嘘から本当へ
最終話です。
「本当に、フィルは言葉が足りなすぎます」
「……すまない」
あれからしばらくして、落ち着いたわたし達はソファに並んで座り、沢山の話をした。そしてどれほどお互いが思い違いをし、すれ違っていたかを今更になって知ることになる。
ちなみにわたしが大嫌いだと言った後の『俺も嫌いだ』という言葉は、自身が嫌いだという意味だったらしい。そんなもの、超能力者でもなければ分かるはずがない。
「子供の頃から、君を前にすると頭が真っ白になって、言葉が何も出てこなくなるんだ」
「それでも、言葉にしてくれないとわかりません」
「ああ、本当にすまなかった。……だからこそ、こんな俺なんて嫌われて当然だと思っていた。それでも君に大嫌いだと言われた後は、二週間以上寝込んだ」
知らなかったとは言え、流石に罪悪感が募る。けれどやっぱり、一言くらい言って欲しかった。
「一生をかけて償っていくから、許してほしい」
「いえ、そこまで重く考えて頂かなくても……あ、そういえば、あの日言っていた『俺のことが大好きで、顔が見られるだけで幸せ』みたいなのは何だったんですか?」
「……あれは、その、俺自身の気持ちだった」
まさかの自己紹介だったらしい。
「わたしが他の男性と話すだけで、嫉妬していたんですか」
「ああ。君はシリルのことが好きなのかと思っていた」
「だから、わたしがシリル様のことを嫌っていたなんて嘘をついたんですか?」
「………………………すまない」
フィリップ様は、今にも消え入りそうな声でそう言うと、両手で顔を覆った。
これ以上彼の嘘を掘り返せば、彼はまた、何故か窓際に置いてあるアイスペールを被ってしまうかもしれない。そんなことを想像し、思わず笑みがこぼれたわたしを、彼は不思議そうな表情で見つめている。
「フィル、大好きです」
「……俺も、どうしていいかわからないくらい、好きだ」
そしてやっぱり泣きそうな顔をした彼が、何よりも愛しくて。これからもずっと、側に居たいと思った。
◇◇◇
それから数ヶ月が経った、柔らかな春のある日。
わたしは真っ白な衣装に身を包み、大きな扉の前に立っていた。この先には、沢山の大切な人達が待っている。
……ちなみに両親やジェイミー、セドリック様には正直に嘘をついていたことを話し謝った。
けれど誰一人怒ることはなく、フィリップ様との誤解が解けたことを喜んでくれて。こんなにも優しくて大切な人達に、二度と嘘をつかないことをわたしは改めて誓った。
それ以外の人々には、無事に記憶が戻ったと伝えてある。事実を知っているナタリア様には全てを話したところ「ああそう。私はね、ウジウジしていなければ、貴方のことは嫌いじゃないのよ!」なんて言い、黙っていてくれるそうだ。
そしてすぐ隣には、大好きな人がいるのだけれど。
「……フィル? 何をしているんですか?」
同じく真っ白な衣装に身を包んだ彼は何故か、無表情のまま自身の頰をつねり続けていた。
「幸せすぎて、これが現実だなんて信じられない」
「もう、綺麗な顔が台無しになりますよ」
そんな彼の手をそっと掴み、そのまま指を絡ませて繋いでみれば、フィルは赤くなっていた頬を更に赤く染めている。
「すべて現実ですから、安心してください」
「……未だに、君が俺を好いてくれていることすら、信じられない時があるんだ」
今日で彼はわたしの夫となるというのに、未だにそんなことを言っていて。思わず、笑ってしまう。
「わたしがどれくらいフィルのことを好きなのか、まだ伝わっていないんですね」
「……どれくらいなんだ?」
「知りたいですか?」
「ああ」
どうやら本気でそんなことを知りたがっているらしく、フィルはひどく真剣な表情でわたしを見つめている。
そんな愛しい彼に向かって、世界一幸せな花嫁であるわたしはとびきりの笑顔を向け、言ってのけた。
「ベタ惚れですよ」
これにて、本編は完結です。ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
書籍・コミカライズともによろしくお願いします♪
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『冷徹公爵様の元カノ悪女のはずが、ヒロインが現れても別れてくれません!』
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