うん、そうしよう。もう十分気分転換出来たし私も帰りたい。
そうして俺らは元来た道を戻ろうとしたのだが。
ねぇ。汰郎、ここさっきも通った気がするんだけど。
そ、そうか?そんなことないと思うぞ…。
ほら、あっちの方だったと思うし行ってみよう。
と、その時。
きゃっ。
ドサッ。
華子の声がしてなにか大きな物が倒れ込む音が聞こえた。
華子?どうした、華子?
彼女からの返事はない。
嫌な予感がして後ろを振り返る。
俺の視線が捉えたのは、倒れている華子だった。
華子っ!大丈夫か!
後頭部から血が出ている。なにか鈍器で殴られたかのようだ。でも、俺たち以外に人はいなかったはず…
俺ははっとして辺りを見渡そうとする。しかし。
その瞬間ドガッと、何かが俺の頭に振り下ろされる。避けることも出来ず俺はそれに直撃し意識を失う事となってしまったのだ。
かーくれんぼするものこの指とーまれ。
でないとお家に返さないー
ねぇ、早くしてよー
みんな待ってるんだよ?
ねぇ、ねぇ
ぬぇーー
はっ。はぁ、はぁ。
とんでもない悪夢を見てしまった。
目を覚ますとそこは、壊れた家具が散乱する部屋の中だった。
俺は唯一壊れていないソファに寝かされていて、部屋の中は明るい。
頭が少しズキズキと痛む。
なんだ、ここ…
身体を起こす。
すると、なにかの紙が俺の腹の上から落ちた。
ん?なんだろう、この紙…
なにか文字の書いてあるその紙を拾い上げる。
目ェ覚めた?なら楽しィ楽しいかくれんぼ始めよう!キょう隠れてる人は5人、制限時間は大広間の時計が12時ぴったりになるまで 鬼はちゃんと全員見つけられなかったら、僕と一緒にュめの様に楽しい遊び沢山してもらゥからね!ニげることはゆるさない、カエサナイ。
かく、れんぼ?
なんだそれ…子供のいたずらか。
そして、華子はどこにいるんだ。
同じ部屋に華子は居ない。そんなに遠くにはいないという予感はするが、何しろ彼女は怪我をしているし容態が心配だ。
探しに行くしかないか。
寝かされていたソファから降り、部屋のドアを開ける。その先は広い廊下だった。しかし、今居た部屋よりも薄暗く荒廃していて、ところどころ壁紙が剥がれていたり、床板が抜けているところがある。恐らく使われなくなってしばらく経っている建物なのだろう。かなり危険だ。
早く華子を見つけてやらないと。
華子ー、華子ー!
いるなら返事してくれー!
声をかけながら廊下や色んな部屋を見る。しかし返事は一向にない。ここには居ないのか…?
と、その時だった。
ぽんと肩に手を置かれる。華子かと思い振り返るとそこには、
やぁ、やっと、見つけたよ。
君もこのお屋敷のかくれんぼの参加者だろう?僕もなんだ。
ねぇ、もし良かったらでいいんだけど、隠れている人を一緒に探してくれないか?
知らない男がいた。髪の毛が白く、赤いパーカーを着ている。
…あんたは誰だ?かくれんぼってなんだ、俺は参加してる覚えはない。
そうなのかい?
でもこの屋敷に来る人は皆、かくれんぼの参加者ってことになってるんだ。紙を見なかったか?
紙?
そうそう、たまにカタカナの混じっている、子供が書いたみたいな字が書かれてる紙だよ。
あれが配られている人は皆このかくれんぼに参加してることになってるんだ。
…俺は知らないぞ…
それよりも今俺は探さないといけない人がいるんだ。悪いんだが、協力することは出来ない。
ねぇ、君の探している人って、華子って言う人なの?
だったらなんだ。
その子、かくれんぼの参加者だよ。ねぇ、僕も一緒にその子探すよ。そういうことだったら協力してもいいでしょ。君も早く帰りたいんじゃないの?
男は有無を言わさずこちらを協力させようとしてくる。しかし、華子を早く見つけて帰りたいことは事実だ。
わかった。協力するよ。
ありがとう!助かるよ。じゃあ、僕はこの下の階を探すから、君はここと、上の階を探してもらえるかい。頼んだよ。見つけたら僕にも教えてね。
そう言って男は立ち去ろうとする。
あ、待って、待ってくれ。
男を必死で引き止める。
ん、何かな?
華子は怪我をしているんだ、見つけたら手当してやりたいから教えてくれ!
…あぁ、わかったよ。
男はそう言って、下の階に降りていった。
返事をする前、男が一瞬不機嫌そうな顔をしていたのはきっと気の所為だろう。
華子探しを再開する。
正直いえば、俺にとっては華子が見つかれば直ぐに帰りたいのだ。かくれんぼなんて本当はどうでもいい。
隠れている人は見つかったらでいいだろう。
華子ー、華子ー?
先程と同じく声をかけながら廊下を歩いたり、部屋の中を覗いたりする。
そして、とある部屋に差し掛かった時。
ガタッ、ガタッと何かが動く音がした。
華子?
ガタッ。
間違いない。この部屋には人がいる。
部屋の中にはクローゼットが1つ。隠れているならきっとそこだろう。
カツカツとそこまで歩み寄り、クローゼットを開けた。
イヤッ!!開けないで!やめてぼくを殺さないで!!
怒涛のようにまくし立てられ呆気に取られてしまった。耳がキーンとする。どうやらクローゼットにいたのは少年のようだった。
耳鳴りが落ち着いてから少年に問う。
君は誰だ?君もかくれんぼの参加者なのか?
少年はブルブルと震えながら体育座りで頭を抱えるばかりでこちらの話を聞いていないらしい。
なぁ、大丈夫か。
俺は別に君を殺したりしないよ。
人を探してるんだ、ちょっと落ち着いて俺の話を聞いてくれないか。
そう言ってようやく少年はこちらを見た。
お兄さん、鬼じゃないの?ぼくを殺しに来たんじゃないの?
けれども、やはり少年は怯えた様子でこちらを警戒している。
鬼じゃないよ。ただ恋人を探しに来ただけ。
君はどうしてここにいたんだ?
ぼ、ぼくは、気づいたらこのお屋敷にいて、知らない人に今から隠れないと殺されるっておどかされて隠れてたの。見つけたらお家に帰さないって言われて、すごい、怖かった。最初にいた部屋で殺された人もいてっ。
少年の目から涙があふれる。余程怖かったみたいだ。
そうか、それは怖かったな。
頭をぽんぽんと撫でてやると安心したのか本格的にしゃくりあげて泣きはじめた。
お兄、さん、あのね、ぼくのこと、絶対鬼の人に教えないでっ、死にたく、ないぃぃぃ
わかった、わかった。絶対教えないから、ほら泣くのやめよう。落ち着いて。
う、うっ、うん。わかった…
ねぇ、お父さんとかお母さんとかはここには居ないのか?
いない、よ。ぼく一人で公園で遊んでたらいつの間にかここにいた。
そっか。それとあと一つ質問なんだけど、途中で長い髪の黄色のシャツを着たお姉さん、見なかったか。
うん…見たよ。僕と一緒に途中までいてくれた、そのお姉さん。このクローゼットの扉も閉めてくれた。
そうだったのか、そのお姉さんどこ行くとか何か言ってなかったか?
うーんとね、確かね、ハンカチ濡らしたいからトイレに行ってくるって言ってた気がする。
わかった。ありがとう。
うん。
俺、ちょっとそのお姉さん探しに行ってくるな。
制限時間内に見つからなければ大丈夫だからな、頑張れよ。クローゼットの扉は閉めて行くか?
うん。お願い。
キィー、カチャッ。
部屋の外に出る。
トイレか…
この屋敷、結構古そうだし水は通っているのだろうか。
それに、鬼か…見つかった人を殺す、か。最初に殺されてしまった人がいるらしいし、少年の反応からしてかなり危険な人物だと思われる。
この屋敷からは早く出た方がいいという考えは益々強まった。
とりあえず、トイレを探してみることにしよう。
もしかすれば手がかりがあるかもしれない。
しばらく歩いてトイレっぽいドアを探す。
そして、階段の隣、ようやくトイレを発見した。
ドアにTOILETと書かれたプレートがつけられている。
開けてみると中はトイレにしては広く、酷い悪臭がするでもなく思っていたより綺麗だ。
しかし、鉄臭い匂いが鼻を弱くかすめる。
薄暗くてよく分からなかったものの、奥にある便器とその壁が何かで汚れているようだ。
鉄のような匂いからして何で汚れているかは一目瞭然であった。
まさか本当に見つかって殺されてしまった人がいるのか。
背筋がすーっと冷えていくのを感じる。
でもこの血痕は新しいものではない。だからきっと彼女のものでは無いはずだ。
そして彼女もここにいない。
ならば長居は不要だ。
1つ下に降りよう。
そのまま横の階段を降り、同じくTOILETと書かれた扉を開ける。
だがそこにも華子はいない。
もう一つ下の階へ降り、トイレのドアを開ける。
そこには、
汰郎!
俺のずっと探していた人がいた。
華子!大丈夫だったか!
しっ!静かにして。あいつが来ちゃう。
華子は人差し指を自分の口に当て、静かにするように促した。
ご、ごめん。つい。頭の怪我は大丈夫か。
大丈夫。なんともない…うっ。
平静を装おうとしてそういったのだろうが、その直後に華子は蹲ってしまった。
具合が悪いのか。
ごめん、実はここに来てから目眩がしてて、たまに立っていられなくなってしまうの。
気にするな。ここから早く出よう。俺がおぶって行くから、病院に行こう。
と、そんな会話をしていた時、
ねぇー、そこに、誰かいるの?
あの男の声がした。
ひっ。
華子が息を飲む。
あいつだ。あいつだ。殺される。と怯えている。
華子のこの怯え様からして恐らく、鬼は男の様だ。
参加者である彼女を出すのは絶対に危ない。
ならば俺が代わりに出てあいつを遠ざけるしかないだろう。
意を決して華子に言い聞かせる。
華子、死角になる位置で静かにしててくれ。
俺が何とかしてくるから。絶対大丈夫だから。
華子は信じられないという顔をしていたが、ぽんぽんと肩を叩くと、頷いて死角に隠れた。
ドアを開ける。
すまん、俺だ。
…なんだ、君か。なんでこの階にいるんだ。
いや、上の階を探していたら物音がしたから誰かいるのかと思って見に来ただけなんだ。
それで?何かいたの?
特にいなかった。
物音がしたのに何も無いなんてことあるのかな、誰かいるんじゃないの?
い、いや、そんなことはない。本当に誰もいなかったんだ。
男はふーん。と言いつつもトイレを覗き込もうとする。
危ない、ここで入られてしまったらこいつは間違いなく華子を殺すだろう。
ほんとうに、誰もいない?
男の目が俺の目をじっと見る。その視線によって俺は答えを言い淀んでしまう。まるでメデューサと目が合ってしまったみたいだ。
僕もこの中見てもいい?
俺の横を鬼が抜けて行こうとする。
男の手が扉を抑えていた俺の腕に触れた時だった。俺ははっとして、
だめだっ!
と男の身体を押し返した。
なんだよ。なにかダメな理由でもあるのか?
男が怪訝そうな顔でこちらを睨む。
い、いや。ここはさっき、俺が用を足したあとなんだ、見てもあまり気持ちのいいものじゃないからやめた方がいいと思うぞ。
…あっそ。じゃあいいや。僕他のところ探してくるよ。君も、何か見つけたら教えてくれよ。
あ、あぁ。
そう言って男は意外とあっさりと諦めて、
あ、ねぇ、君、今回は見逃してあげるけど、次僕のこと邪魔するなら君のことも容赦しないからね。
去っていった。
生唾を飲み込む。
奴は、気づいている。俺が何かを隠していることに。
そして俺はあの男はかなりやばい殺人鬼であることに気づいてしまった。
やはり危険だ。
ここから華子を連れて早く脱出した方がいいことには変わりはない。でも、俺には一つ気がかりなことがある。あの少年のことだ。
あの少年も一緒に連れて行ってあげたい。残り時間は分からない。だけど、華子を見つけられたのは彼のおかげだし、あんなに怖がっていたのにこの場所に少年1人残していってしまうのはとても可哀想だと思ったからだ。
もしかするとそんなこと言ってる場合では無いかもしれないけど、やはりあの怯えた表情が頭から離れない。
そんなことを考えながら、華子のいるトイレに戻る。
華子、大丈夫だったか。鬼はなんとか追い払った。
なるべく落ち着いた声で華子に鬼を退けたことを伝える。
そ、そう。
しかしまだ、華子の声は震えていた。
華子、大丈夫だから。
少しの間、彼女の背中を撫でて落ち着かせていた。
呼吸が落ち着いてきた辺りで話を切り出す。
なあ、華子。こんな状況で悪いんだけど俺、一緒に外に連れて行きたい人がいるんだ。聞いてくれるか。
腕の中にいる彼女が顔を上げた。
ここから2階分上がったところにいる10歳くらいの男の子だ。子供がここに一人でいるのは危険だと思う。華子、手伝ってくれないか。
華子の手を握りながら話す。
返事が返ってくるまで長い時間があるように思えた。けれども。
…いいよ。ねぇ、その子ってクローゼットの中にいた子のことでしょ?
彼女は誰のことを言っているのか、すぐに当ててみせた。
そうだ。君がいるところも教えてくれた。
そっか。あの子か。じゃあ助けに行ってあげないと。いいよ。私も行く。
ありがとう。
目的を共有し少年の元に向かうことを決めた俺たちはトイレから出ると横の階段を2階分上がった。
やはり鬼はまだ下を探しているらしく、少年のいる部屋に辿り着くのはそんなに難しいことではなかった。
クローゼットをノックする。
俺だ。開けるよ。
カパッとクローゼットを開けると、少年は変わらずにそこにいる。
お兄さん、また来たの。あ、お姉さんもいる。
見つかったんだね。
うん。おかげさまで、ありがとうな。
うん!あっ。鬼の人がっ
少年は思い出したかのように手に口を当てる。
大丈夫。今は下の階にいる。しばらくは来ないよ。
あのさ、俺達、君に一緒に外に出ないかっていう提案をしに来たんだ。サポートはする。どうかな。
えっ…
少年は迷っているようだった。そりゃそうだ。こんなに急に話をされても、鬼に見つかるかもしれないリスクを犯してここを出るのと、制限時間内をやり過ごすのはどちらがいいかを決めるのは難しいだろう。
けどどちらにしても外に出られる保証はない。ますます難しい。
そこへ華子が続ける。
大丈夫だよ。こっちには大人が2人いる訳だし、絶対に外に連れて行ってあげるから。一緒に来て。
絶対に外に連れていく。
その言葉を聞いた少年はかなり揺らいだようだ。
下を向いたまま、じっと考え込んでいる。
5分くらい(実際はそんなに経っていないのだろうが)そうして、少年はやっと俺たちの顔を見る。
…わかった。じゃあお兄さん達と一緒に外に出る。
ぼく頑張る。
ありがとう。
よし、じゃあ俺が先に出入口の様子を見てくるから、その後行けそうなら呼びに戻る。そしたら出入口になるべく近い階段を使って、そのまま外に出よう。
俺が戻ってくるまで2人はここで待っていてくれ。
それを聞いて華子が心配そうな顔をする。
危ないよ。汰郎、私も一緒に…
華子は、あまり体調良くないだろ。それにこの子と一緒にいてあげてくれ。不安になるだろうから。
彼女ならきっとそう言うだろうと何となくわかっていた。でもそれを遮るように言葉を投げかける。
……わかったよ。すぐ戻ってきてね。
階段を3階分下に降りる。幸い、奴は近くにはいないようだ。
階段を降り切れば、出入口は15m程先にある。
足音をさせないように近づく。
手をかけた扉には鍵が、かかっていない。
意外だった、怪しいくらいに。
でも今はこれに縋るのが1番早い。
ノブも回ったし、少し開けた扉の先は普通に外のようだし。これなら逃げられる。やった!
と思ったのも束の間だった。
近くで泣き声がする。
鬼に捕まった人がいるようだ。俺は咄嗟に扉の近くにあった置物の影に隠れる。
痛い、痛いぃ、髪の毛引っ張らないでぇぇ…
女の人だ。
華子では無い別の女の人。
うふふふ。みぃつけた。
ここら辺でいいかな。
ねぇ、どこから痛ぶってほしい?
嫌だ、死にたくない、死にたくない。逃がして、逃がして!!
あー…うるさ。やっぱ気が変わった、すぐヤろ。
女の人に何かが振りかぶられた。
キャーーーー!
グシャッ。
何度か振りかぶられる動作が繰り返される。
惨い…
やがて鬼は女の人が動かなくなったのを見て飽きたのか、凶器をしまった。
今度は足を持ってどこかへ連れて行く。
そして、立ち去る前に独り言の様に
もう、いいか。かくれんぼには飽きてきたし、いい顔するのも疲れて来た。残ってるやつぜーんぶ殺してしまおうか。 はっ、はははっ。
と笑っているのが聞こえてしまった。
これはまずい。早く行かないと2人が見つかってしまう。
鬼が近くにいなくなった隙に階段を駆け上がる。
頭がまたズキズキと痛みだす。息が切れる。苦しい。
それでも全力で3階分階段を上がりきって、2人の元へ向かおうとした時。
鬼が2人の元へと向かっていく後ろ姿が見えた。
思っていたより早い…!
止めないと、とは思っていても身体は強ばってなかなか動いてくれない。こうしている間にも鬼は2人のいる部屋のドアへと辿り着き、手を掛ける。
そのままゆっくりとドアを開けた。
いやーーー!!
2人の悲鳴廊下にこだました。
それでからやっと俺の身体は動くようになる。
立ち止まってる場合じゃない!
廊下を全力で走り、2人のいる部屋へ突っ込む。
そのまま、鬼にタックルを食らわせた。
不意に攻撃を受けたことによりバランスを崩した男の身体は床に倒れ込む。
男が怯んでいる隙に俺は唖然としている2人の腕を何とかとり、駆け出した。
早く!!このまま脱出するぞ!
叫ぶように言って2人はやっと我に返ったのか、走ることに集中するようになった。階段をかつてないスピードでかけおり、出入口まで走る。
あと10メートル…!
扉まで走りきり、華子がそれを開けようとする。
しかし、扉はガチャガチャと音を立てて開く気配がない。
華子はパニックを起こしてしまい、混乱している。
ねぇ、ねぇ!開かない!開かないんだけど!!
汰郎!汰郎助けて!
正直俺もなんでさっきは開いたはずの扉が開かなくなっているのか分からず、気をやってしまいそうだった。きっと空回りしてるだけだ。俺が開ければきっと開く。そう思いたくて華子からドアノブをひったくった。
華子、落ち着け!俺が開けるから貸してくれ。
でも扉は開かないままだ。
もうこうなったら扉をぶっ壊すしかない。
少し助走をつけて何度か扉に体当たりをする。
開いてくれ!開いてくれ!
…ねぇー!君たちいつまでそこにいるの?
はっ。
あの男だ…!もう来たのか。
その扉はね、僕が近くにいないと開かない仕組みなんだ。
今だったら開くよ?
でも、全員は逃がさないけどね。
扉に手をかけようとした俺に向かって、鬼は何かを投げてきた。
それは見事に俺の腕に命中し、刺さった。
あっ、ぐ…
衝撃によって遅れた激痛がじわりと精神を支配していき、耐えきれず俺は蹲った。
汰郎っ!
華子が驚いて俺によってくる。
と、そこへ彼女を掠めて何かが再び飛んで来た。
キャッ!!
間一髪誰にも当たらなかったそれは扉に突き刺さった。
包丁のようだ。多分俺に刺さったのと同じもの。
痛みに耐えながら何とか足に力を入れて、2人だけでも先に逃がそうと男の投げてくる包丁を防ぐ様に立ち塞いだ。
2人ともっ…!俺があれを防ぐから先に扉から外に出るんだ…!
そんなっ!嫌っ!汰郎!汰郎!!
涙を零しながら華子は叫んでいる。
これでは全員が逃げられなくなってしまう。
俺は大丈夫だから。お前たちが逃げたのを確認したら後でちゃんと追いつくから。
先に逃げてくれないと俺も逃げられないんだ。先に行ってくれ。
強い口調で華子を諭す。
汰郎が一緒に来ても逃げられるでしょ!
3人でないと嫌っ。
俺らは2人とも万全の状態じゃない、ならどちらかがここで足止めしないと後に追いつかれてしまう。
子供もいるのに、それは困るだろっ
お願いだから、その子を連れて行ってあげてくれ。
最後はほぼ懇願であった。
でも揺らぐことない俺の意思に華子は根負けした様で、
……わかった。後でちゃんと来なかったら許さないから。
と、涙をふいて少年を外へと連れて行った。
ガタン、と扉が閉まる。
ふ、ふふ。あーあ。逃がしちゃったか。
勿体ないなー。
まあいいか。
じゃあ、お前だけでも絶対殺ってあげるよ。
男がゆっくりと俺に向かってくる。
じわりじわりと追い詰められて、壁に背中がぶつかった。顔の真横の壁に刀が突き刺さった。
そして男が俺の耳元でこう囁いた。
ねぇ、あの出口、ほんとに外に繋がってると思った?
…は。
まさか、外につながっていなかったのか?
でもさっき見た時は普通に森の中に繋がっていたはず…
汗がたらりとこめかみを伝った。
じゃあ、2人は、今一体どこに。
2人はどこに行ったか、だって?
さぁ?今頃、屋敷の庭を通って正面玄関からまた入ってきてるんじゃないの?知らないけどさ。どうせ逃げられない。
俺は絶望した。
さあ、かくれんぼもこれで終わりにしよう。
さようなら。汰郎くん。
絶対に、カエサナイ…
俺に向かって何かが振り下ろされる。
もうダメだ…
それが頭蓋にあたった感触を最後に、俺は意識が途絶えた。
かくれんぼはオワラナイ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回、自分の書いた短編の中では文字数が1番多くなりました。
実は前にも投稿したのですがテーマを合わせるのを忘れてしまい新しく書き下ろしています(汗)