異世界召喚! 領主生活開始2日日
異世界に巻き込まれ召喚された俺は、領主になった。
71日目 村二日目
朝起きる。
空腹やらなんやらで、目が覚めた。
空き家Aの井戸は濁っている。空き家でずいぶん長く使っていないのだろう。
隣のンゴバさんとこに水を貰いに行く。
ちょうど朝飯を食ってるところだった。飯あるじゃん。
「領主さま、朝ご飯いかがです?」
「スンマセン、助かります。ご馳走になります。」
真っ黒で歯の無いおばあさんがよろよろと寄ってきた。木の碗に薄いかゆが入っている。中身が薄すぎておわんの底が見える。それでも持ってきたペットフードよりましな気がする。
「今年は不作で困ってます。」
まあ、そうだろうな。見ればわかる。来訪を告げておいたわけではないので演技ではないだろう。
「空き家Aはしばらく使っていないので、井戸の水も淀んで濁ったのでしょう。
村全体で井戸が枯れかけていまして。
そんなにお分けできませんが、飲む水ぐらいならうちの井戸を使ってください、」
山の近くの旧男爵領+王国直轄地(という名の荒れ地)が俺の領土らしい。領民は少ないが領地は馬鹿に広いので、ここの村の人が知らないような遠くには村があるかもしれないんだそうだ。隣の伯爵領としか交流がないからわからないとのこと。
ここらへんは旧王国直轄地だったそうだ。いままでは税金は年に一度役人が取り立てに来てたそうだ。いわゆる悪代官だな。収穫の6-7割もっていったらしい。今年も飢饉。不作通り越して飢饉。
取り立てに来た代官には収量ごまかしていたが、奪われる量がすごくて、どんだけごまかしても焼け石に水だったようだ。
しかも今年の分はすでにかっさらっていったあと、というイカニモ展開だそうだ。おそらく本当だろう。
さらにこの代官は若い娘をすべて連れ去っていた。戻ってきたものは居ない。都会の華やかな暮らしに慣れて戻ってこないか、殺されたか、代官の次の任地に連れ去られたか。
話しているうちに昼になった。またお世話になる。また薄いおかゆ。麦がゆだ。ヘルシーそうだな。
「これでも収穫期でましな方なんです。端境期まで持ちこたえられるかどうか。。。。
そういう事情なんで、領主さまが定住となると、勘弁してほしいです。」
「すんませんね。俺もほかに行くとこがないから、とりあえずしばらく今の空き家しばらく貸してくれ。俺の飯は当面俺が作る。頼みます。」
お互い生活がかかってるから必死だ。薄いかゆ食い終わる。食器はそれほど汚れてないが、肝心の洗う水が汚い気がするので俺の水魔法でおわんと皿を洗ってやる。
「領主さまに皿を洗わせたとなっては、申し訳ない。しかし水魔法をお使いになられるのなら、畑にも頂けますまいか?」
近隣の水やり依頼される。
いちいち抜け目ねえな。こいつら。まあ、なんか依頼されてるうちは寝込み襲われて殺される心配もないだろう。
なんかの理由でせっかくの作物を枯らしちゃうとまずいから、頼まれたとこの半分だけ水やりで話をつける。
へたに反感かうと暗殺されるかもしれないから、必死で愛想。なんせ領主さまはひとり。村人は30人。数では全くかなわない。ナメられても仕方がないと割り切る。人間が小さいもんで。すんませんね。
水やりしていて、ずっと水出しても苦しくならないことに気が付く。ふと、オレ、MP消費少ないんじゃないか、魔法燃費いいんじゃないかと思った。そういえば神殿の神獣は、その時点でつかえる魔法を教えてくれただけのようだ。そういえば魔力の値とかは言わなかった。魔力多いか燃費いいかどっちかだ。
村人も水出せるやつ多いが、半日連続で出すのは無理。俺はちまちまとだが、しかしずっーと水が出せることがわかった。
あー、だから村人の魔法では干ばつに対応できないのね。村人が村に必要じゅうぶんな水の量出してたらこんな事態にはなってないわ。そらそうだわ。
しばらく水やりしていて、俺は水を飛ばせることが分かった。だからなに?っていう話だけど。
そうだ、忘れてた。
お引越しのあいさつにと、各家にホームセンターのスコップと包丁配る。今更な気もするが、三軒回って渡しておく。
1軒に一つづつ貸す形と言っても三軒しかないからまだまだあまってる。
普通スコップと言われると想像する剣スコ、雪かきなんかに使う角スコ、それぞれ何種類か持ってきた。
大量発注があって、バックヤードにかなり積んであったのを貰った。鎌や鉈は要塞で取り上げられちゃった。
村人に包丁とスコップ貸したら、態度が変わって、話しやすくなった。まあなんと現金かつしたたかな人たちだろうか。
「村には鍛冶屋がいなくて、よそから金物を買うお金もないんです。
手持ちのナイフは研ぎべりしてかなり小さくなってこまってたとこです。これは助かります。」
農具はほぼ全滅で、仕方なくオール木製で困っていたところだそうで、かなり感謝された。石器時代には戻れないのね。カナモノなければ磨製石器、というわけにはいかないらしい。木器時代でしたこの村の文化。
商人も2-3年来ないんだそうだ。わかる。商売にならないだろうここでは。売るものも買うものもない。
空き家Aを領主館として正式に貰いうける。住む人が逃げ出した跡のボロ空き家だけどね。新任の辺境男爵様の居城が、農村の壊れかけたボロ空き家。たははは。乾いた笑いしか出ない
村長ンゴバさん、助役ニコアさん、サラばあさんと、色々話しあって、麦の収穫期なんで、細かい話し合いも落ち着いてからにしようと先送りにした。税(物納)は後回し。
村長ンゴバさんが歯の無い口を開けてニタアと笑う。
ああ、年貢の心配してたのね。昨日の着任からずっとそれ関係の話題だもんな。
この世界は歯科医療が遅れているようだ。気を付けて歯を磨こう。歯ブラシの一番安いやつをホームセンターからたくさんもらってきといてよかった。
右手の肘から先を魔物に食われた中年の男ニコアさんが案内についてくれることになった。なんでも左腕一本でこなす器用な人だ。
村長補佐まとめ役らしい。この村では若手だ。といってもおっさん。他に若いモンがいない30人の村なんだけど。爺さん婆さんおっさんしかいない。若者どころかおばさんも見かけない。女性はみんなお婆さん。
水やりしながら散歩して、ニコアさんから実地で説明を受ける。
村にも四季はあるにはある。雪は降らない。日本より乾燥している、しまくっている。
春まきの麦っぽい草と、秋にまく麦っぽい草を植えて生活している。
周りには広大な荒れ地が広がっている。遠くには魔物がいる山があって、山すその林から木を切り出しているが、魔物に襲われることもあるんだそうだ。
ニコアさんの承諾を得て、村のはずれに畑を貰う。空き地だらけなんで、ここおれの区画ねと言って粗末な囲いをするだけでいいらしい。
持っていた 猫草 = オーツ麦(燕麦) と鳥のえさを3分の一くらい蒔く。
直播をさけて、苗床から移植しよう。とりあえず畝作る。ニコアさんも手伝ってくれる。
耕すと塩害がひどくなるから耕してなかったんだそうだ。俺の水魔法で大量に水まいて、塩っけ抜いて耕す。
塩は岩塩が取引されているが、ここらへんは行商も来ないので、村では土を煮て取る。塩の多いところと少ないところがあるらしい。その場所もニコアさんに教えてもらった。当然俺の畑は塩気が少ないところだ。
俺の畑(もと空き地)は水魔法で水やりするから耕しても問題なし。空き家にころがってた粗末な木の箱貰ってきて土入れて、種もまいた。
午後まだ明るいが一通り案内も終わったし。畑も作ったんで今日はこれでおしまい。腰がいてえ。