第二十七話 走馬灯に映るマオウ
マオたちの行く手を塞ぐ敵。
サングラスの奥で赤い光が怪しく点滅させる全身、黒ずくめの女性は先日、学校の屋上に現れた時と同じ服装をした女アンドロイドだ。
『対象発見。大人シク降伏セヨ。対象発見。大人シク降伏セヨ』
「くそぉ、こんなところで」
「真宮くん、ボク怖いよ……」
恐怖に震えるトウカがマオの腕にしがみつく。
「…………えっ……?」
『まお・まみや。貴方ハ世界ヲ救ウ特別ナぱわーヲ持ッテイマス。ソレヲ是非、世界ノタメニ使イマショウ』
合成音声で喋る女アンドロイドの背中から伸びる四本のアーム。
機械でありながら蛇のようにしなやかな動きでマオを狙っている。
『サァ、私タチト合体シマショウ』
「訳のわからないこと言うな! 逃げよう、トウカちゃん」
「あ、うん!」
女アンドロイドに背後を見せないよう二人は後退りながら横道に走った。
「今だっ!」
狭い小道を一心不乱に駆けるがマオだったが、履き馴れないコスプレ用シューズのせいで足が痛い。
「くそ、なんて日だ!」
「大丈夫、真宮くん?」
「僕のことはいいから、先に行って!? ヤツの狙いは僕なんだから」
苦悶の表情をするマオの走る速度に合わせてトウカは並走する。
背後では体積が大きくなったことで狭い道が通り辛くなった女アンドロイドが邪魔な障害物を破壊しながら追い掛けきた。
「ねぇ真宮くん」
「な、何!?」
「あれはどうして真宮くんを狙うの?」
「そんなの、知らないよっ!」
「真宮くん思い出して。それがピンチを脱する重大なことだよ」
「そんなこと言われたって……わわっ!?」
トウカの話に気を取られてマオは数センチの段差に躓き、砂利混じりの固い地面を滑った。
「いっ……痛ったぁ」
「真宮くん?! あっ」
膝を擦りむいたマオが体を起こすと、いつの間にか女サイボーグはすぐ目の前まで来ていた。
『対象ノ捕獲可能範囲ニ到達』
マオを狙う機械のアームがカチカチと開閉を繰り返す。
助けを予防にもマオたち以外に人の気配はない。
前のようにレフィも助けには来ないのだ。
「どうする、考えるんだ僕」
「真宮くん……!」
女アンドロイドを近付けさせないよう駆け寄るトウカが突然、マオに覆い被さった。
「はっ?!」
「大丈夫。大丈夫だからね」
「……と、トウカちゃん…………なんで?!」
マオが驚いたのは女アンドロイドから自分を庇ってくれているからではない。
トウカはマオの体に全身で“触れている”のだ。
「……本当は“今”じゃないんだ。でもコイツらに真宮くんを取られたくないから。こうするしないんだよっ」
「な、なにを……?」
トウカは起き上がろうとするマオを押し倒し、何かを口に含みながらキスを交わした。
「ん……んぐっ?!」
「……っ」
唇を無理矢理こじ開けられ、マオの口の中へ流し込まれるトウカの唾液が混じった粒状のモノを飲まされる。
息も出来ないぐらい長い口付けをされながら、マオの目に飛び込んでくる女アンドロイドの機械アーム。
顔面に迫る様子が、マオにはスローモーションでハッキリと見れた。
そして瞬間、マオの記憶はそこでプツン、と遮断された。
◆◇◆◇◆
これは走馬灯なのか。
まどろむ意識の中、マオが見たのは炎に包まれた町に一人、佇む少女の姿だった。
──マオちゃんはお姉さんが守ってあげるからね。
それは遠い記憶。
──僕、大きくなったらアカリ姉ちゃんと……!
記憶から消えてしまった記憶。
それは何故なのか。
──ごめんね、マオちゃん……お姉ちゃん約束を守れなくて。
泣いているのに微笑みながら女性は幼い少年に謝罪する。
彼女を泣かせたのは一体、誰なのか。
──お前か……お前がアカリ姉ちゃんを!
少年の怒りが頂点に達したとき“魔王”は降臨する。
魔王の咆哮が崩壊する町に轟く。
そして少年は最愛の人を失ったのだ。




