第三十九話 プラチナム・ルシファー
カイナから貰った一粒の錠剤を飲み込み、マオは勢いよく施設の外へ脱出した。
──この薬はセネス病の力を活性化させる。
──どうせなら治る薬が欲しいんですけどね。
──使ってくれたら次に繋がる。治す薬に発展するかもしれない。
──けど……。
──使うかどうかは君次第だよ。
五分前、カイナとの会話を信用してよかったものか、と今さらながら思う。
考えなく薬を飲んでしまったのをマオは後悔する。
「…………でっかいな……」
焦げ臭いにおいにむせながらマオは目の前に佇む真紅の魔獣ジーグレイツの姿を見上げる。
いくらセネス病で身体能力が向上すると言われていようとも、巨大怪獣なんて訳のわからないものと戦えるわけがない。
「まず止めなきゃいけないのは、ダイ君か……」
小学生時代の親友だったはずなのに彼女とはいつから会わなくなったのだろう、とマオは考えた。
それに結び付く一つの事柄は、やはりセネス病だ。
すべての問題点。
朧気となっている小学五年生前後の記憶。
そして夢の中で見た女性。
「……僕は、魔王…………うっ!?」
何かが頭の中で繋がりそうになるのを妨害するかのように、マオに異変が起きた。
立っていられない程の目眩と身体が妬けるように熱くなる感覚がマオを襲う。
「あ……は、あぁ……何が起こって……うっ……が、あぁぁぁぁっ?!」
いつも以上に激しい苦しみを味わい、悶え叫ぶマオ。
血液が沸騰しているかのように身体が熱い。
もしかして死んでしまうのではないかと思ったその時、マオの身体は突如、閃光する。
「…………アカ、リ……姉ちゃ…………」
朦朧とする意識の中で、マオは光の中に浮かぶ人影を見る。
必死に手を伸ばしてみるも、その意識ごと光に飲み込まれてしまった。
◆◇◆◇◆
マオの救うべくYUSAコーポレーションの研究施設の近くまでバイクに乗り辿り着いたミツキ、レフィ、アユムの三人。
トウカがマオを助けるのに怪獣を使うと言うのはわかっていた。
しかし、真芯市外で巨大ロボットを持ち込むのは許可出来ない、ミツキとアユムは親を説得できなかった。
ならば、怪獣が暴れている隙に建物の中に潜り込んでマオを救出できないかと考えていた。
だが現在、新たな問題が発生しているようだった。
「な、なんなんだよありゃあ!?」
裏返った声でアユムが言う。
遠くから三人が見ているものは魔獣ジーグレイツと戦う巨大なロボットの姿だ。
「あれは……マオウ、だよ」
「……はぁ?! あれがマミヤン!?」
驚くアユム。
ミツキから“マオウ”と呼ばれたロボット。
ミツキ達の操るライトニングやザエモンの倍はある大きさで、光り輝く装甲に包まれた白銀の装甲を持つ鎧巨神。
マオウは突撃する魔獣ジーグレイツの攻撃を正面から受け止める。
棒立ちで魔獣ジーグレイツから繰り出される執拗な打撃のラッシュを受けてもマオウは怯まず、白銀の装甲は傷一つ付かない。
「冗談でしょ?! 人間が巨大化するわけないじゃんか!」
「いや、マオが巨大になったわけじなくて……」
攻守交代とばかりにマオウは反撃する。
魔獣ジーグレイツの特徴的な頭の二本角を掴む。
体格的にマオウの方が頭一つ分は小さいがパワーは計り知れなく、魔獣ジーグレイツをぐいっと持ち上げて地面に何度も叩き付ける。
「マミヤン、行けー! 勝てぇー!」
応援するアユムの方を一瞬、マオウが向いた隙を狙い、魔獣ジーグレイツは角から電撃を放出した。
だが意に介さずマオウは電撃が迸る魔獣ジーグレイツの角を握り潰し、垂直に天高く蹴飛ばした。
「スゲェ……あれがマミヤンの力かよ?」
「…………マオ」
圧倒的な力を見せつけるマオウに見とれるアユムと心配するミツキ。
マオウは空に舞い上がった魔獣ジーグレイツを見上げると口を覆うマスクが開く。
人のような顔を露出したマオウは大きく開いた口で思いきり息を吸い込むと、口内から目映い光を溜めていく。
「……いけない、みんな耳を塞いでっ!!」
焦ったように言うミツキからの言葉にアユムとレフィが咄嗟に両手で耳を押さえる。
次の瞬間、マオウの咆哮と共にビームが吐き出された。
真昼の天気に目を開けていられないほどの閃光。
耳をつんざく強烈な衝撃波は、周辺約五キロメートルの建物を震わせる。
真正面からマオウのビームを食らった魔獣ジーグレイツは、光に飲み込まれて跡形もなく消滅した。
「やったか!? やったんだよなミツキィ!」
「そうだね……」
魔獣ジーグレイツを消滅させたマオウは動きを止め身体をうつ向かせると、まるで風船の空気が抜けるかように光を放出させる。
次第にマオウは小さくなっていき、ゆっくりと地面に落ちた光球が弾けて消えるとマオが吐き出された。
「マミヤンだ! 早く助けに行こうぜ?」
「あ、うん」
ミツキとアユムはマオの元へ駆け出す。
しかし、ただ一人レフィだけは燃え盛るYUSAコーポレーション研究所を眺めているだけだった。




