その十 親方の決意
「師匠、今日はご師事頂きありがとうございました‼」
「ほっほっ、また遠慮なく来るがえぇぞ」
「はい‼近い内に必ず来させて頂きます‼」
親方は深く一礼をして去って行った
「はぁ~…折角の休みだったのに親方と一緒じゃ休んだ気がしなかったなぁ」
ディーノはベッドに寝転がる
「しかしディーノは良い親方に出会えたの」
「へへっそうでしょ?ちと厳しいけど温かい人なんだよ」
「普通はの、棟梁まで張った人間は変に見栄を張って他人に師事なんぞ受けないモンじゃ。
新しいモノに貪欲な人間は腕を磨く為には頭を下げるのも躊躇わん。見上げたヤツじゃて」
「そんなモンなんスかね?」
「そんなモンじゃ。」
ディーノは枝豆を肴に酒を煽った
ー親方宅ー
「善は急げだ。引っ越すぞ‼」
親方は荷物を纏めて引っ越しの準備を始めた
ー翌日ー
「おい、ディーノ。俺はお前ぇん家の近くに引っ越すぞ」
「え?何スか?藪から棒に⁉」
「バカ野郎‼あんな立派な師匠に会えたんだ、仕事しながらじゃ教えて貰う時間が取れねぇんだよ‼」
こうと思ったら即行動も良い親方の特長である
「にしても空いてる家なんて近くにあったかな?」
「そこはホレ、暫くはお前ぇん家に厄介になるさ」
「は?何勝手に決めてんスか?」
「…何だ、何か文句でもあるのか?」
「いえ…でも部屋はないですよ?」
「はっ‼男同士だ、雑魚寝で良いだろ」
(こりゃ断る選択肢はねぇんだな)
ディーノはこれからの地獄を想像して身震いした
「帰ったぜ」
「む?ガルドではないか」
「へい、師匠。今日から少しご一緒させて頂きます‼」
「ん?どういう事じゃ?」
「師匠の技を教えて頂くのに通いって寸法はないので近くに引っ越そうと思ったんでさ。部屋が見つかる迄ここに寝泊まりして探すついでに師匠の技を拝見出来る、という訳ですよ」
「成る程。熱心な事じゃな…だがこの近くに借りられる部屋か家はあるのかの?」
「…聞いた事ぁねぇな…」
「ならどうじゃ?教えついでに家を建ててみんかの?」
「…良いんですかい?」
「ああ、どうせ学ぶなら実物の方が手っ取り早いじゃろうて」
「師匠‼宜しくお願いします‼」
「まぁそれはワシとて構わんが仕事はどうするんじゃ?」
「あと数日で頼まれた家は仕上がりますんで次に依頼を受ける迄に自分の家造りに専念しようかと」
「ワハハ、そこまで考えとるならワシには言う事はないぞい」
こうして親方はディーノの家に暫く厄介になる事となったのだ
勝治は老い先短い人生で最後となるかも知れない弟子に自分の技術の全てを仕込もうと血をたぎらせていたのだった
「ほれ、今日は祝い酒じゃ。皆で楽しもうではないか」
男同士が三人も揃えば酒を酌み交わすのは必定、これから数日はドンチャン騒ぎの毎日が確定した瞬間であった
今日はこれにて。




