二話_11人乗りの巨大飛行船
乗客には花飾りの付いたネームプレートが支給される。
私の手元には加庭日夢と刻まれた物が配られていた。私の名だ。
隣に立つ秋井戸にも同じように配られている。そしてそれを適当に胸ポケットに突っ込んだ。よく見ると、胸ポケットには既に"秋井戸"と刺繍されている。それにしても何故この男は作業着なのだろうか。
「今日も仕事で。まあいいだろ」
汚れや臭いが気になるわけでもあるまい。それに、バトルが巻き起これば有利に働くこともあろう。しかしそう想像すると辟易する。
「思ったより疲れることになりそう」
「本当に戦いが起こると思ってるのか?」
「"解決役"がよこしたんだ、何かあるに決まってる」
「それ。確かに」
秋井戸は私に指をさし、思い出すように頭を傾けてから言う。
「お前の"魔法"。確かめちゃくちゃ強くなかったけ? 首を一瞬でへし折ったり」
「確かにそう言ったけど…それは出来ない事の例えだよ」
私の霊得術【二つ折りの夢】は対象の向きを逆にする。たしかにそう聞いただけなら、例えば"頭"を対象に致命的ダメージを与えられるかも、と勘違いするかもしれない。
「基本的には"逆にする以外"のエネルギーが必要な対象には使えない。例えば足と地面が接着剤でくっついてると対象にできなかったり」
「ふーん。パンチは後ろに飛んでく癖に接着剤は剥がせないのか」
「そう。でも条件さえ満たせば、"絶対"発動する。頼っていいよ」
片手でokサインを作って胸元にかかげる。会話が終わったようだ。
私たちを含めて乗客は8人。全部2人組のようだ。観察するほど興味が湧かないから、気になるところだけに注目してみる。
最年少、おそらく中学生ほどの女の子。今日は平日だから学校は休んだのだろうか。隣には父と思われる男性がいる。
男性二人組、大学生っぽい雰囲気。これは想像だが、飛行船に関連するサークルから二人ずつの参加のように思える。あまり仲は良くなさそうだ。
男女。夫婦だろうか。お金持ちのように見える。私の勘によると玉の輿。
全二日、空の旅を共にするメンバーである。いや、船員を含めてなかった。船員の方は少数精鋭のようで、三人しかいないらしい。
そのうち一人は"キャプテン"の肩書を持っており、基本的に船の操縦にかかりっきりなので、私たちの前に出ることはほぼないだろう。
たった11人しか乗せないとは思えない、巨大な飛行船がお出ましだ。いままでの飛行船の規模から考えておよそ五倍ほどの生活空間を確保しつつ、安定感もあり、バスケットボールくらいならプレイできるらしい。
燃料の効率も非常に高く、東京-沖縄の往復飛行で一度も補給しないという。
資料によると、三階建て構造である。
一階に客室と操縦席、一部、真下が見渡せるスケスケ仕様になっており、高所恐怖症がちびるだろう、まあそんな奴ここにはいない。
二階には大広間。都合によって仕切りをつけることも可能。
三階には食堂室やバスルーム、レクリエーションルームが二つ。なんと外周部分はガラス張りで、解放感に溢れる作り。
下部から階段が出現する。船員のガイドにしたがって、登っていく。
いよいよ入船を果たした。豪勢な飾り付けだ。普段の生活からは間反対にあるような光景だが、特に興味もない。
しかし、秋井戸の顔を見るに、こういうのが好みなやつもいるみたいだ。
「すっげぇ…」