異世界召喚!
第二話 初日2
大けがをして後遺症が残り、実家に戻って近くのホームセンターにいたところ異世界に召喚され、兵舎近くのグランドというか、そういうところへ転移した。今は説明と休憩のあと、兵舎のホールで鎧姿の騎士団のおっさんたちに囲まれながら夕食を取っている。
騎士団長さんの説明によると、王宮から離れた離宮のある町の郊外の林を切り開いて42メートル四方の魔法陣を設営したんだそうだ。
数十人の魔法使いと貴重な魔石と法具を使って3年がかりで召喚したそうだ。
へえー。手間とお金かかってんだなあ。
しなくてもよかったのに。
魔女のコスプレかと思ったら魔法使いの皆さんでしたか。任務を達成出来たら、異世界から俺の地元に戻す術とかもあるのかなあ。帰りたい。いまから。
数字が半端なのは単位も自動変換されるからか?わからないが黙っておく。わからんことだらけだ。
日頃は調子に乗って失敗することが多いんだけど、さすがに異世界となると慎重になる。あまりのことに、ことばが出ないともいう。
まずは観察だ。あまりガン見して失礼にならないように、周囲見回す。
あ、視力もよくなってました。めまいがして、メガネ外して気が付いた。メガネ抜きでもみえるじゃん。むしろメガネかけた以上に。
見えすぎちゃって困るのーってやつだな。
かなりのド近眼だったのが、メガネの補正なしで見えてます。異世界でメガネ割って、作れませんとか言われたらどうしようもなかったとこだ。
にこやかがいいのか、無表情がいいのかわからん。そもそも今どういう表情をしているのか自分でもわからない。
異世界召喚された時の心得なんか、まーったく覚悟出来てなかった。
説明は続く。魔法陣は巨大な勇者が異世界から召喚されることもあるので大きいんだそうだ。今までの歴史の中で勇者は人型とは限らなかったんだそうだ。
ドラゴンでも召喚しちまった日には、一体どうすんだよ。
よくある小説にありがちな王宮の一室で召喚した場合、召喚獣が大暴れしたらどうすんだと思ってたんだが、さすが異世界。ちゃんとノウハウ持ってました。だから王都から離れた町で召喚してます。
勇者は人型とは限らないと聞いて急に不安になった。異世界の空気とか水とか、俺、大丈夫なんだろうか?
そういえば、召喚されて数時間、大気の組成は生存に適しているようだ。勇者として活動可能なものが召喚されるから、そこら辺は適したものを呼ぶのか、転移の際に調整されるのかわからない。痛めた体とかも治ってるし。目もよくなってる。
少なくとも今すぐ窒息は無さそうだ。深呼吸して落ち着く。団長さんに聞かれたから、緊張して息が苦しくなったので、と答えておく。嘘ではない。
ではそろそろお食事でも、ということになった。
そういえば、俺はこっちにきてまだ腹も下していないが、腸内細菌とかどういう仕組みになっているんだろう?
異世界のもん入れても大変なことになってない。俺はちょっと遠い地方行くと水が合わないのかすぐに腹を下す。外国はもちろんだ。しかし今は何ともない。
少なくともこの瞬間までは、空気と与えられた水分でも特に異変はおきない。さっきまで居た世界には無かった細菌であっさり倒れてもおかしくないはずなんだが、それもない。
空気と水は、なにかファンタジー補正かかってるようだ。
食い物もそうだといいな。
ひとりにやけて妄想してると団長さんから
「召喚された勇者の好みがわかりませんから、とりあえず、大皿でいろいろな食べ物を出しますのでお好みで。昼のようなブッフェ形式ではなく、大皿形式で用意しました。」
女が色のいいものからくっていく。おばちゃんと俺は少し後から女と同じものを選んで食う。まあそうなるよな。本当のサバイバルなら一口食べて数時間なんともなかったら食べるんだろうけど、空腹に負けて食べてしまう。
なにかの肉のクリーム煮系。つけあわせかなんかの野菜の塩蒸しか塩ゆで。
日本では見かけなさそうな食材ばかり。基本、いわゆるナーロッパっていわれる世界なんだけど、食べ物は洋食とも違う何かエスニックな感じ。大昔の西洋ってこんな感じだったのかな?香辛料は大航海時代以降と聞いてるし。生野菜っぽいのは無さそう。生で食べる果物はあった。
この世界ではご馳走なんだろうなと思われる。やっぱり、勇者が優遇されてるんだろうか。
少なくなった皿にはおかわりが補充される。
「皆さん、いつもこのような素晴らしいお食事を召し上がってらっしゃるのですか?」
あああ、つい、聞いちまった。いやしくてすみませんね。
「いえ、これは、勇者の皆さんへのお食事で、わたしたちはいつもはもっと質素なものを食べてます。」
あ?やっぱ、そうなんだ。ご馳走なんだな。あーコンビニ弁当食いてえ。
「それは団長さん、お気持ちに感謝します。」
サラッといえるあたりフリーター歴が長い俺様。
「わたしの一存ではなく上からの指示ですので、感謝するなら王国に感謝して下さい。」
謙虚な人だなあ。
「団長さん、異世界に来たばかりで、こちらの礼儀が分からないのですが、ここまで礼儀に反しませんでしたか?それと、このおいしい食事の大皿は食べつくすのがここの礼儀でしょうか?それとも残すのが礼儀でしょうか?」
「今日の食事は皆さんのお好きになさってください。皿の中身が減りましたら継ぎたしますし、余ればあとからの食事の組のものが頂きますので遠慮なさらないでください。
今まで、皆さんは礼儀に反しませんでした。むしろわたしたちは皆さんの礼儀に反しませんでしたか?
承諾なしにこの世界におよびしてしまったこと以外は、ですが。」
おばちゃんに目で合図すると
「わたしはないですねえ。」
「あたしもない。」
ああよかった。
おばちゃんはともかく。女が何言うか気が気じゃなかったんで、おばちゃんにふったんだけど。
「俺も今んとこ無礼と感じたことはないです。これからもよろしくお願いします。」
団長さんがいきなり激昂して俺らが切り刻まれることはなさそうだ。
夕食のあと、兵舎に案内される。
「今日はお疲れでしょうから、こちらでお休みください。この世界の習わしなどは明日以降ゆっくりご説明いたしますのでご安心ください。
今夜はドアの外に係の者がいますので、なんなりとお申し付けください、」
お?翻訳の指輪は少なくとも外にいる兵隊さんも持ってるレベルなんだ。むちゃくちゃ高価な国宝レベルかと思ったらそうじゃなかった。それと部屋の鍵はかからないらしい。
ところで、風呂に入る習慣はなさそうだな。全身嫌な汗をかいているのでせめてシャワーでもと思うが、今夜聞くのはよしといたほうがいいだろう。
しかし、えらく広くかつ殺風景な部屋だ。窓がすごく頑丈そうで、いかにも要塞って感じだ。
牢屋にしては戸締りが甘いので、大部屋の家具を片付けて無理やりひとり部屋にしたんだろうか。
横になってると、おばちゃんが扉をぶっ壊して兵士と入ってきた。
「あっ、驚かしてすみませんねえ。扉を壊しちゃった。ごめんなさいね。」
俺にだか兵隊にだか漠然と謝る。
「ごめんなさいね。こうなっちゃったんだけど、お互いのこと全然知らないから、日本から来た三人で自己紹介しといたほうがいいと思って。
じゃあ、男性のおにいさんから、お願いできますか?」
「えっ、あ、はい。俺は、佐藤清孝。
サンズイに青いの清い、孝行息子の最初のほうのコウ、キヨタカといいます。キョータと呼んでください。
地元出身です。今年45で今はフリーターです。
高校出たあと地元出ました。学校出たあとも、職を転々として、転職のたんびにだんだん条件が悪いところに移っていって、この前、工場で左ひじ左足が砕けてしまいました。
何度か手術したんですがうまく治らず、入退院くりかえして、やっぱりだめで、いったん実家に帰って、ホームセンターで暇つぶししてたら、こうなりました。
んんと、こっちに来たら事故で固まった足も腕もちゃんと動くし、なんか視力もよくなってるんでそれだけは少なくともよかったかなと思いました。
ああなんか俺ばっかりしゃべっちゃったな。
じゃあ次のかた。」
今日は色々黙ってたから、そのせいか、しゃべりすぎた。しゃべったら少し安心した。
「あたし、山本リカ。25。
あたしも高校出て地元出た。去年戻ってきたとこ。」
詳しい話はしない。リカもどういう字なのかはわかんない。ツンケンしてるが、まあ美人の部類だろう。聞く糸口もみつからない。
「鈴木久美子。55です。
さっきは扉壊してすみませんでした。
えー、他県の出ですが嫁に来てからずっとここです。
そのー、この年だから子育ても終わって、子供たちは結婚しないから孫の世話もないんです。家にいてもしょうがないから、半年前からホームセンターのパートに出ました。よろしくお願いします。」
善良そうな、普通のおばちゃん。ずっとここですって、今異世界なんだけどなあ。現実感がないのはわかる。俺もまだない。
ひととおり、自己紹介終わり、ちょっと沈黙。
「・・・・・。
鈴木さん、山本さん、くれぐれもよろしくお願いします。
俺が言うのも変だけど、まあ、とりあえず、がんばりましょう。
じゃ、夜も遅いし、みなさんも疲れてるだろうから、今日はこれでどうですか?また時々お話ししましょう。」
「お休みなさい。」
「よろしくお願いします。お休みなさい。」
なげえ一日だったな。
勇者かあ。ご都合展開だな。さえねえおっさんが勇者。
さっきの団長さんよりはいい暮らしができるらしいから、すげえ美人のメイドとか、ウヒヒヒ。
前の世界よりは確実にもてるだろうし。
笑いが止まらん。
なかなか寝付けなかったが、ニヤケながら眠った。
寝具はあんまり清潔じゃなかった。