『04』/12
「――っは!?」
暗がりの中。彼は目を覚ました。
脳裏に走る光景が、自分に起きた事を物語り――同時に、自分の現在の状況に、混乱する。
「これは――一体――」
「気が付いたかね」
眼前の暗闇から、聞き慣れた声が聞こえ――
「ウェイ……クビン」
緑色の光に、その顔が照らし出される。
「やはり、しくじったかね」
「やはり、だと――」
相手の口調に、嘲りを感じ取って、彼は相手に掴みかかろうとした――が。
「――な、なんだ、これは――」
自分の両手両足が、何かゼラチン質のモノに固定され、身動きが取れないと知る。
「貴様!! 話が一切合財違うではないか!!
単なる余興を提供し、マハブランに更に浸透するだけの筈では――
それに何故あの場に閣下まで――」
「そう、やいのやいの言うでないわい。
想定する事の幅が狭すぎる癖に、変に賢しらじゃからアレに見捨てられるのよ」
「きさま――っ!!」
「喚くな喚くな。儂とて全てを把握し取ったわけではない。
あの後継が考え取る事までは把握し切れんわ。
だが、いずれにしても、成功例となる栄誉には浴せて居るのじゃぞ?」
成功例、という言葉に、眼前の魔術師が何かを自分に施した事を知る。
「――何を、した。ワタシに、何を」
「――お前がそれを知る必要は無い」
魔術師の背後から、底冷えのする様な声が、重く響く。
「なんじゃ、来て居ったのか、『真闇』殿」
「――しくじったな、貴様も」
暗闇そのものが凝ったような色の鎧騎士が、姿を見せた。
「素体の分の働きはした。それ以外をとやかく言われる事はあるまい?」
「『我等が在る』と知られる事、それ自体が問題だ」
そう言うと、鎧騎士はぬうっと手を伸ばし――
「な、何を、何をする、やめろ、わたしはサシマエル――」
バジンッ!!
凝縮された一瞬の輝きが辺りを照らすと、『彼』は一山の灰になった。
「おいおい、折角の成功例を――」
「不要だ。貴様も自覚しろ、『ウェイ=クビン』。
貴様を生かしておく理由は、静謐な沈黙と共にあってこそだ」
「くくく、はしゃぎ過ぎてしくじった人間の言う事、含蓄が――
バシュッ!!
――がぁっ!?」
「『殺す術が無い』からではないと、自覚しろ、賢しらなる者よ。
貴様を殺す事無く、永劫に続く責め苦に繋ぐ事も出来るのだ」
何時の間に抜いたのか、そしてどの角度から切られたのか――
分からぬまま飛んだ『足』を、ウェイ=クビンは見る。
ブスブスと煙を上げているが、その傷は確実に『切り傷』だ。
――いかん、と、歯噛みする。戦闘力、と言う点では、数段上――
「動けば必ず痕跡が残る。その痕跡を消して回るに動けば、また痕跡が残る。
それを消すに、動かねば成らぬ。堂々巡り――その無為な『手数』は減らさねば成らぬ」
一方の鎧騎士は、部屋を出て行こうとする。
「――余計な手間を増やすな、ウェイ=クビン。
面倒な連中は他にも無数に居る――話の通じる貴様はせめて、自重する事を覚えて貰いたいものだ」
「――『竜の熾き火』が、お優しい事じゃな」
「一切万象を灰に返す事を求めている訳ではない。私は貴様と同様、確かめたいだけだ」
そういって出て行く相手の背を、嘲る様な目で見る魔術師。
「……やれやれ、だが、まあ、やる事はやってやるわい……」
ミヂミヂと蠢く傷に目をやり、笑う。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「――おうおう、こりゃ、もったいねぇ」
気配が、いきなり降って沸いた。
そうとしか思えなかった。
「――『素体』も只じゃないってのに、実験屋ってのはまあ、金食い虫だな」
振り返ると其処には――
「……マジか」
金髪の人影が立っていた――あのだな。このタイミングでお前……
「……ジン、あれって」
「――いや、前から聞きたかったんだが、なんでお前分かるんだ」
「長生きしてますので」
「おいおい、『誰だ!!』とかあるだろ、つれないねぇ。
イジケちゃうぜ? うにうにしちゃうぜ?」
うるっせぇ、寝取られ男、黙ってろ。
「『真闇』の旦那も、俺がこっちに来ればペラペラ喋ると分かってるだろうに――
なんでこっちに寄越すかねぇ――いっそ喋れ、ってあれかな? なあ?」
「……やっぱそうだね、アレは。なんか無駄に軽薄になってるけど」
「お嬢さん!? 美しいお嬢さん!! 軽薄は無い!!
あんなバカモノ・好き勝手どもの居ない世界でぐらい、自由にしたって良いじゃないか!?
違うか!? ジン=ストラテラ、アビゲイル=ウィリアムズ!!」
あっ。こいつ、反動でこうなってるのか。
まあ、本編散々だからな、こいつ。
「という訳で――コンニチワ。
あんたらが何と呼ぶのか知らんが――
『ラグーン』が無数に浮かぶ世界からやってきました、『ビュウ=クロスナイト』です、お見知りおきを」
そういうと金髪は、一礼する――
「よう、寝取られ男」
「よう、中間管理職」
「敵ながら辛辣!! おにいさんのハートはボロボロなんだが!!」
『バハムートラグーン』……やはり居やがったか。あの『竜』居た段で、もしや、とは思ったが。
しかし、こいつが敵……なんて胡散臭い動きをするんだ。舞台役者かホストみたいな奴だな、おい(偏見)。
「――あのさ。確認したいんだが」
「んん? なんだ? こっちの詳しい説明は出来ないぜ? 君の『敵』の認識で良いんだぜ?」
「――お、おう。一つだけで良いよ――『何故、敵に回る』?」
アビーが一言そういうと――そいつは――
「決まってんじゃん。『世界なんぞ、面白おかしくぶち壊れてしまえ』、と願うから」
……あかん。この人、色々あって発狂してる人だ。
なんて笑顔でなんて事を――
「素晴らしき哉、『異世界』!!
カマ髭も能無し足なし司令塔も、運命ビッチも誰も居ない!!
俺は自由だ!! 自由だぜ!! 素晴らしい!!」
「じゃあ、その自由を謳歌しなさいよ、俺は帰るから――」
「おいおいおい、待ちなよ。自由って事は――」
ゴギィっ!!
「『敵の主軸の首を掻き取りにいく』自由もあるんだぜ!?
素晴らしい!! 分かるだろ!? あんな状況で戦争!?
ド馬鹿か!! 制圧された状況なんだぞ、全部を!!
四の五の抜かさず、『暗殺』『夜襲』『強襲』を何故しないんだクソ馬鹿騎士道かぶれどもが!!」
「あー、うん、分かるんだけど、なんで切りかかってくる?」
確かに『パルチザン』やるにしたってあの状況からはねぇわな。
でも、だからって俺に切り掛かる必要性皆無でしょうに。
「わかるだろう!? 『剣士』として、尋常に――」
「そもそも俺、『剣士』じゃねえし」
習ってねえし。『植物魔術師(仮)』だし。
「おっと、違う違う――剣士としてなんてのはあくまでモノの喩えだ」
おい、ペン回しじゃねえんだから剣をくるくる回すな。
「――分からんかな? 『帝国』も『神を僭称する竜』も居ないんだぜ?
この行き場の無い闘志の滾り、ケダモノでしかない『竜』を殺すんじゃつまらん。
かと言って、指示された相手をただ倒すのもつまらん。
逆に『勇名処』の連中とは、諸事情で戦えないと来てる」
挙句に『戦闘狂』かよ……勘弁してよ……
「その点、お前は良い。実に良い!!
前提知識が在るからって、対応出来る訳じゃない、場数をこなさなきゃな。
『竜』に的確に対処してのけられる、お前は違う――剣腕なんぞ関係なく、『強敵』足り得ると見た!!」
「俺が倒した訳じゃ――待て」
「無論、『見て』たよ。もちろんだとも」
ううわ、意識共有か視界共有か知らんが、中々厄介な……
「だ・か・ら――」
ギャリィィィィイン!!
「お前さんと殺り合いたいんだよ、俺は!! 俺の様なお前と俺は!!」
岩を切るなよ……剣がもったいな……ああ、竜の餌に剣をやる世界の人だった。
「――おーい、『双顎』、少し落ち着いて戻ってこーい」
おいおい、まだ居るのかよ……
――ええええええええ!?
おいおいおいおい!! 何で居る!?
失礼ながらかなりマイナーなあんたが、何故出て来る!?
「自分で言ってたんじゃないかよ、成長を待たなきゃ成らんとか」
「――っああ、そうだ、そうだな、まだひよっこだな、『禍衣』。
いかんいかん、挨拶だけ、と思ったんだが――楽しく成っちまうな、どうしても――」
「――誰よ、あんたは?」
アビーの言葉に、後から出てきた長髪男がこちらを向く。
――黒い鎧。ああ、見間違いじゃなかった。
手には槍。やっぱりかよ。
長髪でやんちゃそうな――くあああ!! なんだこの状況!? 再度言うが何故居る!?
「――ふむ、まあ、俺は名が低いしなあ。知らなくても良いさ」
「知ってるよ、『王子』」
あっ、しまった、突っ込んじゃった(汗)
こっち見んな、お前んとこ、敵が強過ぎて嫌なんだよ!!
「――へえ? 知ってるのかい、俺を」
「誰、あれ? ジン」
「誰って……『ラグナスさん』」
二つの玉の一つです――にやっとすんな!!
「いや、誰よ」
「『デュアルオーブ2』知ってるか?」
「――んん? ゲーム?」
「ゲーム。色々意欲的だったけど、突っ込みどころも沢山だったRPG」
「知らんわー」
うん。無理ない。あれ、もっとちゃんと作れば凄かったんだろうけどなぁ……
「で、あの人は……古代世界のテクノロジーで竜に成る、見通し甘い系潜入王子」
「――はぁ?」
「あっはっは!! 的確過ぎて何も言えん!!」
笑い事かよ、ラストのあんた死ぬほど硬くて嫌いなのに!!
「まあ――知って居ても、それはそれ。今回の用件には関係ないしな」
「なんの用だよ」
「うん。暫く、互いに不干渉といかないか?
俺たちも、君達に黙って血清を渡しただろう?」
あー、うん。一応、するっと持ってきた辺り、何か裏事情があったかな、とは思ったが。
「だから、今回はお互いに『出会っても居ない』、としないか?
でないと、面倒なんだ。潜入した相手を探せ、とかになってね」
……目の前の犯人に何を言ってるんだ、こいつ。
いや、厳密には俺は取ってないけど。
「準備が整うまで、こっちも戦いたくないんだよ。
何せ、無調整でやり始めたら、世界一つ消し飛ばしかねないから、俺」
「――あー、そうですね」
オープニングでビーム撃って、炎の七日間みたくしてたもんな。
「それに、こっちの人と違い、『切り結び』が楽しくて仕方ない訳じゃあないし」
「そうですか」
本編より大人になっているな、この王子。話が分かる感じに。
――というか、本編のあからさまに洗脳された感じより、こっちが怖いけど。
「まあそれはそれとして、俺と、やろうぜ!!」
――こっちは、馬鹿になってるな。
お前はお前で、どうしてそうなった。話聞いてたか?
「心配すんなって、本気では行かないから。
この研究所焼き払うのが目的で来たんだけど、事によってはそのまま退くから」
……まじで、どうしろと。
「――やってみたら良いんじゃない? ジン」
「……何故薦める」
「本気を見てみたい部分がある――
あと、わざわざ『出て来た』ってのは、『戦意』は有っても『殺意』は無いと踏めるし」
――まあ、焼き払われると勿体無い気もするしなあ、ここの資材とか――
……てか、なんて嬉しそうな目でこっち見てるの、あの隊長殿は……
――メニュー。
### 何ですか、ジン。私今、消えたウェイ=クビンのデータ精査で
――ふっ、こういう使い方を思いつくとは、我ながら……
### じゃねえ、私が反応してどうすんだ
――いいから聞け。駄メニューめ。
「――武器が無いんで却k――」
「ほれ」
「ほれじゃないが。戦わす気迸ってるなお前」
アビーお前、どっから取り出した、その剣。
と言いつつ、持っちゃうけど。
「……仕方ないか」
「んん? 真っ向切って戦う気に成ったかい?」
……奇襲したかったけどな、正直。
「――どう言っても、一回やらないと、後で『強襲』するだろ、あんた」
「そうだな、寝込みは襲わないが、手段は選ばないかもな?」
「んじゃ、やるよ」
面倒事を、明日まで引き伸ばすなんて御免被る。




