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第9話 それぞれの癖

「――お二人とも、長旅大変お疲れ様でした。首都ベルーガに到着です!」


 日も落ちてからも随分と時間がたち、わずかに眠気がまぶたを重くしてきたところで列車が停止する。

 窓の外を見ると、山に沿って開拓されたであろう巨大な街並みが目の前に広がる。そしてその頂上に、ひときわ巨大な城が――いや、違う。改築されて軍事施設のようになった建物が建てられている。


「……結構遅い時間の到着だな。おい、ミラー」

「すぅ……すぅ……むむむ……」

「……相変わらずの寝相だな」


 何にうなされているのかしらないが、ミラーは目を閉じたまま眉間にしわを寄せている。

 彼女の寝相を見るのはこれが初めてというわけではないが、それでもこの寝相もしくは奇妙な習性(?)は見慣れないものだ。

 列車の席によりかかってのうたた寝ではなく、まるで猫のように小さく丸まって寝ているという、体の柔らかい人間でなくてはできない体勢で寝息を立てている。正直初見で見たときは体の曲がり具合にビビったものだ。


「……にゃぁ……」

「にゃあ? 猫かお前は」


 しかしこのまま先に列車の外に出たウーベルを待たせるわけにもいかず、俺はいつもの仕返しにとミラーの頬をぐいっと突っつく。


「いい加減起きろ」

「ふにゃっ!? もしかして寝てました!?」

「しっかりと丸まってな」


 確かにこの時間帯での列車の揺れが、ほどよい眠気を誘ってくることには変わりない。しかしまだ国父との謁見を済ませていない現状で、この緊張感のなさは呆れてくるものがある。


「にゃあとか猫みたいな寝言も言っていたしな」

「えっ!? そ、それは聞き違いじゃないですかやだなぁもう!」


 俺の嫌味がよっぽど突き刺さったのか――というより、猫と指摘されたことが何か気に入らなかったのか、ミラーはやけに必死になって否定し始める。


「大体、大の大人がにゃあなんてそんな幼稚なこと言うわけないじゃないですかーやだなぁトリスタンさんってば」


 よほど恥ずかしいことだったのか、顔を真っ赤にして焦った様子で言ってないの一点張りで押し切ろうとしている。


「とにかく、にゃあなんて言ってません! ましてや猫みたいだなんて!」

「そ、そうか……そういうことにしておくか」

「そうです。そういうことにしてください」


 しかしそこまで必死になることなのだろうかと思いつつも、ここは折れておいた方が面倒が少ないと、俺はそれ以上の詮索をやめて列車の外に出る。


「……すごいな。もう夜遅くだというのに、街道を照らす為だけに明かりがついている」

「この首都ベルーガでは、街灯は一晩中ついていますからね。こうしたところに、帝国の国力の余裕が見えるでしょう?」


 確かにそうかもしれない。夜だというのに街が明るいとなれば、敵が奇襲を仕掛けるにしても躊躇するだろう。明るいということは、誰かが活動しているということに直結するのだから。

 そして駅を出ると迎えの車まで寄越してもらっているようで、ウーベルは運転手に話しかけた後に、後部座席のドアを開く。


「さあどうぞ。私は助手席に乗りますので」

「また車か……」

「山頂まで歩いて行くのはかなりつらいですよ」


 俺とミラーが後部座席に乗ったのを確認すると、ウーベルはドアを閉めて先の通りに助手席に乗り込む。


「一応分かっているとは思いますが、これから国父様に謁見する際には失礼のないようにお願いしますね」

「あれだけの統率力と忠誠心を見せて貰った後だ。下手なことをすればどうなるかは予想もつく」


 文字通り血祭りにあげられてもおかしくはないと、ふと車の窓に目をやったことで見えたあるもので確信をする。


「……あれだけ大きな銅像を建てられたのも、その忠誠心の表れというものだろうしな」


 そこには見事なひげを蓄えた屈強な老獪の巨大な像が、剣を前に突き出して天に向かって掲げていた。

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