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第26話 監禁犯罪者の美少女は、僕の話を聞こうとしない




 エロい夢を見た。とってもエロい夢だ。

 別に()()()()()()()なんてものはしていないけれど、目が覚めたときの脱力感はそれに近かった。

 それと同時に、自己への嫌悪感で心が沈む。

 僕の口からため息を共に小さな、呆れの混じった悪態が漏れるのは仕方がなかった。


「はぁ……僕ってサイテーだ……」


 彩香さんに監禁される夢を見た。だけど断じて僕はマゾではない。——いや、そんな言い訳じゃなくて夢の詳細を語ろう。

 一言で言えば先の通り、彩香さんに監禁される夢を見た。二言で言えば、彩香さんに束縛されてエロいことをされる夢を見た。

 一体僕は彩香さんでどんな夢をみてるんだ……。

 頭を抱えて、教室の扉を開ける。


 教室には、僕より先に彩香さんがいた。いつもなら嬉しさと、彼女を待たせたことへの申し訳なさが浮かぶけど、今日は鬱屈とした気分になるだけだった。

 教室に入ってきた僕を見て、こちらに手を振ってくる。力なく振り返すと、彩香さんが怪訝そうな顔をした。


「おはよ、柚」

「おはよ……彩香さん……」

「柚、元気ない?」

「ない」


 そう返すと、彩香さんはその理由を言い当てた。


「もしかして夢のせい?」

「そう……だけど。はっ、ココロ読んだ!?」

「ううん、読んでない。どんな夢見たの?」


 ココロを読まれてないのは本当だろう。読まれてたら絶対ドン引きされてる。確信が持てた。

 素知らぬ顔で逃げ切ったとしてもココロを読まれそうだ。

 嘘を吐くのは下手くそだから……真実をちょこちょこ隠して言おう。どこまで隠すか逡巡したあと、口を開く。


「えと~彩香さんが出てきて……」

「そっか、どんな感じ?」


 彩香さんがそわそわしていることに気付く。

 彩香さんは嬉しそうにはにかんでいた。

 首をかしげつつ、言葉を続ける。


「彩香さんに僕が監禁されてさ……」


 あれ? おかしいな? と思った。けど口は動き続ける。


「手も足も縛られた状態ですっごいエロいことされる夢。彩香さんに申し訳なくてそれでこんなに元気が……ぁぁぁああ!?」

「……ドン引き……」

「待って! どこまで真実を言うのか決めてなかった!」


 彩香さんは顔を引きつらせて僕を見ていた。

 自分の間抜けさに頭を抱える。

 ココロの中で、嫌いになった? と聞いた。直接聞く勇気はない。だけど彩香さんはかぶりをふった。


「別に嫌いにはならない。夢の中の私どんなことした?」

「……聞きたい?」

「そんなに夢の中の私ひどいことした?」

「うん。まず僕の手足を縛って目隠しをして……僕の膝の上に座ってとにかく、柚は私の隣だ~隣だ~って言われ続けた。で、耳舐められたり……き、キスされたり……」

「……それ私は悪くないからっ!」

「別に誰も彩香さんを責めてないから!」


 逆ギレされた気がしたので叫び返すが、彩香さんを見るとその頬は赤かった。

 その顔のまま僕を睨み、彩香さんは言う。


「柚にとっての私って……そんなに酷い?」

「いや……わかんない。あっ、朗報。エロいコトって言っても生殖行為はなかったから、安心して?」

「安心するわけないからっ! バカ!」


 彩香さんはぷんすか怒って教室から出て行く。数分後。帰ってきたときには顔から赤味が消え、完璧な無表情だった。

 そして僕に顔を寄せて、にぃっと小悪魔的な笑みを浮かべて、イジワルに言った。


「柚にとっての私って柚のこと監禁するんだ。じゃあ夢の通りのこと、柚にしてもいい?」

「だめッ!」

「分かった。じゃあいつか、してあげる」

「話聞けぇぇぇええ!」


 彩香さんはドコ吹く風で、僕を見つめて笑っていた。


 あとから来た咲さん曰く、僕の叫びは校門前にいた彼女まで届いたと聞く。



 *



 目が覚める。一瞬で覚醒した意識は怠惰に身を任せる寝起き特有の浮遊感を堪能するよりも状況把握を優先した。

 目隠しされていて、視界は真っ暗だった。

 手足は縛られている。動かそうにも、ジャラ、と手錠の音がした。椅子にくくりつけているようで、簡単には抜け出せそうにない。


 唯一塞がれていない口で、名前を呼んだ。

 本能的に、その名前が出てきた。


「あ……やか……さ……」

「柚、おきた?」

「これ……は?」

「学校。もう八時回ったし、今誰もいないから」

「……なん……れ?」


 舌が痺れているのか、ろれつが回らない。それを笑うかのように彩香さんは息を漏らした。

 寝起きの思考はまだ完全なものではなく、省かれた説明を補うことも、質問することもせず、ただ彩香さんに会話の主導権を渡す。

 視界がふさがれている分、その吐息は大人びて聞こえた。


「柚、もうどこにも逃がさないから……。柚は私のと、な、り」


 ひらりとした布地をズボン越しに感じ、そのあとで膝に重みを感じる。彩香さんの手が足下から蛇のように這い上がってきて、首に緩く絡みついた。

 彩香さんの息が頬にかかる。


「あ、あやかさ……」

「なに?」

「なん……で?」


 大きな深呼吸が聞こえた。そして、言い聞かせるようなハッキリした声がする。


「柚、私は柚のこと好き。すきすきすきすき。だぁいすき。もう溶かしたいぐらいに大好き。

 だから……私とずっと一緒にいられるようにこうした。

 でも逃げちゃだめだから。こうやって縛る」


 狂気的で、利己的で、妄信的なその発言に少しだけ、不安が混じっていた。

 ぞわり、と身の毛が立つ。


 彩香さんの手が僕の胸を、甘えるように撫でた。


「は、はなして……」


 空気が鋭く尖り、肌がチクチクと痛みを訴え出す。

 冷たい声が、耳を刺した。


「柚、私と一緒にいるのはイヤ? 柚の居場所は私の前だけなのに?」


 答える前に、柔らかいナニかが僕の口を塞いだ。

 彩香さんの唇だ、とわかったときにはすでに離れていた。


「私のファーストキス、柚にあげちゃった♡ せきにん、とってね?」

「っ……」


 答える前に、もう一度。口を塞がれる。

 きゅっ、と首に絡んでいた腕がきつくしまった。

 体がゾクゾクと震える。

 二回目は長かった。数十秒……。離れたとき、息が荒くなる。

 唇に、湿ったものを感じた。彩香さんの唾液だ、と分かった。

 唇が勝手にそれを飲み込んだ。


 僕に更に体を寄せた彩香さんは、肩のくぼみに顔を埋める。


「はぁはぁはぁはぁ……ん~っ……すぅぅぅ……はぁぁぁ……。

 柚のにおい、すっごくいい……。落ち着く……」


 そう言って、僕の太ももに座り直す。再び、今度は反対側の肩に顔を埋めた。

 くすぐったさに身じろぎしても、肩を掴まれて阻止される。


 胸が密着して、彩香さんの匂いが濃くなった。

 ドクドクと速く感じる鼓動が、僕のものか彩香さんのものなのか分からない。

 彩香さんが僕のココロに答えた。


「どっちも。私と柚の心臓は、一緒だから」


 体中を触られる。触られるたびに、鳥肌が立った。

 不快感ではなく、快感から。


 どこかから物音が聞こえた。階下からのような気がする。

 うわずった声が出た。


「だれか……いる……?」


 同時、耳がじっとりとした空気に包まれる。耳の裏に、チリッと痛みが走った。歯を立てられているとわかる。

 凹凸の感じられる彩香さんの舌が、僕の耳をねぶる。


 ゾワリとした快感が背筋を登る。

 ひそひそ声が、直接に脳を揺らした。


「みみ、食べるから。私以外の音、聞いた罰」

「うぁ……っ」

「柚、だぁいすき♡」


 耳の中に舌が入り込んでくる。水音が、はっきりと聞こえた。

 きつく抱きしめられて、反射的に彩香さんに腕を回しかける。

 手錠が音を鳴らした。


「いいよ、解いたげる」


 カチャカチャと数秒音がして、鎖が床に落ちて音を鳴らす。解放された手で、彩香さんの背中を抱きしめた。

 早く逃げ出せばいいのに、体が勝手に動いてしまう。


「柚、柚の居場所は私の隣だけ。ずっと一緒、ずっとずっと……」


 首が縦に頷いた。


「もう、逃がさないからね」


 きゅっと、軽く抱きしめられた。

 その直後だ。本当に目が覚めて、エロい夢をみていたと気づいたのは。








【おまけ】夢の話を聞いた彩香


 私が夢に出てくるようにって、夢の種を柚に持たせただけだったのに……。まさかそんなに密着してたなんて……っ!

 あ、あとでココロ読んで柚の夢もらっておこ……。きになるし……柚の望むえっちなこと、知りたいし。

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