最初の賭け
「何を言っておるのだ。巫女は我が妻となるのがこれまでの…というか巫女になった時点で我とそなたは伴侶となったようなものだぞ?」
「えええええぇぇぇ!!!何勝手に結婚してんですか!許可した覚えはありませんよ!!」
ご神体の横のうさぎのぬいぐるみに向かって彼女は驚きの声を上げた。
そんな彼女をみてうさぎのぬいぐるみに憑依した神は相変わらずだなっとため息をつきつつ、はじめて彼女に会ったときのことを思い出していた。
この国では神の声を聞いて物事のすべてを決めていた。
巫女の選定は前任者の巫女が身罷る直前に神が意思を伝えて行われる。多くの場合、国で最も霊力の高い者が選ばれる。
そしてその結果選ばれたのは8才の少女だった。
最年少で選ばれた歴代最強の力をもつ彼女はいろいろな意味で規格外であった。霊力だけでなく言動も他の者とは違っていた。
そして巫女になった少女の初仕事、神をその身におろすことによって対話し神の言葉を人々に伝える仕事。新しい巫女への憑依は神であっても毎度落ち着かないものである。同時にわくわくするものであり、心踊るものでもあった。
そして今回選んだのは民の中でも強い力を持った子であったのでその思いもひとしおであった。
そして憑依を試みた次の瞬間。
神は思いもよらない体験をする。なんと、ものすごいパワーではたき落とされる感覚に襲われ、気付けば床に落ちていたうさぎのぬいぐるみの中に意識が入ってしまっていた。そしてそれをしたであろう少女は言った。
「かみさま、うさちゃんにまちがえて入っちゃったの?」
「え!いや!わざとであろう!?」
「よかった。このほうがぎゅってできて、すき!」
そう言われて可愛くぎゅっと抱き締められては神はなすがままだった。
その後も彼女のビックリ発言とビックリ行動に振り回されて来た神であったが、これまでの巫女に無かったタイプの彼女の明るい性格そして美しく成長した容姿に心を奪われるのに時間は大してかからなかった。
そして出会って10年、もうじき彼女が18才になるある日にあの発言をしたのである。
「じゃあ神様!巫女やめるので別れましょう!」
「それは出来ぬ相談じゃ。死ぬことのない我にとってそなたは退屈から救いだしてくれた女神なのだよ。そなたのようなおもしろいおなごは死んだ後も我の側においておきたい。むしろ今殺してでも他の男に渡したく無いのぅ。」
その言葉の直後、部屋中が激しく振動を始める。それはまるで神の怒りを表しているかのようだった。
だが彼女がそんなことで引き下がる訳もないのである。
「嫌よ。私は彼と結婚するの!神様は私が死んだら次の巫女と結婚すればいいんじゃ無いの?今までみたいにさ。」
「いや。そなたで最後にしようと…」
「そんなのいいから。彼と私はずっと愛し合っていたし、これからもずっとそう。何があってももう離れたくないの。」
そのときの一瞬少女が見せた表情に神は愕然とする。彼女からこれまで自分には向けられなかったそれには様々な愛情が込められているのがわかってしまったのだ。
"嫉妬"
神はこのとき心を満たした感情の名前を知らなかった。そして変質してそれは彼女の思い人と彼女に牙を剥く。
「何があっても…のぅ。
人の気持ちにそんなのはあり得んと思うのぅ。」
自分のひどく残酷な気持ちを彼女に悟られないように軽い口調で彼は言った。
その発言に彼女は珍しく真剣な反応し返す。
「離れていてもずっとお互いに大好きだった。でも彼はこのままだと無理矢理別の人と一緒にさせられてしまう。今なら二人で一緒に…だからお願い!」
その言葉を聞いて黒い感情に支配された神は思った。どうすれば彼女は自分の元にいていれるのか、どうすれば彼女のここまで強い気持ちを砕けるのかと。しばらく考えた結果彼は残酷なことを思い付く。
「そこまで強い気持ちならそれを示すがよい。
では巫女よ我と賭けをしようではないか。」
神は少女にそうもちかけた。