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第三十三話 従者の選別試験

 朝、目を覚ますとまず木窓を開ける、これはキュイールの習慣だった。冷たい風が頬を撫でるのを感じると、身が引き締まるような気がするからだ。

 さすがに真冬にそんなことしないが、今の季節は特に心地よい。部屋からの景色を眺めながら大きなあくびをした。


 足音が近づいてきて扉を二、三回叩く音がした。キュイールは扉を開けるとフラリネが一通の手紙を持っていた。


「キュイール、おめでとう。従者候補に選ばれたわよ、明日からラビナスで従者を決める試験があるそうよ」


 その知らせを聞いたキュイールは、小さくガッツポーズをとった。


「ありがとう! お母様、絶対に従者に選ばれて見せるから……頑張るから」


 フラリネは複雑な思いを顔に出さないように、キュイールに優しくハグをする。


「そうね、頑張って来なさい……」


 そして、キュイールは準備を始めた。聖都ラビナスは馬車で一日かかる。

 キュイールは大急ぎで、ガレットが用意した馬車に荷物を詰め込んだ。


 荷物の詰み込みが終わり、出発の時間になった頃ガレットとフラリネが見送りにやってきた。


「キュイール……無茶はしないでね」


 フラリネは目に涙を溜めている。


()()()を持って行け、私が若い頃に使っていた剣だ。そんなに上等な代物じゃないが軽くて使いやすい」


 キュイールはガレットから剣を受け取り、頭を下げた。そして最後にガレットはキュイールに手を差し伸べた。


「お父様、お母様……馬車を用意して下さって、ありがとうございます。この剣……大切にします」


 キュイールはそう言って、ガレットの手を握った。ガレットは微笑みながら、強く頷いた。

 そしてフラリネとハグをして、馬車に乗り込み出発した。


 馬車に揺られながら、キュイールはドキドキして落ち着かない思いだった。

 今日まで学んで来たことを頭の中で反芻しながら、ガレットが託してくれた剣を抱く。

 そしてラビナスに到着する頃には、すっかり夜が明けていた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ガレニア教会に辿り着き、中に入る。すると誰かに声をかけられた。


「お前、もしかしてキュイール・ペストレアか? 没落貴族の! 久しぶりだな、あの夜会……ってあれ何年前だっけ」


「レイユさん、お久しぶりですね……五年ぶりです。お変わりないようで」


 キュイールはお辞儀をすると、レイユはしかめっ面をしている。


「で、お前は何でここにいるの? まさか従者候補だなんて冗談言わないよな。お前みたいな出来損ないがなれる訳ないもんな」


 キュイールはなるべく感情を読まれないように、表情を変えずに答えた。


「いえ、私は従者候補に選ばれました。それで本日はガレニア教会に参りました」


 キュイールは俯いて歯を食いしばり、握り拳を作る。


「本当かよ……く……くくくっ、お、お前が? まぁせいぜい頑張ってくれ、くく。俺の引き立て役にしかならないけどな」


「失礼します」


 そう言ってその場を立ち去ろうと歩き出すと、何かにつまずいて転んでしまった。

 レイユが足を出して転ばせたのだった。


「くくっ……アーハッハッハ! 大丈夫かキュイール。足元には気を付けないとな……トロくせぇヤツ、アハハ」


 笑いながらレイユは歩いて行った。

 しかしこういったことは初めてではない。ペストレア家は確かに没落貴族だ、キュイールは他の貴族にはいつもバカにされてきた。かといって慣れるものでもなかった。特にレイユは顔を合わせる度に嫌がらせをしてくる、はらわたが煮えくり返る思いだった。しかし相手は三大貴族のビスクイ家だ、そんな相手と揉めたら大変なことになる。


「くそっ……あんなヤツが従者になっていいはずがないじゃないか」


 キュイールはそう呟き、悔しい気持ちを何とか抑えて主教に会いに行く。


 キュイールは二階に上がり、主教に挨拶を済ませると大聖堂に集まるように言われた。


 ガレニア教会の大聖堂は比較的新しく、荘厳(そうごん)な造りとなっており、ステンドグラスが貼り巡らされている。天井は見上げる程高く、幻想的な光が差し込んでいる。


 そこには従者候補者が他にも集まっている。もちろん中にはレイユもいた。

 レイユはキュイールの顔を見てニヤニヤ笑っている。やがて主教がやって来て、話を始めた。


「全員集まったな。ここにいる五名の中から一名が、聖女様の従者となって旅をすることになる。旅の目的は聖女様の力を覚醒させ、最終的には皇帝エレグリオスを討つことである」


 集まった五人の候補者は、背筋を伸ばし主教の話を聞く。


「ガレニア教の教祖であるヤハル様は、勇気の加護を発現させ一人の従者を連れて旅をし、聖女としての力を覚醒させた……歴代の聖女様もそうしてきたように、聖女リリアもこれから旅に出なければならない。しかし(おきて)によって従者は一人のみ、それが試練でもある」


 キュイールは話を聞いている内に、だんだん自信がなくなってきた。結局、剣術はあまり上達しなかったからだ。


「それでは、これより三日間に渡り試験を行う。初日と二日目は、一般教養と旅をする上で必要な知識、三日目は実戦形式による試験だ。全ての成績を見て従者を決定する」


 それから五人の候補者は、別々に試験を受ける事になった。一般教養や知識に関しては自信があるが、やはり不安なのは三日目の試験だった。


 キュイールは初日、二日目と試験を順調にこなしていった。そして三日目の試験が始まる。


 キュイールを含めた候補者の五人は、自分の使う武器を持って演習場に集まるよう伝えられている。


 キュイールはガレットの用意してくれた剣を携えて演習場に向かった。

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