その八 善き理解者
「じゃあ爺さん行ってくるわ‼」
ディーノはスクーターで出掛けていく
「さて、今日は何をしようかの?」
勝治はゆっくりとベッドから出ると日課のルームランナーで足腰を鍛える
折角思い出した腕を更に取り戻す為に組み木細工をするか
余計な家具すらないこの部屋にせめてタンスの一つも拵えるか
トコトコと歩行練習をしながらボーッと考える
ー一方ディーノの現場ではー
「親方ぁ‼これ見て下さいよ‼」
「ん?…こりゃあ…何で細かい細工なんだ…お前が作ったのか?」
「ははっ‼そんなバカな⁉こりゃ家に今居候している爺さんが作った「組み木細工」って言うらしいぜ。珍しい品だろ?」
「ディーノ、今日はお前ぇん家に行くぜ」
「は?」
「バカ野郎‼こんな細工を見せられちゃ職人の血が騒ぐってもんよ‼是非その爺さんを俺に紹介してくれ‼」
「そんなに凄ぇのか?」
「だからお前は半人前なんだよ‼この細工は釘一本使ってねぇで組み立ててあるんだぞ⁉」
「あ?そう言やそうだ‼」
「そうと決まれば今日の仕事をチャッチャと片付けてお前ぇん家に行くぞ‼」
「へいっ‼」
親方とディーノの作業ペースはいつもの倍になった
「爺さん、帰ったぜ‼」
ディーノが親方を連れて帰宅した
「ん?誰じゃ?」
「こりゃウチの親方だ。爺さんのあの細工を見たら会わせろ会わせろって煩い…痛てっ‼」
「どうも。ディーノがお世話になっとります。一応大工の棟梁を張らせて頂いてますガルドって者です」
「おぉ、お主がディーノの言ってた親方じゃな?ワシは勝治じゃ。して今日はまたどうして?」
「…師匠!俺に師匠の技を仕込んでくれ‼」
親方はテーブルに手をつき頭を下げた
「親方…いきなり師匠とか…」
「ふむ、ワシも弟子を取るのは久しぶりじゃが熱意を買ってやろう」
「お願いします!」
「親方ぁ…何ふざけ…痛てて‼」
「バカ野郎っ‼お前あの細工を見てただ「綺麗だな」位にしか思ってなかったら節穴も良い所だぜ⁉あんなの俺の人生で初めてお目にかかった程の一品だ‼」
「…そこまで誉められると嬉しいのう。ガルドと言ったかの?今日はゆっくり語り合おうではないか」
「師匠‼ありがとうございます‼」
勝治は善き理解者に出会えて気分が良かった。職人は世界も世代を越えても分かりあえるモノなのだ
「今日は無礼講じゃ。たんと肴も用意して楽しく凄そう」
勝治は鯛の活け作りや唐揚げ、大吟醸等を沢山用意した
「…師匠、これはどこから…?」
「まぁまぁ細かい事は一杯やっつけてからじゃ‼」
「じゃあ頂きます。…う、うめぇ‼この酒は腹に染み渡りますね、師匠‼」
「ワハハ‼たんと飲んでたんと食え‼」
親方を加えた三人は明け方まで飲み明かし職人談義に花を咲かせた