異世界召喚!
第1話 初日1
実家近くのホームセンターで買い物をしていたら、南欧風の外人達の集団に囲まれた。
俺は40代後半の独身フリーター。キョータと呼んでくれ。職歴多数。なんで実家の近くをうろうろしているいかというと、工場パートで労災くらった。構内でフォークにぶつかり、左ひじ左足が砕けてしまった。入院して何度か手術したが、後遺症が残るらしい。
で、出先を引き払って実家に戻ってきた。
というわけで、ここらではあまり見かけない南欧風の外人達に囲まれる理由は一切ないんだが。
コスプレのような恰好をした男女が、通路の両端から遠慮なく眺めている。
鎧を着て剣を吊るした騎士のコスプレをした中年の男が何か話しかけてくるが、全く何を言っているのわからない。ちょっとだけ学んだスペイン語ではないな。ギリシャ語か?
刺激するとまずいと感じたのでとりあえずへらへらしてると騎士男が装飾過剰な指輪を渡してくる。
鎧を着てるから気が付かなかったが、かなりガタイがいいな。おとなしく受け取る。
指輪を受け取ると相手が何をしゃべってるかわかった。
「あなたたちは召喚されました。」
え?指輪で変換? 異世界語???あなたたち?複数????召喚???
俺の理解の限度を超えて固まっていると甲高い若い女性の声がした。
「ちょっと、なんなのよ!」
やった!日本語だ。騎士のコスプレした男に声をかける。
「キョータと呼んでくれ。女が困っているようだ。一緒に声がした隣の通路へ行こう。」
「なんなのよ!あんたたち!」
化粧の濃いケバイ感じの20代と思われる女がわめいている。おいおい、相手は国籍不明のコスプレ集団だぞ、こいつら刺激したらどうなるか見当がつかん。
コスプレ集団は遠巻きに見てるだけだ。
50代くらいのおばちゃんもいた。当惑してるらしく俺と同じうすわらいをしてる。
うーん、45の俺より10歳くらい上だろうな。ここのホームセンターの制服を着てるから、お店の人だろう。
20代女は派手な私服だ。多分俺と同じように客だろう。店のカートを押してる。大きな声を出したのは客のほうだな。
下手に通訳してあとから責任取らされるのは嫌なので、また騎士に声をかける。おっさんの俺は人間が小さく、そこら辺はうまく逃げる。
「この人とは初対面なんで、あなたとこの人で話していただけませんか?」
まずは騎士に指輪を返す。騎士は女に指輪を渡した。
気の強そうな女に日本語で説明してやった。
「俺はキョータ。その指輪持ってると、この人の言葉分かるから。」
「え? えっ?」
よーくわかる。俺も固まったばかりだから。
騎士と女で話をしている。おばちゃんと俺は突っ立ったまんま、激昂している女と根気よく穏やかに話す騎士の話を聞く。
騎士の言葉は指輪が無いのでわからないが、異世界に来たことを説明しているのは女の受け答えだけでわかる。
「ナンナノ!」
「え? えっ?」
「関係ないでしょ!」
「ナンナノ!」
退屈してきたころに、若い騎士が後ろからやってきた。おっさんの騎士に指輪を二つ渡す。俺とおばちゃんも指輪を受け取ってようやく会話が分かるようになった。
穏やかそうに見えるおっさんの騎士は、近衛騎士団長だった。
要約すると、俺たちはここの王国に召喚された。今後、人類全体の敵である魔物を征伐する。生活は保障する。そういう話だった。
「なんなのよ!この後ネイルの予約が入ってるのよ!」
オイオイ。今のこの事態はネイルの予約レベルじゃねえよなと思いながら周りを観察する。コスプレ集団も無表情に立ってる。
女がわめき散らすのに疲れたのか何なのか黙った。みんな黙る。かなり、気まずい。俺は本来は気まずくなるとベラベラしゃべって墓穴を掘るタイプだ。しかし、その俺をもってしても、何も話せない。
間に入らずによかった、と、小心者の俺は少し安心する。
本来はそれどころじゃないんだろうが、極度の緊張で振り切れてる俺には筋道立った考えとか全くできない。
「とりあえず、こちらへ、」と鎧男に言われ、店内から移動する。
店のそとは野原だった。やっぱり、たぶんだけど、ここは異世界。向こうには森が見える。少なくともさっきまでのホームセンター周辺の景色とは全く違う。
これはかなりやばいやつだ。
今になって足ががくがく震えてきた。
店のそとにテントが張ってあり、中に木製の椅子があった。数十人の男女のうち騎士のコスプレの連中は残り、他は近くの石造りの建物に去っていく。椅子を勧められ座る。ああ、疲れた。
テントの日陰で、騎士団長さんから、また説明。
「皆さんは、ここの王国に召喚されました。お疲れさまです。
皆さんには、魔物を征伐していただきます。
もちろんですが、生活は保障します。」
そういった話が繰り返される。女が待遇について聞く。
すげえ度胸だな。俺も待遇については関心があるけど、ちょっと聞こうという気にならない。相手は甲冑着てるし多分ホンモノの剣持ってるし。
「具体的な説明はあとでしますが、勇者の皆さんは普通の貴族より高待遇です。もちろん王立騎士団長のわたくしより全然いいことだけは保証します。」
王立騎士団長の保証の重みが分からないし、おばちゃんと俺はなるべく無表情で黙っている。
さっきは薄笑い浮かべていたおばちゃんと俺だが、ここは相手を刺激してはいけない場面だろ、絶対に。
でも逆に、すこしほほえんだ方がいいんだろうか?
女がひとりで質問していると、騎士団長さんに絶妙の間で聞かれる。
「そちらのお二方は、なにか質問ありませんか?」
「いえー、ワタシはビックリして質問どころじゃないです。」
おばちゃんが答える。俺もコクコクとうなずく。
うなずいてから、しまった!うなずく動作が違う意味だとやばいと思って慌てて補足しとく。
「俺も同じです。うなずいたのは、わたしたちの国ではそうですという意味ですが、こちらの風習でもそれでいいでしょうか?」
「ええ。その動作は同じ意味です。しかし間違いがあるといけませんからなるべく 言葉にしていただけると助かります。」
どこまでも穏やかなおっさんだな、団長さん。
「ところで皆さん、のどが渇きませんか?お飲み物をお出ししましょう。
皆さんのお好みがわかりませんから、いくつかお出しします。」
あっ、いわれてみれば猛烈にのどが渇いた。精神的にも舞い上がってるんだろう。のどがカラカラなことにきがついた。
足はまだ震えてる。できれば駐車場にとめてある車に戻りたい。車に戻って、ペットボトルのウーロンをラッパ飲みしたい。こっちの世界にウーロンあるのだろうか?ペットボトルは無さそうだ。
団長さんの合図で花瓶みたいな陶器が何種類も出てくる。ガラスは無い文明レベルなんだろうか。もう情報量多すぎてよくわかんない。
なんかのジュース、なんかの汁?が中に入ってる。セルフサービスらしい。そういう文化なのか?
カップを持とうとして気が付く。足が震えているが手も震えている。半分以上そそがれたらこぼすかもしれない。
わめいていた女が全部試す。ある意味勇者だな。や、異世界勇者なんだろうけど。俺ら。
俺もフアミレスのドリンクバーは全種類飲む派だが、どれが安全かわからないけれども、女が飲んだ中から思い切って茶色いのを試す。
ぬるい。
3月の日本に比べてここは暖かい。ようやく気が付いて上着を脱ぐ。もちろん団長さんに声をかけてから。
女もおばちゃんも俺に倣って声をかけて脱ぐ。
女が、スマホ通じないという。そりゃあそうだろ。
だらだらとしゃべっていると、
「日も傾いてきましたし、いったんお部屋で休息してください。」
気が付くと時間が結構たっている。
騎士団長の案内で例の石造りの建物に歩く。領主の館かと思ったら兵舎だそうだ。西洋風のお城とはまた違う風情だ。石の積み方が違うのかそういう方面は全く詳しくない俺にはわからないが、ともかく、頑丈そうな要塞の中へ入っていく。
あれ?事故で固まった足も肩もちゃんと動く。今、気が付いた。召喚のせいか?
痛みが引いたことは助かった。
異世界確定。コスプレじゃなくてガチの皆さんでした。




