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第6話 亜人

「要塞襲撃とはいえ、奴らは奇襲戦を仕掛けてくる。それをどうするかだな――」


 ――などという言葉を、今頃屋上か執務室内でほざいているのだろうな。事実として正門から外に出ても敵の姿など一人も見当たらない。


「敵は既に俺の姿を捕らえているはず……」


 しかし未だに仕掛けてくるような雰囲気がしない。相変わらず静かな山道、そして森が目の前に広がる。

 幸か不幸か服装がまだヴァヌシュデアの軍服のままだからか、敵もまた何故俺がエーニア側から出てきたのかその意図を知りたいはず。


「この猶予を有効活用するしかない」


 自分の心臓部に手を当て、意識を集中させる。


「魔力回路、拡張開始――」


 自己バフに関しては特に集中しなければならない。右手で三角を描きながら左手で四角を描くかのごとく、バフ魔法に魔力を供給しつつも、それによって強化された魔力を再び吸収するという出し入れを動じに行わなければならない。


「――完了」


 身に纏っていた魔力が、橙色から青色へと変化したことでバフの完了がされる。これが他人に与えるだけならば楽なものだが、自分となると確認をしながらでないと暴発しかねない。


「さて、まずは……探知からか」


 通常の探知魔法であれば、どれだけの熟練者であろうと半径百メートルが限界といったところだろう。俺自身も普通ならばて十メートルがやっとのところ。

 だがバフをかけた場合、どこまで伸びるか――


「……ハハハハッ! まさかここまで観えるようになるとはな!!」


 半径五百、いや、一キロを超えたか? とにかく全ての敵の配置と、要塞内にどれだけの人間がいるかも確認ができた。


「しかしこの程度で要塞を落とすつもりなら到底……ん?」


 他の兵士が森の中に潜む中、真っ直ぐに山道を堂々と歩いてくる存在が一つ。


「……これは、人間ではないな」


 ヴァヌシュデア連合国に連なるものの中には、純粋な人間ではない亜人と呼ばれる人種も在籍している。末端の紛争地帯では中々姿を見せないが、こうした要所で戦っているということか。


「今更分かったとしてそれが何だという話だが……山道を真っ直ぐと進んでくる辺り、正面から打ち合う自信があるとみて間違いないな」


 だとしたら回りの雑魚共を先に片付ける必要があるな。


「……さて、派手に裏切らせて貰おうか」


 両手を合わせ、バフのかかった魔力を充填。


「――“魔法の矢(マジックミサイル)”」


 魔力を練り上げて作った弓と矢を顕現、空に向けて弦を力一杯に引き絞る。


「掃射開始」


 通常であれば撃てて五本がやっとのところ、その十倍の数の矢が辺り一面に降り注ぐ。

 至るところで断末魔や悲鳴が聞こえてくる中、探知魔法で捉えていた正面の存在が急加速を開始したことに気がつく。


「“魔法のマジックシールド”!!」


 近づけば近づく程巨大化していく敵対的存在。魔法の盾も全身を守れるくらいには巨大なものを生成したが、それすらも敵うかどうか――


「――ブモォオオオオオオッ!!」

「っ! 獣人ミノスだと!?」


 体長五メートルをも超す屈強な大男。その首から上は、猛牛を象っている。


「ボモァアアゥッ!!」


 その巨躯と大角に任せた、真っ直ぐな突進。それを俺は魔法の盾一枚越しに受け止めようとしている。


「ぐっ……おおっ!」


 押し切られることはなかったものの、なんとか受け止めることはできた。しかしこのような力任せとはいえ凄まじい突進をまともに受けては、正門も容易く突破されたに違いない。


「ぐっふっふ、お主、人間の分際で中々やるではないか」


 突進姿勢から顔を上げて、改めて俺と目を合わせる。こうして改めて相対すれば、大人と子どもレベルの体格差がそこにある。


「それはさておき、我はタロス! この要塞を潰しに来た! お主のその見た目、ヴァヌシュデアの軍人だろう? どういうつもりだ!」


 当然の指摘をされるが、俺は普通にこう言葉を返す。


「俺はトリスタン・セーヴァー」


 ――ただの裏切り者だ。

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