一話_霊得者の住むマンション
ある日、バイトから帰ると、マンションの管理人である”解決役”が部屋にいた。
私は彼の名前をしらない。彼と、そして私が所属する機関の月報を読んで知れることは、彼が”解決役”と呼ばれていることくらいだ。ちょうど”取締役”とか”総裁”とか呼ばれてるあれだと思えばちょうどいい。
解決役は、身長180後半ほどで、20~30歳ほどに見える、顔立ちはと言うと”少し影を感じる”の一言に尽きる。つまり平凡で記憶に残りにくい顔をしている。
「頼まれてほしい」
”転換点”と呼ばれる、とある日を境に、特殊な能力を得た私にこのマンションの一室を与え、能力に対する不安を取り払い、同じく能力をもった人々と出会わせてもらった恩がある。
「頑張ります」
彼は何とも言わずに、紙を机にそっと置いた。
覗き込む。それは少しきらきらした普通の広告のように見える。青色の空と黒色の空をバックに、強調されるのは飛行船だ。
彼が言う。「”ウェイトレス・ロータス”」もしくは…「”浮遊する睡蓮”」と私が言う。
「沖縄まで行き、折り返して東京に戻る。無補給でだ」
依頼の内容は…?言葉は出なかった。
「乗客の保護」
あまりに楽しそうだから、言葉に詰まってしまった。
-上-
私の”能力”を説明しよう。まず、こういった能力を持つものを霊得者と、その能力を霊得術と呼ぶ。
そして私の霊得術の名前は【二つ折りの夢】
恰好つける為にある名じゃない。名が鍵となっているので、心の中で唱えなければ発動できないのだ。因みに詠むのはルビの方、つまり【バッカーウィット】だ。
効果は、”心に決めた対象を逆に向かせる”というもの。
私に拳を決めようとする輩がいれば、この術でマヌケの空振りというわけだ。そしてそんな大振りかました相手には良くてナイフ、悪ければあの世が待つ。
シンプルで地味だが、こと1vs1の戦いにおいて、これほど信用たる力はない。”《《常に相手の背後にいることが出来る》》”のだから。
しかも、(相手にとって)最悪な事に、この術を食らった後、一瞬だけまるで逆を向いていないみたいな振る舞いをするのだ。
だから、振り返る瞬間をドンピシャで当てられることはない。
最期の決め手はこの術の隙の無さ。一秒を千分割してもそれぞれの分割毎に発動できる。単一の対象にすることではないが、それをするとどうなるかというと、前と後ろの視界を持ち、それを違和感無く受け入れ、更に”前後”が互いに干渉しあい…この先はよそう。
つまり魔法使いたちの戦闘が起これば私は《《無敵》》だ。
ところで、飛行船の依頼を受けたマンションの住人はもう一人いる。
その人物は秋井戸レンといい、ほぼ、私の自己紹介を流用できる男だ。
フリーター、25歳、霊得者、”解決役”にマンションの部屋を貰った。
更に言えば部屋が隣で、入居タイミングも二日ほど私が遅いくらい。親交の証として、能力も披露しあった。
彼の霊得術の名前は【魔人】効果は…少し説明が難しい。エネルギーの詰まった当たると鋭い痛みの走るボールを掌から生み出したり、足からエネルギーを勢いよく噴射し、高速で移動したり、だ。彼に言わせれば、”魔力を操る”能力。説明不足も甚だしい。工夫しだいで広大な余地がある能力ではあるが、如何せん、エネルギー量がモノを言う領域であり、私から見れば力不足感は否めない。戦う相手が戦車や戦闘機を想定した場合だが。まあ、それは私にもない。