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第六話 報酬と決意

「神さまの借金取り……?」




 リリアは真っ直ぐ俺の目を見て、(いぶか)しげな表情を一瞬浮かべて首を(かし)げるが、深く考えるのをやめて軽くうなずいた。




「ますます意味がわからないけど……まぁいいわ、私はリリア・メイデクス。とりあえず助けられたわ。お礼を言います、ありがとう」


 リリアはさっきより具合もよくなったみたいで、少しかしこまってお辞儀をした。


「ああ、俺は瀬川勇史だ。それよりあんた、あのクソガキのこと知ってるような口ぶりだったけど、あのガキは一体何者なんだ?」




「一緒にいたのに……あなた本当に何も知らないのね、驚いたわ。ベルゼは魔族の階級で言うと『王』に序列するS()()()()よ」




「悪魔……そりゃ――」




 突然全身に痛みが走る、骨がきしむ。何だか身体に力が入らない。気を抜いたら倒れそうだが、そうもいかない。


 あの白い炎が消えてから、おかしい。いや、逆か……今が正常だ。殺意に支配されてたさっきの方が異常だった。殺すことしか頭になかった、俺は一体どうなってしまったんだ――




「――どうかしたの?」




 リリアが心配そうに問いかけるが、何でもないフリをして話を続けていると、遠くから声が聞こえて、こちらに近付いて来た。


「リリア様! ご無事ですか!?」


 鎧を着ているため、ガチャガチャと金属音を鳴らしながら剣を持った男が息を切らして駆け寄って来た。

 髪と目は茶色で、坊ちゃん刈り。年齢は二十歳そこそこだと思うが、少し太り気味だ。



「どうしたの? その格好」


「そんなことよりお怪我は大丈夫なんですか!?」


「もう大丈夫よ、回復もいらないわ。それより心配かけてごめんなさい」


 リリアが返事をすると、男は顔を赤くしてがなりたてた。


「心配どころじゃないですよ! 私を置いて先に行くなんて……リリア様は私達の希望なんですよ。お一人で魔王に戦いを挑むなんて無謀(むぼう)過ぎます!」


「ごめんなさい……冷静じゃなかった、次からは無謀なことはしないわ」


 リリアは小さくなって頭を下げると、男は笑顔を見せた。


「でも……さすがですねリリア様! ベルゼを撃退してドラゴンまで倒してしまうとは感服しました!」


 男の言葉を聞いて、少しリリアは顔が引きっている。そしてもじもじしてリリアは話し始めた。


「いや……わ、私じゃなくて、そこにいるユウシと名乗る(かた)が……全部、やりました……」


 リリアは気まずそうに説明したが、最後の方は声が小さくなっていき、肩を落とした。すると男は怪訝な顔をして、こちらを観察している。


「どなたか存じませんが、妙な格好ですね。そんな強そうには見えませんけど……もしかして、魔族の手先ではないでしょうね?」


「何だこの野郎、随分(ずいぶん)失礼な態度だな。そんなに痛い目に()いてぇのか?」


 男に凄んで見せると、そのやり取りを見ていたリリアが慌てて割って入る。


「――ごめんなさい、ユウシ殿。この男は私の従者で……あとできちんと説明しておきます」


 リリアは従者の方に顔を向け口を開く。


「失礼なことを言わないの! 早くユウシ殿に名前を名乗って、謝罪して!」


 叱られた従者はしぶしぶといった具合に名前を名乗った。


「私はリリア様の従者、キュイール・ペストレアです……すみませんでした……」


 従者? ただの小間使いか。いつもだったら軽く小突いて立場をわからせてやるとこだが……今は全身が痛くてそれどころじゃねぇ。


「何かすげぇ気持ちこもってないけど、まぁいいや。俺は瀬川勇史だ、次またナメた態度取ったら容赦しねぇからな」


 俺は人差し指でキュイールのおでこをつついた。キュイールは納得のいかない様子で頷いた後、ブツブツと独り言を言っている。


「もうすぐ私の回復も終わるわ。ユウシ殿、お礼に食ことをご馳走(ちそう)させてくれないかな?」


 リリアの提案は願ってもない話だった。もっと知りたいこともあるし、身体の調子がよくない。何より腹が減っていた。


「そうだな、ご馳走になるとするか。それから『殿』はやめてくれ、勇史でいいぜ」


 リリアはその言葉を聞いて、はにかんだ。その時少しドキリとした。初めて見たリリアの笑顔は最初の印象よりもずっと美しかったからだ。こんな世界で出会っていなかったら、口説いていたかもしれない。


「ありがとう、ユウシ。私のこともリリアでいいわ」


 そんないい雰囲気をぶち壊すように、キュイールが話し始めた。


「リリア様、正気ですか……まぁリリア様がそうおっしゃるなら仕方ありませんが」


 キュイールが肩を落として、こちらをジロリと見る。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 こうして俺は、リリアの宿泊している宿に一緒に向かうことになった。


 辺りはすっかり暗くなっていたが、町の住民はドラゴンの後始末を総出で行っている。ドラゴンの肉は食料として、鱗や骨は高く売れるそうなので、町の被害額を差し引いてもお釣りが来るそうだ。


 死傷者が出なかったせいか、ドラゴンの死体はむしろ住民にとって有難い物だったようだ。


「たくましいな、この町の住民は」


「そうね……今ここに住んでる人達の多くは元々この町の出身じゃない。魔族に故郷(こきょう)を侵略され色々な物を失って、それでも生きるために必死でここまで逃げて来た人達なのよ」


「なるほど難民ってヤツね、そりゃたくましくもなるか」


 そんな話をしながら辿り着いたのは、この町ではかなり大きく立派な建物だった。中に入るとランタンが所狭(ところせま)しと掛けられていて、石造りの内装も暖かな印象を受ける。


 リリアは俺に部屋を用意してくれた。案内された部屋に入ると、緊張が解けてどっと疲れが押し寄せてきた。そのままベッドに寝転がって考えた。


 くそ、何でこんな身体中が痛いんだ? とりあえず休めば大丈夫だと思うけど……病院とかねぇだろうし様子見だな。


 それより……これからどうするかな。恐らく神沼のジジイは本物の神だ、そして確かに借金を千倍にして返すと言った。


「とんでもねぇ不良債権(ふりょうさいけん)だな……」


 俺はため息を吐いて、ぼんやり天井を眺めていた。


 今日だけで色々なことがあったな……あの緑色の怪物から始まって、ベルゼにドラゴンか。あの白い炎で俺の身体はどうなっちまったんだ、改めて思い出してみるとあの『殺意』は自分でも恐ろしい。俺が俺でなくなったような……わかんねぇことだらけじゃねぇかよ。


 でも――借金の総額は五百万……その千倍っていうと……五十億か。そんだけあればオヤジも喜んでくれるだろう。てか、交渉次第じゃもっとふんだくれるかも知れねぇ。一応神さまだもんな。


 どのみち自力で戻る方法だってわかんねぇ、でもその皇帝ってのを倒せば、元の世界に戻って五十億か……ならやるしかねぇよな。


 寝転がったまま天井に手を伸ばし、握り拳を作る。

 かなり厳しい仕事になりそうだが、報酬のことを考えると思わず頬が(ゆる)んでいる。

 あの巨大なドラゴンを倒したことで、妙に自信がついていた。

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