異世界召喚! 美酒醸造(醸造しない)
異世界に巻き込まれ召喚され、村の領主になった。貴族だエッヘン。
王都に向かい、何回か王様とも謁見もした。
最下位の爵位とどうでもいい辺境の土地を与えた。その認識は継承されていてえらく軽い扱いだった。
こっちも王宮の作法とか知らないし貴族の服も持っていないので参ったが、王都のサトー館の人が持ってる一番いい服を借りて参内した。着方すらわからん。
「スンマセン、服貸してください。」
「これは貴族の使用人の服でして、その、殿様が着るのではないのですが。」
「あー、失笑される程度でいいの。
異世界から読んだ勇者スゲー、何すっかワカンネーじゃあ潰されるでしょ?」
「しかしそれではあまりにも。」
「じゃあ魔物の皮の貫頭衣着てくか?」
「それは不敬に当たると思われるかもしれません。」
「じゃあこれでいこう。貸しといて。
あ、スンマセン。さきに偉い人にお伺いたてといて。
『至って貧しいゆえにこの服で参内するしかないのですがお許しいただけますか?』って。
辺境だから魔物の皮と難民が持ち込んだ金銀とポーションを献上するからそれでお許しくださいくらい言っといていいです。献上しましょう。」
「はい。その方がいいでしょう。
しかしあまり大量に献上しますと、目をつけられて再びせびられたり、他の貴族にやっかみを受けます。献上もほどほどに。
貴族というのは実に面倒で、家格というのがございます。」
「あっ、スンマセン。知らなかった。じゃあ、そこいらへんの交渉とか具体的な量はお任せしますんで。
相場よりちょい多め?相場?ぐらいでお願いします。お任せ。ダンドリよろしくね。」
~謁見の日~
「サトー キョータ殿!はいられませい!」
クッソ待たされたあと、呼ばれたんで謁見室に入る。
一段高い椅子に座った王らしき人の他にも着飾った男が複数いる。側近と大貴族かなあ?
「直答を許す。」
サトー館の人と打ち合わせたあいさつをする。
「使い物にならなかった失格勇者がお情けで貴族にしていただきました。ありがとうございます。
忠義を尽くそうと思いますが、スンマセン。
服もろくすっぽ買えないんで、家来の服借りてきました。国許では魔物の皮の貫頭衣着てますからこれが精いっぱいの誠意です。」
城内爆笑。よかった、不敬とはみなされないみたいだ。
「お役に立てない失格勇者が、お役に立てない失格貴族にしていただけただけで申し訳ない。ありがたい。異世界の作法が分からぬゆえ失礼します。ヘヘー。」
土下座。平伏。
さんざっぱら、あからさまに嘲笑される
でも、ねーもんはねえんだ。頭下げて済む話なら。なんぼでも俺のつむじ見せてやる。だてにアラフォーまで不正規雇用で働いてきたわけじゃねえんだよ。
( 俺は最近殿さまだなんだ言われていい気になってたから、こういう場は定期的に必要だな。 ベー、だ。くそ国王。 )
「そちの気持ちは通じた。今後とも特例でその恰好でよい旨ゆるす。できる範囲でよい。忠勤を励め。」
王さまにもウケてる。よかった。読心魔法は無いみたい。
鎧を着た男がやってきて
「下がってよいという合図です。」
教えてくれた。鎧男も顔が笑ってる。
謁見終わって控えの間に戻った。ああ疲れた。
王都のサトー館に戻り、無事済んだことを報告しといた。逆に、貴族の使用人の間でどういう噂になっているのか聞いといてもらうようにお願いしといた。
「スンマセン、金銀上納するなら、その金で服作れよとかにならね?」
「普通の貴族ならそうなるでしょうな、ですから、お諫め申し上げました。」
「やっちまったもんはしょうがねえや。アホ領主は異世界基準で動いてるから回りがナンボいっても金に執着しねえって言っといて。俺がいた世界でも金銀貴重だったんだけど、俺以外分かんねえでしょ。ハハハ。」
何回か謁見してるうちに大臣とかも顔見知りにはなった。いちおう、お茶会とか晩さん会に誘われるようになった。いちおう。多分、物珍しさと、自派閥引き込みなんだろう。
サトー館の人に頼んで毎回断り続けた。そのかわりに俺が出した高級ブランデーとか純米大吟醸酒とかを届けてもらってわび代わりにした。
「うちの殿は異世界人、家来のわたしたちでも何すっかわかんないんです。説得しまくって欠席にさせていただきました。とりあえずお詫びに。むちゃくちゃ酒癖悪いんで、お酒だけでご勘弁を。」
とりあえず、失格勇者のアホ領主に困りまくってる家臣を演じてもらった。アホ領主アホ領主いわせて頭下げさせいい酒出せば、それで貴族の晩餐会欠席はOKしてもらえた。
異世界から来た奇人変人、常識持ってないアホで通す。元いた世界の変な外人枠、というか、その辺を狙う。やだよ、こっち流儀の面倒くさい社交に金と時間吸い取られるの。
サトー館の連中は、もとはといえば先代のキッサ伯爵ジジイの家臣で、今のキッサ伯から逃げ出してきたというか引き抜いてきたというかのやつら。俺には大恩があり、アホ領主呼ばわりはつらいというが、なだめすかしてそうしてもらっている。
「しかし殿、サトー家の家名を上げねば、お嬢様がたに顔向けできません。」
あー、そっちもあるのね。
「スンマセン、いつになるかわからんけど、まだ無理。もうすこし力を蓄えたら貴族にも顔売るけど。もうちょっと待ってください。
こう見えても『お嬢様の旦那』はがんばってっからさ。
スンマセン、『今日じゃない』。」
「いえ、お嬢様の旦那とは。わたしたちの主君です。」
「ははは。ありがとう。」
俺が村に転移して戻ると、例によって商館主たちがそろって現れた。
王都のサトー館に来ればいいのに、律儀に領内まで来る。俺、さっきまで王都にいたんだけど。
最近は番頭じゃなくて主人が来るようになっちゃった。番頭さんが常駐、定期的に商館主たちがおうかがいにくる。代表だけくればいいのに。差別しないから。
「サトー様。貴族さまたちにいったい何をなさったのです?お付き合いがある貴族さまどころか、お付き合いがない貴族さまたちまでサトー領の酒を分けろとお話を頂いています。
何か御禁制の麻薬とか混ぜてらっしゃいます?」
「え?そんなになってるの?スンマセン。あれね、俺が魔法でだした酒だから。村で飲んでるのと同じだけどなあ。
あ、ちょっと待って、まだ樽に残ってるはず。まだ日が出てて明るいけど、ちょっと試飲してって」
「いやいや皆さま大変な剣幕で。」とぼやきながら皆が飲む。
「「「「「うわー。」」」」」
商人たちが一斉に言うので俺も驚いた。
「え?スンマセン、腐ってた???」
「そうではございません。このようにうまい酒は飲んだことが無く!」
「「「「これはぜひともうちでもお取引を!」」」」
お前ら声を合わせる練習、絶対してきただろ。仕込みすぎ。どんなリアクション芸人だよ。
「わたしから。」「わたしから。」「わたしから。」
「「「「わたしどもに」」」」
「あきんどは感情を隠すべきなんでしょうが、これはすごい。貴族様に高値で売れますぞ!」
「あ?要る?外の樽に詰めとこうか?」
いつぞやの商人がいう。
「皆さんお待ちください。
サトー様。
あの、商いのことは置いておいて、これは大変に価値のある品物です。
お殿様は、このお酒、どう広めたいですか?」
「スンマセン、質問の意味が分からない。」
「ご貴族様たちはどこどこの晩さん会で出たのと同じサトー領の酒を探して売りに来いとおっしゃっています。
このままご貴族様たちにだけ無償でお分けする幻のお酒にするのか、貴族様たちにだけお売りするお酒にするのか、広く平民にまで売るのか、どうお考えでしょう?
ご貴族同士のお交わりのこともあり、あきんどとしてはまず方針をお決めくださればそれに従いますので。」
「あーそういうことか。
ちょっと待って?
うちの酒が出るか出ないかが、いま、よその貴族では重要なことになっちゃってるの?
だったら売らずにこのまんまのほうがいいかなあ。や、それでは商売にならんよねえ。」
「「「今まで十分儲けさせていただいておりますので」」」
「「そこはご領主が」」
そうきたか。
「スンマセン、なんかいい知恵ある?」
「とっさの思い付きですが、工房を分けるふりをなさったらいかがでしょう?あくまでも対外的にです。
ご領主さまが貴族にしか渡さない一級工房、意図的に品質を下げるものの貴族にしか卸さない二級工房、といった形です。それぞれに別の名前を付ければ、よろしいのではないしょうか?」
「あーそれいいねえ、他の人はそれで満足?なんか問題ありそう?」
商人たちに文句はなさそう。
「じゃあ二級工房、名前とか印とか、ドワーフ印とか、異世界勇者とかの印ね、とか、出荷量、ともかく談合しといて。
スンマセン、あと、数時間で出かけるから、その間にいろいろ詰めといて。スンマセン、お世話になります。
そうだなあ、一級工房は勇者工房の男勇者ブランデーと、女勇者吟醸酒。にしようか。細かい話はキャシーかケイティと詰めといて。じゃ、よろしく。」
早速王都のサトー館に戻り、館のひとたちと話をする。
「スンマセン。ちょっと急ぎのご相談。」
「なんでございましょう?」
「例の宴会断るときに出すアレね、その、俺のわびの酒が貴族の間でむちゃくちゃ評判いいらしいです。」
「ええ、まあ。存じております。」
「え?そうなの?言ってよー。んで、商人が売ってくれっていうのよ。」
「それは結構なことで。」
「んでさあ、勇者工房の男勇者ブランデーと、女勇者吟醸酒。そういう印付けて売りたいんだけど、どう思う?」
「どう、とは?
さて、法律的には問題なさそうですし、では国にはそのむねお伺いをたておきましょう。」
「あーそういうもんなの?お手数おかけしますが、んじゃあよろしくたのんます。
で、さあ、そういう時、担当とか、王様にこの酒渡しといて。樽でいいかなあ?」
「はい。ひとたるづつ配ることに致します。」
「あと、サトー館の人も呑むよね?樽いくつ要るか、わかります?」
「そうですね、とりあえず、20かそこらでいいのではないでしょうか?」
「じゃあ新たなわびの樽入れても30ね。明日また持ってくるわ。
ああーっと、そうだ。俺婦人、お嬢様ね、キャシーとケイティ。社交っていうか王都?たまにはこっちにいたほうがいいのかな?いまさらなんだけど?」
「お酒も奥方も両方ぜひとも!」
「じゃあ奥方様のことも相談してくるわ。じゃあね!」
領内の領主館に戻る。
「商人さんたち、ちょっと待って。
アー、キャシー、ケイティ。忘れないうちに相談。樽40くれ。それと、王都に行く気ない?社交的に。」
「旦那様、樽は目の前にいらっしゃる皆様に私からあとでお願いしておきます。」
「あ、そうか。そうだよな、スンマセン皆さん。」
「それと社交的な話ですが、私の方からお願いするつもりでした。貴族のお茶会や晩さん会は大変にだいじなものです。単なる社交ではなく、秘密の相談、交渉、などいろいろございます。私より気が利いているケイティに行かせましょう。」
「あ、そうなの?じゃあ細かい話は任す。樽と社交、頼むわ。」
「「「そういうことでしたらドレスも」」」
「あーそうだよねー。こないだドレス頼まなかった?」
「アレはごく日常の替えを。」
「え?あ?スンマセン。楽しみにと思っていったんだけどなあ。
社交用のほうは、むしろ貧乏貴族がやっとの思いで最低の恰好、の線でお願いします。まあうちは本当に貧乏貴族なんだけど。」
「皆様質素に暮らしてらっしゃるだけで、所持金と領地の広さは他の貴族を凌駕しておりますぞ。」
「え?そうなの?まあいいや。いきなり着飾ってもねたまれそうだから。細かい塩梅は任すからさ、キッサにいたときより数段下がる、くらいで頼みます。いまのところ、ね。
この国の有力者にねたまれたりするよりは貧乏で馬鹿にされるほうがまし。
さて本題の酒、決まった?」
「はい。とりあえずは一級を出し続け、様子を見て二級を出しましょう。今は手に入らない幻の高級酒という評判を優先したほうが得策かと存じます。」
スゲー。辣腕の商売人だなこいつら。闇カルテルで値段つり上げの談合か。異世界ブランデイング半端ねえ。
「ん。じゃあそれでよろしく。折見て変更してね。そん時は声かけて。スンマセン。頼んます。」
そうすっと40樽から先はまた出し渋ったほうがいいのか。ま、それも王都の人と商人に丸投げだな。商人追っかけといてそれも頼む。
領主としては外交社交や先先の産業振興より今の水やり油やりが優先てどうなのとも思う。でもでも、俺にしかできないことは俺がやり、あとは他人に任せるようにしないと全然休めないし訳が分からなくなってきた。
そろそろ、役人たちに新しく秘書というか書記官が要るな。メモ帳もって後ろからついてきてくれるだけでいいんだけど。
お読みくださりありがとうございます。




