はちみつとこおり
「それじゃあ、行ってくるね!」
少女は、見送ってくれる、たった1人の家族に告げました。
少女は自分の住んでいた森を出て、人の沢山いる街へ繰り出します。
「やっぱり沢山人がいるなぁ…」
あまり目立たないよう、周囲に注意しながら、少女は辺りを見回しました。 何度か街には降りた事があるので、あまり物珍しいものはありませんでした。
「とにかく、学校に行かなきゃ始まんないよね」
そう呟き、目的地へ出発しました。
「…おぉ、大きい」
少女は建物を見あげ、感嘆の声を上げます。
少女が通う事となったこの学校は、魔術や武術を学ぶところです。(正しく言うと、この世界に蔓延る、『カゲ』と呼ばれる“何か”に対抗する力を得る為の学校でした。)
学年は1年から6年生まであり、科は『魔術』と『武術(剣術)』の2つだけでした(昔は『魔術』、『剣術』、『武術』の3つでしたが)。
始めからどちらの科に行くのか、と言うのは(あまり)決まっておらず、入学式の前に特別な水晶玉に触れて素質を持つ方に入る事になっています。(しかし、『其方に入らなきゃいけない』、と言う理由がある方や、『絶対に其方には行きたくない』と言う方は別です。優しい決まり事ですね!)
この学校は普通の学校のように、授業や定期的に試験があります。 ですが、試験の他にも戦闘(実践)の訓練や、実力を知る為の『模擬戦闘』があるのでした。
そして、模擬戦闘などの為に『ペア制』という制度を設けていました。
この『ペア制』という制度は、魔術科と武術科から1人づつ選び出し、文字通りペアを組ませる制度です。『打たれ弱い魔法使いを武術で守り、近〜中距離の攻撃しか出来ない武術家を魔法で補助をする』という意図があり、大抵は実力の似通った者同士で組みます。
選出方法は実力テストや普段の素行、相性などを参考にし、水晶玉が相手を選び出します。 その際には特別な紙が渡され、そこに書かれた場所でペアの相手と対面するのです。
しかし、魔術も武術も適正や才能などで個人差が大いにあります。その為、誰とも組めない人も稀にですが、いるのです。
『入学予定者はこちら』と書かれてある張り紙に従って移動すると、大きな講堂に着きました。 入り口には数名の新入生らしき少年少女が居りますので、きっと此処で入学式や、科の振り分けを行うのでしょう。
腕章を身に付けた在校生らしき人達に導かれ、講堂の中へ入ります。
「水晶玉に触れて、科の振り分けを終えてからお座りください」
その声に目を向けると、銀髪の在校生が新入生達を大きな水晶玉へ誘導しているのが見えました。 列ができているので、少女もそこに並びます。
やがて、少女の番が来ました。
「『魔術科』でありますように」
そう願いつつ、クラス分けの水晶玉の触れてみると。
『 』
高く澄んだ、綺麗なキラキラした音が鳴りました。その音は他の人達より長く鳴り、水晶玉は透明感のある、琥珀のような色に光りました。
「おお、これは!」
水晶玉の側に立っていた、眼鏡をかけた優しそうな男の人が感嘆の声をあげました。
「君は、とても魔術科に向いているみたいだね」
とても嬉しそうです。
「あ、ありがとうございます…?」
誰でしょうか。 全く知らない人です。 少女は困惑しましたが、
「貴女は此方に」
そう、黒髪の若い女の人に(先程の男の人を無視をするように)促されたので、そちらの方向に進むことにしました。 勧められた方向は魔術科の席で、既に何人かの同年代(だと思われる)少年少女達が座っています。
「(ここでどんな事が学べるのかな)」
少女は、わくわくしていました。
やがて全員が振り分けられ、大体両方の科に半分ずつになりました。
「みんな、長い間待たせてしまったね」
声のする方に目を遣ると、先程話しかけて来た眼鏡を掛けた優しそうな男性が立っていました。
「僕はこの学園の校長をしている。 よろしくね」
和かに微笑みます。
「さて、みんながうまく振り分けられたので、次は各科の紹介と、施設案内を行うよ。 そのあとは君達のしばらくの住居となる寮の部屋への案内だ。 荷物はもう部屋に届いているはずだから、部屋を間違えないようにね」
案内が終わり、そのまま現地解散だったので少女は自室で荷解きをする事にしました。
「…今日はいろんな事があったなぁ……」
寮の夕食も食べ終え、お風呂にも入りました。 ですが入学式は3日後で、それまでにする事はまだまだ沢山あります。
「早く此処に慣れなきゃね」
少女は自身に言い聞かせました。