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第十四話 憤る気持ち

 店主の話を聞いた俺達はしばらく黙り込んでいた。


 俺も両親を亡くしているが、それでシーブルのことをわかってやれると思う程傲慢(ごうまん)じゃない。シーブルの過去はそんな生易(なまやさ)しいものじゃないのだ。そしてそれは現在も続いている。


 同情とか正義感、当然そんな気持ちではなく単純に気に入らない。

 俺は男には容赦しないが、女子供には絶対に手を上げない。

 平気で女子供に手を上げるようなヤツには虫唾(むしず)が走る。



 俺はエールを飲み干し、お代わりを注文した。ずっと黙っていたリリアは、顔を伏せたままで呟いた。


「氷の魔女にそんな過去があったなんて……」


 店主は、お代わりのエールを俺の前にそっと置いてから悲しそうな顔をした。


「シーブルは、今も母親を助ける為にローセルに仕えているんでしょう。あの娘がどんな気持ちでローセルの側にいるのかと考えると……胸が張り裂けそうになるんです」


「マスターは随分詳しいんだな。もしかして――」


「はい、あの時私はその場にいました。ブリーズ様が作ってくれた(わず)かな時間で、何とか逃げ延びました」


「マスターさ、氷の魔女と顔見知りなんだったら一緒に――」


「――申し訳ないんですが、この店もありますし……」


 店主が気まずそうに顔を伏せる様子を見て、何か事情があるのだと俺は察した。


「そうか、無理言って悪いな。忘れてくれ」


「申し訳ありません」


 とりあえず俺の中でこれからどうするかは決まった。リリアはともかく、キュイールが何て言うかは……まぁ大体予想がつが、こんな話を聞いて何もしないでいられるほど、薄情な人間でありたくないし、俺の仁義に反する。気を取り直して、俺はリリアに向けて言った。


「おいリリア、これなら話が早いな」


 リリアは驚いて俺の方を向いて、ニヤリと笑った。恐らくリリアも同じ考えを抱いていたのだろう。


「俺達がそのローセルってヤツを倒しちまえば、全部丸く収まんだろ?」


「ふふっユウシ、あなた何言ってるかわかってるの。相手は()()()()()なのよ?」


 店主は驚きを隠せないようだった。俺はエールを一気に飲み干した。


「相手が誰だろうと俺の仁義に反する卑怯なくそったれは許せねぇんだよ。それにうちの組、薬物は御法度(ごはっと)だしな」


 リリアはと『アハハ』と口に手を当てて笑い出した。

 俺は彼女の笑顔を見て少しだけわかったような気がした、彼女はいつも純粋で悪意ってものがまるでない。聖女か……本当はどう思っているのだろうか。世の中綺麗な心のままで渡っていける程甘くない、ましてやこの世界は恐らくもっと残酷だ。


「ふぅ……最後は意味がわからなかったけど、一応ユウシがリーダーだしね。それに元々は私達の計画だから、ユウシが断っても私は最初からそのつもり。マスター私にもエールを」


 リリアはさりげなく酒を注文する。俺は手っ取り早く目的の悪魔の居場所を訊いてみた。


「なぁマスター、そのローセルってヤツどこにいるのか知らない?」


 店主は困ったような表情を浮かべて考える。


「ローセルがどこにいるかは誰も知りません、シーブルに聞くのが一番ですね。ですが今日この町に来たから、一カ月はもう来ません」


「一カ月? なんで月に一度なんだ?」


「この町の住人は毎月お金を集めてローセルに納めています。シーブルはローセルの使いで受け取りに来るんです。拒否すると私達の故郷のように……」


 なるほど税金か、ヤクザの世界も似たようなことをする所もあるが、一般人相手にはしない。というか出来ない、間違いなく逮捕されて終わりだからだ。


 店主はシーブルの事情を知っているだけに、複雑な表情をする。


 リリアはエールを一口飲み、ため息をついて納得した。


「なるほど、それは町の人から嫌われる訳ね。実際に徴収(ちょうしゅう)しに来るのはシーブルなんだから――」


「――私の故郷、つまりシーブルの故郷の村に行けばシーブルに会えるかも知れませんよ」


 リリアの話に割り込み、店主はニコっと笑った。


「シーブルは今もそこに住んでるの?」


 リリアは訝し気な表情を浮かべる。


「いえ、フレイアさん……氷漬(こおりづ)けにされたシーブルの母親が、今もあの村で眠っているそうです。シーブルは毎日のように村に足を運んでいるという噂を聞いたことがあります」


「んじゃまず、その村に行ってみるか」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 こうして俺達はシーブルの故郷の村に行くことを決めた。宿に戻りキュイールに事情を説明すると、案の定反対された。しかしリリアの決定には逆らえず、しぶしぶ了解する。

 そして翌日、俺達は手掛かりを見つける為に氷の魔女の育った村に向けて出発した。


「リリア様ぁ、やはりまだ公爵レベルの悪魔を相手にするのは早いんじゃないですかね」


 疲労と寒さからか、キュイールは早くも泣き言を言い始めた。昨日マスターから聞いたシーブルの過去は一応伝えてあるが、かなりざっくりとだ。その場にいなかったキュイールは、思った通り乗り気ではない。


「キュイール、あなたが元々加護持ちの仲間を集めようと提案したんでしょ?」


 キュイールは苦笑いをし、頬を人差し指で掻いてごまかす。


「そうなんですが、いきなり公爵とぶつかるとは思わなかったので……ははは」


 俺はそんな弱腰のキュイールに呆れた。それにこうやってグダグダと文句垂れる男は、あまり好きじゃない。イラっときた俺はハッキリ言ってやることにした。


「そんなに嫌なら宿で待ってればよかっただろうが、男の癖に一度決まったことにグチグチ言ってんじゃねぇよ。情けねぇな」


 キュイールはこちらを睨みつけた、どうやら俺に言われるのは許さないようだ。


「何を言ってるんですか!? 私は聖女様にお仕えする為に存在しているんですよ? リリア様に付いて行くのが――」


「――あぁ、はいはい」


 こうやっていつもの争いが起こる。もう面倒だからあまり相手にしないことにした。


 半日程歩くとやがて村の入り口が見えて来た。もう誰も住んでいない村だ、建物の残骸(ざんがい)だけが残されている。俺達は手分けして村の中を調べて回った。


「この家は他の家と違って、人が出入りしてる形跡(けいせき)があるな」


 俺は警戒を強め、リリア達を呼んだ。家の中には古びた本や、液体の入ったビンが大量に置いてある。奥に進むと大きな氷の塊が置いてあった。


 俺はそれが何なのかすぐに理解した。氷塊はガラスのように透き通っていて、その中心には悲痛な顔をした女性が手を広げて立っていた。恐らく流していたであろう涙も、氷の中に一緒に閉じ込められているのかと考えると胸が痛くなる。


「ユウシ、これって……」


 リリアは氷塊を見て、悲しい表情を浮かべた。キュイールは目を()いて驚いている。


「多分そうだ、シーブルがここで保管しているんだろう――」


「――お前ら何してる……お母さんに触るな!」


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