異世界召喚! 王様のお出まし
ずーっと、貴族に酒を配りまくって頭下げまくる日々。
「緊急の用です。サトー殿はおられるか! 」
近衛兵が行政棟に飛び込んできた。
新しい村まで来るのは珍しい。初めてじゃないか?
ちょっとだけ幻覚かと思った。ずーっと、ずーっと、酒を配りまくって頭下げまくって、近衛兵に貴族の名前聞く。し過ぎたかと思ったが、幻覚ではなさそう。
「あ、おれならここです。いつかの騎士のひと。まあ会議室へどうぞ。で、今日はどうしました?」
王宮でよく見る警護の騎士だ。名前思い出せねえ。
「スンマセン、まずはこんにちは。」
「丁重なごあいさつ。すみませんが要件から。王が、ここへ来られます。」
「へっ?王?王って、王宮にいる?
スンマセン。ちょっと意味が分かんないんですけど、どうしました?」
「その王です。その王が、王宮を出てこちらへ向かうかもしれませんというご連絡です。ゼイゼイ。」
「へっ?王さまが?どうしました?俺、打ち首?」
「いえ。
あ、みず、ありがとうございます。
王はいつものように離宮で汽車に乗っていたのですが、他の貴族から『サトー領の汽車はこれよりも大きい』と聞いてしまい、矢も楯もたまらず、こちらへ向かっています。
宰相や団長が必死でお留め申してますので、ひょっとしたらお見えにならないかもしれませんが、まずは一報ということで、
ハァハァ。」
「スンマセン。よくわかりました、といっても、こちらとしては何のおもてなしもできませんから、対応も別にないですねえ。
ところで、馬で見えました?汽車で見えました?」
「汽車です。最初は馬でと思いましたが、どう考えても汽車のほうが早いので、汽車で。」
「そうでしたか、息切れしてるってことは駅から走られましたね。お疲れ様です。
そうすると、特急なら次の汽車は一時間後ですから、まあ、お茶でもどうぞ。
それなら50分後には次の使いの方か、王様を駅でお迎えしましょう。あ、水の次はポーション飲んでください。」
「これは助かります。」
いやいやいや、無茶な王様も居たもんだ。
「スンマセン。騎士さん、お仕事お疲れ様ですが、領地で王様をお迎えする場合の作法って、あるのですか?」
「いえ、わたしも存じ上げません。」
「いやいや、そうおっしゃらず。うちの代官と話しといてください。」
その場を代官さんに任せ、 ( 彼がいてよかった )伯爵家出身の奥さんにも会議室に来てもらうように頼む。
王都のサトー館にジャンプする。あ、ジェームスさんいた。助かった。ボルケーノサキューサハラの三バカ貴族もいる。貴族当主三人とジェームスさんに聞けば色んな知恵も出るだろう。
「コンチワー、サトーです。スンマセン。ちょっと急ぎなんであいさつ無し。30分で解決しなきゃなんないんだけど、いい?」
「「「「「はあ」」」」
「王宮警備の近衛兵がうちの村へきてさあ、これから王様が来るかもしれないって言うんだ、来ないかもしんない。汽車乗りたくなったんだって。」
「「「「「はあ」」」」
「で、最短だと次の汽車で来ちゃうから、30分以内に歓迎体制になんなきゃなんない。で、こういう時って、どうすんの?」
「えーっと、まずですね、先代の王も今の王も、王宮と離宮以外はまずお出ましになりませんでした。」
ナチュラルに貴族から話し出すよなあ。身分か。ジェームスさんが先の方が助かったんだが。
「さらにその前は、これは貴族からの視点ですが、貧しい財政を補うために貴族の間を巡ってお願いをして回った時代もあったそうです。」
サキュー、サハラ、さすが貴族。馬鹿じゃなかった。
「うわー食事たかりに来たのか!」
まんまおまえらじゃん。尊敬しそうになって危なかった。
「いえ、貴族からすれば国王のお出ましは大変な名誉。多少の出費は仕方ありませんぞ。領民も喜んで費用を持つでしょう。」
たぶん、領民はドン引きだと思うけど、ここでは余計なことは言わない。
「や、殿。家臣としては出費も考えないとなりませんのでお出ましはありたいのですが、その。」
「あー、貴族館のスタッフと領主本人で、ずいぶん視点が違うのは分かった。
今回は泊りかどうかもわからんけど、大体のとこはそんな感じね。
スンマセンけど、飯はどのレベル? 王様泊まるんなら宿舎も新しいの建てる?」
「いえいえ、あまり立派なものを出すと目をつけられますから、いつも通りで。」
「ジェームス殿のいう通り。サトー家のいつも通りクラスで、他の貴族のご馳走になります。
サトー家の基準でいえば平民並みの狭いところに泊まってもらって、で、清潔な風呂付き。それでもほかの領地では大ぜいたく、いつも通りでよかろうと思います。」
まあ、ジェームスさんとサハラさんが言うならそうなんだろう。
「スンマセン。じゃあそうするんで、俺戻るわ。」
ジャンプして戻ってから気が付いた。名誉なら三バカ連れてきてやればよかったか?三バカ領内に行くわけじゃないんだけど。しかし、オレ、あいつらと抱き合うの嫌なんだよねえ。
最初はジャンプ能力を隠してたんだけど、あいつらサトー館にいつもいるから、なんとなくばれちゃった。
行政棟にはいかず、この町一番の宿屋へ飛び込む。
「スンマセン、部屋あいてます?最低三人。出来れば三十人くらい?」
「あっ、殿様、一体どうしました?」
「まだわからんけど、ひょっとしたら偉い人来るんで、宿あいてるかなあ、と。」
「そのう、あいにく満員なんですが、殿様の命令でよそへ行っていただきますか?」
責任回避しやがった。でも、とにかく時間がない。
「追い出すのは悪いなあ。じゃあ増築していい?」
「あー、一瞬にして建っちゃうやつですか?こちらからお願いしたいくらいです。」
「スンマセン。じゃあ、今の馬屋に緊急で建てるから、あとで他のことは調整しよう。それと、あとで中のことをやりに大工さんも呼ぶから。」
もりもりと別邸を建てる。ここらは三階建てが標準だから、四階建てにして見晴らしがきくようにする。こんだけ建てればお付きの者が一階から三階に詰められるだろう。忙しいな。
サラさんに大工さんを宿屋さんへ回してもらうように頼む。夕方までにざっとでいいから仕上げてほしい。
行政棟に戻り、奥さんと代官さん騎士さんと駅へ向かう。よし、間に合った。
特急列車がホームに到着する。さて、王様が来るか、次の使いが来るか。
王様だった。ジョーサントス、そのひとだ。金貨に肖像が入ってるひと。他の乗降客に紛れてわかんなかった。でも鎧着た護衛は分かる。
「スンマセン、王様。次回お見えになるときは事前に連絡をください。」
「おい、いきなりそれか。」
「スンマセン。」
笑わないで真顔をたもつ。
「あー、その、なんだ。わかった。そうする。」
「スンマセン。お願いします。
で、ところで、汽車の旅はどうでしたか?」
「よかった。あれをできるだけ早く、せめて離宮まで作れ。」
「そのようにいたします。今日はわざわざのおこし、ありがとうございます。」
定例の土下座をする。ホームで土下座をする領主を見て、まだホームにいる人たちが驚いている。
「ここにいらっしゃるのは、ジョーサントス王!われらの君主!」
土下座のまま叫ぶ。なぜかまわりの人たちも土下座する。
「われらの君主!」
そうか、みんなも国王への礼なんか知らんから領主の真似をしたのか。ヤベー、誰が解除するんだこの状態?俺?
ロックフォード隊長が叫んでくれた。
「王様の特別の許可により、通行を許す!平民に至るまで立ち上がり、通れ!」
いや助かったわ。
皆が皆しずしずと立ち上がり、無言で通る。
こっちではそういう作法なのか。あとでロックフォード隊長かサトー館の誰かに聞こう。
まずは会議室に来てもらい、お茶とお菓子を出す。
「ともかく、おこしくださりありがとうございます。先触れの騎士の人がきてくれてから準備しましたので何のおもてなしもできませんが」
「お、この菓子はうまいな。」
わりと自由な人だなこの人。この世界では話の腰を折るなと召喚直後の教育で習ったが、王は例外か。
「お気に召しましたなら、料理の者にも伝えます。名誉なことです。」
笑顔は絶やさない。
「ところで、王様。
今回はどのような理由で、お越しに?」
「ん、汽車に乗りたかった。あれはなかなかに楽しいな。」
フル規格の蒸気機関車乗ったらもう、庭園鉄道では満足できないだろうなあ。
「サトー。貴卿のいた世界ではあれが走り回っておるのか?」
「スンマセン。あの手の鉄の塊が蒸気の圧で動くのはかなり古い形式で、俺の世界ではもう観光用に少し残ってるだけでした。ほとんど残ってなくて。
でも、俺の知識とドワーフの技術で再現できるのはここまでで、この先はドワーフに頼んでいるのですがなかなかできなくて。」
(大嘘。ディーゼルエンジンは機関車用にも自動車用にも量産化に成功してるし、電車もその気になれば実用化できます。)
「スンマセン。お菓子、おかわりします?」
「おお、あればくれ。」
「お付きの皆さんにお出ししても?」
「あれば助かる。出してやってくれ。」
係に目で合図する。
「サトー殿。我らは警護中ゆえ、交代でいただく。疑っているわけではないが、万が一全員倒れたら護衛ができぬ。」
「スンマセン。隊長さん、仰る通り。じゃあ俺が毒見。もう王様に出しちゃったけど。で、皆さんの半分くらいにお出ししますか?」
しぶしぶ納得してくれる。
「スンマセン。みなさん、お出ししますが義務じゃないんで甘いものダメな人は仲間同士で融通してください。」
この世界は甘いものは貴重品だし、何より慢性的な栄養不足だから、高カロリーなお菓子は嫌いな人いないみたい。
俺が出したフレーバーティーにプリン。
準備ができたとのことなので、王様を宿屋に連れて行き、新築の別館に案内する。内装も間に合った。
お風呂は3階に作った。夕食前に王様にお風呂に入っていただく。
風呂桶ふたつに普通のお湯といい香りのする薬湯を満たしておく。薬湯のほうはポーションが少し入ってる。
警備隊に女兵士が何人かいたので、そいつらが護衛兼お風呂介助になる。そのつもりで連れてきたのかな?事情は分からない。
俺はどこにいたらいいかわかんないから風呂の次の次の間に控える。付いてきたロックフォード隊長と世間話になる。
「スンマセン。王様には、怒られてるんだか、気に入られてるんだか、戸惑ってるんすよ。オレ、元平民だし、異世界から連れてこられて文化が違うから。今日もそう。土下座の解除は助かりました。ありがとうございます。助かりました。」
「こちらこそお世話になっております。
王はサトー殿を特別に気に入っている御様子です。
自分の家来が欲しいんでしょうなあ。」
「えええええ?貴族も平民もみんな家来でしょ?部下。配下。家臣。」
「ジョーサントス陛下は、隣のガンダル王国からやってきた人間で、周りはガンダル王の家臣で固められています。
いまのガンダル王から見て遠縁です。なぜわざわざ遠縁のものを送り込んだかというと、我が国の先王とも遠縁だからです。ま、貴族ならご存知か。」
「いや、まったく。」
「ほう。」
「スンマセン、続きをお願いします。」
「さすがに全く関係ない人間は送りこめない。血統が物を言う。
で、いたわしいことに、ガンダル王から見て遠縁だからといって、お互いに完全に信用しているというわけではない。
連れてきた貴族は、自分の家来といってもガンダル王のほうを向いて仕事をしている。
かといって土着の貴族は土着の貴族で反ガンダル、自分のこともガンダルから来た王とみているから信用ならん、そういうことですよ。これは臣従を誓っておきながらどうにも怪しいわれら土着の貴族に問題がある。
古くからの家臣と言えば、わたしもそうではありません。外様。土着の貴族ですからな。王に忠誠を誓うことに揺るぎはない積りですが、その、信用は無いようです。
消去法で殿。土着でもガンダルでもない、変人で有名で、そのぶんしがらみのないサトー殿を家来にしたいんですよ。」
変人で有名でわるかったな。まあ、流れはわかった。
そりゃあ、俗にいう「詰む」だよなあ。
詰め将棋じゃないんだから王様が詰んでどうする?
若かったらグレてるよなあ。汽車どころかバイクでも作ってやろうかな?デイーゼルエンジンで動くバイク。三輪のトライクならいけるか。
「はぁ。わかりました。俺からじゃなくてロックハート隊長から言ってあげてください。
なるはやで線路ひいて専用列車作りますから、そしたら離宮来てください。いずれは全線引きますが、まずはうちから離宮。」
そこらへんのストレスから乗り鉄になっちゃったんなら、協力しよう。っていうか異世界で生きてくうえで王様の庇護必要なんだよね。他の貴族の反感も困るけど。とにかく目をつけられず、生き延びないと。
「ロックフォードです。お伝えいたします。しかし本当に名前が苦手のご様子ですなあ。」苦笑している。
「スンマセン。ロックフォード様。翻訳の指輪を介しているので、こちらの言葉全くわからず、参っています。
それはそうと、多少の抵抗あっても離宮までは線路引きますんで。」
「わたしも貴族の端くれ。妨害があるのはよくわかります。ご無理はなさらん方がよいかと思います。今日は王の説得に失敗しましたが、またお諫め申しておきます。」
「スンマセン。タノンマス。あと、今日はイキナリだったんで雑なもん建てましたが、次回は貴賓館ももう少し警備しやすいの建てときます。」
「いやいや、これでも大層立派ですが。」
「スンマセン。これしか芸がないもんで。」
コソコソ話していると、天狗とエルフがやってきた。
「「サトー殿は居られるか?」」
今日、一番来たら困るやつらが来た。
お読みくださりありがとうございます。
誤字の指摘いただき幸いです。
意図して書いたものもあり全てを受け入れるわけではありませんが、それでも助かっています。
引き続きお願いします。




