慈悲深い王と峻厳な将軍
とくに意味のないお話。
「おや、奇遇ですね」
シェルターの外で、喪服のような黒い燕尾服を纏った男は柔らかに声を上げました。その男は顔色が悪いように見えましたが、その悪い顔色はいつものことでした。その悪い顔色は、男の幽霊のように希薄な存在感に拍車を掛けていました。
「一緒に、お茶でも如何ですか?」
そう首を傾げた拍子に、斜めに、そして真っ直ぐに切られた錫色の真っ直ぐな髪がさらりと揺れます。顔色の悪い男は優雅に黒いカップで紅茶を嗜み、黒いクロスの引かれた長いテーブルには黒い皿に乗ったケーキが乗っておりました。たった一人で、ティーパーティーを行なっていたのです。
「奇遇もクソもあるか」
顔色が悪い男が声を掛けた相手もまた、同じように顔色の悪い男でした。その男は真っ黒な軍服を纏い、腰に同じく真っ黒な軍刀を差しております。鉄色の髪中から覗く鋭い眼は、石榴石のように、或いは血のように赤黒い色をしていました。
「どうせ、俺の事を待ち伏せしていたのだろう」
軍服の男は死体のようでした。髪は整えられておらず、服もかなり傷んでいるようです。そして、この男は死臭がするのです。洗っても洗っても、その死臭は纏わり付くのです。
「また、仕事をなさったのでしょう」
音もなく真っ黒いカップを同じく真っ黒なソーサーに置き、幽霊男は死体男を見ました。
「それがどうした」
死体男は憮然とした様子で幽霊男に言葉を返します。実際、死体男はこの幽霊男の事が気に食わないので、何時でも、何処でも、死体男は幽霊男には強く言葉を発しました。
「いいえ」
何でもない、と言う割には面倒な表情をしていると、死体男は内心で吐き捨てました。この男は何時もそうなのです。死体男に事を、同じように良く思っていない筈なのに、それをあまり表には出しません。何とも思っていないように。そして、他の者達と同じ様に扱うのです。
「用が無いのなら呼び止めるな」
側から見れば、お互いの様子が同じ様に見えると言われた事をふと思い出し、死体男は顔を少し顰めました。死体男は、幽霊男にだけで無く、周囲の全てに同じように厳しい言葉を吐くのだと。
「……また、何か大きな事が起こりそうですよ」
ややあって、幽霊男は口を開きました。
「そうか」
全く、死体男には関係のない話でした。
てきとうに書きました。