賭けの勝敗
「え。賭け事はあまりすきじゃない。だって大抵もちかけた方が有利じゃない。」
「ぬぅ。相変わらず脳ミソお花畑なのか現実主義なのかわからん奴じゃのう。」
ときどき妙なところで鋭い彼女は提案に対して渋ったようすだった。動揺し心の声が駄々漏れの彼は続ける。
「相手の男が君を大切に出来るか心配なのだよ。君とは長い付き合いだからのぅ。任せるに価する者なのか試したいのだよ。」
彼女は好意に対して無防備になる傾向がある。
それを知った上で都合のいい言葉を並べて誘導するが彼女は悩みつつ答えた。
「私は彼を信じてるから大丈夫だけど…そんなことして彼が気を悪くしたら…。」
普段の様子では考えられないような気遣いを見せている少女に神の感情はさらに重くなる。
内に秘めた彼女に対する執着がいっそう強くなるのを感じ、それをひた隠す。
「心配することはない。簡単じゃよ。二人で共に逃げたいのだろう?二人で逃げきればそなたの勝ち、巫女が逃げれば追っ手がかかる。それに捕まった場合は我の勝ち。素直に帰って来るのだ。」
どうかのぅ?と彼が声をかける。沈黙が部屋を包み込む。
いくらか時間が経った後に決意に満ちた顔で彼女が口を開いた。
結論として彼女は賭けに負けた。
二人で逃げる事が出来なかったのである。草の生い茂る小高い丘の上で彼女は膝を抱えて座っていた。
約束の時間になっても彼が姿を見せることは無かったのだ。
「巫女様、この度の件はさすがにやりすぎです。」
気がつけば普段護衛を勤めている青年が側に立っていた。他には誰もいない。追っ手と言うよりは迎えに来たというような雰囲気である。
だが彼女は全く反応を示すこと無く無表情で待ち人の来るであろう方角を見つめ続けていた。