第0話 灰色と薬莢と炎
――陰鬱な気持ちにさせるような暗雲が、空を覆う。
「第二歩兵小隊、壊滅! 三時の方向より火球の飛来を確認! 敵魔法部隊の存在ありと思われる!」
「こちら第四、第五戦車小隊! 直ちにそちらへ向かう!」
灰色の空と、血に染められた地面に、俺は立っている――
「おい! ボサッと空ばっか見てんじゃねぇよトリスタン! 大火球を撃ち込むからいつものやつやれよ!」
「――っ! あ、ああ……そうだな」
共和国軍から支給された深緑の軍服に身を包んだ同僚から背中をつつかれ、俺はようやく天に向けていた視線を地平線へと戻す。そして何度目になるのか最早数えるのも面倒なくらいの、ありきたりな戦場
俺は声をかけてきた茶髪の男――ハングの背中に手を当てて、しばらくの間魔方陣の展開を行う。
「……火力強化、終わったぞ」
「ったく、さっさと済ませろよな」
魔法の強化をしてやったにも関わらず、帰ってくるのは礼ではなくいつも文句。内心不満ばかりが溜まる毎日だが、それでもこいつと同じ民間の戦争屋団体に所属している以上は仕事を全うしなければならない。
「っしゃあ!! いっくぜぇ大火球!」
飛翔魔法でハングが浮かび上がると同時に、巨大な火球が打ち上がる。そして敵陣の中でも戦車部隊が並んでいる方角へと、その火球が一直線に飛んでいく。
その光景を目で追っていると更にもう一人、先程の男とはまた違って今度は左頬をつんつんとつついてくる女性がデバフの依頼をしてくる。
「トリスタンさーん、ちょっといいですかー?」
「……何の用だ、ミラー」
「別に親しみを込めてシャーロットと呼んでいただいてもいいんですよ?」
「別にお前と親しくなってなどいない」
俺の返答が気に入らなかったのか、隣に立つ女は戦場に吹きすさぶ風にサイドテールを揺らしながら不満げに口を尖らせる。だがこれも演技だというのが分かっているからこそ、俺の対応も冷たくなるのだが。
――経理担当兼、伝達担当のシャーロット・ミラー。こいつもハングと同じで同僚ではあるのだが、俺のことを下に見ているような気がして嫌いだ。
「十一時の方角の敵魔砲撃部隊がかなり堅牢な守備を強いているみたいなので、弱体化をお願いしたいのですが」
「…………」
指示された方角――遙か彼方に確かに敷かれている戦車小隊の一団に手のひらを向けて、装甲の弱体化の呪いをかける。遠距離からの妨害に供えてか何らかの防護魔法をかけているようだが、その魔法ごと弱体化をかけてしまえば良い話だ。
「……終わったぞ」
「ありがとうございますー。それでは私は自軍の戦車隊に狙撃を依頼してきますので」
自分で攻撃しないのか、と言う間もなくミラーは目の前からサッと消え去っていく。伝書鳩や信号弾よりも信頼できる連絡手段として彼女は駆り出されているようだが、こうして言いたいこともいう前に消え去ることもしばしば。
「…………」
今回は伝令が上手く行ったのか、味方軍側の戦車部隊から発砲音が鳴り響き、そして敵陣から赤い爆発と、黒煙が昇っていくのがみえる。
「……これで終わりか」
敵の主力部隊も粗方片付き、この地の小競り合いにも決着がつこうとしている。
今回の紛争も無事に終えたことに一息つきながら、俺は戦場を後にした。
見返し系が流行っているということで、少し書いてみることにしました。楽しんでいただければ幸いです。
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