あなたに隣人を
天窓から光が降り注ぎ、白いソファーを照らす暖かな部屋。
少しだけ開けられた大き目の窓からは、柔らかな風と緑の香りが漂っている。
小さく絞られたジャズの音楽が流れるその部屋で、二つの人影があった。
片方は容姿端麗できれいに撫で付けられた栗毛を持つの男、年の位は20にはならない程度だろうか。
もう一方も同じ年頃の、黒い髪をゴムで束ねた細身の女であった。
二人は部屋の様子と似つかわしくなく、言い争いをしていた。
やれ無駄なブランド買いをやめろだ、友人の誰それにいつも目がいってるだ等々。
内容は幼稚で、下らなく、全くもって無意味なものであり、それを飽きもせず延々と繰り返していた。
二人とも肩で息をし、言葉の応酬を一時止めながらも一歩も引く気が無いのは見て取れた。
不意に女が口を開いた。
「もういい!あんたなんか要らない!もう不用品よ!」
大きな金切り声を浴びせかける。
「なんだと!まるで人を物扱いしやがって、いつもいつもお前はそうだ!人を人として見てやしない!」
男の方も怒声で返す。
「そのまんまの意味で言ってるのよ!もういいわ!おとなしく『ただの隣人に帰りなさい』!」
女の言葉を聴いた途端、男がピタリと動きを止め、白目を剥いて立ち竦んだ。
ゆっくりとフローリングに座り込み、段々とその体を小さくし、最後には片手で収まる程の小さな人形へ形を変えた。
女がそれを拾い上げ、ポケットへ仕舞いこむ。
「全く、何があなたの理想な彼氏よ。ちっとも違うじゃない。」
先日寄ったヒト型屋で進められた、理想シリーズの新作。
キャッチフレーズは「今までのただ従順にさよなら。喜怒哀楽すべて完備したリアルな理想をあなたに」だ。
確かに喜怒哀楽はしっかりとあったし、理想シリーズに相応しい造形美と優しさを示してくれたが、それでも今までよりはっきりいって面倒な商品であったは確かだった。
返品期限いつまでだったかしらとつぶやき、星をかたどったブランドロゴの財布からレシートを取り出す。
まだ期限内なのを確認し、早速外行きの支度に取り掛かる。
この間の店員には文句言ってやらなくちゃとか、ついでに化粧品も見てこようかしらとぶつぶつといいながら、アイラインを引き、チークを塗りたくる。
先日買ったばかりのヒールを手に玄関まで行ったところで、後ろから声がかけられた。
振り向くと母親がおり、外遊びが過ぎると言葉を投げかけられ、女は露骨にいやな顔をした。
それを見逃さない母親が強い言葉を使い、女もそれに応戦する。
喧々諤々、言葉の殴り合い、罵倒の応酬が続く。
女と母親が肩で息をし、互いににらみ合う。
そして、母親は口を開くのだった。
「もういい!あんたなんて!」と