第十一話 はじめての密室ロッカー
それは心臓が飛び出るかと思うぐらいの爆発音だった。
「おああぁぁぁぁーっ?! 今度はなんだぁッ!?」
驚くほどの衝撃で廊下に転がるマオは後頭部を激しくぶつける。
「いっつぅぅぅぅ……じ、地震? ……いや、違うな……これは…………何か、近付いてる?」
最初の一回はあまりにも大きな震動で建物が大きくグラついたが、今断続的に起こっている震動は少し違った。
まるで何かが足踏みをしているような揺れと音。
それも段々と音大きくなり、窓ガラスを震わせていた。
「あっ……マオ、こっち! こっち来て!」
突然、声をかけられてマオは振り向く。
「ミツキ? ミツキじゃないか!」
廊下の先の美術室から手招きするのは右京光希だった。
「そんなところで何を?! て言うか大変なんだ! 女サイボーグが僕と合体を……!」
「いいから早くっ!! こっち来て!」
険しい表情で呼ぶミツキに従って、マオは美術室に急いで入った。
「こんなところで何を……うわっ!?」
美術室へと足を踏み入れた瞬間、マオはミツキに手を捕まれロッカーに押し込められた。
「え? えっ?! 何々!?」
中には何もないロッカーだったが、掃除道具入れらしく足元には雑巾や古い当番表が落ちている。
「何なんだよ、どうして僕を……って、ミツキィッ!!?」
マオの声が驚きで裏返る。
なんとロッカーの中にミツキまで入ってきたのだ。
小柄なマオ一人でも少し狭いロッカーは、ミツキの身体に押し込まれてぎゅうぎゅう詰めになる。
「……大人しく……してて」
耳元で囁くミツキ。
「ちょ、なんで……!?」
「お願い……静かに……してっ?!」
狭い中に入るだけならまだしも、突然ミツキはマオを思いきり抱き締めだした。
むぎゅうっ、とマオの小さな身体がミツキの柔らかな肢体の中へ沈む。
「み、みみみっミツキぃ?!」
「……ま……マオ……っ」
お互いに顔を真っ赤にする。
どんどん早くなっていく心臓の鼓動を直接感じていた。
「かっ……み、ミツキ? ねぇ、ミツキさん……冗談だよねッ!?」
「…………」
「僕がどういう病気か……おぉ、幼馴染みなんだから知ってるよね……ねぇっ?!」
「………………っ!」
ミツキは何も答えない。
それどころか抱擁は更にみちみち、とキツく締まっていく。
マオの身体は持ち上がり、足が付かない抱っこ状態になっていた。
「……マオぉ……」
潤んだ瞳で見詰めるミツキ。
普通の感覚ならば密室のロッカーの中で女の子に抱きつかれるなんてシチュエーションは妄想の中の世界だ。
そんなあり得ないことが現実に起こっているマオの身体はら下腹部の硬直よりも全身に寒気が走った。
「ぼ、僕だってなぁ耐性は少しは付いてる! これぐらいは我慢でき……むごっ?!」
ミツキはマオの口を唇で塞ぐ。
「…………っ?!」
「……」
僅か十秒間。
されど本人たちには永遠にも似た時間が流れた。
「…………ぷはっ…………ま、マオ……?」
その時、マオのセネス病の限界ゲージがマックスを振り切っていた。
柔らかなミツキの身体に包まれてマオの意識は蕩けるように気絶する。
「…………うっ……マオぉぉ……!」
白眼を剥いてぐったりするマオを抱きながらミツキは泣いていた。
これはファーストキスだったのだ。
(ノーカン。これはノーカウントだから……っ!)
嗚咽混じりに涙を抜くうミツキ。
こんなロマンの欠片もないキスはミツキにとっても不本意だった。
「ぐすっ…………ごめんね、マオ……これ以上はマオには思い出させるわけにはいかないの」
ミツキはゆっくりとマオを下ろして座らせるとロッカーから出る。
中でマオと揉み合ったせいか制服がかなり捲り上がり、下着が丸見えになっていた。
すぐに乱れを直そうすると、スカートのポケットからスマホが鳴ったのでミツキは先に通話に出る。
「……もしもし、お兄ちゃん? 来るの早いね……」
『あったり前だ! この俺様を誰だと思ってやがる!』
兄と呼ぶ電話の男はスピーカーから漏れるぐらい大きな声を出した。
『もしかしてアレ、五年前のと同じヤツなのかぁ?!』
「わからない。でも、私たちがやらないと」
『そうか……ライトニングはいつでも行ける! あとはお前が来るだけだ!』
「ありがとうね」
『ふふふ、この真芯市の総番長と恐れられた……』
「準備しといて。今行くから」
いつもの長い自慢話が始まりそうなので、ミツキは兄の会話を無視して通話を切る。
「あとで必ず迎えに行くから……それまで待っててね、マオ」
服装と髪の乱れを手早く整えるミツキ。
誰かに見つからないようにマオの入ったロッカーをそっと閉めて美術室を後にした。