その十六 資材集め
「ほぅ…ではこの辺りの木材は職人自ら集めるのか?」
勝治はガルドの話に耳を傾ける
「はい。師匠の言う材木商ってのは大きな町等にはおりますがこの辺は職人達が現地調達で済ませる事が多いですね」
「なるほどのぅ。となると現地調達の現場合わせになるじゃろうから家の造りもバラバラになるのぅ…」
「まぁ大抵は依頼を受けた家々であっちはこうしろだの言われますんで同じ形ってのはないですね」
「なるほどのぅ…」
勝治はこの世界の家屋の成り立ちに合点がいった
現物合わせのやっつけ仕事に近いから設計図も必要としないのだ
「それでは職人の勘に頼り過ぎて若い衆への技術の伝授が難しくなっとるのではないか?」
「ですね、大抵の棟梁は弟子の中でも覚えが早いヤツに自分の技術を仕込んで後の奴等はソイツに従っていく形ですね」
「まぁそれも正しいのじゃろうが…いずれ技術は廃れるだろうの」
勝治は日本での伝統技術の衰退をふと思った
口伝ではいずれ道は曲がり失伝する技術も沢山出てくるのは致し方ない事なのだ
「ワシらの世代では先人の教えをより正しく伝える為に書物に残したり技術継承を画一化したりしとったのぅ」
「成る程、失伝したモノの中にも素晴らしい技があったとしたらそれは世界の損失ですな」
「そうじゃ。先人の教えは宝じゃからの」
話は大幅に脱線したが本筋は資材の入手経路の確認である
勝治とガルドは夜更け迄認識の擦り合わせを行うのであった
一方ディーノはと言うと建築依頼のない日は町まで出向いて手押し車の販売をしていた
「ディーノ、ウチにも手押し車を頼むよ」
「あいよ!」
最近では大分商売にも慣れてきた様である
勝治達が意見交換していたこの日は複数の配達もあって泊まり掛けの「出張」をしていた
(俺みたいな奴が貴族に会えるとか…手押し車様々だな)
この世界では庶民と貴族階級には明確な隔たりがある
よって出入りする商人でもない限りディーノの様な庶民が貴族階級の人間と接触する事は稀なのである
(爺さんの技術を教えて貰って一人前になれば俺も世間様に認められるかな?)
そんな事を思いつつディーノは宿の一室で組子細工の練習に励むのであった
「お早うございます、師匠。」
ガルドは勝治を揺り起こす
「…ん、どうした?ガルド」
「今日は町に出て商人の話を聞きに行きましょう」
ガルドは勝治を商人達に引き合わせてより正確な情報を得るつもりらしい
「その為に馬車を借りてあります」
「馬車か…初めて乗るのぅ」
「アハハ、ご冗談を。」
勝治は日本を「異国」と伝えてあるのでガルドは馬車に乗るのを初めてと言った勝治の言葉を冗談だと一蹴して疑わない
「ワシの国ではスクーターよりも大きい「車」という乗り物があっての。
…謂わば「馬の必要のない馬車」の様なモノじゃ。人々はその「車」を運転して移動しておるのじゃ」
「はぁ…「車」ですか?さぞかし素晴らしい道具なのでしょうな?」
「素晴らしいかは分からんが多分馬車より数倍早く目的地に着けるぞぃ」
「…何と…それは凄い乗り物なのでしょうな」
何ともちぐはぐな会話ではあるが実物を出したら大変な事になりそうなので勝治は曖昧に笑って済ませたのだった




