第七話 共同戦線
しばらくすると、食事の用意が出来たらしくリリアに呼ばれ食堂に案内された。
テーブルには見たことない料理がズラリと並び、リリアは鎧を脱ぎ、ワンピースのような服を着ている。
こうして見るとまた雰囲気が違う、美しさと可愛いさを併せ持った女の子に思わず惹かれそうになる。俺は中学生みたいに自分の感情を隠して平静を装った。
「あれ、さっきの小うるさいキュイールとかいうヤツはどうしたんだ?」
リリアは苦笑いを浮かべた。
「食欲がないって言ってたわ、何だかさっきからふてくされてるのよね……。他にも色々やることがあるみたい。それより座って? 料理が冷めちゃうわ」
よほど俺のことが気に入らないんだろうが、あいにく慣れっこだ。特に気にとめることもなく、俺は椅子に腰掛けた。
「それじゃ、いーっぱい食べてね」
「んじゃまぁ、いただきます」
焼いた肉の香ばしい香りが食欲をそそる。俺は目についた料理に手をつけた。味は思ったよりずっと美味いが、肉は食べたことない味の肉ばかりだった。何の肉かは聞かないでおく、食文化は様々だ。世の中には知らない方がいいこともあると俺は知っている。
「早速いくつか聞きたいことがあんだけどよ、いいか?」
「うん、私も聞きたいことがあるの。私の質問にも答えてもらっていい?」
「もちろんいいぜ。でも、まずこっちから質問だ。加護って何なんだ?」
リリアは食事をする手を止めて、髪の毛を耳の後ろにかけた。
「加護と言うのは、神に与えられた特殊能力よ……攻撃を自動的に弾いたり、自分の身体能力を高めたりすることが出来る。加護にも種類があって、例えば私のは勇気の加護。覚醒すれば自分や他人を奮い立たせたりすることも出来るらしいの」
神に与えられた能力ねぇ……あのジジイのことを思い出すといまいち釈然としないが、この能力がなかったら最初の森で死んでただろうな。
「なるほどね、誰でも持ってる能力じゃないんだろ?」
「もちろんよ、神の加護を受けた人間はそういないわ。ユウシは、その中でも特に珍しい加護を持っているみたい。ベルゼの言ってた龍神の加護……私も初めて聞いたわ」
リリアは眉根をひそめて頬杖を突く。
「そうなのか? そんならあの白い炎は加護ってヤツなんだな」
「そういうことになるわね……私からも聞きたいことがある……」
少しの間沈黙が流れる。
「ズバリ! ユウシはこの世界の人間じゃないわね!?」
リリアは真剣な顔で、真っ直ぐこちらを見つめながら言った。別に隠すつもりもないから、すぐ肯定しても構わないんだが……雰囲気に流されて少し沈黙してしまった。
「そうみたいだな」
「やっぱり! 名探偵リリアの名推理ね! すごいわ、異世界から来たなんて!」
「なんでわかったんだ?」
「あはは、実はカマかけただけなの、ごめんね。根拠としては服装と言動かな。あまりにも常識を知らないように感じたのよね、これは嫌味じゃないから気を悪くしないで欲しいんだけど……」
リリアは前置きをして、コホンと咳払いをした。
「例えば、今食べているお肉。それは結婚した夫婦が食べる、おめでたい料理で、夫が切り分けて妻が最初に食べてから、夫が口にする料理で普段はあまり食べたりしない。これはこの世界の常識で、国や地域や宗教でも変わることがない。他にも、高値で取引されるドラゴンの肉や鱗にも興味を示さなかった。例え大金持ちでも普通は仕留めた者が権利を主張するんだけど、それもしなかった。まぁ、もちろんこれだけで異世界人だという確証にはならないけどね」
「なるほど、あえてこの料理を注文した訳か」
「そういうこと! ――」
「――でも、ドラゴンの件はもっと早く教えて欲しかったな」
「ま、まぁいいじゃない! 町の人も助かったんだし……えへ」
舌を出して笑ってごまかすリリアの頭を軽く叩きたい気分になった
「でも私が一番引っかかったのはその珍しい服ね。チラッとだけど、その上着の裏地に見たことない文字が刻まれていたのが見えたの、それに生地も縫製も見たことないくらいに繊細だし、そんな立派な靴は王族だって履いてないから……ってのが根拠かな」
「でもよ、普通は異世界人なんて言われて簡単に信じるものか? 信じられないという方が一般的なような気もするけどな……。まぁあくまで『俺のいた世界では』ってことだが」
リリアは少し興奮して喉が渇いたのか、グラスの水を一口飲んだ。
「確かに信じがたい話よ、私も異世界人だという人に実際会ったのは初めてだし。でもごくまれに『異世界から来た』とか『前世では違う世界にいた』って主張する人がいるのも事実よ。最近もそんな噂があったもん」
「俺の他にもいるのかよ!? ――」
リリアにそう言った直後に一瞬固まった、そしてこの世界に来る前の神沼の言葉が俺の脳裏によぎる。
待てよ……そういやあのジジイ、確か俺のことを二人目だみたいなことを言ってような気がする。だとしたらそいつに報酬を横取りされる可能性もある訳か。
「どうしたの、そんな怖い顔して? 噂で聞いたことあるだけよ。耳にした時は信じられなかったけど、あなたに会って考えが変わったわ」
今慌てても仕方ねぇ、そいつより先に魔族の皇帝を倒すしかねぇな。
俺は気を取り直して話を続けた。
「信じても信じなくてもどっちでもいいけどよ、とにかく俺は別の世界から来た。そんで元の世界に戻るためには、魔族の皇帝を倒さなきゃなんねぇんだってよ――」
「――皇帝を倒す……ユウシ、本気なの?」
怪訝な顔をしているリリアを一瞥してから、俺は肉を一切れ口に放り込み、飲み込んでから答えた。
「当たり前だ、俺を誰だと思ってんだよ。泣く子も黙る龍神会の瀬川勇史さんだぞ」
リリアは目を丸くして、キョントンとしている。頭の上にハテナマークが浮かんでるようだ。
「ユーリンチーのセガワユウシ??」
「誰がユーリンチーだ、龍神会だ龍神会!」
一応ツッコんだが、この世界にユーリンチーがあるという事実に少し驚いた。
「ちょっと意味がわかんないけど……とりあえず皇帝を倒すのが目的なのよね?」
「まぁ、それ以外に帰る方法もなさそうだしな。報酬ももらわなきゃなんねぇし」
それを聞いてリリアはため息を一つついた。
「報酬ってことは誰かに雇われてるのね……詳しい事情は聞かないけど、皇帝を倒すという目的は同じなんだったら、いっそ協力しない?」
同じ目的なら悪くない申し出だな、こいつらを利用する方が賢い。
だが、もう一つ気になる点がある……。
「リリア達の戦う理由は何だ? どうして皇帝を倒したいんだ。それに皇帝は何で人間の世界を侵略するんだ?」
リリアは目を丸くして、一瞬時間が止まったかのような沈黙が訪れた。
「そ、そうね……難しいこと聞くのね……。魔族は世界中全ての種族を奴隷にしようとしているのよ。中には人間を食料としている悪魔もいる。『皇帝の目的は何か別にあるんじゃないか』と言われているけど確かなことはわからない。私の戦う理由は……せ、聖女だからよ! そうよ、魔族を倒すための聖なる力を宿した聖女だからよ。ベルゼに関しては恨みがあるからだけど……」
何か困らせたみたいだな、リリアが急にムキになった。ちょっと気になっただけなんだが、柔らかい部分に触れてしまったらしい。でも何となく察してしまった、恐らく完全な自分の意思によるものじゃないんだろう。そこを責めても仕方ないし、意味もない、俺にはそんな資格もない。俺の戦う理由は『金』だからな。
「わかった、最後にそうだな……皇帝を倒すために、リリアは俺について来い。それでどうだ?」
怪訝な顔をするリリアと視線が混じり合う。
「何か違いがあるの?」
「大ありだ、俺をリーダーにしろ。じゃなきゃ俺がこの世界を魔族から救ったことにはならないかも知れない、もしそれで報酬が減ったら困るからな。保険だよ、それにリリアは目的が達成されれば問題ないんだろ? それともこの世界を救ったっていう栄誉が欲しいのか?」
「栄誉ね……まぁ欲しくない訳じゃないけど」
「何もふんぞり返って命令だけするような馬鹿な真似はしない。形だけでいいからリーダーってことにしてくれよ」
リリアはまた髪を耳にかけて、ふぅと軽く息を吐く。
「……そうね、それで構わないわ。悔しいけど、実際今の私よりユウシの方がずっと強いしね」
「契約成立だな、それじゃよろしく頼むぜ。じゃあ早速明日にでも皇帝の所に出向いて――」
「――バカなこと言わないの! 物には順序があるでしょ。それにいくらユウシが強いと言っても、今の戦力では魔王の一柱すら倒せない。今日のことでよくわかったわ……ベルゼはまるで本気を出していなかったのよ」
リリアが驚いて声を荒げると、周りの宿泊客から視線を集める。リリアは申し訳なさそうにに軽く頭を下げて、声のトーンを落とした。
「皇帝の下に魔王七柱がいる。まずはそいつらを全部倒してからね。一度に相手出来る程甘くはないわよ」
「えー、マジかよ……んじゃまずはどいつをぶっ倒すんだ?」
俺の楽観的な態度に、リリアは呆れるような態度を見せた。
「本気で言ってるのがわかるから怖いわね。この非常識さが、今まさに異世界人なんだなって思わせてくれるわ……」
「だからそうなんだってば」
「はぁ……魔王を相手にする前に、まずはこちらの戦力を固めるのが先! だから加護を持つ仲間を集める」
「どこにいんだよ? 募集の広告でも出すのか」
俺の冗談はリリアには通用しなかったようで、華麗にスルーされた。
「そもそも私がこの町に来たのは、それが目的よ。この町より東に雪原地帯があるの。そこに棲む氷の加護を持つ者を仲間にするのよ」
「何だか遠回りしてるような気がすんだけどな……それでどんなヤツなの?」
「――『氷の魔女』と呼ばれている魔法使いよ」




