その四十一 ガルドの奮闘
勝治達が温泉宿の測量に取り掛かった頃、ガルドは内装張りの作業に集中していた
ーバスンッ‼バスンッ‼ー
(ふぅ…師匠は伝統工法と在来(?)工法のハイブリッドだと仰っていたが…)
ガルドにはその違いが明確に分かっていない
簡単に受けた説明では「伝統工法」は壁を頼りにせず柱と梁で家を支える工法、
「在来工法」は柱や梁に支持金具等を足して「面」で家を支える工法だそうだ
前者は勝治の国でも軸材の加工工程の難しさや内装レイアウトの多様化に対応が難しい等の理由から
現在では1割程度しか施工されていないそうだが勝治は在来工法との融合で技術を残したいらしい
ガルドは師匠である勝治の建築理念をこの国でも継承すべく黙々と断熱材を張っていった
ー温泉宿建設現場ー
「大師匠、親方は今頃頑張ってるんですかねぇ?」
「ふむ、多分断熱材等を仕込んでおるだろうの」
「何か親方に申し訳ないなぁ~」
「まぁこれも宿の完成イメージを膨らませる為に必要じゃよ」
勝治とディーノは測量等を終え今は簡易的に作られた湯船に浸かっている
湧き湯の排水をしておかないと周囲が水浸しになる為仮設で排水工事をしたのだが
ただ湯を川に流すだけでは勿体ないので勝治が急遽湯船を設置したのだ
「ふぃ~…このお湯は何かシュワシュワしますね?」
「これは炭酸泉と言うモノじゃよ。疲れた体には最適じゃ」
「あ゛~、染みますねぇ…」
仮設なので衝立も何もない解放感溢れる露天風呂で二人はのんびり湯に浸かるのであった
ーカンカンカン、バスンッ‼ー
「ふぅ、今頃師匠達は測量等で頑張られておるのだろうな」
まさか勝治達が温泉で蕩けているとは思わないガルドは休憩も惜しんで壁材を設置している
「師匠が戻ってくる迄に壁材位は終わらせておきたいものだな…」
額に玉の様な汗を浮かべつつガルドの作業は淡々と進む
ーブルルーン…キィー…ー
「親方~、進み具合はどうですかぁ?」
そんなガルドを尻目に呑気な声を掛けて来たのはたっぷり温泉で癒され腑抜けた顔のディーノだった
「む?サボって来たのか?」
「そんな訳ないじゃないですか、大師匠から親方に差し入れを頼まれたんですよっ‼」
プリプリ怒るディーノからは仄かに酒の匂いが漂っている
「ふんっ‼昼間から酒など飲みやがって良いご身分だな、ディーノ‼」
「え?それは大師匠にも伝えますか?向こうで酒盛りしてますけど…」
「はうっ⁉い、いや‼流石師匠‼既に寛がれておられるとは「尊敬してました」と伝えるんだぞ?良いなっ‼」
「へへっ、とにかく大師匠が「ガルドは1人だと際限なく作業してしまう」と心配してこれを持って行く様に言われたんですよ」
そういうディーノの両手には舟盛りと日本酒、源泉で作られた温泉卵等があった
「1人じゃ味気ないでしょうけど一段落したらこっちで酒盛りしようって言ってましたよ」
「…師匠…ありがとうございます…」
「あはは…嫌だなぁ、泣かないで下さいよぉ」
ディーノはテーブルに料理と酒を並べながらガルドに突っ込む
「…あと2日程で目処をつけるつもりだったが徹夜で終わらせて師匠の下へ馳せ参じるぞ!」
「参じるって…あんまり無茶しないで下さいよ?」
「バカ野郎!お前だけで師匠のお世話させてたら不安で寝られねぇんだよ!」
「…まぁそれでも良いや、じゃあ戻りますね」
ディーノは勝治の技を間近で見たくてウズウズしているガルドの下手な言い訳を軽く流し現場へと戻って行ったのだった




