『04』/13
ジンが剣を構えた途端、相手は静かになった。
「剣士としては、素人だな」
『禍衣』とか、『ラグナス』とか呼ばれていた男が何故か隣に立ったが――
「そりゃそうよ。誰にも習ってないでしょうし」
アビーはそちらを一瞥もせずに、返答する。
「――そう警戒しなくてもいい。さっきも言った通り、まだ戦う心算は無い」
「あんたらに無くても、あんたらの上にあれば、そう成るでしょうよ。
『バーゼック』の奴は、私を打倒しなければ進めないと思ってるでしょうし」
「――まあ、そうだろうな」
「……やっぱり居るのね? あの『大人さん』は」
自分のかつての同僚を思い返し、それをとぼけもしない目の前の男に、更に警戒心を募らせる。
「――繰り返すが、そう警戒し成さんな。
でなけりゃ、体温と拍動の上昇はなんとか抑えて駆け引きするもんだ」
「……レディの生体反応を掠め見るとは、不躾ね」
「『センサー』がそういうモノなんだ。悪いとはおもうが」
中々面倒な相手だ、と思いつつ、ジンを見遣る。
「――仕掛けるな」
『禍衣』がポツリと呟くと、剣撃が始まった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
まるで蛇の首の様に、相手の剣が滑らかに迫る。
「――っ!!」
間合いを外す為、無理矢理前に出て突きを放つも、あいてはするりとかわす。
――本気では来ない、の言葉通り。
どう考えても追撃出来る場面で、相手は後ろに跳ぶ。
「それそれ、そういう所だよ。
相手の間合いを外す為とはいえ、更に肉薄する辺りが、俺がお前を認めるとこだ」
「――そう言うのは見てないだろ」
「見てなくても予想は付くさ。
『血清』が手に入った段階で、ここにはさしたる用は無いだろうに、やってきてしまうあたりでね。
物事を疑って疑って、疑りぬいて更に用心している様な節がある。
『思わぬ伏兵を警戒する』、にしては、病的な程に」
「はっはっは、誰が臆病者だこの野郎」
「そういう、自分への挑発を軽く流せる辺りも良いな」
なのに、と言いながら続ける――
って、剣撃の流れよ。右で突きから払いで、左は切り上げて来るとか、自由自在過ぎるだろお前!!
「主にやってる事は修羅場に突っ込んでくる。火中に敢えて飛び込んでくる。
なのに、実際の所は、相手を掻き取る為では無い。
小勢の行動ってのは、その群れの考え方がよく出るが――
正直言えば、お前のこの行動は、無謀と言って良いと俺は思う。必要が有るとは踏んでるんだろうがな」
言われんでもわかっとるわ。やらなくて良いならやってねえ。
だが、お前らみたいな背後で蠢く連中は、ほっとくとろくな出方しないでしょうが。
「だが、お前さんの場合のそれは、『猪』じゃあない」
「愛国心で部下を突撃させる奴と一緒にされたくはねえな」
「もちろん違うさ。おまえのそれは全然、全く違う。
お前は言葉や態度は兎も角も、真っ先に切っ先になって切り込んでいく手合いだ」
おうおう、買われたもんだ。
――ついでに、剣撃緩めてくれねえ?
「実際、今回だけじゃないだろう。
状況の許す限り、自分から切り込みに掛かってる筈だ。
そして――その中で、必要な事を見定めている」
良くご存知で――半分流れだけど。
「お前は白刃の下で暗躍するタイプの生き物だ。
――俺と同じとは言わない。俺は英雄志向もあるんでね。
お前さんの様に、『成れば良し』とまで思い切れない」
「……ああ、うん」
くそ、強い。ベラベラ抜かしながらも、全然隙がねえ。
「――おまけに、有効打が入れられない程度に剣の腕も立つらしい――今のは少し本気だったんだが」
――いや、その。種を明かすと――
「ああ、別にお前さんの能力で補強してようがなんだろうが、そりゃかまわないよ」
バレてるか。細い繊維を張り巡らせてるんだけど、そりゃ違和感あるだろうしな。
「そういう小細工大仕掛け、総動員して思考して――
相手を倒せないまでも引き分けようとする諦めの悪さ。
足掻いてもがいて死力を尽くす性質――それが俺がお前さんを『狙う』理由だ。
今はまだでも、お前となら、絶対に、伝説に成る様な戦いが叶う!!」
「やかましい、俺は好いた女と平穏に暮らすのが望みだわ」
――シュバッ!!
「俺だってそうだったさ!! だが運命はそれを許さない!!
淡い思いは、計画性の無い大人たちの『良い考え』に振り回されて粉々だ!!
あんな馬鹿を指揮系統の上位に据えて、神頼みしてた国も!!
中途半端な叩き方しか出来なかった帝国も!! どいつもこいつも、ダダ甘いわ!!」
だーから、それを俺に切れてどうすんの。
「お前なら分かるんじゃないか? 俺の抱えるこの、不完全燃焼な感じが!!」
「――分からんとは言わんが、お前……」
「過ぎた事をグジグジ抜かす気は無いが、もっと完全に、完璧にやっておけば――
あんな無味乾燥な抵抗運動に関与しなくて済んだんじゃないのか、俺は!?
あんな――頭に何詰まってんのかわからん連中の、『ごっこ』に付き合わずに!!」
うん、なんつうか、うん。
大変と言うか、お前の上の言動とか、胃に来るからな、色々と……
「……だが、まあ、この世界では『自由』な訳だ。
――『自由』ってのは、こういう意味も含むんだが――」
不意に、背筋にゾッとするものが走り――後ろに飛び退いた。
だが、それは悪手。
俺は相手の脇からいきなり伸びてきた、竜の首にがっちりと食いつかれた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――なんだそれ」
目の前で起こった事に、アビーは愕然とした。
『魔力』の集中があったのは事実だが、そこからいきなり『竜の首』が伸びるとは――
――『召喚系』は、こいつの範疇じゃ無かった筈だが――
「決まったかな。とは言え、大人気ないな、『双顎』も」
「――ちっ。『竜』が居なかったのはこう言う事ね」
「そう言う事だ。俺にも原理はさっぱり分からんけどな」
隣の男が呟く口調に、アビーは苛立ちを覚える。
……煽った自分の言う事でも無いが、まずった。
あれは――アレの来た世界の種々様々を、一身に包含している手合いだ。
「――ホント、余裕ね、あんたら。私が動かないと思う?」
「動くかもな。だが、こっちが完全に不味いと踏むなら、俺も動く」
とぐろを巻くような、不気味な気配が、横で強まる。
竦んで動けないようなそれではないが、油断が無い。
「まあ、時間を掛けすぎるとイゾウ=オカダ辺りが戻ってきそうだ。
戦えない事も無いが、あの人の獲物に手を出すのも、後が面白くない。
――『双顎』!! 時間だ!!」
相手がそう叫んだのを聞きつつ、アビーは動かなかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「……分かったか? これが、俺たちとお前の今の差だよ」
うるせえな、差が在るのは最初からわかっとるわ。
「今回はお前に直接来た。だが次は『四位』に向くかもしれない。
お前に簡単に死なれると、張り合いが無いんだよ。
突っ込むばかりが能じゃない。無駄に切り込むだけじゃなく、無視する事も覚え――」
「『不運惨――
「――あぶねえな」
――くそ、やっぱ、そうだよな」
顕現しかけた危険な果実は、また伸びてきた別の首に食われ――
その首を破砕するだけだった。
「発動に掛かる時間を踏まえて、様々な手順を踏んだりするのがお前さんの手なんだろうが――
今回の様な完全奇襲には向かない手だよな、実際――こっちが手を伏せてたのは悪いと思うが」
――手は読まれている。踏み倒せる力も無い。
見りゃわかる。現時点でのこいつと俺の力に隔たりがあるのは。
前に『異天』たちとやりあったのとは意味が違う。
場数がこいつは違う――そして、思考が『転生者』に近い。
それは読まれる。当然だが。
――だが、お前にも、分からん事はある。
「止めを刺す心算はない。
これはテストで警告だからな。だが、これ以上不要に追うなら――」
<勝った気ですか>
ビンゴー。
「……この声は、あの時『竜』を落とした奴か?」
<――貴方が本体ですか>
「――『転移装置』はぶっ壊れてると思ったんだが」
<それは貴方たちも同じでしょう。どこから来たのか、なんて訊きはしませんが>
くるりと、そちらに注意が向く。
「……ウェイ=クビンの奴、別口の『転移装置』も準備していたかな?」
<さて。どうでしょうね――
取り敢えず、貴方を手間無く倒す術を持ってる以上、施設ごと埋めるのも手ですが>
「――本気でやりあったら勝てるが、派手にドンパチやると流石に衆目を集め過ぎるか」
そうそう。竜を仕舞っ――おい、ふざけんな!!
「どけぇぇええ!!」
「おいおい、往生際が――」
――ゾブっ
「……何やってんだ、おい」
<ジ――ジン!?」
うるせえ、こっちにばっかり気をとられやがって、このバカヤロウが。
御蔭さまで、何時かの魔王や勇者みたく、腹から何か生やす羽目に成っただろうが。
「――どういう事だこりゃ、おい、『禍衣』!!」
「――コントロール権限下に無いぞ、そいつら」
目の前の敵に夢中に成り過ぎだから、こんな『アガザル』程度に奇襲掛けられるんだよ、大バカヤロウが――
……まあ、床からいきなり生えてきたのも、事実だけど……
「じ、ジン!! しっかり!!」
「あほ、化けてるの、解くな……」
折角相手動揺したのに、何やってんの、このメイド……
「ジン、焼いて埋めるよ!!」
「た、頼む、アビー――いぃぃぃ!?」
「喚くな、その傷でのたうちもしない癖に!!」
「ひ、一声、かけてか――」
最後まで言えずに、俺の意識は遠のく。
――げ、ぇ、まじか……めっさ、いっぱい出てきてる、し……
・ ・ ・ ・ ・ ・
予定調和の様に、それはやって来た。
当たり前の様に、それはやって来た。
『エイリアン』か何かを見ている様だ。
目の前で深手を負った相手に、アビーはそう無感動に思考しながら――
「ふざけんな!! 絶対死ぬなよ!? この馬鹿!!
あんたに、あんたに死なれたら――!!」
自分の体が、自分の考えている事とは、異なる言葉を叫んでいる事に気が付いた。
だめだ、いけない。心が燃えても、頭は冷やせ。
自分にそう命じる――
――ポタッ、ぱたっ
「ふざけんな――フザケンナ!!」
ままならない涙を止めようと、絶叫しながら。
・ ・ ・ ・ ・ ・
不味い、と思いながらも、アウルは静かに『敵』を見ていた。
排水の為か、掘られた溝からわさわさと這い出る連中を見つつ。
ただの排水では無いのは、気配がなかったのを考えるに――等と考えながら――
「――誰か分からないけど、馬鹿をやったね」
もう片方の二人を見る。だが、そちらにも動揺がある。
――切り捨てられた、と考えるには、この二人は強過ぎる。
とすれば、この状況は、トラップか。
無言で脳裏にマップを展開し、周囲状況を確認。
――そして、ああ、不味い、と心で呟く。
「――そこのお二人。悪いけど、さっさと消えて」
「――馬鹿言うな、水差されて、庇った相手を置いて逃げるなんて――」
「四の五の抜かさないで。そうじゃないと――」
――みぢっ――ズバァァァアアア!!
「……速過ぎでしょ」
濛々たる土煙を上げながら、天井を突き破ってそれは来た。
「――そら、そうなるわよね……本気で、自分を殴りたくなって来た……」
そこには、ドス黒いオーラを纏ったそれが居た。
普段のふわっとした笑顔も、陽だまりの様な空気も何も無い。
『魔王』の気配を纏った、『彼女』が其処にいた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
頭の中が真っ白になっていた。
消える筈の無いと思っていた気配が、じわっと滲む様に消えたのを感じた瞬間。
「――」
「――」
「――」
あれほど聞こえていた周囲のざわめきは遠退き。
――ドグン
自分の中の魔力が、大きく跳ねたのを感じた。
――気が付けば、その身はジンの手を握っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
ビジッ
「――む?」
はめた指輪から走った衝撃が、張っていた罠に獲物が掛かったのを告げる。
「くく……誰かは知らぬが、儂の居ない場で好き勝手は困るのう……」
愉悦に浸る『ウェイ=クビン』――自分が居ない間の警備代わりに張った罠だが、こうも容易く――
――バジンッ
が、それから程なく、様々な陣が突き破られたのを感じ、目付きが鋭くなる。
「――『バーゼック』とかいう男、やはり、何と言う事もないのう。
この世界の術理について一日の長があろうが、やはり、所詮は何処ぞで負けを認めた者か」
ぶつくさと言いながら懐から水晶を取り出し、『場』を覗く。
アレの制御の実験は、完全とは行かなかったが、視界の共有ぐらいは――
「――っひっ!?」
――パキンっ
いきなり映った光景に――正確には幻影のようなモノだったが――身が竦み、水晶を取り落とす。
「――なんじゃ、今のは――」
使役しておいてなんだが――アガザルというバケモノどもも、相応におぞましいが。
――今、水晶に映った、二つの光。
あれは、こちらの居場所を、一瞬で見抜いた様に、歪まなかったか?
その一瞬で、視界が歪んだのは――
「――いかんな。いかんいかん。
このままでは、目的にたどり着けんな」
覆面の魔術師は、そう言って、身震いしながら笑い、更に別の石を出し――
「あの二人まで巻き込むのは後が五月蝿かろうが……
このままでは、落ち着いて眠れんわい」
そう言って、掌でそれを握りつぶした。
・ ・ ・ ・ ・ ・
ぞるぞると触手を震わせながら、アガザルの群れが迫り――
シオの回りに飛び交う魔力の塊が打ち砕く。
「シオ!! 落ち着きなさいって!!」
アビーの言葉に反応もせず、自分の指や掌から血が迸るのも無視し、シオは魔力の塊を放ち続ける――
無差別である。敵も、壁も、地面も関係ない。
ただただ、高圧縮されたどす黒い魔力が迸り、全てをなぎ払う。
「――なんて嬢ちゃんだ、全く――」
回避する『双顎』と『禍衣』にもまるで余裕がない。
『転移』をしようにも、その魔力に反応して魔力が飛んでくる。
「――しくじったな、全く――」
「――ああ、俺のせいなのは分かってる。分かってるが――」
加勢しようにも、アガザルに近づくと、自分達まで巻き込まれかねない。
「――というか、何で気が付かなかったんだ? 『双顎』」
「……悪意が無いんだよ、あの化け物」
そう呟く『双顎』に、『禍衣』は目をやる。
「殺すとか、取って食うとか、そういう感じが無い。
制御されてる個体だけ見て、分かってた気に成ってたが、こりゃ、異常だぞ」
「――どういう事だ?」
「……遊んでるつもりでしょう」
不意に聞こえたその言葉に、二人がそちらを向くと、そこにはアウル。
「――何を何処まで知ってるんだ、メイドさんよ」
「――少なくとも、この気配は良く知ってますよ、私は――
何年も、何十何百も、ずっと前から」
呟きながら、アウルは歩を進めた。
アガザル達はそれに反応するように、一瞬アウルを見る。
節くれだった腕が、パキパキと変容しながら、迎え撃とうとする。
「思う様な展開にならずに、癇癪でも起こしましたか、『神』」
酷く冷徹に響くその言葉に、アガザル達は群れて跳んだ――が。
バシュッ!!
その半分以上が、シオの魔力に焼かれ、崩れ落ち――
「『世御式』展開――『九の否定』」
アウルから放たれた、術とも付かない光線に晒された者は、その身からエネルギーを迸らせながら崩れ落ちる。
「――圧倒的じゃねえか――」
思わず呟いた『双顎』――しかし。
――どさっ、バタッ――
「あーっちゃー、やっぱ、反動大きすぎるな、この体だと……」
「お、おい!?」
凄まじいまでの攻撃を放った、当の二人も倒れた。
「――く、そ、ジン、御免なさい、貴方を静かに眠らせるのもまま成らない」
言葉こそ静かだが、アウルは心の底から懺悔の言葉を吐いた。
――krrRRRRGGGGG!!!!
――敵が、その身を捩じらせながら、一つの形状へと歪み往く気配を感じながら。
・ ・ ・ ・ ・ ・
くそ、動け、ふざけんな、動け!!
体が微動だにしないのを感じながら、俺は叫んでいた。
心のどこかで、まだ猶予が有るように感じていた。
理由としては、この体も成長していたからだ。
……なんて馬鹿だ。
自分がどういう存在なのか、忘れていたというのか、お前は。
自分は、あくまでも、『死んでいた筈のこの存在に間借りしているだけ』だった。
自分で分かっていた筈だ。『無茶をすれば、その分が何処かで来る』と。
そのことを忘れ、好き放題に動いた挙句、守りたい者を泣かせている。
庇う必要の無かった、敵を庇って、この様か!!
――が、同時に、ふと思う。
――これは或いは、『運命の揺れ戻しなのではないか』?
『俺』のではないが、知る『知識』の中では――
『決まった歴史を動かそうとしても、その分岐へと流れる様にする力がある』のを、俺は知って居る。
『歴史の修正力』――何人の転生者、転移者が、それに挑んで敗北したか。
認められ、形に成って残った『成功者』『突破者』達等、それこそ一握りに――
「――さっきから、勝手に、何、人の思考に弱気を垂れ流してやがる」
――不意に、自分の考える言葉とは違う――
「勝手に沁み込んだ挙句、グダグダグダグダ、何泣き言を抜かしてやがる。
黙って臥して泣いてれば、相手が蹴るのを止めてくれるのか?」
俺はそちらを――
「違う。お前は『俺』じゃない。
お前の言う事なんぞ、知った上で歩いてんだ、『俺』は」
俺は――ぼくは――
「お前がどれだけ心を折りに来ようが、世界の九割がお前の選択を是としようが。
俺はお前の様な奴の言葉に、何も感じない。
是とする心と否とする心があってこそ、んでその自由が有るから人間だ。
お前がどれだけ大きな言葉で叫び、それを世界の九割の人間が是としようが。
そんなもん、否定するのも面倒臭いからだ。お前を認めたわけじゃない。
俺は叫ばない。言葉にも出さない。
だが、何も諦めない代わりに、お前が動かした気に成っている『人』の心を拾っていこう。
俺は、俺のままだ――俺は『人』だからだ、『神』」
ボクハボクハボクハボクハ
「さっさとそっから退け、んで二度と来るな。
自覚も無く、人の踏みにじっては成らない所を踏みにじるお前が、俺は大嫌いだ」
ボクハAaaaaaaaaaaAAAA!!
「退け、『 』」
心の中心に巣食おうとする、それの顔面を思い切り蹴りつけた。
・ ・ ・ ・ ・ ・
それは、普段よりも巨大になった身を持て余している。
ずるずると引き摺るように歩くその足は、我知らず地面を揺らしてしまう。
ほんの少し触れたはずが、相手が吹っ飛んでしまう。
「――――」
言葉が理解出来なくなる程に小さく聞こえる。
悲鳴なのか、歓喜なのかすら分からない。
「悲鳴に決まってるだろ。もっとも、お前みたいなブッ細工な悲鳴じゃないが」
不意に、言葉が聞こえ、そちらを向く。
「――なんなんだ、この体。ほんと、『勇者』予定だったとは言え……」
そこには、人影が立っていた。
――いや、人影と言って良いものか?
その頭には、角のように、何かが伸びている。
奇妙に捩れたその存在の輪郭は、何か、山羊や鹿を思わせる。
あるいは――
「――まあ、いいか」
それは、触れてみようとした自分の手を、大きく払った――
然程強くないと思ったその挙動に、自分の掌が粉々にひしゃげるのを感じ――
GYYyeeeeeeyyyyght!!!!
「アー、うるせ。自分だって何の気なしにやってただろ。
自分はやられないと思ったのか? 『傷付ける』と言う事を」
そいつは――ジン=ストラテラの顔で、轟然と笑った。




